表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/96

4章 番外編 鎧を作ろう3

やっと体調が・・・番外編最後です

反省会という名の夕食を取り終え、宿に戻って一泊するとまた朝から防具屋へと向かった。今回は護衛?としてデクノスを連れている。ベースドばかりだと可哀想だからな


シーラはシーリスとエーレーンに強引に連れていかれて、デクノスと二人っきり・・・特に会話がない


「いらっしゃ・・・あっ、アシス様!少々お待ち下さい」


フローラ姉さんが俺を見るとパタパタと奥へと消えて行った。しかし、戦争時に持っていかれた可能性があるとはいえ、防具の数が寂しいな・・・俺が余計な依頼をしてるからってのもあるが・・・


程なくして来たのはフローラ姉さんとフローラのみ・・・フクドの姿は見えなかった


「申し訳ございません・・・父は昨日から寝ずに色々やっていたみたいでまだ・・・」


とフローラが言いかけた時にドタバタと音を鳴らしフクドが現れる・・・その顔は血色が悪く目の下のクマが酷い


「おお・・・アシス様・・・」


力なく呟くフクド・・・なんだ?野盗にでも襲われたのか?


「フクドさん・・・どうしました?」


聞くと昨日俺が帰る直前に引き篭ってから今まで休みなく色々と試したらしい。試行錯誤の上何枚かの布を作りズラリと並べる


「順番は構いません・・・一つずつ力を流してみてはもらえ・・・ないでしょうか?」


途中で寝かけたフクドの願いを叶えるべく、一番近くの赤く染った布を手にする・・・非常に嫌な予感がするが・・・


フン ファサ


力を流すとやはり昨日の布キレと同様に木っ端微塵に・・・フクドが「私の血が~」とか言ってるから、自分の血で染めたんだろうな・・・ちょっと怖くなってきた


フン ファササ


今度の布は大きめのサイズ・・・だが無残にも散る


フン キワーン クシャ


布ではなくて薄い鉄?限りなく薄くしているみたいだが、力を流すと砕け散りはしないが板状だったのが波を打ちクシャクシャになってしまった


フン ファッサ


ラストはマント・・・しかもご丁寧に黒く染めてある・・・これは血ではないみたいだ。しかし、一瞬耐えたと思いきやあえなく散る・・・


「ダメ・・・ですか・・・」


頼んどいてなんだが・・・凄く申し訳ない気持ちになってきた。別に黒龍を増産したい訳では無いのだが・・・


「アシス様のご活躍は聞いております・・・何か力になれれば・・・もう少し・・・もう少しお時間を下さい!」


顔色はすこぶる悪いが、目は燃えていた


「それは助かりますが、少し休まれた方が良いかと・・・俺もメイカートの街並みもゆっくり歩いてみたいですし・・・」


「なら!私が案内します!」


フローラがぴょんと飛び上がり手を上げる。確かに街出身のフローラに案内してもらった方が色々見れるかな?


「じゃあ頼もうかな・・・デクノスはどうする?」


デクノスは涼し気な顔をして店の中から外の様子を伺っていた。一応は護衛っぽい事してるのか・・・


「そうだな・・・特にやる事もないが・・・ところで店主・・・一つ良いかな?」


「は、はあ・・・なんでしょうか?」


護衛しろよと突っ込みたかったが、ぐっと我慢して少しデクノスとフクドのやり取りに耳を傾ける


「これはなんだ?」


言って指差したのはフクドの努力の結晶・・・が、無残にも散った残りだ


「え、えっと・・・ただのゴミです・・・」


「なんだゴミか」


伏し目がちに答えるフクドに辛辣な言葉を投げかけるデクノス・・・酷い・・・


「くっ・・・しかし!絶対に私はアシス様の力に耐えるような・・・ 」


「耐える?それは無理だろう。敵兵を何百と倒すような化け物のような力に耐える物などホイホイあったら世界が破滅する」


コイツ・・・マジか・・・


「アシス様のマントは耐えています!なら似たような素材が出来る可能性も!」


「ないな」


バッサリです。どこから目線か分からないが、専門家に対してバッサリいきました


「・・・ならば・・・私のしてる事は無駄・・・」


「無駄だな。これ以上やってもゴミが増える一方だ」


デクノスの言葉を聞いて、フクドは拳を握り力を込める。肩は少し震え、怒りをあらわにしていた


「おいデクノス・・・」


「流れる川を止めようとするからそうなる。川は流れてこそ川だろう?」


「!?」


え?何故かデクノスの適当語録に反応するフクド。いや、こいつの場合は雰囲気だけで・・・


「デクノスさん・・・と言いましたか?もし良ければ製作にお付き合い願えないでしょうか?」


「良いだろう。隊長がどこぞの雑兵に殺られるのも面白くない・・・引導は我が手でと思っているからな」


よし・・・防具は諦めよう。なぜか意気投合して店の奥へと消えて行った二人を見て気持ちを切り替えた


サッサと出て行こうと案内役のフローラを見ると店のカウンターで何やらお姉さんとヒソヒソ話・・・最後に頑張れと送り出されて鼻息も荒くフローラが俺を引っ張り外に出た


「アシス様!とりあえず食事にしましょう!」


引っ張っていた手を離し、クルリと回って話すフローラは満面の笑みだ。思わず俺も釣られて笑いフローラと共に街道を歩く


馴染みの店なのだろうか、フローラに親しげに話す店主がいる店に入ると注文をしなくとも食事が運ばれてきた。パンみたいと思ったがフローラが言うにはミートパイと言うらしい。中を切り分けると細切れになった肉がぎっしりと入っており、漂う匂いが食欲を刺激する


「美味い!」


外側がサクサクで中はジューシーになっており、濃いめの中身を上手く外側で調和している・・・なるほど、フローラが気に入るのも無理はないな


「このお店はこれだけしかメニューがないんです。それでも連日満員になるくらい人気で・・・」


メイカートにいる時は家族で月に数度来ていたらしい。メイカートの名物料理だと興奮気味に話してくれた


同時に出された果実の飲み物が空になり、水を頼もうとすると店主が顔を曇らせる


「すみません・・・水はまだ・・・」


水はまだ?どういう事か尋ねると、戦争時に街を空ける時に全ての井戸に毒草を放り込んだらしい。これは前々から決められていた事らしく、無味無臭の毒草は水に浸す事により腹痛嘔吐を起こすとか・・・しかも即効性ではなく、しばらく経ってから具合が悪くなるらしく、水が原因とは特定しづらく、戦争などの長期戦ではかなりのダメージを与える事が可能


「じゃあ、水は使えない?」


「いえ、加熱すれば毒素は飛びますし、毒草を撤去したのでもう少ししたら飲めるようになります。まあ、初めに飲む人は凄い緊張するでしょうが・・・死に至るまでの重篤にはならないようなので、罪人などに飲ませて確認するらしいのです」


考えたのはナキスかな?住民を逃がすだけではなく、ちょっとした罠まで仕掛けるとは・・・しかも、事後処理まで考えてるのはナキスポイ・・・うん、ナキスだな


「なので今は果実水か一度加熱した水を冷まして飲むしか方法がありません・・・水が飲めるようになって本当の復興でしょうね」


店主が混雑して来た店を回す為、そう言い残し俺らのテーブルから離れる。俺らも食べ終わったので会計し外に出た


見た目の復興は既に終わったように見えても、中身はどうやら違うみたいだ。精神的なものはあるとは思っていたが、まさか水が飲めないとは・・・


物思いにふけているとフローラに引っ張られ次の店に・・・


「ここのお団子が美味しいんです!もっちもちで中に餡子が入ってて!」


んん?さっき食べたばっかりだと思うのだが・・・手を引かれ店内に足を踏み入れると、そこには所狭しと女性が団子に舌鼓を打っていた・・・そして見覚えのある顔が3つ・・・


「アシスも・・・団子?」


「ああ、なんか美味いらしいな」


シーラ達が小さなテーブルの椅子に腰掛けて団子を食べていた。シーラとシーリスは少しづつ齧りながらモチモチ食べてエーレーンは丸ごと1個口に頬張りモッチャモッチャ音を立てながら食べ、こちらを見て目を見開いていた


「あらあら・・・随分堂々とした浮気ね」


「うわ・・・そんなんじゃありません!ただアシス様にメイカートをご案内しようと・・・」


シーリスがからかうように言うとフローラが慌てて否定する。別にやましいことはないんだ。堂々としておこう


「それにしては随分楽しげね。口に食べカス付けて・・・」


シーリスの指摘にフローラが慌てて口元を触るが、シーリスは首を振り俺を指差す


俺?と思い口元を確認しようとした時にフローラが勢いよく振り返り、俺の口元を服の袖で拭う


ギチッ


「すみません!気付きませんで!」


いや、服が汚れるだろうに・・・それよりも今の音は・・・


急いで3人を見るとシーリスニヤニヤ、シーラモグモグ、エーレーンモッチャモッチャと特に変わった様子はない・・・気の所為だろうか


「見せつけてくれるわね・・・まあ、部下と仲良くするのも程々にね・・・いざとなった時、死地に放り込めなくなるわよ」


からかいが成功したのに満足したのかウィンクしながら忠告するシーリス・・・死地か・・・いざとなったら俺の命令で沢山の人が死ぬ・・・俺自身の命を賭す覚悟はあるが、人の・・・部下の命を預かるには未だに覚悟が足りないらしい


「そうならないように・・・するよ」


死地に放り込めるようになるのではなく、死地を作らないようにする・・・甘い考えかも知れないが、今はそう答えるしか出来なかった


団子を6人分買い込み、一旦防具屋に戻る事にした。根詰めてなければ良いのだが・・・


「そう言えばフローラの姉さんは結婚してるんだよな?旦那さんの姿が見えないが・・・」


団子も6人分・・・俺ら2人とデクノスとフクド、フローラの母と姉の分だ。姉旦那の分がない


「避難先の街で鍛冶の修行中みたいです。今は父も教えてる余裕がないので・・・」


うっ、そんな時に余計な仕事を持って行った事に少し後悔・・・品数が少ないから今は必死に作っている最中だったろうに


悪い事をしたと足取りを重くしてると、フローラは団子が固くなるからと腕を引っ張り歩を早める


そして、店内に入ると何やら言い争う声がする


「そうすると繋ぎ目が・・・!」


「いや、同じ素材なら問題ないだろう。要は方向を間違わなければ大丈夫だ」


「となると・・・後は素材の選定か・・・」


「同一素材・・・強度・・・重さ・・・長さ・・・これらを全てクリアせねばならぬな」


「長くなると歪になり、思い描いた形は出来ません」


「一度溶解し糸状にし紡ぐのはどうだ?」


「長さを確保するのにかなりの時間を要します・・・下手に短く作ると今までと同様に散って終わりですし・・・」


「ならば素材をペースト状に押し出すのはどうだ?」


「なるほど!それをローラーで・・・押し出した後の冷えるまでの間に加工すれば・・・そうなると装置の距離が重要か・・・装置さえ出来てしまえば、後は素材を試すだけで・・・」


・・・何やら大事になっているようだ。ここで邪魔をするのもなんだからフローラには断りを入れてそっと店を後にした。団子・・・食いそびれたな


暇を潰す為に一人街を歩くと忘れた頃にやってくる彼女との遭遇・・・実は俺を探してるんじゃないのかと思うくらいだ


「よう!」


もちろん遭遇したのはモトイ。昨日の今日だからどんな反応が返ってくるかと思ったら、プイッと顔を背けて目を逸らす


まあ、そうだろうな。公衆の面前で・・・傭兵は名を気にするから、恨まれても仕方ない・・・それが逆恨みだとしても


「ま、待て!」


そのまま通り過ぎようとした時、モトイから声をかけられる。今までの挑戦的な声色とは違い、少し大人しめの声だ。立ち止まりモトイを見ると顔を真っ赤に染めていた


「本当に・・・あの『鬼神』なのか?」


「不本意ながらそう呼ばれてる」


『あの』の部分が気になるが、呼ばれているのは確かだし否定はしない。何か2つ名を変える良い手立てはないものだろうか・・・


「そうか・・・なら・・・アタイをアンタの部下にしてくれないか?」


「は?」


突然の申し出に困惑しているとモトイは移動しながら話すと言い、共に街を歩く事となった


どうやらあの後傭兵団の団員から色々と言われたらしい


俺に喧嘩を売った事や街中での粗相・・・このままだと団全体が笑い者になると団長の交代を迫られたとか。モトイも恥をさらした以上、その言葉を受け入れ団長の座を降り、逃げるように外に出て来たらしい


行く宛もないまま途方に暮れている時に俺に出くわした・・・で、今に至る


「俺はメイカートの人間じゃない。しばらくしたらフレーロウに戻るんだぞ?」


モトイはメイカートを大事にしていると感じていた。復興に尽力し店の弁償費用を俺からせしめて渡しているのも確認している。普通なら言うだけ言って店の取り分も自分の懐に入れてしまいそうだが、キッチリ渡していた


「この街は生まれ育った街・・・愛着もあるし出来れば離れたくないが・・・」


いずれは忘れ去られるかも知れないが、もしかしたらずっと言われ続けるかもしれない・・・街中で漏らした女傭兵と


考えていたのを見抜かれたのかモトイにギロリと睨まれた。顔に出ないようにしていたのに・・・


なぜかそのまま歩き続け、気付けば領主館前に来ていた。そう言えばモトイはメリッサと面識があったみたいだが・・・


「面識?この街でメリッサ婆の知らない奴なんていやしないよ。あのババアは街の住民全部の顔と名前を知ってる。特徴やなんの仕事してるとかもね」


凄い・・・決して少なくない住民を全て覚えてるなんて・・・俺なんて同行してる奴の半分も名前言えないよ


「最後に挨拶でもするか?いつフレーロウに戻るか分からないからな」


「!・・・って事は良いのか?部下って事で」


「まあ、直属にするかどこかに配属させるかは後で決めるとして、戦争中だ・・・戦力の増強は不可欠だからな」


「は?この前終わったばっかりじゃねえか。またやるのか?」


・・・巷ではそういうことになっているのは何となく耳にしていた。デニス軍が撤退した時点で今回の戦争は終わり・・・だが、現実は違う


「デニスとも・・・レグシとも未だに戦争中だ」


「なんでだよ!やられたらやり返すってのか?」


「違う・・・まだ耳に入ってないかも知れないが、シャリアが滅亡した。滅ぼしたのはファラス・・・そして、今回デニス軍が引いたのはファラスがデニスを攻めたから。6ヶ国のバランスは崩れ、メディアも選択を強いられている。滅亡か征服か・・・」


「そんな・・・」


6ヶ国の微妙なバランスは崩れ、デニスは仕方なくメディアから撤退・・・もしこのまま何もしないのは、ただ滅亡を待つのに等しい


「くそっ・・・マジかよ・・・」


「宛が外れたか?軍に入り悠々自適な毎日を送りたかったか?


「・・・いーや、腕が鳴るぜ!やってやんぜ、こんちくしょうめ!」


投げやり気味に言い放つモトイ。街で自分の身の丈に合った狩りをしていれば踏み入ることもなかった世界に、俺と関わった事で踏み入れてしまった。何となく申し訳ないな・・・


その後メリッサに事の顛末を話しモトイがメイカートを離れる事を告げた。メリッサは目を見開いて驚いていたが、最後には優しく微笑み無事を祈っていた


モトイは大量にある荷物を取りに行くのとケジメをつける為に傭兵団のアジトに戻り、明日また合流する流れとなった


軽く宿屋で夕食を取り、戻って来ないデクノスを心配しながらも自室の布団に潜り込む。いつの間にか寝ていたらしく、部屋のドアを叩かれ目を覚ます


「アシス様、領主様の使者がいらしてます」


あ、そう言えば昨日行った時に朝食にお呼ばれしていたの忘れてた。いそいそと着替えて部屋を出るとベースドが待っていた


「使者は?」


「表で待っております。随伴者はどなたを?」


全員で行っても良いが、朝からぞろぞろ行くのもな・・・3~4人くらいが適当か


「シーラとテッド・・・それにベースドお前が共に来い」


「はっ!・・・テッドもですか?」


ふ、これで3人の内誰がテッドだか判明する。一万人の名前を覚えるのは無理だが、身近な者の名前くらいは覚えないとな・・・興味なくとも


1階の出入口前にシーラとベースド以外の男が一人・・・コイツがテッドか・・・あれ、あの3人じゃ・・・


「申し訳ございません・・・テッドの野郎どうやら井戸の水に手を出したみたいで・・・激しい腹痛に襲われてしまい・・・代わりにヘイムを連れて行きます」


「あ、うん」


毒草入り井戸水飲んだか・・・しかも代わりを呼んだのがあの3人の中からでないのは、3人全員で飲んだらしい。3人仲良く腹痛に襲われて・・・哀れすぎる


4人で使者の運転する馬車に揺られ領主館に向かうとメリッサのお出迎えを受け領主館の中ではなく庭へと案内された。今日は気候も良い為、庭での朝食ですと中央付近にセットされたテーブルに案内された


特に人数を指定された訳でもない為、俺らが何人で来るかも分からない状態にも関わらず、まるで4人で来る事が分かってたかのように席に着いた途端に料理が運び込まれる。復興途中で色々と厳しいのに気を遣わせてるなと思っていると、それに気付いたメリッサが微笑んだ


「領主として見栄を張るのも仕事の内です。メイカートが如何に立て直せているか・・・領主の手腕に掛かってますから」


この人は人間的にも領主的にも出来た人なんだろうな。井戸の件も事前に手紙と着いてからベースドに伝え、俺が口にしないようにしていたらしい。ベースドはそれを俺以外に伝え・・・って事はテッド達は知ってて飲んだのか?バカなのか?


「・・・少し失礼します」


バカ3人組の事を考えていたら、もよおしてきた。流石に庭にトイレはない為、察したメリッサが人を呼び、その者とともに館の中へ。もちろん真っ直ぐトイレに案内されホッと一息ついているとトイレの外から声が聞こえてきた


「・・・かよ。裸で路地裏に・・・『猛獣狩り』のモトイだっけか?」


「ああ、そこそこ綺麗な顔立ちしてるのにな・・・勿体ねえ」


「おい!」


「ヒィ!・・・誰だ!?どこから!?」


「・・・わりぃ、アシスと言う。こんな所からで悪いが詳しい話を聞きたい」


「アシス・・・様?はっ!どのような御要件でしょうか!」


トイレについている窓は外から見えないように磨りガラスになっており、お互いの顔は見えないが声は普通に届く


「今の話を詳しく話してくれ」


「今の話・・・はい!今朝方巡回中に路地裏にて女性が裸で倒れているのを発見し保護致しました。名はモトイ。傭兵団『猛獣狩り』の者です」


「保護・・・無事なのか?」


「意識は未だありませんが、生存は確認しております」


「犯人は?」


「犯人?・・・いえ、現場にはその女性のみが倒れていたのでなんとも・・・」


「分かった・・・後はこちらで対応する。モトイの保護先は? 」


「警備宿舎にて一時的に保護しております・・・対応ですか?」


「ああ、ご苦労だった。モトイは昨日付で俺の部下だ」


「!・・・知らずに出過ぎた真似を・・・」


「いや、感謝する・・・」


モトイが・・・急いでメリッサの元に戻り、事情を説明せねば・・・くそっ


案内してくれた者に断り走ってメリッサのいる庭につくと、俺の表情を見て何か起きたと察したのかメリッサが問いかけてきた


「どうなさいましたか?何か家の者で不手際か何か・・・」


「いや、少しこちらでトラブルがありましてね・・・申し訳ないですが、今日はこの辺で失礼させていただきます・・・ベースド!」


「はっ!」


「ヘイムと共に警備宿舎で保護されているモトイの安否を確認して来い。状況が分かったらヘイムが宿に知らせによこせ。シーラ、一旦宿に戻るぞ」


「はっ!」


「モトイ・・・?アシス様?」


「すまない、時間が無い・・・後で事情は説明します」


要領を得ないメリッサを横目に、踵を返し早歩きにて領主館を出ていく。後ろでベースドがメリッサに警備宿舎の場所を聞いているのが聞こえ、シーラが足早に俺に近付いてきた


「アシス・・・何があったの?」


「・・・どうやら昨晩モトイが襲われたようだ。それを巡回中の警備兵が発見し保護していると・・・命に別状はないようだが・・・」


「どうして・・・そんな・・・」


「みんなにはまだ言ってなかったが、モトイが傭兵団に居られなくなったって言ってな・・・それで俺の部下になりたいと・・・それを俺が了承し、モトイはその後ケジメをつけるのと荷物を取りに傭兵団へ・・・そこで・・・」


宿に着くと遅めの朝食をとるシーリス達が俺らの顔を見て何かあったと察する。そして、すぐさま動ける人員を1階へと集めた


事情を足早に説明し、作戦を練る


「まあ、その話の通りならやったのは『猛獣狩り』の奴らで間違いないと思うけど・・・捕らえてどうするの?殺す?」


シーリスの言う通り犯人は『猛獣狩り』の奴らだろう。だが、報復で殺すのは・・・ナキスになろうとするのは止めたけど、ナキスの意志は受け継ぎたいと思っている。だから・・・


「殺しはしない。とりあえず捕まえて吐かせる・・・その後はメイカートの領主であるメリッサに任せようと思う・・・ただ逆らったら手加減なしだ」


「りょーかい。んで、アジトの場所は?」


「知らん」


「おい」


「ギルドに聞く者と街で聞き込みする者に分けて・・・」


「アシス様!」


宿の扉が激しい音を立て開けられたかと思ったら、ベースドが血相を変えて飛び込んできた。まさかモトイの身に・・・


「どうした!」


「は・・・犯人はモトイです!」


「は?」


「いえ、この言い方は正しくありませんでした!今回の件、あの女が酔った勢いで自分から脱ぎ始め、暴れ回った挙句に疲れ果て寝た所を巡回中の警備兵が発見したらしく・・・」


・・・


「・・・」


「警備詰所に被害届けが出されまして、犯人がモトイかどうかの確認の為に来た店の主が証言しました。店の片付けと暴れた時にいた客のフォローに追われてやっと動けるようになったとの事です」


・・・


「・・・」


「ちなみに店主も殴られた跡があり、力無く『私は良いけど、お客様の医療費と店の備品の損害を・・・』と申しておりました。更に・・・『アタイは『鬼神』の愛人になったんだ!逆らうなら『鬼神』に逆らったのと同じだからな!』と喚き散らしていたらしく・・・」


「あー、ベースド君・・・一体何の話をしてるのかね?俺にはさっぱり分からないのだが・・・」


「アシス・・・あんた・・・」


「違うぞ!シーリス!てか、そのジト目は止めてくれシーラ・・・エーレーンも槍を構えるな!」


つまり・・・俺の部下イコール愛人になることになったと思ったモトイが、調子に乗ってハメを外し、ついでに下着まで外し店で暴れまくって疲れて寝てた所を警備兵が見つけて保護したって事か・・・んなバカな!


「そもそも部下になる事は承諾したが、どうしてそれが愛人なんだ!」


「あんたが部下とイチャイチャしてるからじゃないの?」


うっ・・・いや、うっじゃねえわ!


「してない!」


「昨日フローラと仲良さげだったけど?」


「街を案内してもらってただけだ!」


「シーラとは?」


「してる!」


「ほらみなさい!」


マジか!


「いや、この街に来てからは・・・してないよな?」


「知らない」


まさかの裏切り・・・両膝から崩れ、両手を地面につけて項垂れていると新たな客が宿屋に訪れる・・・


「アシス様!完成しました!」


四つん這いの状態で顔だけを向け確認すると、そこには何やら布を持ったフクドと勝ち誇った顔のデクノスが立っていた。二人とも目を真っ赤にし、目の下のクマから徹夜していたことを伺わせた


「・・・何が?」


「恐らく力を流しても弾けません!デクノスさんに聞いて試行錯誤しようやく出来上がりました!大事な所を守る為にはこれが最適な長さかと・・・って、お身体の具合が宜しくないのでしょうか?もしそうでしたら出直して・・・」


「いや、大丈夫です・・・見せて貰えますか?」


最後の気力を振り絞り立ち上がるとフクドの元へと歩み寄る。そうだ・・・俺の目的は鎧を作ること・・・それさえ達成出来れば・・・


「ささ、履いてみて下さい!」


両手に乗せて俺の前に持ってくるフクド。受け取り広げてみると2つの穴・・・うん?履いて?


「これはよろ・・・」


「パンツです!」


え?だって鎧をってはっきり言ったよね?


「戦闘中・・・長引く事もあるのでしょう・・・戦う者にしか分からぬ辛さ・・・私には理解できませんでしたが、デクノスさんの貴重な意見と娘へ伝えてた要望を汲み取り、ようやく・・・」


感無量といった感じで泣きだしそうになっているフクドの手前、何となく履かないといけない雰囲気を察して服の上から履いてみる・・・パンツだ


「アシス様!力を・・・そのパンツに力を流してみて下さい!」


言われるがままそっと手からパンツに力を流すと・・・フワっと音がして中心部分の前と後ろが開いた・・・え?


「せ、成功だ!これで戦闘中にもよおしても力を流せば・・・」


周囲から今にも吹き出しそうな雰囲気を感じる・・・何かのきっかけで大爆発が起きてしまいそうだ・・・


「これ、守れてないよね?」


「え?」


「力を流すと開くって事は本来守るべき所が無防備になるよね?」


「そ、それは・・・」


もしかしたら、さっき右側から流したら開いたけど左側からならと思い、左手をパンツに近付けるとシーリスが叫ぶ


「やめて!もう・・・限界なの・・・無理よ!」


フワ・・・開いた


堰を切ったように笑い出す周囲・・・俺の記憶はここで少し途絶える────



モトイショックとパンツショックで一時的に自分を守ろうと精神を遮断していたみたいだ。周囲の話では無言で開け閉めを繰り返していたらしい・・・


いつの間にか脱いでいたパンツを横目に謝りに来たモトイに退職金代わりに店の弁償代と客と店主への慰謝料の支払いを持たせ、謝りに行かせてそのまま『猛獣狩り』の所まで送り届けさせた


一時は抵抗するも、もし俺の部下のままなら極刑だがそれでも?と聞いたら肩を落とし、つれられて行った


フクドは拒否していたが無理やりパンツの礼金を払い、片手間で良いから良い防具が出来たら教えて欲しいと伝えた・・・もちろんパンツ以外で


フローラに残っても良いと伝えるが、フローラはやり残した事があると、また戦地に赴く覚悟を決めていた。その気持ちを無下にする訳にも行かずに共にフレーロウへと旅立つ


「寂しくなりますね」


「また来ます・・・今度は本当の平穏が訪れた時にでも」


メリッサが見送りに来てくれて、軽く挨拶を交わすとフレーロウに戻る為馬車を走らせる


ちなみにテッドら3人とデクノスは後日戻って来る予定だ。テッドらは体調の件、デクノスは今回の全ての元凶が奴のような気がしてならんかったから、責任もって3人を送り届けるようにと指示しといた


「いい休暇だったわ・・・久しぶりに泣き笑いしたわ」


今でも俺を見て口の端をヒクヒクさせているシーリスが言う。勝手に抜かしてろ


「すみません・・・父が・・・」


「気にするな。あれはあれで使い道が・・・」


!そうだ今度シーラに履かせて・・・うぐっ


「大体言わんとしている事は・・・分かる」


突然シーラに鼻をつままれ、思考を停止した。くそっ・・・いつか・・・


新たな野望を胸に馬車に揺られフレーロウへ────



予定では登場人物後に5章開始します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ