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5章 幕間 エーレーン

レグシ陥落後から3日経ち、バーレンロウのメディア大使館撤去作業が開始された


ほぼ崩れていた為に瓦礫を運ぶ作業が主になるので力仕事は任せたと言わんばかりに俺が運ぶ羽目に・・・あれ?俺の扱いって・・・


「アシス様!あそこの塊を崩してもらって良いですか?」


「アシス様!ちょっとこれ重いので運んでもらって良いですか?」


「アシス様!この瓦礫、アシス様が街の外に投げれば早くないですか?」


・・・コイツら様をつけてりゃ良いと思ってないか?三バカは居ないけど、ベースドの隊はどうして・・・もしかしてベースドが黒幕か!?


丁度一段落ついた辺りでマリネスがカーネスを連れて来た


「ガー!」


「ガオー!」


お互い挨拶のように呻き合う・・・今日の俺は猛獣バージョンだ


あの日から二日間は元気がなく、ずっとマンママンマと泣いていた。俺の顔を見るとぷいっと顔を背けたり、マリネスの後ろに隠れたり・・・日に三回必ず会いに行って、ようやく慣れてきたところだ


「アシス様・・・やっと決意が固まりました。やはり私はカーネス様と共にメディア・・・いえ、フレーロウへと赴きます」


俺はその言葉に頷き、マリネスと握手をした


マリネスに初めて会ったのはあの日の夜遅く。カーネスが一度は起きたもののまた寝てしまい、起きた時に見知った顔が居た方が良いと思い家を訪ねた


マリネスは夜遅くなのに歓迎してくれて、俺らも家の中へ通してくれた


当初の予定では民がガーネットを襲う前にカーネスを預かる予定だったのに、待てど暮らせど来ない事に不安になっていた・・・グリム達がガーネットより手紙を預かり、なんとなくは事情を把握していたが、それでもやはり不安だったらしい


マリネスはカーネスの寝顔を家の中で改めて見て泣き崩れた


不安だったのと俺らがカーネスを連れて来た事により全てを理解した事で耐えきれなかったらしい


ガーネットには良くしてもらっていたので、恩返しがしたいとカーネスの面倒を買ってでてくれた。しかし、事情も事情なので、護衛は常に付けている


「アシス!お前本当いい加減にしろよ!」


グリム達は最近大活躍だ。ガーレーンでサボってた時間を取り戻すかのように働いている・・・俺が忘れてただけだが


でも、二交代制で一人は休みなんだから休みなしの俺に比べたらだいぶいいほうじゃないのか?


「アシス様!そろそろ瓦礫が溜まって来ました!」


「はいはーい・・・って、後はお前らでやっとけ!人を馬車馬のように扱うな」


えー!とか言って不服そうにするベースド隊・・・文句も言わずに急かせか動いてるフローラを見習え・・・持ってる量が小石程度だが・・・


「隊長・・・ちょっと良いか?」


「ああ・・・どうひた?」


エーレーンだ。俺が抱っこしたカーネスに頬を引っ張られながら答えると、ここではちょっとと言い人気のない所に移動する。俺はマリネスにカーネスを預け後について行く・・・深刻な顔してるから恐らくは・・・


「キャロンとキュロンの事だ」


だろうな。あの二人に会ってからエーレーンは何か考え事をしてる・・・っていうか塞ぎ込んでいるようにも見えた。やはり元仲間が裏切った事を心の底では何かの間違いではないかと思っていたのだろう


「私とあの二人の差は・・・どれくらいある?」


エーレーンなら自分から人気のない所に誘っておいて、破廉恥な!とか言いそうだったけど・・・真面目な話らしい


「天と地・・・って言ったら諦めるか?」


「無理だな・・・死を覚悟してどちらか一人でも道連れにする」


「・・・そうか」


俺なら本気を出せば負ける気はしないが、逆を言えば本気を出さねば負けるかも知れない。戦ってる様子をチラリと見たが、今のエーレーンでは到底及ばないだろう


「恐らく実力はフェンクラス・・・二人合わせたらフェンでも危うい」


フェンは強い・・・俺の近くにいる連中の中だとリオンの次くらいに・・・そのフェンに匹敵すると聞いてエーレーンは明らかに陰を落とす


「隊長・・・私を鍛えてくれないか?」


「レンカに師事を仰いでたろ?それに俺は槍は素人だぞ?」


「レンカ様にはこれからも師事を仰ぐ・・・だが、正式な弟子は断られた。常に共にいるなら弟子にもするが、お前はアシスの軍だろ?・・・とな」


了見の狭い奴だ・・・あー、いや、基本レンカは過保護だから離れると心配になっちゃうからか?


「なので、私の知る中で最も強い人・・・隊長に・・・と、思ったのだが・・・」


うーん、確かに阿吽を覚えれば戦いの幅は広がりそうだけど・・・いや、中距離で連続攻撃を主とするエーレーンの戦い方からするとあまり強くなれそうにない・・・となると・・・

あっ、この技なら・・・槍との相性も・・・


「エーレーン、俺の中で使えそうな技が一つある。まあ、俺の技じゃないけどな」


「隊長の技ではない?・・・一体誰の・・・」


「ラクス。俺は槍で使った事はないが、かなり使えると思う。今からちょっとやってみる。あの草を見ててくれ」


俺は近くに生えていた草を指差して、遠く離れた場所で上から押さえつけた。この技と浮かせる技・・・同じ技を逆方向から出すだけだから一つ覚えれば戦いの幅はかなり広がる。横から出せば吹き飛ばせるし・・・うんうん


「こ・・・これを私が?」


「さすがに細かい調整は数年かかると思う。だけど槍を振る方向に力を流す感覚でいけば恐らく修得は早いと思う。槍に力を流すのではなく、槍の周囲に・・・ちょっと槍を貸してくれないか?」


俺はエーレーンから槍を受け取ると上から下へと振り下ろす・・・分かりやすいようにかなり力を込めた為、力をかけた周囲の地面が少し凹んだ・・・やり過ぎたか・・・


「えっ・・・うそ」


「方向によってはこんな事も」


俺は下から上の浮かす技なら怪我はないだろうと思い、さっきより力を落としてエーレーンに向かって振り上げる


「きゃあ!」


・・・まずい・・・胸が・・・踊っとる・・・


「そう・・・人気のない所で・・・そう・・・」


んが・・・タイミングが悪い・・・いや、見計らってた?


「シーラ!違うんだこれは!・・・ぐはっ!」




どうやら意識を失っていたみたいだで幻の左?右?・・・見えなかったから分からないが、左なら大したもんだ・・・もう『神威』すら打てるんじゃないのか?


体を起こしてここがどこだか確認する・・・いつの間にかベッドに寝ていたから、誰か運んでくれたのだろう。王城ではないな・・・ここは?


「やっとお目覚めかよ・・・呑気なもんだな」


椅子に座りテーブルに足を乗せた男が俺が起きたのに気付いた。誰だこいつ?


「現状を把握してねえみたいだな・・・てめえの格好を見てみろよ」


俺の格好って・・・裸?うわ、下着も履いてない・・・何これ?


「はっ・・・やっと分かったみたいだな。てめえは路地裏で伸びてる所を攫われたんだよ・・・俺らにな」


分かってなかったから説明は有難いが・・・攫われた?俺が?


「てめえメディアの兵士だろ?俺はセギナ・・・この街で商売をしてる・・・っとまあ、自己紹介はこの辺にしておくか。荷物は全部預かった。てめえはもう・・・俺達のものだ」


荷物・・・マントと守護者の証!・・・って裸だから当然ない・・・


「俺の物をどこにやった?」


「ハア・・・聞いてたか?てめえはもう俺達のものだ。てめえの物も全部含めてな。俺達の物をどこにやろうと勝手だろ?」


呆れながらテーブルから足を下ろして立ち上がる。手には鞭・・・俺に武器がないからって侮っているのだろう・・・鞭を引っ張りながら不用意に近付いてきた


「てめえは今から・・・元シャリア国であった場所に売られる・・・荷物の心配より自分の事を心配してな!」


鞭をビーン!って引っ張って脅してくるのだが・・・裸の男と鞭を持つ男が向かい合ってるのを客観的に見たらどう映るのだろうか・・・


「せめて服を返してもらえないか?この格好じゃあ・・・」


「黙れ!」


鞭をペチッと床に叩きつける・・・まあ、実際は石の床が削れるくらいの威力があったが、どうも緊張感がない。変なプレイをしてるみたいだ


「上ではメディアの兵士が一人消えて、街中を探してるかもな・・・」


探してないと思うぞ?


「やがてメディアの奴らは街の者達を疑い始め、街の者達に危害を加え始め・・・それに反抗し始めた街の者達がメディアと揉める・・・その隙に俺達は最後の稼ぎをさせてもらう」


コイツ・・・聞いてない事を話してくれるが良い奴なのか?


しかし、その計画は破綻してるな。まず俺を探すって前提から間違ってる。奴らが俺を心配する?・・・いや、どこでサボってるのか探すかも知れないが、心配はしないだろう・・・悲しいけど


とにかくこの格好は恥ずかしい・・・それにマントも気になる・・・何人かいれば一人をぶちのめして怯えさせ吐かせるのだが、一人だとそれも出来ないし・・・


こいつの服を奪って逃げるか・・・と、思ってたらお仲間がゾロゾロと・・・って、マジか!


「あーん?そいつ起きたのか?さっさと殺しちまえよ」


「何言ってんだよ。向こうから男も数人欲しいって言われてたろ?」


「あちゃー、忘れてた!警備兵がいないから攫いたい放題だったもんで女ばっか連れて来ちまったよ」


そう・・・新たにやって来た男は後ろに女をズラリと連れてやって来た。裸の俺・・・大勢の女・・・ヤバイ


「あー、じゃあ明日男を連れてくるか・・・でも、結局女の方が高いだろ?」


「何入口でだべってやがる」


「頭!」


女達を掻き分けて大男・・・ダルムドと同じくらいの奴が入って来た。筋肉祭に参加しそうなくらいの筋肉が服の上からでも分かる・・・てか、ピチピチ過ぎだろ


「おい・・・なんでその男を牢屋に入れてない?」


「い、いや、今から・・・」


「俺は牢屋に入れとけと言ったよな?それになんで裸なんだ?」


「そ、その・・・重くて・・・起きた後に自分から入らせようと・・・」


「で、なんで裸なんだ?」


「す、少しでも軽くしようと・・・」


「てめえ・・・やりやがったな?」


「や、やってない!・・・まだ」


・・・状況を整理しよう


こいつらの親玉が出掛ける時にセギナに俺を牢屋に入れとけと指示をする。セギナは俺が重いから運べずに軽くしようと衣類を剥ぎ取る。そして、まだやってない・・・と


よし、滅ぼそう。跡形もなく。全員揃ってから一網打尽とか情報を少しでも得ようと考えた俺が甘かった。コイツらの存在ごと消してしまおう


「粗末なもん見せびらかすな!パンツくらい渡せ!」


見せびらかしてねえよ


「パンツ・・・捨てちまって・・・」


はあ?捨てた?


「ちっ・・・ズボンか何か残ってねえのかよ!」


「あ、ああ・・・これなら・・・」


マントー!ナイスセギナ!それさえあれば・・・あっ、守護者の証も失くすなって言われてたな・・・コイツ・・・高価そうだから懐に入れたか?


とりあえずマント奪還成功。服の行方も気になるが、後は証さえ返ってくれば問題なし・・・とりあえず様子を見るか


俺はマントを腰に巻き、ようやく裸族から抜け出す。大人しく連中に言われた通り牢屋に入る・・・大勢の女達と一緒に


「てめえ、牢屋の中で女達に手を出すんじゃねえぞ!大事な商品だ・・・もし手を出したら・・・もいでやる」


それで女の子に仲間入りだね・・・ってこの盗賊?の頭・・・そこそこ強いな。傭兵で言ったら赤の称号クラスか


今のところコイツらの数は五人・・・でも十人を超える女を攫ってくるのだから、もっといるな。ロープで手を拘束され、全員を繋げている為、ゾロゾロと牢屋に入って来た


牢屋の中はかなり狭く、宿屋の一人部屋くらいの広さしかない為、どんどんスペースが・・・女達が密集してくる・・・パンツが欲しい・・・


ちょっと肩が触れただけで、キッと睨まれた・・・俺も被害者よ?


「メディアの大軍が入って来るまで時間がねえ・・・残りの奴らが戻って来たら出発するぞ」


「男の数は一人で良いんですかい?」


「数までは指定されてねえ。一人いれば充分だろ?それよりも女の数だ。この中に処女が何人かいるはずだ・・・絶対手を出すんじゃねえぞ!」


「処女じゃなければ?」


「ダメだ!出来るだけ高く売る為だ、我慢しろ!・・・まあ、そこそこの奴を道中食わせてやる・・・そいつだけにしとけ」


食わせる・・・そのまんまの意味じゃないよな。残りの奴らって言い方だと残りも複数なのは間違いない。セギナと頭・・・それに後から入って来た三人を入れるとここに五人・・・最低七人か・・・俺らがいるとはいえ、現在バーレンロウは無秩序状態・・・早めにカラホス辺りが来てくれないと犯罪がどんどん増えるぞ


会話を聞いて考えているとセギナと目が合う・・・もしかして、俺もそこそこの奴に含まれるのか!?いや、後ろは処女だぞ!?


その時ドアが開かれ、中に男が慌てた様子で勢いよく入って来た


「頭!メディア軍がもうそこまで!」


「なに!?早過ぎるぞ!しかも、こんな夜更けに移動してるのか!?」


「物凄い勢いで!全軍じゃなさそうだ!恐らく一万くらい・・・」


入って来た男がメディア軍が近付いてきてる事を告げる。今は夜更けなのか・・・窓がないから時間の感覚がないな・・・夜更けに移動するって何かあったのか?


「くそっ・・・バリクとユトスはまだか!?さっさと女達を連れて・・・」


再びバン!と荒々しくドアが開いたと思ったら部屋に入って来たのは馴染みの顔・・・シーラとエーレーンだ。エーレーンが一人の男を後ろ手でふんじばり、シーラはキョロキョロして周囲を探っている・・・あっ、目が合った


「アシス・・・何してるの?」


捕まってる彼氏に対して、なんて冷たい言い方・・・ちょっと涙が出そう・・・


「ユトス!・・・てめえら何者だ!?」


「そこの間抜けの・・・知り合い」


心にグサッとくる・・・しかも、誰かの言い方に似てる・・・アイリン?


「シーラ、間抜けでも隊長は隊長だ。一応助けるか?」


「気が進まないけど・・・捕まってる女性達のついでに」


もうどうにでもして・・・って!


「シーラ!」


さっきメディア軍が来たって報告していた奴がドアの陰に隠れていて、後ろからシーラに襲いかかる。しかし、シーラは冷静に手にしたナイフを振り返らずに放り、男の股間にヒット・・・うっ!


「てめえ・・・!セギナ!持ってこい!」


頭がセギナに指示すると、セギナは両手で二つの輪っかを持って来た。頭はそれを受け取ると両腕の手首に装着する・・・かなり重さがありそうだ・・・殴る力を高める為か?


「よく見りゃ・・・相当な上物じゃねえか!お前・・・高く売れるぜ?槍の姉ちゃんも・・・クハハ・・・行きがけの駄賃どころじゃねえ・・・ちょっとした御殿が建つぜ」


人の女を値踏みするな・・・さて、どうしたもんか。二人に任せても問題なさそうだし、コイツらコレで全員ぽいし・・・


頭以外の全員が各々腰に下げていた剣を抜く。エーレーンは捕まえていた男を放り投げ槍を構え、シーラは両手にナイフを持つ


「へ!やろうってのか?なめんなよ、俺達を・・・」


頭が話してる途中でシーラがナイフを放り、エーレーンが槍の石突で二人を瞬く間に倒す・・・役者が違うな。しかし、殺してはないとはいえ、シーラが躊躇なく人にナイフを放るとは・・・ジュモンの時以来か?


「てめ・・・」


「シーラ!ここは私が!」


エーレーンが槍を振り頭を挑発しながら叫ぶ。シーラは頷き、また二本のナイフを取り出しながら牢屋に駆け寄ってきた


「お前ら牢屋に近付けさせるな!ちっ!」


叫ぶ頭にエーレーンが一閃・・・慌てて頭は後ろに飛び退き槍を躱す


駆け寄るシーラに残りの二人が妨害しようと駆け寄ってくるが、シーラのひと睨みで足を止めた。シーラは素早く牢屋にかけられた錠をナイフで壊し扉を開ける


「くっ!てめえら!」


誰に向けてか頭は叫ぶが、エーレーンの攻撃にこちらに気を取られている暇はなさそうだ。女達が逃げて最後に俺が牢屋から出るとシーラが無言で俺を見上げる


「・・・バカ」


脇腹に鋭い拳が刺さる・・・また気絶したらどうするんだと抗議しようとしたが、シーラの顔を見て言葉を飲み込んだ


「すまない・・・心配かけた」


涙をめいいっぱい瞳に溜めた状態で見られたら、攫われたのは誰のせいだーとか冗談でも言えなくなる・・・


「・・・許さない」


殴った拳を開いてマントをちょこっと摘む・・・どうやらだいぶ心配させたみたいだな


「みんなも心配して夜通し駆けてきてくれてるみたい・・・もうすぐアシス軍全員がこの街に到着する」


あら・・・呑気に捕まってたらエラいことになってんな


「おい!イチャイチャするのは後だ!早くこいつを!」


何気にエーレーンと渡り合ってる頭。槍を避けて近付き拳を振るう。エーレーンは喰らいはしないが、距離を取り攻撃しても意外と素早く躱されて懐にまた入られるを繰り返していた


「エーレーン!俺の言った事を思い出せ!お前は力を使えるはずだ!相手を押し潰せ!」


俺が叫ぶとエーレーンは喉を鳴らし構える。俺が居なかった二年間・・・エーレーンはずっと鍛えてきた。力を操るコツも掴んでいた。それでも使い方が分からずに悩み、結局いつも通り槍を振るうだけ・・・ちょっとしたキッカケで・・・エーレーンなら使えるはずだ


相手は無手・・・手首に重しを付けて威力は増してるとはいえ喰らっても死にはしない。俺もシーラもいる。敵意むき出しの相手に技を使える好条件は揃ってる


「む・・・無理だ!」


槍を振りながら出し渋るエーレーン。頭は目が慣れてきたのか躱すのに余裕をみせてきた・・・やはり力を使えるとはいえすぐには無理か?


その時シーラが腰のマントを掴む力を更に強める。そして・・・


「エーレーン!あなたはそれで良いの?私は譲らない!でも・・・あなたは立ち止まったままで良いの!?」


シーラが叫ぶとエーレーンがなぜか俺を見た。目を見開き真っ直ぐに・・・


「ゴチャゴチャうるせえ!」


頭がエーレーンに近付き拳を放つ・・・エーレーンは何とか避けるが後ろの壁が大きな音を立てて破壊された・・・まずい・・・そこまで威力が上がるのか!?


元々の頭の拳に重しが加わって予想外の威力を出す事に気付いた俺が駆け寄ろうとするとシーラがマントを離さない


「ダメ・・・エーレーンなら・・・きっと・・・」


シーラを振り返るとエーレーンを見つめながら呟く。エーレーンは槍を振り上げ呼吸を整えていた


「エーレーン!」


「ふう・・・見てて隊長・・・私は辿り着いてみせる・・・あなたの元に・・・」


頭を睨みつけ間合いをはかる。頭は拳を強く握りしめ、エーレーンの攻撃を躱した後に打ち込む気だ・・・


「私の・・・私の隊長を攫うんじゃねえ!」


エーレーンが今までと違いかなり大振りで槍を振り下ろす。頭は余裕で躱し、エーレーンの懐に飛び込もうとするが・・・


「ぐっ・・・なっ!?」


地面を蹴ろうとした足は沈み地面に膝をつく。まるで上から何かを押さえつけられたように・・・エーレーンは躱されて地面を叩いた槍を引くと再び槍を構えた


「ま・・・待て!」


動けない頭が恐怖で顔を歪めるが、エーレーンは槍を真っ直ぐ構え、そのまま突き出した


「ヒィ!」


槍先は頭の顔に当たる寸前でピタリと止まり、しばらくするとエーレーンは回しながら槍を引いた


「技の実験台になってくれたお礼だ・・・命は助けてやる」


初めて出来た割にはなかなか・・・いや、かなり上出来だ。範囲こそ狭いが上手く相手に当てれたし、あの大男を跪かせる威力もあった。このまま練度を上げればかなり使えそうだ


「こ・・・の!」


動けるようになった頭が突如エーレーンに向かって突進する・・・トドメをささなかったのにコイツは!


「はっ!」


エーレーンは予期してたのか、今度は槍を振り上げた。槍は頭を掠めて通り過ぎ、頭の体が少し宙に浮く


「うおっ!」


バランスを崩し倒れそうになる頭を何かが支える・・・って俺だけどな


「せっかく拾った命を無駄にしやがって・・・阿・・・吽!」


頭を支えてた手の平から力を送り込む。頭の体は一瞬震えると顔の至る所から血を吹き出し仰向けに倒れた


「コツは掴んだようだな・・・エーレーン」


頭が絶命した事を確認してエーレーンに向き直るとなぜか顔を逸らすエーレーン・・・あれ?エーレーンも怒って・・・


「た、隊長・・・前・・・」


前?エーレーンの指差す場所を見ると・・・うおっ!


シーラがマントを掴んでいたのを忘れてた頭に向かって走ったから・・・マントが────



そこからが大変だった


とりあえずセギナから服と守護者の証を回収・・・なぜかポケットから捨てたと言っていたパンツも発見・・・


生き残った奴らを縄で縛り、駆け込んで来た俺の軍に無事を伝える


夜が明けて早朝に一万の大軍が押し寄せてきて街はパニック


それを何とか宥めて、軍の寝泊まりする場所を確保・・・軍の中にカラホスが居たから後は全部一任しといた


俺は疲れ果ててたけど、地面に転がったりして泥だらけだったので王城内の風呂を沸かしてもらいひと息ついていた


王族が使っていた風呂らしくかなり広い・・・普通に泳いだり出来るほどだ。内装も豪華で綺麗にしてある・・・ガーネットも毎日入ってたのだろうか・・・


「ふう・・・生き返る」


散々な一日だった


瓦礫片付けでこき使われ、シーラに気絶させられ、攫われる・・・とても一日で起きた事とは思えない・・・と、起こったことを思い返してると俺が入ってるのに誰かが入って来た


「え?・・・シーラ?」


湯けむりの中現れたのはシーラ。もちろん風呂場だから裸だ


無言で歩いて来て体に湯をかけると風呂に入る・・・なんだ?なんのご褒美タイムだ?


「アシスの倒れていた路地裏に戻った時・・・アシスが居なくて目の前が真っ暗になった」


こちらを見ずにシーラは静かに語り出す・・・


「最初は意識が戻って、どこかに行ったんだと自分に言い聞かせ、それでも不安だったから行きそうな所を探した」


まさか俺が攫われてるとは思わんよな


「不安に押し潰されそうになってエーレーンとロリーナとベースドさんに伝えた・・・ロリーナはすぐに軍に手紙を書いて鳥を飛ばし、ベースドさんは隊を率いて捜索してくれて、エーレーンは私と一緒に探してくれた」


そっか、そこで軍に連絡を・・・カラホスの護衛として近くまで来ていたって言ってたな


「探してる途中で人攫いに出くわして、撃退すると昼間に男を攫ったと・・・」


シーラとエーレーンを攫おうとしたのか・・・馬鹿な奴らだ


「それで・・・アジトに案内させて・・・」


シーラは俺に近付き涙を流しながら俺を抱きしめる。俺はそれに応えて背中に手を回した


「ごめんなさい・・・まさかアシスが・・・」


「謝る事ない。捕まって逃げ出せるのに欲をかいて奴らを一網打尽にしようと逃げなかった俺の責任だ・・・シーラ達が探してると考えないで・・・」


「アシスに毎日力を流してもらって・・・力の操作が出来るようになって・・・エーレーンと二人っきりのアシスを見て思わず・・・」


「ま、まあ、今後力の加減を覚えてもらえれば・・・」


と言いかけていた時、更にもう一人風呂場に・・・って!


「エ、エーレーン!?」


スタスタと歩いて来るエーレーン・・・例に漏れず全裸で・・・何も隠さずに・・・


「ちょ、ちょっとエーレーン?」


シーラもその姿を見て動揺するが、エーレーンは気にせず歩いて来る・・・シーラさん、手が邪魔で見えませんが?


「もう隠すのは止めた・・・身体も・・・心もな」


いや、身体は隠そうよ!嫁入り前の乙女が・・・


「私は隊長が好きだ・・・シーラよりずっと」


へ?あっ・・・シーラがその言葉を聞いて俺の腕からするりと抜けて立ち上がる。ちょっと二人とも・・・丸見えですが・・・


「私の方がエーレーンより・・・ずっとずっとアシスが好き」


「それはどうかな?それに男を大きい方が好きだと言う。隊長からも常に視線を感じるので、隊長も大きい方が好きなのでは?」


「大きさより・・・形よ。いずれ張りがなくなり垂れる乳より、形のいい乳の方が好きに決まってる」


「ほう?どこに乳があるか知らぬが、もしかしてその膨らみが乳か?何とも触り甲斐のない乳だな」


「くっ・・・」


乳合戦は明らかにエーレーンが優勢のようだ・・・と言うか・・・なんて絶景ポイントに居るんだ俺は!向かい合い張り合う乳と乳・・・まさかこれがラクスの言っていた・・・桃源郷!?


「さっきから・・・」


「見てんじゃねえ!」


理不尽な!


シーラとエーレーンに蹴りを喰らい、吹っ飛ばされる・・・これで気絶して攫われるなんて事は・・・ないよな?


湯船にプカプカ浮きながら天井を見る


こんな日常が続けば良いなと思いながら────




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