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4章 番外編 鎧を作ろう2

皆さん・・・インフルエンザにはお気をつけてください

宿屋を出て飯を食いに店を探そうとするも、この人数で動くのは少しばかり多い・・・なので三つに分けることにした。13人いるから、4人2組の5人1組か・・・どうやって分けよう


「そうね・・・仕方ないけどこの場合はアシスとシーラ、それにエーレーンとデクノスが1組になって、私とリオン、ベースドとボカートで1組・・・後の全員で1組ってところかしらね」


「そうですね。実際アシス様達は護衛など必要ないと思いますが、誰かは付かないと示しがつかないので・・・テッド達・・・問題は起こすなよ?」


ほうほう、フローラをいじめていた三人組の1人はテッドと言うのか・・・誰がテッドだか分からないけど


これで人数的にも行動しやすくなったから、ここで別れて各々店を探す事にした。夕飯の時間は少しばかり過ぎてはいるが、店の密集した場所には活気があり、戦争を忘れようとするかのように飲んで歌って騒いでいる


とりあえずいい匂いに導かれるまま1軒の店に入るとそこは豪快な肉料理を出す店らしく、各テーブルに肉が所狭しと並んでいた


案内されるままテーブルに着き、おすすめの料理を4人前頼む。果実の飲み物も同時に頼み、やっと一息つけた感じだ


「盛況ね・・・もう少し暗い感じだと思ってたけど」


「裏返しかも知れないけどな・・・騒がなきゃやってられねえって、感じで」


シーラの感想に返しているとエーレーンが座らずに辺りをキョロキョロしているのに気付いた。どうやら持って来た槍の置き場に困っているみたいだ


「下に置いたらどうだ?」


「流石にここは・・・足を引っ掛けるかも知れないし・・・何より汚れる」


・・・確かに。地面は油で汚れており、ここに置いたら槍まで油だらけになりそうだ。普段はどうしてるんだろうと思ったが、フレーロウに居る時は必要では無い限り宿に置いていたから持っていなかったか。格好だけとは言え護衛が手ぶらって言うのもどうかと思って持って来たらしいが


「店の者に聞いてみるか・・・」


俺らが座った場所は店の中央で壁が近くなく、壁に立てかける事も出来ない。剣ならテーブルに立てかけたり、腰に差したままでも平気だが、長い槍は邪魔になる・・・頼んだ飲み物を運んできた店員に聞いてみたが・・・


「特には決まってないので・・・壁に掛けて頂くか・・・」


「よお、姉ちゃん!俺が預かってやるよ!」


客の一人が店員の後ろから、ぬっと現れてエーレーンの槍を掴む。その瞬間にエーレーンの顔色が変わった


「無礼な!」


槍を返して男の手首を決めようとすると、男は慌てて手を離したが、エーレーンは体勢を崩した男を手で突き飛ばした。突き飛ばされた男は奥のテーブルにぶつかり、派手な音を立てて転ぶ。テーブルの上の皿はひっくり返り地面に落ちて割れ、コップに入った飲み物などが地面や座っていた人にかかってしまっていた


思った以上に大惨事だ


「お、おい・・・大丈夫か?」


「てめぇ~・・・デカ乳!よくもやってくれたな!」


あまりの惨事につい心配してしまったエーレーンに逆恨みする男・・・仕方ない・・・と俺が出ようとしたら意外な・・・でもないか、人物が立ち上がる


「よさないか。我が隊の花に触れようとしたのだ・・・それ相応の傷は当たり前だろ?あまり触れると怪我するぞ?」


どこから突っ込めば良いんだ・・・デクノス・・・


「スカしてんじゃねーぞ!」


ガタガタと立ち上がる音が聞こえたと思ったら、店中の客が立ち上がる・・・もしかして、皆さんお仲間?


「ここは俺達『猛獣狩り』の縄張りよ!ここで提供している肉は俺達がギルドの依頼を受けて取ってきた肉!」


・・・そ、そうか


「やめな!」


「モトイの姐さん・・・」


「あんた・・・我が隊・・・って、言ったね?アタイらのことを知らないって事は他所から来た傭兵団の奴らかい?」


「それがどうした?」


いや、違うだろ!否定しろよ!デクノス


「アタイらが復興に尽力してここまで来たのに、横から掠め取ろうとしやがるとは・・・性根が腐ってるな」


何を?俺らが何を掠め取ろうとしたんだ?


「別に何も取ってないじゃないか・・・コイツが槍を・・・」


「仕事をさ!店がピンチの時は無償で働き!店がやっと軌道に乗った時にギルドの職員から、『ジュージュー亭からの指名依頼です』って、言われた時の喜びをお前らは知っているのか!?そんな状況下で必死になっていたアタイ達を知らずに、ノコノコと他所から来た傭兵団が仕事を掠め取る・・・許せない・・・ああ、許せないね!」


意外と感動話・・・そして、俺らがいつの間にか悪者・・・店員とかウウッて泣き始めるし・・・


「別に仕事しに来た訳では・・・」


言いながらチラッとこちらを見るエーレーンに、俺は仕方ないと席を立ち、モトイに向こうとするが、足が油に取られて転けそうになり必死で耐えた姿がまるで高所から飛び降りて着地したような格好になる。左手と左膝は地面につき、右足は真っ直ぐ横に伸び、右手は高々と上げてしまう・・・音で言うとシュタッて感じだろうか。いい感じにマントがヒラヒラと舞う


「・・・」


その姿を見て店内は大爆笑の渦に・・・俺を指さして皆が笑う


「・・・最低」


「・・・幻滅」


「・・・格好悪いな」


シーラ、エーレーンに続いてデクノスにまで・・・てめえは許さん。気を取り直して立ち上がりモトイの姐さんに謝ろう


「・・・決して悪気があった訳じゃない。すまなかった・・・汚してしまった物への弁償はするし、壊してしまった物に関してはジュージュー亭に弁償・・・」


「ここはジュージュー亭じゃねえ!爆肉亭だ!ジュージュー亭は3軒隣だ!ふざけんなよ?」


うそだろ!?完全にここがジュージュー亭の流れだったよな!?何なのあの店員の涙は?


「そ、そうか。爆肉亭にも弁償する。それとメイカートには知り合いの付き添いで来ただけだ。ここで仕事をしようとは思っていない・・・勘違いさせて悪かった」


「ふん!どうだか・・・まあ、いい。弁償するなら金貨10枚・・・アタイらに5枚店に5枚だ!」


「なっ・・・高過ぎる!」


エーレーンが即座に叫ぶが、モトイは腰に手を当て、眉を吊り上げる


「はあ?突き飛ばして怪我させた挙句、テーブルやら皿やらをぶっ壊し、更に営業妨害と来たもんだ・・・本来なら衛兵案件を金で解決してやろうって言うんだ!安いもんだろうが!」


突然人の槍を触ろうとしたからちょっと押したら派手に転んだだけだろが・・・と声を大にして言いたいが


「・・・分かった」


「そ、その金は・・・」


俺はモトイの姐さんのテーブルに近付き金貨10枚を置いた。それと「その金は・・・」とか言われても、この金に大したストーリーは無い。ドラマチック化するなデクノス


「へ、へっ!初めから素直に出しゃ良いんだよ!」


と言うモトイの周囲では「マジかよ・・・久しぶりに金貨見たぜ」「偽物じゃねえのか?」「どっかのボンボンか?」とヒソヒソと話している


流石にこの雰囲気で飯を食べる気にはなれずに、みんなに目で合図して立ち去ろうとするとモトイに呼び止められる


「待ちな!・・・この街で困った事があったら、アタイら『猛獣狩り』を頼りな!」


意外と良い奴じゃないか・・・手を上げてその言葉を受け取り、爆肉亭を出た・・・腹減った・・・


「良いの?・・・あんな大金・・・」


「セーラにはたんまり貰ってるし、そんなに悪い奴らには思えなかった・・・メイカートで使えば景気にも繋がるだろ・・・多分」


「へー・・・大人になった?それとも面倒だった?」


半々です・・・はい


その後、適当な店で飯を食い宿に戻った。テッド達の組は戻っているようだが、シーリス達の組はまだらしい・・・飲み歩いてるな・・・これ幸いにとシーラを誘おうとするが、エーレーンに連れていかれてしまった・・・デクノスが俺が行っても良いが?的な感じになるから無視をして早々に床に就く・・・久しぶりに一人で寝る寂しさを感じながら微睡みの中眠りについた────



朝起きて部屋の外に出ると・・・通路に寝転がる二人・・・護衛?


とりあえず踏んづけて宿屋の1階に下りると既に女性陣とデクノスとベースドが居た


「ベースド・・・護衛が二人転がっていたが夜襲にでもあったか?」


「!・・・あの野郎共・・・さっき起こしたのに・・・申し訳ありません!すぐに!」


「いや、踏んで来たから流石に起きただろ・・・一晩中護衛してた訳では無いだろ?」


「はい!三交替でロウソクが一本消費する度に・・・なのでただの怠慢です・・・釈明の余地はございません・・・」


護衛が必要ないとはいえ、言われた事を守れないのは少し・・・いや、大分弛んでるな・・・ちょっと早朝訓練でもするか・・・


「アシス様・・・お手柔らかに・・・お手柔らかに!」


俺の笑顔で察したのか、ベースドの顔が青ざめる。お前が甘いのも問題なんだ・・・まあ、それ以外はよく出来た男だが・・・


とりあえず宿の食堂で朝食を取り、踏まれた箇所を押さえながら下りてきた二人に早朝訓練と称して力を流す・・・そんなに寝てたいなら、今日一日寝てろ


全員起きて来たところで今日の予定を話す。と言っても俺はフローラの防具屋に行くだけだし、ついてくる必要ないから基本自由行動だ。シーリスなんかは頭痛がすると早々に部屋に戻り、リオンらは適当に街を散策すると出て行った


防具屋に行くのは俺とシーラとベースドの三人となった


早速店に向かい、店のドアを開けると・・・少々縁が深いようだ・・・モトイの姐さんがいるではないか


「先約つったって、今居ねえじゃねえか!良いだろ?金ならあるんだ!」


「そうは言いましても・・・あっ!父さん!フローラ!お越しになったわよ!」


モトイ越しに俺に気付いたフローラ姉さんが恐らく鍛冶の途中であるフローラ父さんとフローラを呼ぶ。フクド・・・だっけか?


「ああん?」


柄の悪い物言いで後ろを振り返るモトイの姐さん・・・俺を見て少し驚きそしてニヤける


「なんだ・・・先客ってのはお前さんか・・・金に物言わせやがって・・・目障りだな」


「貴様・・・」


モトイの言葉にベースドが反応し剣に手をかけるが、それを手で制す。フローラの店で暴れる訳にもいかないし、特にムカつかないしね


ベースドの対応を見てフンと鼻を鳴らし、ツカツカとこちらに向かってくると俺の顎を撫でるように触ってきた


「どうせさして必要も無いだろ?こちとら毎日が命懸け・・・金持ちの道楽よりも、こちらを優先した方が有意義だとは思わないかい?」


「金貨10枚で譲ってやらんこともないが?」


「ほう・・・いい度胸だ」


ちょっと顎を撫でられてゾワっとした。年上の魅力ってやつか・・・後でシーラに蹴られそうだ。背中に鋭い視線を感じる


「モトイさん!何をやってるんだ!」


フローラ姉さんに呼ばれたフクドが昨日と同じ格好で慌てて奥から現れた。手には鍛冶用だと思われるハンマーを持ち汗だくなので、奥で仕事している最中だったのだろう


「旦那!確か前に聞いたオーダーメイドの鎧は金貨1枚だったね?金が出来たから来てやったのに・・・こんなボンボンより常連のアタイを優先しな」


「何を馬鹿な・・・その方は・・・」


「あら?やはりこちらでしたのね?宿に顔を出してもいらっしゃらなかったので・・・ってモトイ?何をしてるの?」


領主のメリッサ登場。どうやら俺を探してたみたいだが・・・


「メリッサ婆・・・なんで・・・」


「メリッサさん?俺に何か?」


モトイが呟いているのを無視してメリッサに何か用があるのか聞いてみる。昨日の別れ際に約束とかしてないと思ったが・・・


「もし宜しければ昼食をと思ったのですが・・・お邪魔だったでしょうか?」


「いえ、昼は特に・・・それでしたら昼時に領主館に向かいます」


メリッサに答えているとモトイが睨みつけながら歩いて来る。そして、通り過ぎ様・・・


「ちっ・・・領主のメリッサ婆まで丸め込みやがって・・・いけ好かねえ奴だ・・・」


捨て台詞のように吐くとそのまま防具屋を出て行く。誤解が誤解を呼び、モトイの中で俺は・・・他所から来たボンボンの傭兵で権力に取り入る奴という位置づけとなった


「モトイ・・・?」


「何か勘違いしているようですね。でも・・・勘違いさせるような態度をとった俺が良くなかったです・・・もしかしたら勘違いしてるのは俺の方かも知れないです」


去りゆくモトイを見て訝しげに見つめて呟くメリッサに俺が話しかけた。なんか・・・自分の身分に踊らされてるような気がする。もしかしたら、守護者になって人を見下してるんじゃないか?問題を金で解決して穏便に済ませたりするのって・・・正しい行動なのか?


「アシス・・・」


シーラの呼びかけで我に返り、再度昼食の約束を話した後、メリッサは防具屋を後にした


俺は本来ここに来た目的を果たすべくフクドの元に近付くと、フクドは緊張した面持ちで俺に対応する


「た、大変失礼を・・・その・・・フローラがお世話になっております。昨日フローラから聞いておりますが、なんでも鎧をご所望と・・・」


「そうなんです。出来れば動きやすくて頑丈な物が出来れば・・・」


それから防具の特徴について話をした。フクド曰く矢などを防ぐなら鉄などを使わずに獣の皮で充分だと。鉄を使うとどうしても固定具などで動きが制限されてしまったり、重量が嵩む


「斬撃とかは・・・無理ですよね?」


「皮は斬撃には弱いですね。防ぐと言うよりクッションの役割と思って頂ければ・・・剣などの斬撃を防ぐならやはり鉄などの鎧となります」


そりゃあそうか。だが、どちらかと言うとどっしり構えて戦うより駆け抜けて戦う方が戦場においては多いかも知れない・・・やはり重くなるのはよろしくないよな・・・と、色々試行錯誤していると奥からフローラが・・・おっ


「こちらに居る時に来ていた服を着てみました・・・おかしいでしょうか?」


顔を赤らめながら、服を見せるフローラ。今までは肌着の上から厚めの生地の服を着てズボンを履いてその上からハーフプレートを付けていたが、今は胸元にフリルがついた上着にヒラヒラしたスカートを履いている。軍人には全く見えずどこぞの街娘って感じだ


「いや、似合ってるよ。可愛らしい感じで・・・」


と評価していると後ろからギチッと妙な音がする・・・ベースドがヒィとか言ってるのを聞いて後ろを振り向くのが怖くなってしまった


青ざめた俺をお構い無しにその場でくるっと回ったりするフローラの対応に困っていると、フクドが止めに入ってくれた


ナイスフクド・・・危うく蜂の巣になるところだった・・・


頬を膨らますフローラを余所に、鎧作成の続きを話す


皮は斬撃に弱く鉄は重い・・・間はないのだろうかと尋ねると、キッパリとないと言われた


「そんな素材がありましたら、世界が一変しますね。剣をも防ぐ軽い素材・・・傭兵や軍の悩みを一気に解決する夢のような素材ですよ」


長距離の移動がある軍などは喉から手が出るほど欲しいだろうな。傭兵なんかも手に負えない獣などから逃げる際、重い鎧を脱ぎ捨てるなんて事もあるらしい。鎧を脱ぎ捨てる・・・つまり追い付かれたら死が確定してしまう状況に陥る・・・それがもし軽い鎧だったとしたら、脱ぎ捨てずに追い付かれても生存率は跳ね上がる


「コイツが・・・沢山あればな・・・」


おもむろに黒龍を触りながら呟くと、フクドがその意図を掴みかね、首を傾げる


「それは?」


「ああ、代々伝わって来たマントで、力を流しても破けたりしないし、剣を防ぎ矢を弾く・・・剣に纏えば斬れ味も上がる優れもの・・・」


マントを外し、フクドに渡すと食い入るようにマントを見始めた。そして一言


「血・・・ですかね。元の色は分かりかねますが、数多の血を吸い黒く染ってますね・・・これは・・・一朝一夕で作れるような物ではないです」


「でしょうね。俺には素材の事とかは分かりませんが、そんな気はします」


元は単なる布だったかも知れない・・・それが血を吸い続た結果、今の黒龍となった・・・黒虎も同じような色をしていたから同じ道を辿ってきたのだろう


「・・・先程、力を流すと仰ってましたが、宜しかったらどのような事か説明を頂いても?」


「ああ、それは・・・」


簡単にフクドに説明をした。戦ってきて力を流したりするのが阿吽家の特別な力ではなく、使い方は違うが色々な人が使っているのが分かった。ガレスさんは斬撃を増やしたりフェードは一点に力を集中していたりしていた。恐らく阿吽僧が恐れられているのは力の使い方に長けているからではないだろうか


「なるほど・・・戦いの事は私には分かりませんが・・・試しにこの布に流してみてもらっても宜しいでしょうか?」


俺はフクドから布キレを受け取ると力を流してみる・・・すると布キレは俺の手から逃れようとするかのように突っ張り弾けた


「おお!・・・このマントは今のような力を使っても耐える・・・そういう事ですか?」


「ええ。物に対して使うと今のようになってしまい破損してしまいますが、このマントは何故か平気で・・・」


フクドの目が輝き、マントに集中する。さっき話していた夢のような素材が目の前にある・・・そう思ったのか穴があくほど覗き込むと、突然こちらを見上げた


「アシス様・・・こちらをお借りする事は可能でしょうか?」


「悪いがフローラの父とはいえそれは出来ない。俺が見ている間なら構わないが・・・」


「そ、そうですか・・・」


俺の答えを聞き、残念そうに肩を落とすフクド。防具屋魂に火がついたんだろうな


「俺が見てると不都合が?」


「い、いえ、私が調べている間お待たせするのも・・・」


「今回の目的が鎧作りだし、構いませんよ。預ける事は出来ませんが、調べたりするのは特に・・・もちろん傷付けたりも勘弁して欲しいのですが・・・」


「も、もちろんです!では早速・・・」


フクドは今まで眺めるだけだったのが、俺の言葉を聞き目を再び輝かせてマントを弄り出す


引っ張ったり、光に透かしてみたり、ギュッと潰してみたり・・・見てると思わず口の端がヒクヒクとなるが、破いたりしないだろうしここはフクドを信じよう


昼食の時間となり一度マントを受け取ると宿にいる仲間を連れて領主館へと向かった。防具屋を出る際のフクドの名残惜しそうな目が忘れられない・・・


皆と合流すると注目は街娘風のフローラに集まった。イジメ三人組なんかは食い入るように見つめるが、フローラはお前らに見せるために着たんじゃないとそっぽを向いていた


メリッサとの昼食会は恙無く終わり、その足で再度防具屋に。戻った俺を見てフクドは待ってましたと言わんばかりにマントを調べ始める


日が暮れ始めた頃にフクドがため息をついてブツブツと何やら呟くと俺らに目もくれず奥へと消えて行ってしまった。しばらく待っても帰ってこず、フローラが奥を見に行くとフクドが何やら一心不乱に作業してて話しかけても返事もくれないらしい


また明日訪ねるとフローラに言い残し、俺らは夕食を食べた後、宿に帰ることにした


偶然・・・で片付けられるのだろうか・・・前を歩いてくるモトイに運命を感じていると、俺に気付いたモトイが眉を顰める


「どこにでも現れやがって・・・」


こちらの台詞だと言いたいところだ


「さっき調子に乗ってたのもメリッサ婆が来るのを知ってたんだろ?そういうやつだよお前は!」


俺についてきていたベースドがやはり剣を抜こうとするが、それを俺が止めた。しかし、ベースドはそれでも剣の柄を握りながら俺の前に出る


「私はアシス様の護衛には心許ないかも知れません・・・ですが、私は貴方様をお守りすると同時に地位を守る使命があります!どうか止めないでください!」


ベースドのその言葉に懐かしさを感じた。確か・・・ジェイスがナキスに対して言った言葉・・・ああー、そうか。なんでモトイにムカつかないのか分かった気がする


「へっ・・・今度は護衛に守られて強気になるか?とことんクズだな」


その言葉を聞いた瞬間にベースドが剣を抜き構えた。一触即発の雰囲気・・・剣を抜いたベースドを見て周囲の人が何事かとざわめき出す


「抜いたな・・・もう引けねえぞ!」


前に金貨を貰ってホクホク顔だったモトイら『猛獣狩り』もベースドが剣を抜いたのに合わせてそれぞれの武器を構える


身分を偽ったつもりはないけど、こうなったのは俺のせい・・・自分は偉くないからと身分を明かさなかったり、争い事を面倒だと金で解決したりした結果・・・俺がモトイの立場ならどう思うか・・・今更モトイ達が引く理由もない


「一つ良いか?・・・もし俺が凄い権力を持っているとしたら引いてくれるか?」


「はん!そんな脅しには乗らねえよ!命乞いするには少し遅かったね!」


「だよな・・・多分俺に剣を向けた時点で死罪になる。でも、それを俺が望んでないとしたら、どうなる?ベースド」


「はっ!傭兵がメディア国王直属特別太守四大護国者のアシス様に剣を向けた場合、軍総司令官と同位である事を考えますと極刑は免れません!意味合いとしては軍に牙を剥く・・・国に牙を剥くのと同意となり、国家反逆罪となります!アシス様が望もうとも望まなくとも変わりません!」


「は?」


よく長い名称を言えるな・・・守護者で良いのに


「加えて申し上げますと、以前デュラス将軍に対し暴言を吐いた者がその場で処刑されました。国に対する暴言と判断されまして・・・」


俺も処刑されてた可能性あるな・・・傭兵の時に髭だるま言ってたし・・・


「て、てめぇ何を言ってやがる!軍総司令官と同位!?」


「すまんな・・・言いそびれた。俺は元傭兵だけど今はメディ・・・守護者としての任についている。だから俺に剣を向けると国家・・・」


「反逆罪です」


「・・・になるらしい」


さて、どういう反応が返ってくるかと思ったら、モトイが顔に手を当てて震えだした


「プッ・・・クックック・・・ハッハッハッ・・・メディアなんちゃらに守護者?取ってつけたような肩書きを並べればひふれすとでも?笑わせ過ぎだぜボンボン野郎・・・もういい、やる気が失せた・・・てめぇには金貨を貰ったのもあるからな。見逃してやるからサッサとメイカートから・・・がっ!」


ふむ・・・初めて人に使った割には上手くいった


モトイ達は突然地面に膝をついたり倒れたりしていた。何かに上から押さえつけられるように


「アシス・・・初めてこれは?」


「ああ、前にラクスが使ってた技だ。前に食らった時は何をされたか分からなかったけど、震動裂破によく似てる。と言うか同系統だな。震動裂破は大気を震わし、衝撃を周囲に与えるのに対して、これは大気に力を流して下へと力を向けた感じ・・・見よう見まねで練習してたら出来たんだけど・・・持続力がなくてね」


言っている間にモトイ達が立ち上がってくる。効果の範囲が狭く持続力もない・・・しかも燃費が悪いので実戦では使わなかったけど、こういう場面では使い勝手が良いな。震動裂破だと気絶しちゃうかも知れないし


「てめぇ・・・何をした!?」


今それをシーラに説明していたんだが・・・聞いてないか。聞いても理解出来るとも思えんし


「すまんな。俺を馬鹿にしたり侮ったりするのは構わないし気にしてないが、俺が構わなくても周りが構うしあまり良い気がしないらしい。まだ新参者なんで良くその辺が分かってなかった・・・お前だって自分の仲間を不快にさせる奴はムカつくだろ?」


「・・・なんの事だ・・・何なんだてめぇは!?」


「だから・・・守護者のアシスだってば!・・・不本意ながら『鬼神』とか言われているが・・・」


そう言った瞬間にモトイ達が剣を落とし顔を青ざめさせた・・・もしかして予想以上にその名が浸透しちゃってるのか?


「『鬼神』って・・・戦争の時に一人で敵将を3人食い殺し、1万の敵兵に単騎で突っ込み殺しまくった・・・あの・・・」


いや、食ってないし!しかも倒したの2人だし!単騎では突っ込んでない!・・・なんか尾ひれがつきまくってるような・・・


「ひ、人喰い!?」


それ豹紋兵!


「単騎で1万も・・・!?」


いや、3人だし!・・・それでも充分おかしいか・・・


「ふ、ふざけるな!どうせ騙って・・・」


「アシスの身分証よ。アシスが書類とか無くしそうだからセーラ陛下より私が預かったの。ちなみに出来てまだ日が浅いから書類しかないけど、玉璽みたいな物を作成中らしい・・・」


何それ・・・なんかやな予感・・・変な形とかにされたらどうしよう・・・


「なっ・・・本当に・・・?」


今までの流れもあるし、すぐには信じられないだろうな・・・これ以上どうしたら・・・あっそうか


俺は目を閉じ、相手がモトイ達ではなくデニス軍であると考える。メディアに襲いかかり、俺らを殺そうとした・・・デニス軍


「あっ・・・あっ・・・」


目を開けてデニス軍に向けていた殺気を放つ。押し寄せる大軍・・・攻め落とさんと向かいくる殺気に対抗して、覚悟を決めた俺の殺気・・・モトイ達が傭兵だから効果があると思ったが、どうやら強すぎたみたいでモトイの股間が何やら湿ぽい


「アシス・・・やり過ぎ」


シーラの突っ込みに殺気を抑えると、モトイ達が一斉に膝を落とし崩れ落ちた。なんだ・・・技使った時よりダメージ大きいぞ?


「くっ・・・アシス様・・・それ相応の覚悟を持っていないと・・・味方でも今の殺気は・・・」


ベースドまで苦悶の表情を浮かべている。つまり戦場で対峙している時は覚悟があるから平気だけど、平時で今の殺気を食らうとヤバいって事か・・・なんだ初めからこうすりゃ良かった


モトイが一番近くに居たためにまともに受けて身動き取れなくなっていたが、後ろにいた奴らは剣を拾わずに「ひぃー」とか言って逃げ出してしまった。残されたモトイはその場にヘタリ込み、ガタガタと震えている


「い、いやああああ!」


シーラのやり過ぎって言葉に反省し、起こしてあげようと近付き手を差し伸べるが、目を見開き這うようにして去っていくモトイ・・・傍から見るとかなりの悪者な俺・・・


差し出す相手を失った手の行先に困り、助けを求めるようにシーラを見るがため息をつきながら首を振る。続けてベースドを見ると目を閉じて同じように首を振った


遠巻きに見ていた人達もヒソヒソと何かを話している・・・ああ・・・こうやって悪評って広まっていくんだろうなと心の中で泣きながら差し出した手の行先を思案するのであった



次回でこの鎧を作ろうは終わると思います


登場人物の後に5章に入る予定です

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