5章 幕間 手紙
ガーネットのお陰ですんなりとレグシ国に受け入れられた俺達・・・戦後処理はセーラがこちらに向かっているので到着したら任せるとして、到着するまでの間に出来ることをやる事になった
サトナークにいるカラホスも呼び寄せているのだが如何せん距離が遠すぎる・・・内政は程々に、やるべき事をやっておこう
焼け落ちた大使館の中からガーネットの遺体を救出・・・穏やかな顔が印象的だった・・・手を合わせ葬送を行い、その後埋葬した
グリムが埋葬が終わった後に近付いてきて手紙を一通渡してきた・・・ガーネットからの手紙だ。何でも逃げ回っている時に書いていたらしい・・・俺は受け取り、仮で住んでいる王城内の一室で手紙を読み始めた
『この手紙を読んでいるという事は余はこの世に居らぬのだろうな
そなたからの使者が来た時、決めていた覚悟が少し揺らいだ
余はカーネスをメイドに預け、サレンジでの戦いの直後に死を選択するつもりであった。だが、思ったよりも早く民が来た為に預けることが出来ずに逃げていた時、使者に救われ何とか事なきを得た
そこで欲が出たのだ。もう少しカーネスと共に居たいと
揺らいだ心は戻らずに使者の者には苦労をかけた
そなたが来るまでの間、ほんの一時という誘惑には勝てなかった
そなたが来た時、余はこの世におるか分からぬ。だから、手紙をしたためて万が一に備えたいと思い筆を取った
そなたに頼みたい事は一つ
カーネスの事だ
多くは望まぬ。ただ人並みに生を全うさせてやってはもらえぬか
突然幼き子を任せられても困るとは思う
我ながら無茶な願いは承知の上。それでもメディアで頼れるのはそなただけ
マリネスというメイドがいる
戦争が始まった時から自宅に戻し、いざという時カーネスを預けるつもりであった
その者はカーネスが産まれた時より乳母として手伝ってくれていた者だ
カーネスの好きな食べ物、好きな玩具、好きな遊びなどよく知っておる。彼女を一度訪ねて欲しい
すまぬな、個人的な手紙など初めて書くので要領を得ぬが、たった一つの余の願い、聞いてはもらえぬだろうか
話は変わるが、余がなぜメディアを攻めたかそなたに伝えておいた方が良いだろう。直接会って伝える事が出来れば良いのだがな
余がナキスと会う前、一人の男が訪ねてきた。その男の名はフェード・ロウ。ファラス国国王だ
そやつは大胆にも一人でこのレグシまで来て、次の戦争を一国になるまで続けると宣言しおった
その時の事を余は今でも後悔しておる
そやつの目を見てしまった。そやつを覗いてしまったのだ
飲み込まれてしまうのではないかと思う程の闇。今までで見た事も無い深い闇が広がっていた
恐怖で動けなくなり、決して勝てぬと悟ってしまった
レグシ国国王の余は、我が国にいながら、たった一人に屈してしまったのだ
その思いはある時まで続いた
そう、そなたとナキスが来るまでだ
ナキスはフェードと真逆。フェードが闇ならナキスは光
そして、ナキスの隣にいたそなたが、ナキスの光を更に輝かせ、余の中のフェードの闇を消し去ったのだ
余はナキスと共にフェードと戦う事を決意する
恐怖ですくんでいた足を再び動かそうとしたのだ
しかし、ナキスは────
そこからまた闇が押し寄せてくる
光が消えた瞬間に消えたはずの闇が余を包んでいった
闇に包まれ、絶望の淵に立ちすくんでいると、自らの体の異変に気付く
余の体の中に消えたはずの光が育まれていたのだ
その光は弱く儚い。まだ闇に対抗するのは難しい
そこで余は選択をしてしまった
闇の言う通りに動き、この儚き光が育つまでの時間を稼ごうと
闇の言う通り、すなわちフェードの言ってきた事は一つ
メディアと同盟を組むな
フェードの目的は大陸統一
同盟を結ぶ国は邪魔になると考えていたのだろう
先手を打ち、弱き余の心に楔を打ち込んで行きおった
余はまんまとその言葉に踊らされ、同盟を組まずにレグシが生き残れる最善を模索する羽目となった
その結果が今に繋がるのも、あやつの思い通りに踊らされた結果なのだろうな
弁明する気は無い
しかし、しかと心得よ
フェード・ロウには勝てぬ
ナキスとそなた、二人が揃って初めて対等────いや、それでも劣る可能性が高い
ナキスがいない今、そなたが勝てる見込みはない
だが、もし────もし勝てるとしたら、それはナキスと同等、もしくはそれ以上に光り輝く者と協力して立ち向かった時
おらぬやも知れぬ、見つけられないかも知れぬ
闇は深い
決して一人で立ち向かうな
余と同じく闇に飲み込まれたくなければな
長くなったが、そなたに全てを託さねばならぬ事を陳謝する
願わくば、そなたとナキスが描いた未来をカーネスに見せてやってくれ
ガーネット・ロウ』
・・・託しすぎだろ?
読み終えて手紙を机に置いて窓から外を見ながら手紙を思い返す
一人で立ち向かうな・・・か
俺にはリオンがいて、シーリスがいて、そして、シーラがいる。他にも仲間が沢山いる。決して一人じゃない・・・だから
「勝てるさ・・・きっと」
まだこの街のどこかにいるかも知れないガーネットの魂に向かい、聞こえるように思いを込めて呟いた
俺が護りたいものを護れれば俺の勝ち
フェードが得たいものを得られればフェードの勝ち
決して負けぬと心に誓い、手紙を懐にしまい込み部屋を後にした




