4章 番外編 鎧を作ろう1
幕間・・・SSのつもりが・・・番外編になってしまいました
「あ、動いた」
「・・・本当だ!長く続けた甲斐があったな!」
「う、うん・・・ありがとう・・・」
バン!
「まだ早い!おめでたいけど、まだ早いよ!」
「「え?」」
「え?」
シーラの動かなかった左手が微かに動いた。毎晩欠かさず巡りを行い、何とか動かないかと続けた結果、少しだけ・・・ほんの少しだけ動いた。それを見て喜んでいると突然ドアが開き、シーリスが叫ぶ・・・今ここ
「で?何がまだ早いのかな?」
「・・・意外と動くの早いわねー的な?」
「おめでたいとは?」
「そ、そりゃあもちろん手が動いた事よ!」
プイっと顔を背けて答えるシーリス。俺はその答えを聞きシーラに向き直る
「だ、そうですが、シーラさんどう致しますか?」
「過去に何度か『ノックをせずにドアを開ける』という許されざる行為を行っています。昔はそんな事なか・・・昔からか。どうすれば直して頂けますか?」
「あう・・・その他人行儀な敬語は止めて~・・・来るのよ・・・胸にグサッと来るのよ!直す!直すわよ!ちょっと廊下から声が聞こえたから・・・」
「そんなに大きい声で話してたか?」
「お黙り!今は姉妹の話しよ!」
「いえ、私達と姉さんの話です」
「そうよね~・・・でも、その言い方もグサッと来るわ~」
胸を押さえながら苦しむ感じでシーラに縋るシーリス。シーラは少し怒っているのか、その様子を見てもそっぽを向いて無視をする
「宿移すか・・・」
「ダメ!それは絶対にダメよ!」
俺がポツリと言うと激しく反応するシーリス。本来将軍より格上の地位についた時点で宿ではなく専用の屋敷が与えられる事になっていた。しかし、戦争後のゴタゴタが尾を引いてそれどころではなく、未だに宿屋暮らし・・・まあ、もう家みたいだから良いけど
ただ防犯上とか直ぐに王城に行けるようにする為には王城の近辺に屋敷を建ててそこに住まないといけないらしい・・・と、セーラが力説していた
「屋敷になんか住み始めたらガラリと生活変わっちゃうのよ?私が自由に突撃出来るのは屋敷に移るまでの・・・」
「今でも自由に突撃出来ませんから」
「と、言うわけよ!」
いや、どういう訳だよ。シーリスの妹愛にも困ったもんだ。早く妹離れしてくれないかと思いつつ、朝食を取りに三人で1階に下りた
デニス軍が去り、完全に国境を越えるまで緊張は続いた。ただ刺激はしないように自国内の復旧作業を軍で行い、流通も少しづつ回復させ、デニス軍が国境を越えたという報告にようやく笑顔を取り戻す
俺ら守護者は念の為フレーロウ近辺の捜索を主として行った。デニス軍が部隊を残していたり、何か仕掛けたりしないかを調べて回る。デニス軍としても急遽撤退する羽目になった為、そこまでの余裕はなかっただろうけど、未だ戦争中である事は間違いない・・・念には念を入れて損することはないだろう
一番復興に苦労しているのはメイカート
デニス軍も自分の領地になると踏んでいたから、そこまで荒らしはしなかったみたいだが、やはり自分のモノではないという意識が働いたのか、物は壊されたり家は汚されたりしていたらしい
住民達も勝手に使われた食器などは洗っても使う気にはならず、出費は嵩む一方・・・復興するまで税収は免除、補助金も出すらしいが、元の生活に戻るのは当分先になりそうだ
ガーレーンは逆に復興は早かった。落とし穴は水の供給を止めて乾いた状態で土で埋め、地下にある扉を閉めれば元通りになり、普段の生活へと戻っていた
ガーレーンは落とせない街を作るという狙いがあり、敵軍が迂回してフレーロウを目指した場合、後ろから攻める事を念頭に作られていた。今回のようにメイカートに狙いを変えるのも想定内との事だったが、その真意は分からない
徐々に活気を取り戻すフレーロウを肌で感じ、自然と笑顔になっていると宿屋に来訪者が・・・
「失礼します!」
入って来たのはベースドとフローラ。俺が受け持つ軍の者達だが・・・何かあったのか?
「アシス様、この者がどうしてもアシス様にお伝えしたい事があるとの事なので連れて参りました」
ベースドがフローラの事を言いながら跪く。いや、別にそんな重々しくせんでもフローラは顔見知りだし普通に訪ねてくれば・・・って、ベースドがあまりに大声で言うもんだから他の宿泊客・・・って言っても全員元二対の羽の面々だが・・・がこちらを好奇な目でこちらを見てる
「そう畏まるなよ・・・で、どうした?」
「は、はい。その・・・お暇を貰えましたので、メイカートに一度戻ろうと思っています」
「おお、良いじゃないか。両親の事も気になるだろうし」
確かフローラの両親はメイカートで防具屋を営んでいるんだったな。防具とかの売り物は全滅だろうな・・・力になってやりたいが、贔屓も不味いか・・・
「それで・・・アシス様も御一緒にどうかと・・・両親にも紹介したいですし・・・」
その言葉に一斉に周囲がザワつく
「え?両親に紹介って・・・そういう事?」
「おい!隊長やべーだろ?シーラちゃんは?」
「うわー、見損なったわ!これで何人目だ?」
「と、年端も行かぬ子に・・・うら・・・穢らわしい!」
「・・・好機到来」
いやいや、お前ら好き勝手に・・・何人目だ?って、言った奴とデクノスは後でしめておこう。てか、未だに狙ってたのかデクノス・・・
「紹介って・・・どういう意味だ?」
早く・・・早く説明を・・・般若姉妹の目線が!
「あっ、以前アシス様の鎧を作らせて頂く話・・・覚えてますでしょうか?それで両親に紹介させて頂き採寸とどのような鎧かお話できたらと・・・」
うん、覚えてる。でも、そこまで最初っから言って欲しいな
「ああ、じゃあ一緒に行くか。メイカートの復興具合も気になってたし」
「はい!」
嬉しそうに返事するフローラ。戦争の時に行ったきり行ってないのだろう・・・色々と忙しかったし。となると、連れて行くのは・・・
「分かりました!各千人長にお伝えしておきます。ご出発はいつ頃でしょうか?」
うん?待て・・・もしかして・・・
「全員ついてくる気?」
「はい!もちろんです!」
え?なにそれ?もうそれ戦争じゃん!一万の軍がぞろぞろ街の防具屋さんに行って何するの?
「あんたバカねー、軍隊の長が行くなら兵隊はついてくるでしょうよ。自由気ままにどこでも行ける身分じゃないの!」
やばい・・・地位を返納したい。のしを付けて返したい
「あんたの指示を待ってるのに肝心のあんたがいなかったら、兵達はどうすんのさ?てか、編成は済んだの?千人長の名前は覚えた?やる事だけやって、仕事を放置する男になんざ妹はやれないよ!」
傭兵とは違い、軍の兵士は俺の指示があるまで兵舎で待機している。もちろん勝手に動かすのは出来ないが、申請を出し訓練したり、編成したりしないといけない。うーん、知ってはいたが面倒臭い
「よし!俺がメイカートに行っている間、副官のリオンに任す!」
「よし!・・・じゃない!リオンに任せると私が行けなくなるじゃない!?」
「行く気だったのか?」
「俺は構わんが・・・」
「構え!・・・とにかくアシスが行くなら向こうの領主に知らせたりとか色々手続きがいるのよ?ねえ?ベークド?」
「ベースドです。守護者たるアシス様が向かわれるのでしたら、向こうもそれ相応の対応をしなければなりません。ですので、いつからいつまで滞在されるかを送らなくては・・・それに女王陛下にも許可を得なくてはなりませんし、全軍連れていかないのでしたら、護衛の数を申請し、残った者の中から軍の責任者を立てないといけません」
「・・・ちょっとセーラの所に行ってくる」
無理無理・・・ちょっとお出かけするのに、やる事が山積みなんだけど?そんな面倒くさくなるなら、軍などお断りだ・・・丁重に・・・
「話は聞いたわ!」
おおう・・・なんだこの国・・・宿屋に王が現れたぞ?
気付いた者達が一斉に跪く。これだけでも凄いはた迷惑なんだが・・・
「セーラ・・・軍・・・面倒い」
「なんで片言なのよ!?私の剣が勝手にどこに行こうとしてるのよ?剣は腰に収まるものでしょ?まあ、別に違うところに収まっても良いのだけれど?」
「アシスの剣はいつもの鞘に収まってますよ・・・女王陛下」
「そろそろ新調する時期じゃないかしら?シーラ」
「鞘をコロコロ変える剣士は大成しないと言いますよ・・・女王陛下」
朝!まだ朝!いや、夜でもその発言はダメだろ?
「・・・ちっ」
久しぶりにジェイスに舌打ちを・・・いや待てよ・・・立場って俺の方が上なんじゃ・・・
「おーい、アシス!一戦・・・あん?なんでセーラ様が?」
混乱に拍車をかける天才のレンカ参上・・・となると・・・
急いで宿屋のドアに近付き、手でドアを抑える。嫌な予感しかしない・・・
「何これ?開かないわ。アークちょっと手伝って」
やはり・・・向こう側から聞こえる声に戦慄を覚え、背中でドアを抑えて振り返ると・・・フローラをナンパする元二対の羽の面々・・・睨み合うセーラとシーラ・・・ちょこんと座って朝食を貪るリオンとフェン・・・暴れるレンカを宥めるシーリス・・・なんだこりゃ
「のあ!」
阿鼻叫喚の光景を見て気を抜くと背中に衝撃を感じそのまま前のめりに倒れてしまった
「あら?黒芋虫発見・・・何してるの?」
更にカオスへと突入した現場は、宿屋の女将さんの怒鳴り声で終止符を打った
その後、シーラと共にセーラの執務室に向かい、一連の流れを説明・・・面倒な手続きを一つ一つ処理する・・・と、言ってもシーラが全て処理して、俺はサインするだけだったが・・・
「・・・それで、護衛として連れて行くのはこの10名とシーラ、シーリス、リオン・・・これだと残された兵士達はどうするの?」
セーラの懸念はごもっとも。副官と補佐二人が居なくなったら、まとめるものが不在となる。だけど、シーリスが行くと聞かないし・・・
「元二対の羽の副団長のメンスに任せる。なーに、100名の傭兵団をまとめてたんだ。10倍に膨れたところで問題ないだろ?」
「100倍よ」
「・・・問題ないだろ・・・」
ハアと溜息をつき、書類にハンコを押すセーラ。そう言えば編成の権限とかってどこまであるんだろ?聞くと返って来た答えは基本自由らしい。と言うのも、新たに増設された守護者という地位自体に細かい規定を設けておらず、軍を編成しているのも俺だけ。特殊が故に細かい規定を設ける必要も無いと放ったらかしだと
「じゃあ、勝手に役職付けて良いのか?」
「良いわ。将軍任命は王のみだけど、その下は基本将軍職により任命されるし・・・許可はいるけど基本自由よ。だけど、贔屓ばっかしてると不満が出るから、ほどほどにね」
釘を刺されるが、やはり旧知の仲と名前も知らない者を比べるとな・・・実力も知っているから余計に・・・
「メイカートへの連絡はしておいたわ。大所帯で行く訳でもないからいつでも出発は可能よ。軍務で行く訳では無いから期間も定めてないけど、あまり空けないで欲しいわね・・・でないと建設中の屋敷と私の寝室を隠し通路で繋ぐわ」
どんな脅しだよ。とりあえず早目に戻ってこようと心に決めて、執務室を出た。デニス軍が去ってから、セーラも大分変わった・・・心のつっかえが取れたんだろうな
帰りに建設中の屋敷を見に寄ると、これまたデカい・・・何人住む予定なんだ?俺の屋敷だよな?
「私が設計に携わったの・・・問題ないわ」
え?いつの間に?俺聞いてないぞ?
「ちなみにアイリンさんとアーク君、アムスさんにラクスさんも一緒に住むわ・・・姉さんとリオンも当然ね」
大所帯!
「中は出来てのお楽しみ・・・行こ」
俺はシーラに引っ張られ、建設中の屋敷を後にした
宿に戻るとノイス、ロリーナ、ダルムトを呼び、俺が考えた軍の編成を話す。考えたのは千人長の上の役職。新たに三千人長と単純に呼び、三千人を三組と千人の一組に分ける。呼び寄せた三人を三千人長とし、ノイスは主力、ロリーナは防衛、ダルムトは特攻を主にする部隊を作り上げる
残りの千人は主に兵站活動をメインにシーラの指揮下に入ってもらう。そうして出来た組織は俺を筆頭に副官リオン、俺の補佐兼兵站部隊の長にシーラ、副官リオンの補佐にシーリス、三千人長にノイス、ロリーナ、ダルムト。俺の護衛にエーレーン、デクノス、元6番隊の面々。リオンの護衛に元2番隊の面々。ノイス達三千人長の護衛に元二対の羽の面々を振り当てた格好だ
身内びいきと思われようが、下手に知らない奴を編成するのもどうかと思って決めた。まあ、シーリスには小言を言われたが・・・
今回メイカートに行く面子は、俺らの他に10名。エーレーン、デクノス、ボカート、フローラ、ベースドとベースドの部下のフローラをいじめていた三人と他のベースドの部下を2名で合計10名。ボカートは元二対の羽で俺の代わりにセーラの護衛に行ったりした奴らしい。語尾に「~っす」って、付けるのが特徴的な奴だ・・・俺には似てないけど・・・
翌日馬車に俺とシーラ、シーリスとリオンとフローラが乗り込み、他の者は馬で護衛しながらメイカートへと向かった
本来の立場上はフローラも馬に乗るべきらしいが、フローラは休暇だから馬車で良いだろう
「あ、アシス様はどんな鎧をご所望でしょうか?」
しばらく雑談していたら、フローラからそんな質問を受けた。そう言えば考えていなかったな・・・リオンみたいなハーフプレイトは動きにくいし、双龍とか使ったら壊れそうだ・・・やはり部位を守る感じかな
「急所のみ覆う感じってできるかな?」
「・・・可能だと思われますが・・・急な尿意には・・・」
うん?尿意・・・?
「フローラ・・・急所はそこじゃない」
「え・・・?」
シーラの突っ込みに顔を真っ赤にするフローラ・・・急所ってもしかして・・・
「た、大変失礼致しました!てっきり・・・」
顔を伏せて真っ赤になった顔を隠すフローラ。うーん、お年頃ですな。あまり突っ込むと可哀想だから、とりあえずなかった事にして話を進めよう
「戦争時に乱戦になると万が一がある・・・かと言ってプレート型だとどうしても動きに制約や下手すると壊れてしまう・・・だから、部位を守るって、感じの防具が最適だと思ってるんだが・・・」
「か、可能だと思われますが・・・部位の箇所によっては固定するのが難しかったり、固定具で動きにくかったりしてしまうと思います」
そうだよなー、そうなると部位を絞る必要があるな。今回痛めた脇は無理として、やはり心臓か・・・それだとほぼハーフプレイトになるんじゃないか?
うーん、と唸っていると寝ていたと思っていたリオンが片目を開けて口を開く
「なあ、アシス。お前の双龍の型ってどんな技だ?」
今更・・・って、訳でもないか。細かく説明した事無かったし
「体内に二方向から力を流し、体に循環させる事により身体能力を向上させる・・・そんな感じだな」
「ふむ・・・ならば防具は動きやすさを重視すれば問題あるまい。体内に力を流すなら防具には流れないだろうからな」
あっ、そうか。武具流化と違って体内のみなら問題ないか・・・勘違いしてた
「呆れた・・・自分の技くらい理解しときなさいよ」
シーリスに言われてしまった・・・確かに技によっては防具の破損も有り得るけど、主に使う技は身にまとってる物には負担はかからない・・・もし負担がかかってたら、俺毎回裸になっちゃうしな
「と、なると、やはり動きやすさ重視で、急所を守るような防具だな」
「急所・・・」
いや、違うから!そんなに見ないで!
「アシスには・・・違う意味でそこに付けた方が良いかも」
え?シーラさん?違う意味って、何?
頷くシーリスに首を傾げるリオン・・・また顔を真っ赤にするフローラと共に馬車はメイカートへとひた走る
軍の進行と違い、馬車と馬では一日足らずでメイカートへと到着した
街の門番にベースドが話しかけ、中へ入るとフレーロウやガーレーンと違い平凡な街並みが広がる
ズラリと並んだ街路樹に住居らしき建物が並び、所々に街の中に木が茂る。緑の街・・・そう呼ばれているらしく、マベロン国に向かう玄関口として交易も盛んらしい。中央に向かうにつれ食事をする店や物を売る店などが並び、人の数も増えていった
所々に侵略された跡が見えるが、それでも人々は笑顔を絶やさない。こうした光景を見ると護れて良かった・・・そう実感する
「あっ、あそこです!」
既に日も傾きかけ、店から出る美味しそうな匂いに腹を鳴らしているとフローラが一つの店を指差した
馬車を止めて中に入ると一人の女性がカウンターでボーとしていた。品数が少ないのは奪われていったからか?鎧と盾が五つづつだけ置いてあり、中は閑散としていた
「いらっし・・・フローラ!?」
「ただいま・・・姉さん」
「ちょっ・・・ちょっと待ってなさい!・・・父さん!母さん!」
フローラの姉は慌てて店の奥へと消えて行き、すぐに戻って来た。ハチマキを巻き上半身裸の優しそうな男性とおっとりとした印象の女性・・・フローラの父と母らしい
「良かった・・・無事で・・・」
「それはこっちのセリフだ・・・軍人なんて辞めてしまえ・・・ここで皆で・・・ん?そちらさん達は?」
「あっ・・・こちらは・・・」
「フローラと共にメイカートに来た者です。フローラ、今日はここで休ませてもらえよ。俺らは少し用事があるから・・・また、明日顔を出す」
「し、しかし・・・」
「遠慮するな。久しぶりなんだろ?・・・すみません、また明日お伺いします」
俺らは頭を下げてフローラの店を出た。親子の再会か・・・うちの時とはえらい違いだ
「気が利くじゃない・・・どっかの誰かさんとは違うわね」
「確かに・・・誰かさんとは違うな」
シーリスの言葉に相槌を打っているが、お前の事だよ?リオン
「とりあえず遅くはなったが領主のところまで行こう。流石に来てるのに挨拶もなしだと向こうも困惑するだろう」
馬車に乗り込み、真っ直ぐ進むと一際大きい建物の前にたどり着く。3m程の高さの門の前に門番が二人槍を持ち立っており、こちらが近付くと槍を交差して止めてくる
「何者だ!」
ベースドが馬から降りてこちらの事を話すと慌てて槍を引き、門を開けてくれた。馬車で中まで入ると中庭で下り、案内人に付き従い領主館へと入った
俺が来たことを聞いた領主が小走りで駆け寄り、息を荒く頭を下げる
「お出迎え出来ずに申し訳ありません。メイカート領主のメリッサと申します。此度はアシス様御一行のご来訪に歓迎の意を・・・」
「いや、どうか普段通りに。こちらが突然訪れただけだから」
俺の言葉にほっとしたのか、メリッサは顔を上げて笑顔をつくる。落ち着いた初老の女性・・・そんな印象のメリッサは案内人の代わりに応接室へと自ら案内してくれる
俺が座り対面にメリッサが座り、残りの者は俺の後ろに立つ。リオンも座るべきなのかも知れないけど、自分から座らないから放っておこう
「改めてご挨拶を。メイカート領主のメリッサです」
「あー、守護者のアシスです」
メリッサが頭を下げるので、俺も同じように名乗って頭を下げた。するとメリッサは口に手を当てクスリと笑う
「?どうしました?」
「いえ、申し訳ありません。軍総司令官様と同地位の方が来られるとお聞きしておりましたので・・・」
「偉ぶってる奴が来ると?」
「有り体に言えば・・・」
「地位は偉くても俺は偉くないので。だから、畏まらないで貰えると助かります」
「ふふ、おかしな事を仰いますね。正反対の人達を見てきたので余計に・・・。国からの伝聞では視察と書かれておりましたが、今回はどのようなご用向きでしょうか?」
「視察って言うか、ただ単にどれくらい復興しているか気になったのと私用が目的です。知り合いの帰郷に便乗した程度・・・そう思ってもらえれば。後は大した事は出来ないですが、何か手伝える事があれば言ってください」
「そうですか。お気にして頂き大変有難く思いますが、国からも援助を頂き恙無く復興しております。差し支えなければ私用の内容をお聞きしても?」
「ええ。フローラ・・・部下の父がこちらで防具屋を営んでいると聞き、防具を用立ててもらおうと思いまして・・・」
「まあ!フクドの所ですね。確か末のフローラが軍人になったと聞いておりましたが、アシス様の部下となられたのですね」
凄いな領主って。街の防具屋の娘の動向まで把握してるのか・・・と思ってたら後ろで不穏な気配が・・・見てみるとシーリスとシーラが微妙な顔をしていた
「なんだよ?」
「ア・・・アシスが・・・まともに会話してる・・・」
「あんた本当にアシス?すり替わったんじゃないの?」
失礼な!俺だっていつまでも森暮らしの野猿のままじゃないわ
「アシス様?お食事がまだお済みでないようでしたら、些細ですがこちらで準備させて頂きますが・・・」
「いえ、名目上とはいえ視察で訪れた身。街で食事を取るのも視察の一環と思いますので・・・」
「そうですか。お泊まりはどちらで?当館にもお部屋はございますので、言ってくだされば御用意致しますが」
「宿も手配しますので、お気遣いなさらずに」
本当は堅苦しいのが苦手だからだけどな。メリッサもそれが分かったのか笑顔で分かりましたと頷いた
その後は少しばかり雑談をして領主館を後にした
「さて、飯にするか」
「その前に宿でしょ?まさか野宿するつもり?守護者様」
「ああ、そうか。どうもフレーロウ暮らしが長いから、宿はあるもんだと思ってしまった」
メリッサの好意により馬車と馬は領主館で預かってもらうこととなった。街中で馬車は小回りが効かないし、馬は手綱を引いて歩かないといけないから邪魔だったので助かった
「じゃあ、宿から探しに行くか」
「い、いえ、アシス様!宿探しなど我らに命じて頂ければ!アシス様が歩いて探すなど・・・」
「ベースド・・・メリッサさんにも言ったけど、俺は別に偉くないぞ?元々傭兵だし、宿探しなんてお手のもんだ」
「へー、じゃあお手並み拝見ね」
シーリスに煽られ意気揚々と宿家探しへ・・・しかし・・・
「すまんね。そんな大所帯は泊まれないよ」
「マベロンとの交易が再開されて、商人が多くてね。ごめんよ」
「三部屋でも良いって言ったって、あんたら何人いるんだ・・・無理だよ無理!」
撃沈・・・フローラが居ないとはいえ13人が突然泊まらせてくれと言っても、夕暮れ時のこの時間からだと既に宿は埋まりつつあった。やばいぞ・・・このままでは野宿だ
「宿探しはお手のもの・・・ね」
ぐぬぬぬ・・・シーリスの嫌味に負けじと次の宿に向かっているとメリッサの使者が声をかけてきた。なんでもある宿の5部屋分だけなんとか抑えることが出来たので必要だったら使って欲しいと・・・神・・・メリッサ神!
「・・・て、なもんだ」
「あんたが手配した訳じゃないでしょ!」
シーリスの即座のツッコミにもめげずに早速その宿屋に案内してもらい、なんとか5部屋ゲット・・・後は部屋割りだが・・・
「俺とシーラで一部屋、後は適当に・・・」
「何しれっと言ってんの?今回は視察・・・つまり公務よ!女性陣三人は同部屋!後は野郎共で勝手に分けなさい!」
くっ・・・残念。どうやらこの宿屋は格式高くお値段もお高いが、一部屋に三人くらいなら平気で泊まれるらしい。でも野郎と泊まるのは・・・
「アシス様とリオン様で一部屋ずつ・・・後の二部屋で我らが泊まります」
え?そうなると二部屋で8人・・・一部屋4人?
「交代で部屋の前に護衛を二人配置します。幸い部屋が並んでいる為、三部屋に2人の護衛でも宜しいでしょうか?」
「あ、うん・・・良いんじゃないかな」
下手に護衛は要らんとか言うと、せっかくの一人部屋がなくなってしまう・・・ここは素直に頷いておこう。さすがベースド・・・慣れてるな
「そうと決まれば、ご飯にしましょう。この宿屋で食べても良いけど、出来れば外で食べたいわ」
もれなく宿屋の1階は食堂となっていたけど、俺も外で食べるのは賛成だな。なんてったって視察だし!
宿屋の主人にその旨を話、俺達は外へと繰り出した




