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5章3 ジュスイとコシン

ジュラク達はメディアより戻った日、疲れた体を引きずりザマットの元へと向かった


デニス国王城内謁見の間


「ジュラクよ・・・何がどうなっておる」


「ファラス軍が突如我が国に侵攻し、国境近くで駐留しております」


「そんな事は分かっている!なぜだ!なぜこのタイミングで我に楯突く!」


ザマットが持っていたグラスをジュラクに投げつけながら怒鳴り王座から立ち上がる。ジュラクは跪いたまま顔を上げた


「分かりかねます・・・が、一つの要因はそちらに居る方が関係しているかと・・・」


ジュラクはグラスが頭に当たり割れた事を意に介さず、スっとザマットの横に立つ人物を指差した


「ユキ姫・・・おお、ユキ姫か。敗戦国シャリアの元第二国王よ・・・そなたがファラス軍を呼び寄せたか?ん?」


「め、滅相も御座いません・・・私にはそのような利用価値も・・・」


シャリア国第二国王であったユキナがザマットの言葉を否定する


敗戦濃厚と判断したユキナが頼ったのはバランのいるデニス国。亡命を表明し受け入れられたが・・・


「うんうん、そうだな。これだけ美しいが、ベッドの上以外では何の役にも立つまい」


いやらしい手つきでユキナの顎を撫で、舐め回すように全身を見る・・・ユキナは耐え切れず身体を捩るが、顎を撫でていた手に力を込め動きを制する


「私は・・・本当に・・・何も・・・」


「ふん・・・ジュラクよ、ファラスは追い払えるか?」


ザマットはユキナの顎を掴んでいた手を離し、ジュラクに向き直り尋ねる


「本気で戦争する気なら可能でしょう」


「つまり・・・簡単にはいかないって事か?」


「そうなります」


「クソが!」


ザマットが王座の足を蹴り飛ばし叫ぶとユキナは体を震わせる。気性の荒い目の前の王を頼った事を後悔しながら、視線は旧知のバランに向けた。そのバランは跪きユキナを見ようとはせずただ顔を伏せていた


「今回の戦犯は誰だ?メディア如きに時間を費やし、ファラスにスキを突かれた・・・その咎は誰にある?」


ザマットは歩き王座に腰掛けると肘をつきジュラクを睨みつける。その視線を受けながらもジュラクは黙々と言葉を続ける


「一人・・・心当たりがあります」


「ほう・・・誰だ?」


「メディアの守護者と呼ばれているアシス」


「なに?・・・ジュラクよ、聞いておったか?戦犯と申したのだが」


「確かに・・・細かい事を上げればいくつかの失敗はあります・・・ですが、全てはアシスの加入により狂い始めたのが始まり・・・そして、此度のメディア攻略の遅れに繋がっております」


揺るぎないジュラクの言葉にザマットが自らの顎に手を当て考える。報告は受けているが、最も信頼するジュラクにそこまで言わせる程の者とは思っていなかった


「仔細話してみよ」


「はっ・・・まず初戦。ワーノイスを総大将として挑み、途中までは上手く事が運んでいたところで、アシスの出現によりワーノイスとヴァルカの両将軍が討たれ撤退を余儀なくされています。続けてガーレーンでの攻防戦において、我が息子ジュモンがアシスの手の者により討たれ、メイカートでの攻防においてもアシス他数名の者に手痛くやられております」


「それほど優秀なのか・・・そのアシスとやらは」


「いえ、我が副官キナリスと共に、ここにいるバランとの攻防を見た限り、そこまで優秀な人材とは思えません・・・しかしながら、追い詰めても味方に助けられ、自身も一騎当千の力を持つ・・・非常に厄介な存在かと」


「・・・将軍の力量というよりは、個人の持って生まれた強運や力か・・・確かに厄介だな」


「個人の力量では私やバラン・・・後はジュスイに並ぶ程であると思われますが、それだけではない何かを感じます。キナリス曰く不確定要素と成りうる人材・・・とでも言いましょうか・・・」


「『戦神』『大剣』『飛槍』に『鬼神』か・・・ようもあの小国にそれだけの人材が集まったものだ・・・だが、戦争は個人の力量でひっくり返せるほど甘いものなのか?ジュラク」


「使い方次第ですね。万の軍勢に対して一人で挑んだとて途中で力尽きるでしょう・・・それは誰でも同じです。フレーロウでの最後の攻防も一人突撃してきたアシスに1割ほどの兵力は削られましたが、それが続けられるとは到底思えません。ファラスの動向が少しでも遅ければ、軍に飲まれ息絶えていた事でしょう」


「ならば撤退を遅らせて、討ち取るべきだったのではないのか?」


「奴の戦い方が一戦一戦変わってきています。フレーロウにおいても、初戦は受け身、次は突撃と一貫性なく、兵は浮き足立ち混乱してしまいました・・・立て直すには一度引き、再度攻める必要があったので、そこまでの時間はないと判断致しました」


「なるほどな・・・」


ザマットは立ち上がり、王座の前を行ったり来たりしながら、何かを思案する。そして、ジュラクではなく、バランを見た


「バランよ・・・お前ならばアシスを止められるか?」


バランは尋ねられ、伏せていた顔を上げる。一瞬目線をユキナに向けるが、すぐにザマットを見つめ頷いた


「可能です・・・陛下」


「そうか・・・ならばアシスはバラン・・・お前に任せよう。見事討ち取った時の褒美はそうだな・・・」


ザマットはバランの目線を目敏く読み取り、突如ユキナを抱き寄せる


「お前は『十』の時代にシャリア担当だったな・・・ならばユキナの事も知っているだろう?褒美はユキナ・・・それでどうだ?」


バランは気付かれぬように手に力を込める。だが、それもザマットには見抜かれていた。悔しがるバランの姿を見てほくそ笑み、その返事を待つ


「はっ!謹んでお受け致します」


「そうか。受けてくれるか。だが、将が敵を討つのは当たり前・・・それで褒美を与えていては不平等だな。バランよ・・・もしお前がアシスを討ち漏らした時、褒美はないのは当然だが、ペナルティを与えるとしよう」


「・・・どのような?」


「ユキナを豹紋兵に食わせる・・・と言うのはどうだ?」


「なっ!」


ユキナは目を見開き、バランが立ち上がろうとするが、ジュラクに目で制される。中腰になり自らの太ももに爪を立て、ザマットの言葉に必死に耐えた


「何もそう慌てる事はあるまい。討てば良いのだ討てば。それとも自信がないか?」


「・・・いえ、必ずや!」


「そうか。ジュラクよ、これで対メディアの不確定要素はなくなったも同然・・・他に何かあるか?」


「いえ、御座いません。ファラスは如何に・・・」


「ことを構えるにはちと早い・・・ジュスイにファラスの意図を聞きに行かせろ。あやつなら滅多な事はないだろう」


特に攻め込んでくる訳でも無いファラス軍。未だに宣戦布告もなく、要求などもない。ただ軍が国境近くにおり、国境の壁を壊しただけ・・・それだけでも充分戦争に発展するのだが、今のデニスには所構わず戦を仕掛ける余裕はなかった


「承知致しました。ちなみに向こう側からの返事は一切ないとの事ですが、向こうの総大将は誰と?」


「さあな。使者は全て袖にされ追い返されてる。まったく・・・不気味な奴らよ。メディアとの事がなければ滅ぼしてやるものを・・・」


ザマットは王座に深く座り天を見上げる。機を逃すまいと自らの父を殺し、姉に罪をなすりつけるも住民達の暴動により遅れ、今もまたメディアを落とす寸前でのファラス侵攻・・・上手くいかないものだとため息をついた




謁見の間から出たジュラクは真っ先に向かった先は息子のジュスイの部屋。王城内にある為に先程のザマットからの命令を伝える為に寄ることにした


「ジュスイはいるか?」


部屋のドアを開け、メイドに尋ねると訓練場にいるとの事。予想はしていたのか、二つ返事で部屋を出て訓練場を目指す


訓練場に着き扉を開けると熱気がジュラクを包み込む。その熱気の中心に自らの息子であるジュスイが棍を振っていた


「父上!今お帰りで?」


ジュラクに気付いたジュスイは振っていた棍を止め、汗ばんだ上半身を拭う為の布を取り、汗を拭いながらジュラクへと近付いた


「ああ」


「それはそれは・・・で、戦争はどうなりました?ジュモン兄さんが死んだと聞いてはおりますが・・・」


「興味ないクセによう言う」


「そんな事ないですよ。一応は血の繋がった兄弟ですし・・・戦争は興味ないですが」


屈託のない笑顔でジュラクに言うと汗を拭い終えた布を放り投げる。そして、脱いでいた上着を着ながらジュラクの言葉を待った


「メディアとは一時休戦だ。ファラスがちょっかいを出してきたからな・・・聞いておるだろう?」


「少しは・・・しかし、ジュモン兄さんがね・・・メディアもそこそこやりますね」


「ふん・・・ジュモンはお前やジュカイに対して焦りを感じていた・・・その焦りが隙をうみメディアに足元をすくわれた・・・ただそれだけよ。それはいい・・・ザマット陛下よりお前に命令が下された」


「ファラス・・・ですかね?」


「察しが良いな。二つある。一つはファラスの意図を探れ・・・と言っても面倒だ、直接聞いてこい。二つ目は品定めして来い。ファラスは避けて通れぬ敵・・・しかし、情報が少な過ぎる・・・出来るだけ多くの将を見極めて来い」


「ちょっ・・・それって拘束されて拷問コースなんじゃ・・・」


「抜かせ。お前が易々と捕まるか。それにファラスも好戦的とは思えぬ・・・将軍であるお前をどうこうする気はないだろう」


「はぁ・・・なんでそんなお使いみたいな事を・・・他にも将軍いるでしょう?」


「馬鹿を抜かせ。ワーノイスとヴァルカ・・・それにジュモンを失った事により、他の将軍は編成で忙しい。それとも編成するか?」


「あー、行ってきます・・・」


「ふん・・・手勢は少な目にしろ。大軍を連れて行けば刺激する事になるからな・・・後・・・」


ジュラクが言葉を一旦止め、訓練場を見渡す。訓練場内は石畳となっており、頑丈な造りとなっているが・・・


「壊れた部分の修復を依頼しておけ・・・このままでは他の者が使えん」


ジュスイが居た場所を中心に石畳は抉れ、穴が空き、破壊の限りを尽くされていた。ジュスイの持っている棍は練習用のただの木の棍・・・それでこの惨状を作り出したかと思うと自分の息子ながら恐ろしさを感じていた




ジュスイはジュラクが去った後、これからの事を考えてため息をつく。キャメルスロウから国境まで急いで半月・・・往復で一月時間を無駄にする


行って話を聞いて帰ってくるだけなら、他の者でも良いだろうにと考えたが言っても無駄だった事を思い出し、如何に移動中に自らを鍛えるかに思考をシフトした


ジュスイは自らを鍛える事以外に興味がなかった


それは他人と競い合う為、誰かに勝ちたい為ではなく、ただ強くなりたかった


幼い頃に父ジュラクの強さに憧れ、鍛え始めたのがきっかけ・・・しかし、生来の性格なのか競争意欲はなく、鍛えた力を使う事はなかった


鍛え力をつけるジュスイに目を付けたのがジュモン。権力にも興味のない弟を味方につけ、一気に跡目争いを勝ち抜こうとするもジュスイはまったく興味を示さずジュモンの誘いを一蹴する


そこからジュモンの策略によりジュスイは孤立していくこととなる


ジュモンにとって味方にならぬのなら敵・・・そう位置付けられ、暗殺者すら送られる事すらあった


腕前では完全にジュモンを超えていたジュスイは暗殺者達を容易に退けるがそんな日々に嫌気がさし、住んでいた屋敷を抜け出し一人旅に出る


一人気楽に旅をしていると未開の地で身体中に痣を持つ一族と出会った・・・それが後の豹紋兵


襲いくる豹紋兵を薙ぎ倒し、気付いた時には全ての豹紋兵がジュスイに屈従していた


困ったジュスイは一度戻りジュラクに相談すると興味を持ったザマットが兵を引連れ豹紋兵の所に向かい、連れて行った兵が豹紋兵に食われる事により食人族というのが判明する


更に興味を持ったザマットがジュスイに命令して豹紋兵を従えることに成功・・・その功績により本人の意思とは別に将軍の地位を与えられてしまった


父であるジュラクの後押しもあり、すんなりと将軍となってしまったジュスイはジュモンを筆頭に他の兄弟からは白い目で見られ、本人の意思とは関係なく権力争いに巻き込まれてしまう


次第に煩わしく思えてきたジュスイは将軍を辞すると申し出るが却下され、次第に表に出なくなり今に至る


やる気のないジュスイが手勢を連れて出発したのは、ジュラクから命令されてから一日が経過した後


名前も知らぬ部下10名を引き連れて、時には馬上で逆立ちし、時には馬の腹にしがみつきながら国境へと向かった


部下達はその姿を見て、何を考えているか分からないジュスイに畏怖し、無言のまま馬を走らせる


ようやく国境付近に着いた時には上半身裸で馬の上で立ちながら棍を振るうジュスイの姿にも慣れてきたところだった


「遠い・・・なんて無駄な時間だ」


「し、将軍・・・もう少しでファラス軍が見えてきます。お召し物を・・・」


「ああ、そうなのか。別に着てようが着てまいが向こうは気にしないと思うけどな」


部下の1人に指摘され、上着を羽織ると国境の街テントックにある厩舎に馬を預け、歩いて国境まで向かう


「おお・・・これは見事に破壊されてるな」


国境にある壁が半壊し、通常なら見えない景色が広がる。国境警備兵とファラス軍が衝突し、ファラス軍は警備兵は傷付けなかったが、壁を破壊し始めたという。圧倒的な兵力差の前に、一時は抵抗を試みた警備兵も破壊され始めた壁を見ているしかなかった


「壁があるうちはまだ良いけど、破壊されたら街は丸裸・・・手を引いたのは正解だね」


誰に言うわけでもなく半壊した壁を見ながら呟くと、ズンズンと無警戒に進んでいく


「将軍・・・壁の向こうにはファラス軍が・・・」


「ん?だから、行くんだろ?」


辛うじて役割を果たしている外への扉を開けさせて、外に出るとファラス軍が何かの建造物を作っているのが目に入る。ほとんど国境の壁と隣接している為、街中にも音は聞こえていたが、その大きさに目を見張った


「ふーむ・・・おい、そこの!責任者はいるか?」


「ちょっ・・・将軍!」


突然壁の破片を運んでいるファラス軍の兵士に話しかけるジュスイに慌てて部下が止めに入る。しかし、時は既に遅くジュスイの呼び掛けに兵士は足を止めた


しかし、興味無さげにチラリと見ただけでそのまま運びを再開する


「あれ・・・無視された」


「将軍!ここはもう自領ではないのですよ!?もう少し控えて頂かないと・・・」


「まあまあ、次行こう!次!」


部下の制止を振り切り、次々と声を掛けるが無視され続ける。次第に反応すらなくなり、ラチがあかなくなったので、軍が駐留しているテントへと歩を向けた


「ま、不味いですよ!許可もなく・・・」


「仕方ないだろ?返事すらしない相手と話す程暇じゃない」


ジュスイは気にせず進み、一つの大きなテントの前で立ち止まる。そこには護衛らしき者が二人、槍を持ってジュスイの進みを阻んだ


「ここより先に進む事はならぬ。帰れ」


「責任者に会いたい。デニス国が将軍、ジュスイが来たと伝えてくれないか?」


護衛の二人は顔を見合わせ笑い始める。そして、槍を更にジュスイに近付けた


「ここはファラス領・・・デニスの将軍が10名程の手勢を連れて攻め込んで来たか?」


「そんな気はないよ。ただ話をしたいだけなんだ。話を繋げてもらえないかな?」


槍先がジュスイの体に近付くと部下達が一斉に剣に手を伸ばす。しかし、ジュスイがそれを手で制し、護衛達ににこやかに話しかける


「ならぬ!誰も通すなと・・・」


「うるさいなぁ、眠れないじゃないか!」


護衛の言葉を遮り、テントより一人の少年が出て来た。その姿を見て護衛達は槍を引き、直立し少年に向き直る


「はっ!申し訳御座いません!」


「だから、それがうるさいの!・・・って、誰?」


ようやくジュスイ達に気付いた少年が、目を擦りながら尋ねる。それを聞いてジュスイが一歩踏み出し、会釈すると少年に話しかけた


「私はデニス国が将軍のジュスイと申します。もし宜しければお話をお聞きしたいのですが」


見た目は少年だが、護衛達の態度から責任者、もしくは責任者に近い存在と判断し名乗りを上げた。その判断が正しかったのか、少年はニヤリと笑いジュスイを覗き込む


「なんだよ!面白い事になってんじゃん!なんで教えてくれないんだよ」


「い、いや、その・・・誰も通すなと・・・」


「時と場合によるでしょ?死にたいの?」


少年らしからぬドスの効いた声色に、護衛達が顔を青ざめる。ジュスイもその様子に相手がただの少年ではないと改めて認識した


「まっ、いいや。さあ、テントに入りなよ。歓迎するよ・・・えっーと・・・」


「ジュスイです」


「そうそう!ジュスイ・・・ああ、ジュラクの子か」


「くっ・・・」


自国の将軍に対してのあまりの物言いに部下達が顔を顰めるが、ジュスイは気にした様子もなく、少年に案内されてテントの中に入る。手にした棍を取られることも無く、すんなりと案内された事により警戒心を少しだけ上げる


少年は奥にあるソファーのようなベッドのような物にもたれ掛かるとにこやかにジュスイの方を見た


「まあ、座ってよ。暇を持て余してたんだ。来てくれて嬉しいよ」


「では」


ジュスイは言われるがままその場に座るが、その仕打ちに部下達が文句を言おうとするとジュスイがそれに気付き目で止めた


「で、何の用?ジュスイがわざわざ来るくらいだから、用もなくって訳はないよね?」


「その前に、お名前を頂いても?」


「ああ、ゴメンゴメン。そういや名乗ってなかったね・・・僕の名前はコシン・・・コシン・ロウだよ。知ってる?」


「・・・申し訳ありませんが、存じませんでした。しかし、ロウ家という事は・・・」


「うん、父上はフェード・ロウ・・・つまり僕は王子だね」


これまでのジュスイに対しての対応に不満があった部下達も、相手がファラス国の王子と聞いて青ざめる。他国とはいえ王子に対して文句を言おうものなら、それがきっかけで戦争になりかねない・・・ジュスイに止められてホッと胸を撫で下ろす


「それは失礼を・・・」


「構わないよ。所詮敵国同士・・・馴れ合うつもりはないしね」


「デニスとファラス・・・それなりの関係と記憶してますが・・・」


「なにそれ?それなりの関係?デニスからそんな言葉が出てくるとはね・・・高い壁を作って自国以外を拒絶する国・・・大陸の中央に位置するにはちょっとばかし臆病過ぎるんじゃない?」


「・・・そうなんですよね。攻めるのか守るのか一貫してない国・・・王が変わればと言いますが、方針変わりすぎですよね」


「ぷっ・・・いいね、君。さっきまでの取り繕う感じより、今の方が全然いいじゃん」


「そうですか。元々使者になんか向いてないので、無理やりキャラ作ってましたが、無理がきたようです」


「うんうん・・・で、君は何しに来たのかな?」


ジュスイが堅苦しい物言いを止めるとコシンは最初にジュスイ達を迎えた時と同じような笑みを浮かべ、態度を変える。そのやり取りを聞いている部下達は気が気ではないが、当の本人達はお構い無しで話を進めた


「ファラスの意図を聞いてこいって言われましてね・・・実際何しにここへ?」


「直球だね。メディアから救援要請が来たのと人が逃がした魚を横取りしたデニスへの制裁かな?」


「救援・・・世俗に疎い私でもファラスとメディアの関係は知ってるつもりでしたが・・・それに逃がした魚?」


「メディアの王子の事?でも、救援要請して来たのはメディアだよ?助けを求められて動くのは正義のヒーローとして当たり前でしょ?」


「正義の・・・?そうですか。で、逃がした魚の方は・・・」


「シャリア国第二国王ユキナ・ロウ・・・デニスにいるでしょ?もういらないけど、逃げた時点で匿うのではなく、差し出してくれないと・・・滅ぼすよ?」


最後の言葉を吐いた時、テント内が殺気に満ちる。今まで柔和に語っていたコシンとは思えない殺気に、ジュスイの額からは冷や汗が流れ落ちた


「それはどうも・・・お返しすれば引いてくれますか?」


「だから、もういらないって。どうせもう汚したんでしょ?汚して返すなんてルール違反だよ。もう制裁も終わったしね」


「壁・・・ですか?」


「うん。材料が足りなかったし、ちょうど良かったんだけどね」


「材料・・・表で作ってるあの建造物の材料でしょうか?」


「質問多いね・・・そうだよ。あれは舞台。いずれ行われる演目の為に必要な舞台を作ってるんだ・・・君らには関係ないけどね」


最後の言葉の時、声が小さく聞き取れなかったが、聞き返す雰囲気ではない為、そのまま話を続ける


「では、その舞台が完成すれば引き上げると?」


「君も話を聞かないね・・・僕らはメディアからの救援要請で来てるんだよ?なんで舞台が完成したら帰らないといけないのさ?」


「もし・・・我らが引き上げて欲しいとお願いしたら?」


「断る・・・つっても、僕らから君らには手を出す事はしない。時が来れば帰るよ」


「その・・・時とは?」


「メディアがレグシを落とすまで・・・かな」


「・・・」


「分からないかな?君らがメディアを落とすとほぼレグシも落とす事は可能でしょ?そうなると大陸の南側をデニスが手中に収めることになる。ファラスはこれからマベロン攻略に行かないといけないのに、その前にデニスが大きくなり過ぎると邪魔なんだよね。つまり、メディアとファラスの利害が一致しての行動だから、僕らは動いたって訳さ」


「なるほど・・・メディアがレグシを落とし、デニスとメディアが再び戦争を始めた時、ファラスはマベロンを落としに行き、勝ったもの同士で最終決戦・・・それがファラスの目論見であると・・・」


「正解!出る杭は打たれる・・・今のデニスにメディアは出過ぎだよ?」


「メディアがもし・・・レグシを攻める前にデニスを攻めてきたら?」


「メディアにデニスを討つのはまだ無理だね。それが分からないような国は滅べば良いさ。その時はファラスは動かないと約束するよ」


メディアに攻め込まれても、ファラスとの挟撃はないと言質を取る・・・しかし、公的ではない為、反故にされる可能性は高かった。それでも今は言葉を聞けて安心する他ない。後の判断は上の者に任せればいい


「それを聞いて安心しました。我らが取るべき道はメディアかレグシ・・・生き残った方と戦い、決戦に備えるべきという事ですかね」


「賢い!そういう事!」


「帰って陛下に報告します。貴重な時間をありがとうございました」


「あっ、ねえねえ、一つお願いがあるんだけど」


「・・・何でしょう?」


「────して欲しいんだ」


「それは・・・私では決めかねます」


「そっか・・・じゃあ、王様に聞いてみてよ。聞いてくれたら・・・いや、先に聞いてくれることを願ってこちらの事を教えてあげるよ。今、ここに来てるのは僕と『剣聖』と『疾風』だよ。・・・貴重な情報でしょ?」


「!」


この場にいる全員に戦慄が走る。元『十』の行方は戦争にかなりの影響を及ぼす。メディアに3人、レグシに1人、そして、デニスに1人いるのは知られていたが、残る5人の行方を把握している者は少なかった。その貴重な情報を晒してまでコシンが望むものは・・・


「必ずや陛下にお伝えしましょう・・・それでは・・・」


ジュスイは動揺を隠しながら、テントを後にする。最後に見たコシンの顔からありありと自信を覗かせていた


「このままだとデニスは飲まれるぞ・・・」


テントから出て一人呟き、ファラス軍の駐留場所から離れる


戦争に興味がなかったが、国が飲まれるとなると話は別・・・ジュスイは決意を新たにキャメルスロウへと戻るのであった



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