5章5 迷い道
休息が終わりメディアを発ってから1ヶ月が経過した。ようやくレグシとの国境手前の街サトナークに到着する
将軍クラス以上は馬車に乗り、千人長クラスは馬に乗っているが、ほとんどが歩兵・・・行軍だけで疲れ果てそうだ
行軍中に何度か街に立ち寄り、補給と寝床を提供してもらう・・・と言っても馬に乗るような上官だけが布団に入り、歩兵は野営・・・二万の軍勢だから仕方ないにしてもどうにかならんもんかね?
ここサトナークより一万の軍勢が合流し、合計三万の軍勢となりレグシに突入する。サトナークを越えた国境付近での戦いが予想される為、一様に緊張の色を強めた
「サトナークでラクス様の軍の編成が終わるまで待機、編成が終わり次第レグシへと進軍を開始するとのことです!」
伝令が髭だるまの言葉を伝える。後は昼間にサトナークの領主と元レグシ大使の人と会談を行うから来いとの事・・・面倒いな
サトナークの宿の一室で時間を潰しているとドアがノックされ、返事をするとドアが開かれる
「休んでるところ悪いな。少し良いか?」
現れたのはガレス・・・話をするのは大平原からの帰りの時以来か
「どうぞ・・・ガレスさんも暇を持て余して?」
「まあ、そんなところだ。少しアシス・・・お前さんと話したくてな」
ガレスは今回の侵攻・・・自ら望んでいたな。やはりセリーヌの事だろうか
部屋に入ると備え付けのテーブルの椅子に座り他愛のない話をする・・・娘が何が出来るようになったとか、お前は子を作らないのかとか、カミさんが相変わらず怖いとか・・・しばらくして、一瞬黙り込むと表情を変えて俺を見つめる
「今回の戦・・・お前さんはどう見る?」
「・・・レグシには一度行ったことありますが、もし変わってないのなら籠城はないでしょうね。盾となるべき壁が極端に低いし薄い・・・破城槌すら要らないのではないかと思うくらい・・・そうなるとバーレンロウでの決戦ではなく、途中で軍と軍の決戦になるかと」
「確かにな。待ち構える場所はレグシ軍にとって優位な場所・・・地の利は向こうにあるか」
レグシは外観を非常に気にしている感じがする。交易も盛んに行い開けた国という印象が強い。マベロンのように交易国家となりえなかった理由は、レグシでしか買えない物・・・要は特産品がない為。商人も売りには来るが買いには来ない・・・そんな状態が続いていたらしい
ナキスが芸術品を特産品として売り出そうと提案していたが、戦争が始まってしまっては芸術品に手を出す人を少ない・・・国ですら余裕がなくなるのだ、住んでる人も余裕などないだろう
「その戦いを制すれば戦争は終結・・・後のないレグシがどう出るのか」
「お前さんならどうする?」
「俺がレグシなら・・・」
籠城は愚策、攻めるにしても人材不足・・・それを補う為には
「奇襲・・・ですかね?」
「ふむ・・・しかし、それを避けてメディア軍は開けた街道を進んでる。何万もの軍勢を隠せるほどの場所なぞ皆無だぞ?」
「数人ならばどこにでも隠れられます。森でも川辺でも街中でも・・・」
「確かにな・・・しかし、レグシで数人で奇襲をかけて戦果が得られる人材などそうおるまい・・・師のセリーヌ様くらいなもんだ」
セリーヌか。もし俺がセリーヌの立場だったら・・・迫り来る三万の軍勢に対して何をする?
「今お前さんを訪ねたのも、セリーヌ様の事だ。前に見せた剣技・・・覚えているか?」
「ええ。斬撃を増やすみたいな・・・」
一つの斬撃で三つくらいの傷を付けていた。力を流して斬撃を増やす?
「前は深淵を話すことは出来なかったが・・・今から教えよう」
「え?良いんですか?」
「俺はもうメディアの人間。ラクス殿は存じているので必要ないが、お前さんが知らずにセリーヌ様と戦い、命を落とす事があったらと思うとな・・・セリーヌ様が『水晶』と呼ばれているのは知っているだろう?」
元『十』の『水晶』セリーヌ。ガレスの技と水晶って言葉が結びつかないと当時は思ったもんだ。俺はガレスの言葉に頷くとガレスは言葉を続ける
「水晶が水晶たる所以は・・・これだ」
ガレスは何も持たずに剣を持っているような仕草をする。剣を目の前で掲げるように・・・すると薄らと力の塊のようなものが手から立ち込める
「力の放出・・・何も無い所に剣を生み出す。俺は実際の剣に添わせて出すことで精一杯だがら、セリーヌ様は剣を持たずに力の剣を生み出せる・・・このようにな!」
ガレスが一気に力を込めると、薄らだった塊が、まるで透明の剣のような形を作る・・・まさに水晶の剣・・・
「ハア・・・俺はかなりの時間を要してやっと生み出せる・・・しかし、セリーヌ様は事も無げに剣を作りだし、相手を斬り刻む」
「それって・・・剣の重さがかからないって事じゃ・・・」
「それもある。腕を振る速度で剣を振れる。更に長さの調整、出すタイミング、威力・・・全て自由自在だ」
何それ・・・反則だよ・・・
「もちろん無限ではない。かなりの集中が必要な為、一本が限度。更に長時間出し続ける事も無理だ。連戦には向かないが短期決戦では無類の強さを誇る・・・」
なるほど・・・ずっと虎の型を続けてるようなもんか・・・しかし、瞬時に出し入れされたらたまったもんじゃないな。力の消耗も抑えられるし、何より防げない
「セリーヌ様と相対する時は距離を取れ。作れる長さも限度がある・・・その限界を見極めつつ距離を取って攻撃できれば・・・」
遠距離か・・・『カムイ』とかなら封殺出来そうだな。でも、今更投げナイフを修得する時間もないし・・・震龍裂破と震動裂破で戦うしかないのか・・・
「それこそ奇襲向きな技ですね・・・手ぶらで行っていきなりズドン・・・変装とかすれば見破られない限り防ぎようがないような・・・」
「確かにな。だが、変装などはしないと思うぞ?あの服装に拘りがあるみたいだ」
あの服装って・・・服装と言うのか?下着姿って言っても過言ではないような気がする
「露出が高い服を着てるのも、決して趣味ではなく見た目で惑わせる意味もあるらしい・・・どう惑わせるのか分からないがな。軽装でも平気なのは自信の表れだろうな。何せ普通の剣では防げない・・・打ち合うことすらなく一刀で仕留めてしまうのだから・・・」
しゅ・・・趣味かと思ってた
それにしても厄介だな。虎の型を延長する感じ?いや、震龍裂破を固定化する感じか?どちらにせよ戦いにくいのは確かだ
ガレスは変装しないと言っているが、警戒は強めた方がいいな。追い込まれたら何をするか分からないし・・・つーと、常に気を張るしかないのか・・・勘弁してくれ
「攻略の糸口ぐらいにはなりそうか?俺の情報が少しでも役に立てば良いのだが・・・」
「・・・ガレスさんはなぜ、今回の侵攻に立候補を?」
恐らくセリーヌ絡みだとは思うがまさか・・・
「俺の手でセリーヌ様を・・・そんな事は思っちゃいないさ。今回の戦でセリーヌ様は・・・恐らく最後の時を迎える。そんな時に遠く離れた場所で平和に暮らせるほど・・・間抜けな男でいられなかった」
顔の傷を掻きながら、照れくさそうに言うガレス。理不尽にラクスと戦わされ、敗れたことで弟子を辞めさせられたのに、未だに師と言い尊敬している・・・
「もしかして・・・ガレスさんってセリーヌのことを・・・」
「俺には愛する妻がいる・・・目に入れても痛くない娘もいる・・・セリーヌ様は師・・・それだけだ」
うーむ、触れてはいけない部分だったか
ガレスはそろそろ会合の時間が近付いて来たので、自分の部屋へと戻って行った
会合へは守護者の俺と副官のリオン。補佐のシーラとシーリスも呼ばれている。領主と大使の情報を聞き、そのまま軍議へと流れる予定らしい・・・髭だるまいらんけど
昼時になり全員揃ったところで領主館に向かった。メイカートのメリッサの領主館と似ているのは建てた人が同じだからか?領主館はこういうもんだって定義があるのかな?
中に入り案内されるまま進んでいくと大きいテーブルに山ほどの料理が・・・行軍中は贅沢出来なかったから、見ただけでヨダレが出そうだ・・・女性陣の目も輝いている
「こちらにお掛けください。守護者アシス様」
そう言えば最近国王直属特別太守・・・とか長ったらしいのでは無く略称の守護者としか言われんな。まあ、元々長すぎるから、それで定着してくれるのは有難い
言われた場所に座ると、他のみんなも座り始める。一応地位の高い順って感じか・・・俺、リオン、シーラ、シーリスと座り対面はデュラス、ラクス、ガレスが座る。一番奥にこちらを向いて領主と大使が並び座り、ようやく全員が揃ったところで領主が立ち上がり礼をする
「此度は狭苦しい場所での会合になりまして申し訳ございません。私はサトナーク領主マドムと申します。出来たてでございますので、まずは冷めないうちに・・・心ばかりの料理ですが、丹精込めて作らせて頂きましたのでご堪能ください」
領主マドムは50代くらいと思われる男性で、白髪混じりの頭髪の痩せ型の長身・・・年齢を感じさせないピシッとした佇まいが印象的だった。領主と言うより執事の方がしっくりくるような・・・
隣にいる大使は見た目30代か?金髪を短くしており、細い目は優しげで中肉中背・・・どこにでもいるような男性だが、考えてる事が読めない感じが只者ではないと思わせる
とりあえず料理を口に運び、周囲を見渡すとみんな黙々と食べている。チラチラとこちらを見る髭だるまの目線が気になる。仕方ないだろ?こういう場所での食事は慣れてないんだ、マナーなんか・・・と思いきや、目線は少し横だった。つまり隣のリオン・・・わお、野性的!って手で肉を食うな!テーブルクロスで手を拭くな!
「・・・リオン」
地の底から響くような声が・・・声の方向から恐らくシーリス。リオンもその声を聞いて動きを止めた
「ゴホン・・・なんと豪快な食べ方でしょう!流石戦士・・・羨ましい限りです」
マドムが場の雰囲気を読んで和ませようとするが、何が羨ましいのかさっぱりだ
「所詮は元傭兵の成り上がり。期待する方が間違えだ」
「なるほどね。上品に食べるとそのお腹が出来上がるって訳だ。それならこっちから願い下げだな」
「なにを!」
あまりにも馬鹿にしたような発言だったので、思わず言ってしまった。見た目が下品なお前には言われたくないしな
「黙れデュラス。お前から吹っかけたのに返されたら怒るとは・・・バカなのか?」
そうです。バカなんです。って、本当にラクスはデュラスに厳しいな。なんぞ恨みでもあるのだろうか?
「・・・」
苦虫を噛み潰したような顔をして、黙り込むデュラス。ラクスには弱いようだ。言い返して真っ二つにされれば良いのに
「それとリオン。お前もせめてナイフとフォークぐらいは使え。さすがに目に余るぞ?」
「・・・はい」
続けてラクスに怒られたリオンがシュンとする。確かに素手で肉を掴んで食うのはやりすぎだな。面倒なのは分かるが
「ん?アシス、これ食べるか?」
俺の皿が空になっているのに気付いたラクスが自分の皿を寄越そうとする。確かにその皿に乗っていた肉は美味かった。でも、そこからじゃ届かないが・・・
「追加でお持ちしますので・・・」
「それには及ばん。ほれアシス」
マドムが声をかけるが、ラクスは・・・って皿ごと投げようとしてる!?
「バカラクス!投げんなハゲ!人にマナーを説いといて、ウルトラマナー違反しようとすんじゃねえよ!」
「ハ、ハゲてないし・・・」
「うっせー!ほれ、デュラス将軍もなんか言ってやってくれ!元『十』はこれだからとか、脳みそまで筋肉詰まってんじゃないか?とかさぁ」
急に話を振られたデュラスが飲んでいた水を吹き出す。そして、てめえこっちに話を振るんじゃねえって顔して、恐る恐るラクスの顔を見ると・・・睨まれていた
うむ、今度から対デュラスにはラクスを使おう
なんだかんだで楽しい?食事も終わり、食器が全て片付けられると改まってマドムが立ち上がり深々と礼をした
「お口に合いましたでしょうか?改めてご挨拶を・・・サトナーク領主マドムと申します。こちらは・・・」
「元と言った方が正しいですかな?元レグシ大使のカラホスと申します」
マドムに振られて同じく立ち上がり深々と礼をするカラホス。よくレグシに捕まんなかったな
「此度の遠征の総大将を務めるデュラスだ。楽にしろ。このまま軍議に移るがとりあえず初対面の者もおろう。手短に自己紹介を・・・」
言ってラクスの顔をチラリと見るデュラス。その顔は少し強ばっていた
「・・・守護者のラクスだ。サトナークに駐留している軍を預からる手筈になっている」
「はっ!聞き及んでおります」
言い終えた後にマドムを見ると、マドムは頷きながら言葉を返した。うむ、実に今度出来る屋敷の執事に欲しい
「次に・・・」
俺の方をチラリと見るデュラスの顔は・・・どうでもいいって顔だ。クソだるまめ!
「守護者のアシス・・・19歳」
「貴方様があの・・・」
「年齢は言わんでいい・・・次に」
マドムが呟き、デュラスに突っ込まれた。マドムの「あの・・・」の続きが気になる。あの・・・なんだ?
それからガレス、リオン、シーラとシーリスが名乗り、全員が名乗り終えたところでラクスが口を開いた
「領主よ。アシスの時に何か言いかけたが、何か聞き及んでいるのか?」
ナイスラクス。俺も気になってた。もしかしたら・・・
「は、はい。その・・・大変言い難いのですが、巷の噂で・・・」
「ほう?アシスも噂されるようになったか。で、その噂とは?」
「あくまでも巷の噂です・・・その・・・アシス様は敵と見なせば老人子供とて容赦なく殺し、女は犯し、男は拷問にかけ、それを見ながら酒を飲む・・・悪鬼羅刹を絵に書いたような人物と」
「なに?」
よしよし・・・いい感じだ・・・予想より酷いけど
「なぜそのような誤情報が流れている?情報の発生源は・・・」
「俺だよ俺」
シーリスを抜いた全員が俺に注目する。そう、その情報源は何を隠そう俺なのだ
「アシス?なぜそんな事・・・それにどうやって?」
「あー、シーリスに頼んで潜入している部下とレグシ方面に向かう商人に噂を流してもらった。理由は二つあって、一つはレグシにある街の無駄な抵抗を止めさせる為、もう一つはギャップによる印象操作が狙いだ」
「ほう・・・つまりは?」
ほうって言ったじゃねえか!分かったんじゃないのかよ!
「つまり、悪評を流す事により街の支配を容易くしようかと。レグシの街の領主もわざわざそんな噂が流れるような奴を逆撫でするような事はしないだろ?怒らせまいとして言う事を聞いてくれる可能性が高くなるんじゃないかと思ってな。食料を略奪せず、分けて貰えるならそれに越したことはない」
「なるほどな。食料に関しては懸念があったが、その為にか。もう一つは?」
「ギャップ・・・つまり悪名高い俺が実は好い人じゃん!ってなったら懐柔しやすいだろ?マイナスのイメージからプラスになれば、その差は普通からプラスよりデカくなるからな」
優男が笑うのと強面のおっちゃんがニッコリ笑った時の差みたいなもんだな
「余計な事を・・・」
デュラスが聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いているつもりだろうが、丸聞こえだぞ?
「確かに・・・私も噂を聞いていたので、アシス様を見るまでは緊張しておりました。会ってみて噂は所詮噂と思いましたが・・・」
うーん、逆に見ただけでネタバレするのもよろしくないのだが・・・そこは見た目プリティーな俺には無理があるな
うっ、リオンの後ろから二つの目線を感じる・・・プリティーがダメだったのだろうか?
「で、余計な事って言ったデュラスよ。お前は事前に何かしたのか?アシスの補佐のシーラもセーラ様に直談判し食料を定期的に運搬して貰えるようにしたらしいぞ?どうなんだ?」
「・・・食料は奪えばいいかと。所詮は敵国・・・」
「直に自国だぞ?」
「なっ・・・」
「アシスの言う通りいずれ自国となる街に対して略奪をすれば統治も遅れるだろう。それではデニスとの決戦の時におちおち背中を空けられまい・・・それこそ本末転倒なのではないか?」
ラクスのフォローで更に絶句するデュラス・・・しかし、そのデュラスに思わぬところから助け舟が入る
「その考えは・・・少しまずいかも知れません」
発言したのは元大使のカラホス。顎に手を当てて細い目を更に細くさせて呟いた
「その考えとは?」
「ええ。アシス様の考えられてる事は分かります。しかし、それは普通の場合・・・レグシ国の国民性から申し上げますと逆効果になる可能性が・・・」
ラクスの質問に答えるカラホスが言った国民性って?
大使として長くレグシにいたカラホスはレグシの国民性をこう見る
『頑固者』
もちろん全員が全員そうではないのだが、例えば店の人に値段の交渉をしてみる。すると、即座に値段が気に入らないなら買わなくていいと突き放すらしい。考えて付けた値段に対して値引きするなど、商品への冒涜だ!みたいた感じだ。武器屋では自分の気に入らない武器は決して売らない。客が欲しいと言っても頑なに売らないらしい・・・どこかの鍛冶屋に見習わせたいものだ
ところが一旦懐に入ると、途端に対応が変わる。店の人が自ら値段を下げたり、出来栄えのいい武器を安値で譲ってくれたり、食べ物なんかも余ったからとタダでくれる時もあるとか・・・
「上辺だけの付き合いならしない方がマシ・・・しかし、一旦認められるとまるで家族のように接してくれます。そんな国民性の場所にアシス様の噂が流れれば・・・恐れるより反抗する方が可能性としては高いでしょう」
これは・・・やっちまったか。国民性なんて考えてなかった・・・頑固者か・・・素直に恐れてはくれなさそうだ
「だから言ったのだ。余計な事をと。考えもなしに余計な事をすると逆に拗らせる」
デュラスが勝ち誇ったように俺を責める。別に勝ち負けではないのだが・・・これは俺のミスか
「すまない・・・そこまで考えていなかった」
酒場で俺の噂をしていた奴らが好き勝手言っているのを聞いて、それを信じた人が俺を恐れて交渉がしやすくなるって考えてたが宛が外れたか
「・・・」
デュラスがなんとも言えない表情をして無言で俺を見つめる。ここぞとばかりに責め立てると思ったが・・・ラクスが怖いのか?
「いえ、アシス様の流した噂は悪いばかりではないかもしれません。二つ目のギャップを利用するやり方・・・それならば街の者達の懐に入りやすいかと・・・ただ試した事はないのでどうなるか分かりませんが」
俺は怖いぞーって怯えさせるのではなく、怖いって噂が流れてるけど、本当は優しいの!って感じでいく方が良いと
「策がまったく使えないよりはマシか。それよりも下手に噂通りに演じる前に知れて良かった。ありがとう、カラホスさん」
「いえ、お役に立てたのでしたら幸いです。後、これは噂の範疇を出ない話なのですが、レグシで民兵を募っていると」
民兵か・・・とりあえず頭数を揃えようって魂胆か?国の滅亡がかかっているんだ、なりふり構ってられないか
「民兵は集まると思うか?」
「いえ、デュラス将軍・・・集まったとしても数千程度かと。ガーネット女王の求心力はさほど強くはありません。一部にカルト的人気はあっても、他の多くの民は冷めた目で見ています。大多数の民はメディアと組んで平和な道をと考えていたものですから・・・」
国民としたら、ほらみたことかってところか。結婚して世継ぎをって話も聞かないし、なるべくしてなった状態みたいだ・・・あの時に会ったガーネットの印象は出来る女王だったが・・・何が狂ったのか
その後、本格的な軍議が開始された
1軍デュラス軍、2軍アシス軍、3軍ラクス軍となり、デュラス軍を中心に俺は右に陣取り、ラクスは左に陣取る
奇襲、待ち伏せに注意しながら進み、攻めるのは主に俺とラクスの軍・・・デュラス軍は後方で待機して、戦況次第でデュラス軍が俺かラクスの方に援軍を出し調整する手筈なのだが・・・デュラスに出来るのか?
不安を残しつつも与えられた役割をこなす事だけを考えようと思っていた・・・カラホスに個人的に呼び止められて話を聞くまでは
宿に戻るべく部屋を出て歩いていると呼び止められて領主館の個室に入る。そこはカラホスが仮で使っているらしく、特に物とかもないガランとした部屋・・・そこで話したい事があると言ってきた
「噂?」
「ええ、あくまでも噂です。大使としてバーレンロウに居た時に耳にしたあまりにも馬鹿げている・・・しかし、もし本当でしたら私では抱えきれないとんでもない噂・・・」
カラホスが額から冷や汗を流しながら、眉間に皺を寄せ言葉を選びながら呟く
「で?その噂とは・・・しかも、なぜ俺に?」
カラホスの表情から重要な事を言おうとしてるのは分かるが、あの場に居た者・・・総大将のデュラスや元々知名度のあるラクスではなく、新参者の俺にだけ伝える事って・・・
「アシス様がナキス王子と特別な関係にあったと・・・私も2年前のガーネット女王が開かれた宴に参加していましたので存じています」
あっ、そうなんだ。あの時は周りをよく見てなかったし、全然思い出せない。てか、特別な関係って言い方はどうなんだ?
「ガーネット女王とナキス王子の間にお子がいる・・・そう噂が・・・」
は?
「ナキス王子とガーネット女王が会ったのはあの時だけ。あまりの突拍子のない話に一笑に付されるのは重々承知しております。しかし、ナキス王子との婚約後体調を崩されたガーネット女王は表に出なくなりました。それも半年近く・・・そして、表に出始めた時に傍らにはお子の姿が・・・お二人が会われた後から計算するとちょうど・・・」
「待て待て待て!ナキスとガーネットの間に子供?何の冗談だ?二人は話をしただけで・・・」
そこまで言って思い出すのは、会談が終わった後に二人きりで会ったナキスとガーネット・・・何を話したのか尋ねてもはぐらかされたが・・・まさか!?
「思い当たる節があるのですか?私も眉唾な話と思っておりましたが、あまりにも時期が重なり、噂が絶えなかったものですから・・・もし事実ならメディアにとって看過できないお話かと。しかし、噂話の域を出ない為に言うのを躊躇っておりましたが、ナキス王子とアシス様のご関係から、アシス様だけにもと」
・・・それが本当ならレグシにとっての世継ぎであると同時にメディアにとっても継承権のある子供って事か?いや、それよりもナキスの子供?・・・墓の前で聞こえた空耳・・・レグシを頼むってそういう事か?空耳ではなくナキスの魂の叫び?
「突然にこんな話をされてもお困りだとは思いますが、もしお心当たりがあるのでしたら一気に現実味を帯びてきます。私も調べる事が出来ず噂話のみで大変申し訳ございません」
「いや、ありがとう・・・ただこの話は他で言わないで欲しい・・・後は俺が・・・」
カラホスは無言で頷くと、よろしくお願いしますと言って礼をする。その後、俺は部屋を出て一人宿へと向かった
不味い・・・俺の中で戦争など吹っ飛んでしまった・・・もし本当なら、俺はその子を全力で護らなくてはいけない・・・攻めてる国の女王の子を?どうやって?
頭の中が整理つかず、グルグルと思考が空回りする・・・もし本当ならなぜガーネットは黙っていた?本当なら戦争など起きてなかったのに・・・くそっ、ダメだ。リオンに言われた事が思い出される
『迷うな!お前はお前の道を行け!』
今・・・俺は迷っている
俺の道は・・・どっちだ────




