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5章8 サレンジ会戦2

戦場にて怒りは死に直結すると聞いた事がある


感情の昂りが判断力を鈍らせるからだ


特に指揮官は常に冷静でいなければならない


なら、俺は指揮官失格だな


静まり返った戦地で一人、遺体の前で手を合わせる


「まだ魂はここにある・・・そうだろ?ガレスさん」


遺体から離れた場所にあった頭部を遺体の傍まで運ぶ


確か・・・こう言ってたよな・・・


「天に召しますこの者に、地よりの使者から護る力を与えたまえ・・・阿吽」


開いていた目を指を当てて閉じさせ、見様見真似で力を覆うように流した


夕暮れの中、ガレスの体は淡い光を放つ


五千人近くに力を流す事は出来ない


なので、手を合わせて無事に天国に行けるように祈る


再度目を落としガレスの遺体を見るとまだ淡く光っていた


そして、地面に転がるある物に気付く


『娘が作ってくれた・・・今回の遠征で怪我しないようにってな』


嬉しそうに俺に見せながら言った時の顔を思い出す


それを拾い上げ、馬に乗って待っていてくれたシーラの元へ戻った


シーラの後ろに飛び乗ると、すぐさま馬を走らせる


埋葬するのは待って欲しい・・・明日ケリをつけた後に・・・




軍議の真っ最中のデュラスのいるテントに入ると、全員がこちらを向いた。メンツは・・・デュラス、ラクス、シーリスにリオン、デュラスの補佐官、そして、遅れてきた俺とシーラ


「待たせおって!退却後にすぐ軍議に入るのは当然だろ!そんなのも知らぬのか!」


デュラスが吠える・・・シーリスの顔をチラリと見るが、目が合うと首を振った。そうか・・・殺すまでには至らなかったか


「そんな事より現状は?」


デュラスの補佐官に目で訴えながら言うと、咳払いをした後に現状を報告し始めた。デュラスは「そんな事だと?」と顔を真っ赤にしているが、無視だ無視


「第1軍の損害約五千、第2軍と3軍はほぼ損害無しとの報告を受けております。レグシ軍の損害は皆無・・・との事です」


実際に戦闘の跡を見てきたから分かっていた。ほぼ一方的に攻められている感じだったな・・・数が8倍・・・無理もない


「なぜあのタイミングで退却を?」


「柵の炎は消えかけておりましたが、分断された第1軍が壊滅したので、立て直しの為です。あのまま左右からの挟撃を行ったとしても、第1軍からの救援などは難しいと判断した上です」


確かに俺もラクスも間に合わなかったな・・・あのまま突っ込んでいたら冷静ではいられなかっただろうし・・・撤退は正解か


「じゃあ、本題だ。なぜ第1軍は出撃した?何度も確認しただろ?待機だったはずだ」


「貴様は何を言っている?ラクス殿とお前が決めたと言うから動いたと言うのに・・・それよりも今日の内に本国に向けて退却するぞ。大して戦ってもいないのだから、平気であろう」


???なんだ・・・コイツの言ってる事が何一つ理解出来ないぞ?


「何を惚けている!本国より伝令が来たであろうが!ファラスがデニスから去り、デニス軍がフレーロウに向けて進行中・・・それを受けてラクス殿とお前は全軍で攻めるように言ってきたのだろうが!すぐにフレーロウに帰る為に!」


ファラスがデニスを去り?全軍で攻めるように言ってきた?


「待て。ファラスの動きはどこで知った?」


「何を仰います、ラクス殿。伝令は既に貴方にも伝えたと・・・」


「そんな伝令は受けていない。初耳だ。それに全軍で攻めるように指示した事も無い」


「そんな・・・しかし・・・」


「デュラス将軍・・・その伝令書は?」


「そ、そうだ!これを・・・」


俺がその紙を受け取るとすぐにシーリスに渡した。そして、シーリスから思った通りの答えが出た


「玉璽の印の偽造ね。本物よりも線が細い。本物と重ね合わせて透かして見ればすぐに分かるわ。これを」


シーリスが懐にしまっていた一枚の紙と先程の伝令書をデュラスの補佐官に渡す。補佐官はロウソクの前で紙を玉璽の印の所を合わせて重ね合わせて透かして見た


「ほ、本当だ・・・明らかに二つの印は違います!」


「馬鹿な!・・・そうだとしても、貴様が持っていた紙の印が本物とは限るまい!」


「それは正真正銘、セーラ陛下からの手紙よ。詳細は言えないけど、私にしか分からない暗号も入っているわ。そして、その手紙は今朝届いた・・・鳥が運んでね。内容は特に変わりないと書かれていたわ・・・さて、デュラス将軍の元に訪れた伝令はどうやってフレーロウから来たのかしらね?まさか鳥より早く来たとか言わないでよね」


シーリスが呆れながらデュラスを見つめた。ナキスが進めていた鳥を使った情報の共有計画・・・シーリスはナキスが生きている時からその手伝いをしており、ナキスが死んだ後放置されていた計画を復活させ遂に完成させていた。時折ナキスに頼まれ事をしてシーリスが居なくなっていたのはその為だったらしい


まだガーレーンのソルトとフレーロウのセーラからしか情報を受け取る事は出来ないが、何処にいようと鳥はシーリスの元に来て、元の場所に戻る事が出来る


「毎日1回・・・フレーロウとガーレーンから交互に向こうの情報が送られて来るわ。もちろんこちらの情報も向こうに送ってる。その手紙と伝令書・・・どちらが信憑性が高いかしらね?」


「ぐっ・・・」


「それにフレーロウが危機に瀕しているのに、全軍で攻めて、その後フレーロウに戻る?何の意味があるの?」


「以前デニス軍が攻めて来た時に、レグシ軍が少しも被害を負っていないと、またこの前のように・・・」


「中央に罠がある事を知っていて、そのまま軍を突撃させて傷ついた兵士をフレーロウに連れて帰って、何の意味があるのか聞いているの。それに作戦の大幅な変更を伝令だけで伝えるなんてありえない。あなたはね・・・見抜かれてるのよ。あなたはどんな事が起きれば冷静でいられなくなるかをね」


「見抜かれてるだと?」


「亡国の危機に瀕した時、あなたはなりふり構わず国を守ろうとする。それを見抜かれてるの・・・あなたが以前に助けを請いに行った相手は誰?土下座までして懇願したのでしょ?」


「・・・」


「その相手・・・セリーヌはあなたの性格を見抜き、国が危機的状況であると嘘の情報を流した。冷静でいられなくなったあなたは確かめもせずにラクスさんとアシスからの提案という嘘を信じ、第1軍を突撃させてしまった・・・セリーヌに上手いこと使われたのよ・・・あなたは」


「では・・・本当にファラスは・・・」


「動いてないわ。それどころかメディアとレグシが決着がつくまで動かないと宣言したって噂もあるくらいよ・・・完全には安心は出来ないけどね」


シーリスの言葉を聞きホッとするデュラス・・・前も思ったが、国を思う気持ちは本物だな・・・歪んではいるが


デュラスの暴走なら責めもするが、国を思う気持ちを利用されて騙されたデュラスを責める気にはなれない・・・怒りの矛先はセリーヌ・・・だが・・・


「状況は理解した。総大将はそのままにするにしても、指揮系統を任せる訳にはいかないな」


ラクスが腕を組みながらデュラスを見つめる。俺も同じ事を考えていた・・・さすがに今のままではセリーヌにいいようにやられてしまう


「重々承知しております・・・指揮権はラクス様に・・・」


「いや、俺はそういうのは好きではない」


す、好き嫌いの問題でもないだろ?


チラリとこちらを見るラクス・・・まあ、ラクスが無理なら俺しかいないか・・・


「そ、それは・・・」


嫌だと言えないけど、嫌っていうのがありありと出てるよ、デュラス君。単騎で大軍に突っ込ませてあげようか?


「指揮権はそこのシーリス・・・彼女に任せる。総大将はそのままデュラスがやるといい。彼女が頭で我らが手足・・・それがこの場では最善だろう」


・・・ええ、そうですよね。分かってましたとも。どうせ俺なんて指揮なんて出来ません・・・手足で充分ですよ


「ほ、補佐官の指揮下など・・・」


「彼女は我らより知恵が働く。従来は作戦などの立案をした者が指揮官になるのではなく、地位が高い者が指揮官になるだろう。しかし、今は地位の高さより知恵の高さ、臨機応変に対応出来る者が指揮官になった方が効率がいいのではないか?シーリスが作戦を立て、我ら手足に命令する・・・単純明快でいい」


うーん、確かにシーリスが考えて俺に伝えて、それを全員に伝えるとワンクッション入るので遅れる・・・もしかしたら、将軍に必要なのは頭の回転?


「ちょっと良いかしら?ラクスさんが仰ってる事は分かりますが、それぞれ役割というものがあります。不相応な場所では力も発揮出来ません。考えている間に戦況が変化し、それに対応出来なくなる可能性もあります。もし私が作戦を立てるのでしたらどうか指揮官はアシスでお願いします」


「ふむ・・・そういうものか。しかし、そうなると手足が足りぬぞ?デュラスがアシス並に活躍するなら問題ないが・・・」


「・・・デュラス将軍の実力は知りませんが、万の軍勢に単騎で立ち向かえる者などそうそういないかと。なので、指揮官はアシスでも、アシスには手足として動いてもらいます」


・・・頭脳を期待されてないのは知っていたが、俺も傷つくんだぞ?


そこからシーリスが既に考えていた作戦を話し始める


最初は難色を示していたデュラスも、シーリスの作戦に納得したのか、最後の方は目を閉じて聞き入っていた・・・寝てないよな?


明日、またレグシ軍と相対する・・・中央付近を隈無く調べて罠がないのは確認済み・・・後は力と力の勝負になりそうだ




────



まるで勝負が決したように、戦が始まる前とは打って変わった表情の将兵達は浮かれてアルコールを体内に入れる


領主館の一室・・・軍議室として使っている部屋は酒の匂いで充満していた


「いやー、さすがセリーヌ将軍!完全にメディア軍を封じ込めましたな!」


「確かに!それにボッテス将軍も見事でした!たったの五千でラクスめを撃退するとは!」


「いや、撃退には程遠い・・・セリーヌ将軍のアドバイスがなければどうなってた事やら・・・」


「守りと撤退を繰り返し、本陣から離れるように誘導する・・・なかなか出来る事ではないかと」


「・・・」


意気揚々と酒を交わす将兵達の中、セリーヌはチビりチビりと酒を飲む


「セリーヌ将軍・・・明日はどのような作戦で?やはり敵の右には民兵を、左にはボッテス将軍で・・・」


静かに酒を飲むセリーヌを気遣ってか、一人の将兵がセリーヌに声をかけた


「そうだな・・・同じ策は繰り返せぬので、少し変えようと思う。敵で厄介なのは前にも言ったようにラクスとアシス・・・この二人がいなくなれば勝利も当然・・・逆を言えば、奴らが残っている時は油断は出来ぬ」


ラクスの名で酔いが醒めたのか、持っていたコップを置き神妙な面持ちになる将兵達・・・正直面倒だと思いながらも、セリーヌは彼らを鼓舞する


「ラクスとアシス・・・この二人を抑えれば勝利ぞ?たかだか二人の男に、四万の軍勢がどうこう出来ると思うか?顔を上げよ!勝利は我が手に!」


セリーヌがコップを掲げ叫ぶと将兵達は顔を見合わせる。そして、次々にコップを掲げ叫んだ


「・・・勝利は我が手に!」


セリーヌは今日の快勝が無にならずにほっとするが、心の内では四万の軍勢を持ってしても油断は一切していなかった


(せめて相談出来る者がいればな・・・作戦を立ててくれとは言わぬ・・・質してくれとも言わぬ・・・ただ聞いてくれるだけでも構わぬというのに・・・)


もしセリーヌが弱気になれば将兵達は士気を下げ、愚痴を言えば黙り込む。セリーヌが本音を語れるのは、レグシにおいてはただ一人、ガーネットだけであった


(ラクス様・・・あなたは私を・・・受け止めてくれますか?)


ガーネットのテーブルに誰も口をつけていないコップが一つ


誰も気付かずに置かれたコップには、並々と酒が注がれていた


(私は妥協はしない・・・心に秘めたこの想い・・・明日成就させてみせよう・・・よく見ておけ)


ガーネットが置かれたコップに自分のコップを当てると、並々と注がれた酒が少し零れる。零れた分が減り、まるで誰かが口をつけたかのようにガーネットの目に映った


束の間の勝利の美酒に酔いしれて、最後の締めとしてセリーヌが明日の作戦を告げた


そして、最後にこう付け加える


明日で決着をつけると────




────



メディア軍本陣テント前


早朝間もない時間からテントの前では兵士がズラリと並ぶ。その最後尾に大剣を地面に突き立て、その背後からレグシ軍を見るラクスの姿があった。片膝を立て、片目は大剣を、もう一方の目は前にいる兵士達を飛び越えてレグシ軍を睨みつける


サトナークよりラクスの身の回りの世話係として配属された男は、動かずに一点を見つめるラクスに声をかけた


「ラクス様・・・お時間になるまでテントの中に入られては・・・」


「構わぬ。ここの方が落ち着く」


「そうですか・・・兵士達を少し動かしましょうか?今のままではレグシ軍が見えないのでは・・・」


「直接見ずとも感じる・・・問題ない」


ラクスの前に並ぶ兵士達は隙間なく整列している為に片膝を立てて座るラクスの目線の先は自国の兵士達に遮られている。それを気にして声をかけたが、感じるという言葉を男は理解できなかった


「そうですか・・・何かあれば申し付け下さい」


理解出来ずとも、ラクスが言えば、それはそういうことなのだろうと納得して下がろうとした時、不意にラクスから呼び止められる


「お前は出身地はどこだ?」


「・・・サトナークです」


突然の質問の意図に意味が分からずも、聞かれた質問に正直に答える。しばらく沈黙が続いた後に再びラクスが口を開いた


「俺はサトナークでは何と言われている?」


「?・・・『大剣』です」


「二つ名ではない・・・評判の方だ」


「評判ですか?そうですね・・・『十』最強、剛腕、イケメン・・・」


「イケメン?」


「ええ・・・なんでも顔が整っている人の事をイケメンと呼ぶらしく・・・」


「はっはっはっ・・・そうか・・・濁ってはいないな」


「にご・・・え?」


「すまん、こっちの話だ・・・お前の年齢は?」


「今年で20歳となります」


「そうか・・・20か・・・お前の年代にはそう評されるか・・・」


「失礼しました・・・お気を悪くされましたか?」


「いや・・・ただ水をかけ続けた結果、濁りが薄れた事は分かった。また濁れば時間がかかることもな」


「?ラクス様・・・何を・・・」


「両親は健在か?」


「は?・・・は、はい」


「ならば帰ったら両親に尋ねてみるといい・・・ラクスとはどういう者かとな」


ますます混乱する男は、ただラクスの言葉に頷く事しか出来なかった


その後、ラクスは黙り込み、また一点を見つめる


その数時間後に太鼓の音が鳴り響いた────



────



太鼓の音が鳴り響く・・・今回は太鼓が鳴る前に右に展開を終えていた。これから三方向からの攻撃を開始する手筈だ


「敵兵の動きは?」


「昨日とは違いこちらを警戒してる様子が見られます。大きく左右に展開して、こちらを包み込もうとしているような・・・」


俺の問いかけにノイスが答える。昨日みたいな民兵は出さないか・・・包み込むような?それだと兵力が分散しないか?


「シーリス!」


「今の状態じゃ分からないわね。探りながらやるしかないわ・・・2軍と1軍は持ち堪えるのが今回の作戦だから・・・」


シーリスの様子がおかしい・・・昨日とは打って変わって自信なさげだ・・・昨日の作戦を俺らに伝えてる時は、まるで未来が見えてるような感じだったのに・・・


「分かった・・・斥候はまだ戻らないのか?」


「ええ、それなりに手練を送ったつもりだけど・・・」


昨日は伏兵などいなかった森に今朝も斥候を送り調べさせたが戻って来ていない・・・森の中で何かあった可能性が高いが、既に進軍の合図は鳴ってしまっている・・・まずいな・・・判断が遅れて後手後手だ


「リオン!手勢を連れて・・・」


と、言いかけた時、森から出て来る人影が四つ・・・前に歩く二人はシーリスの放った者だ・・・その後ろを歩く二人は・・・


「嘘だろ?なんでここに?」


「ファラスに行ったんじゃ・・・」


俺とシーリスが二人を見て呟く。他の二人を知る連中も絶句していた


「隊長~ひっさしぶり~!」


遠くで元気に手を振る女の子・・・その隣で無表情で歩く女の子・・・見た目は少女だが・・・


「キャキュロン!なぜここに!?」


元6番隊隊員であり、フェードについて行ったとされていた二人がここにいる・・・


「ちょっとね~まあ、会いたかったから~?」


「暇・・・潰し」


目の前まで来て無邪気に笑う少女・・・こう見るとまだフェード側の人間とは思えない。でも・・・


「キャロン!キュロン!・・・裏切り者が!」


エーレーンが槍を構え叫んだ。そう・・・二人は俺らを騙していた。ファラスの人間という事を・・・そして、フェードと共謀して・・・


「もう~そんな目で見ないでよ~殺したくなっちゃうよ~」


「相変わらず・・・バインバイン」


柄の長いハンマーをクルクル回しながら笑顔で言っているが・・・殺気が漏れている。信じたくなかったが、目の前に来ると現実を突きつけられるな


「隊長~?いいの~?レグシ攻めてきてるよ~?」


「ピンチで・・・ハレンチ」


「てめえらがいるから動けないんだろうが!さっさと要件を言え!」


進軍の合図から、未だに動けない事への苛立ちが募る。こうしてる間にもレグシ軍が迫って来ているのは背中で感じ、焦りで語気が強くなってしまう


「怖~い隊長~。せっかく助けに来たのに~」


「助っ人・・・ツインスター」


「助け?助っ人?お前らが?」


「あったり前~!今のメディアとファラスは仲良しこよしだよ~?アイツら隊長の嫌う事を・・・あれ?」


話しながら周囲をキョロキョロして首を捻るキャロン・・・誰かを探しているようだが・・・


「いな~い・・・それでか~」


「行方・・・不明」


「誰がだよ!」


「う~ん、内緒~?多分私らに気付いて逃げたんだと思う~・・・だから、気付かない。ピンチにね」


キャロンが間延びした喋り方から、突然表情を変えたと思ったら低い声を出す。そして、レグシ軍を指差して更に続けた


「レグシ軍が左右に広がってるのは、隊長への嫌がらせ・・・たとえ隊長でも多方面から来る攻撃には、対処出来ない・・・仲間を護れない。多分レグシの中に隊長を知る人がいて、隊長の動きを分散させる為に立てた作戦」


キャロンの言葉にレグシ軍の方を見る・・・手に持つ武器は殆どが槍・・・近付いて一気に突撃する気か?そうなると・・・


「隊長は優しいからね・・・上に立つ者としてはどうかと思うけど」


キュロンも普段のふざけた物言いはなりを潜めている。これが二人の本性?


「私らは今は味方。カイトが隊長に悪さして受けた拷問の詳細知りたい?もう顔は元通りにならないだろうね。あれを見て悪さしようなんて思わないよ・・・まっ、信用しろって方が難しいだろうから、行動で示すよ」


「ちゃんと・・・動いてね」


「私とキュロンがレグシ軍の端と端に行く!真ん中に二人・・・隊長と出来れば隊長クラスを並べて均等に四人を配置して敵を討つ。残った全員で私ら四人の間を抜けた奴らを叩く!それなら相手の突進力も弱まるし、被害は格段に防げるよ!じゃあ、突撃~!」


「グッド・・・ラック」


キャロンは捲し立てると突然走り出す。それに合わせてキュロンは反対側へ・・・呆気に取られていた俺は動けずにいると・・・


「アシス!あの二人の言ってる事は間違ってなさそうだ!どうする?」


リオンがレグシ軍の動向を見て叫ぶ・・・もう考えてる時間はない・・・


「キャロンとキュロンの間に俺とリオンが入る!キャロンと俺の間の後方にノイス隊!リオンとキュロンの間の後方にダルムド隊が入れ!ロリーナ隊は二つの隊の間に入り、押されている箇所への救援!シーラはロリーナ隊と共に!シーリス!」


「調整は任せて!リオン隊とバッカス達も中央にお願い!今は私の指揮下に!」


命令を終えて振り向くと、既にキャキュロンがレグシ軍と戦っている。突如現れた二人の少女に戸惑っているが、兵に囲まれ始めていた


あの二人の本当の実力は知らない・・・だが、あの自信からすると『十』クラス?・・・実力を知らない二人に頼るのは不安だが、今はあの二人を信用するしかない・・・レグシ軍はもう目と鼻の先まで迫っている


「リオン!」


リオンに顔を向け叫ぶとお互い目が合い頷き合う。二人で自軍の間を駆け抜けて先頭に出るとそのまま分かれて敵に突っ込んだ


「震動裂破!」


走りながら溜めた力を挨拶がわりに一発・・・怯んだ隙に剣を引き抜きマントを纏わせる


「さあ、行こうか!」




────




「ラクス様!そろそろ・・・」


太鼓の音が響く中、精神統一の為に目を閉じ集中していたラクスに声がかかる


目を開け立ち上がると、目の前にいた兵士達がラクスの為に道を開けた


眼前に広がるのは敵敵敵・・・左右のアシスやデュラス達に割かれているとはいえ、街道周辺を埋め尽くさんとばかりに隙間なく密集していた


ゴクリと誰かが喉を鳴らす


ラクスがこれからする事を思い、自分がもし同じ事をするとしたら・・・と想像し息を飲んだ


「ちょっくら行ってくる」


まるで散歩にでも行くようにラクスは大剣を地面から引き抜き、肩に担ぐと馬へと近付いた


「ご武運を!」


ラクスがヒラリと馬に乗った瞬間に、周囲の者達が敬礼し叫んだ


「なぁに、大した距離じゃないさ」


ラクスはその言葉に微笑んで返すとレグシ軍を見つめ顔を引き締める


「推して参る!」


叫び馬の腹を蹴ると勢いよく大軍の海原へ


一騎駆け


メディア軍の本陣を目指して進んでいたレグシ軍は、遠目に見て少数しかいない事に気付いていた。しかし、セリーヌからは中央の軍を叩けと命令されている為に違和感を感じながらも進んでいた


しかし、ここに来て一人の馬に乗った男が、軍目指して突進して来る・・・その肩には凡そ人が扱うような大きさではない剣を担いで・・・


「ラクスだ!ラクスが出たぞ!」


先頭の誰かが叫ぶ


しかし、叫んだところで何も変わりはしない


近付いてくる大剣を担いだ男に、圧倒的な数で攻める兵士達に恐怖が伝染していく


『大剣』ラクス


その名の通り大剣使いの男


二つ名で武器の名を付けられる事は多い


だが、それはあくまでも特殊な武器の場合


大剣は通常の剣よりも使うものこそ少ないが、普通に武器屋に置いてあり、力自慢の男達が好んで使う為、普及率も高い


それでも、ラクスが大剣の二つ名を付けられた理由・・・それは・・・


ゴウッ


大剣が目の前を通過する


その後に広がる光景は体を切断され宙に舞う仲間達


体を動かす事が出来ずにただ切断される順番を待っている感覚に陥る


ラクスが通り過ぎた後、運良く生き残った者が後ろを振り返ると、馬上からただただ大剣を振り回す姿を見て呟いた


「大剣・・・」


彼の目には、馬もラクスすらも映らない


縦に、横に、斜めに振られる大剣だけが目に映る


それが『大剣』ラクスの『大剣』たる所以


大剣となったラクスは軍勢の中を止まることなく突き進む


セリーヌを目指して────


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