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4章10-2 援軍と怨軍2

西門の前に陣取ったレグシ軍


その総大将として軍を指揮するのは元『十』の『水晶』セリーヌ


僅か2年前にレグシの将軍となり周囲に疎まれそうなものだが、美貌と実力を兼ね備えたセリーヌに誰も口出しはせず、勇将のいないレグシにとってはむしろ歓迎されていた


今回も他の将軍を差し置いて柔軟な対応が必要な今回の作戦に抜擢される事となった


「馬鹿ね・・・さっさと降参すればいいものを。他の門が破られてからでは遅いわ。破城槌にて門を速やかに破壊!その後突入せずに使者を出す!作戦通りいくわよ!」


レグシの思惑は無傷のメディアを手に入れること。門を破壊し、攻め入ってはせっかく無傷で手に入れるはずの国に自ら傷跡を残すこととなる。街の者の感情も面白くはないだろう


門を破壊し、最終勧告・・・万が一受け入れられなければ門より攻め入るしかない。だが、あくまでもそれは最終段階。それも他の門を攻めるデニス軍より迅速に事を運ばなければならない


「破城槌準備出来ました!」


「壁上部に弓兵多数!」


「間抜けな・・・矢如きで破城槌を止められると思っているのか?破城槌、門を破壊せよ!」


セリーヌの指示で破城槌が音を立てて門へと走り出す。左右10名の兵士が全力で破城槌より出た取手を掴み押して行く。勢いがついた破城槌は門へと激突し激しい音と共に頑丈な門にダメージを与える


メディアの門は鉄枠に木を幾層にも重ね合わせた物。その厚さは人の手ではビクともしないが、先端に鉄を付けた破城槌の一撃により軋み、凹んでいた


後数回・・・同じ所に打ち込めば門は破壊され、西門は突破される


壁上部より矢が降り注ぐも、破城槌には屋根が取り付けられており、矢は操舵手に当たらない。続けて2回目の激突・・・門が更に軋み、後ろで構えた兵士達に緊張が走る


門が破壊された後、メディア軍が中から押し寄せてくる


こちらは攻め入る気はないが、メディアとしてはそうせざるを得ないだろう。だが、セリーヌはそのまま戦闘に入る気は無い。今は敵でもこの後貴重な戦力となるものを削る気はなかった


「後二撃程か・・・慌てふためくメディアの将の顔が浮かぶな・・・行け!」


セリーヌの号令と共に三度門に突撃する破城槌


しかし、突如現れた者により、その先端は無情にも斬り落とされる


「あ・・・あ・・・」


その姿を見てセリーヌが口をだらしなく開け、ジリジリと前に進み出る。セリーヌが恋して止まないその姿が戦場に現れ、破城槌の先端をいとも簡単に斬り落とし、佇んでいた


「ノックにしちゃあ大き過ぎやしないか?セリーヌ」


大剣を肩に担ぎ、微笑みながら言う姿に今にも駆け寄りたい気持ちを必死に抑える。今はレグシ軍の総大将・・・そう心の中で何度も呟きながら


「ラクスさ・・・『大剣』ラクス!もう勝敗は決した!すぐに軍門に下り共にデニスを追い払おうではないか!」


2年前のセリーヌの女の勘はこの時を指していたと確信する。これでメディアが降伏すれば、ラクスは自分のモノとなる・・・念願の時がもう目の前にある


「勝敗は決した・・・か。メディアはどこにも負けてはいない。デニスにも・・・レグシにも」


「戦況を読みなさい!すでに包囲され為す術がないのは周知の事実!しかし、我が軍が加われば、撃退は可能!メディアにとって・・・いえ、フレーロウに居る民にとって何が最善か火を見るより明らかなはず!」


その言葉を聞いてラクスが大剣を肩でトントンと跳ねさせた後、セリーヌに大剣を向ける


「戦況を読め?尻に火がついているのはどっちだ?レグシはメディアが落とされたら次は自分達だって事を理解してるのか?デニスはメディアだけじゃなく、大陸全土を狙ってる。ならば自ずと次に狙われるのはお前らレグシだろうよ。それがなんだ・・・軍門に下れだの、何が最善かだの・・・黙って手を貸せ!そうすればメディアはこれまでの事に目を瞑ろう・・・が、貸さぬならレグシは敵だ」


追い詰めたと思ったメディアからとは思えぬ発言に言葉を失うセリーヌ。シナリオにない状況に困惑していると更に追い打ちをかけられる


「なんなら俺とセリーヌで一騎討ちをして決めるか?俺は構わねえぜ?」


これがラクス以外の者からの提案なら受けて即座に斬り捨てるのみ・・・なんなら矢を放ちハリネズミにしてやるところだが、相手は意中のラクス。殺すも殺されるも願い下げだった


「滅びますよ?メディアは・・・」


「滅びねえよ・・・攻めて来るなら俺が相手だ。手を貸すなら申し出ろ」


ラクスは大剣を再び肩に乗せるとセリーヌに背を向けて門へと歩き出す。そして、破城槌を通り過ぎる際に車輪を大剣で破壊した。これでレグシは破城槌を修復しなければ攻め手がなくなってしまう


「セリーヌ将軍・・・どうすれば・・・」


ガーネットより下された命令はメディアの降伏を即すこと。攻め落とす事や味方する事は想定外である。かと言ってガーネットに伺い立てる時間も猶予もなかった


「・・・一時撤退・・・破城槌の修復をせよ!」


「なっ・・・それでは・・・」


「ならばどうする?このままデニスと共にメディアを攻め立てるか?メディアを落とした後、次は我らぞ?」


「・・・」


セリーヌの言葉に口を閉ざすが、言っている本人もまたどうする事も出来ない状況に歯噛みする


手に入ると思っていた男は姿を消し、ただ壊された破城槌が無残な姿を晒す。もしかしたら、メディアではなくレグシの運命が決した瞬間なのでは・・・セリーヌはそう思ってしまう


こうして西門に静寂が訪れた



────



北門前にて激しくぶつかり合う棍と剣


お互い決め手に欠けるも、押しているのはリオン


棍の使い手との戦いは経験はなく、鉄で出来た棍を普通は剣で受ける事は出来ない。間合いも棍に軍配が上がるが、それでもリオンが優勢の理由は纏っている力の差。2年の月日で習得した剣に力を宿す技は常に力を流せば剣を壊してしまう。しかし、当たる瞬間に流すのであれば剣は壊れず強度を増す。その強度が増した剣で棍を受け止め、攻撃を繰り出していた


「やるじゃないか・・・これまで無名なのが不思議なくらいだ」


数箇所の切り傷を受けているが、ジュカイにはまだ余裕がある。想定より少しだけ強いと感じているが、それでもまだ想定の範囲内・・・それが態度として出ていた


「貴様もよくやった。そう言えば一騎討ちに俺が勝ったら軍は引くのか?」


「もう勝った気でいやがるか・・・そうだな・・・お前が勝ったら軍は引こう。だが、俺が勝ったら・・・門を開け、あの女は貰うとしよう」


「それは出来ぬ相談だな。シーリスは俺の女だ」


棍を振り回しながら不敵に笑うジュカイにリオンが剣を構える


「はっ、お前の骸の前で散々犯してやるよ!」


振り回す棍がぼんやりと光る。それを見てリオンは警戒を強めた。瞬時に自分が使ってる技と見抜く


「お前が出来る芸当を俺が出来ないと思ったか?」


今までと同じ棍の突き。しかし、その威力が段違いなのはリオンも理解する。受け止めず躱すとジュカイはその動きに合わせて棍を横に振る


「ちっ!」


追いかけてくる棍を受け流すべく力を流して棍を剣に滑らせ軌道を変えるが、ジュカイは棍を止め、そのまま剣に押し付ける


鉄で出来た棍に力が流され威力を増しリオンに押しかかり、膝をつくリオンに対して更に棍を回転させ、持ち手であった方を振り上げ剣を飛ばす


リオンは上に飛ばされた剣の位置を確認し、咄嗟にジュカイから距離を取る


「さて、詰めといくか」


棍を振り回し、余裕を持って構えるジュカイにリオンは駆け出す。そして、落ちてくる剣に合わせて突きを放った


「剣連舞」


リオンはディーダに対して使った技を使うが、ジュカイは余裕で横に躱し、剣を叩き落とすとそのまま棍を回し、突っ込んでくるリオンに向けて振り下ろす


「なんだこれ?曲芸か?」


「ああ、曲芸だ」


振り下ろされた棍を躱しつつ、叩き落とされた剣を取り、体を回転させ構える。が、体勢が整っていないリオンに対して、ジュカイが渾身の突きを放つ


「終いだ!」


「いや、俺の間合いだ・・・千!」


転がり膝をつきながらも繰り出す千の刃。以前とは違い実際の刃と力が創り出した刃が怒涛の如く繰り出され、ジュカイを飲み込む。その勢いに咄嗟に棍を離し、後ろに飛び退いた


「ほう・・・武器を手放すとは・・・まあそれ以外に生きる道はなかったか」


「ぐっ・・・クソが・・・」


何箇所か斬られ、血だらけになるジュカイに対して、立ち上がり剣を向けるリオン


グロウに言われ虚実を物にしようとしたが、真っ直ぐな性格が、邪魔をして上手くいかず、それならば全て実にしてしまおうと考え出した新しい『千』。そのままジュカイが突っ込んでいれば細切れになっていただろう


「負けを認め、立ち去れ・・・認めぬなら首を落とすまで」


「ふん・・・まだまだだな・・・俺も。つい熱くなっちまった」


頬に出来た傷口を拭いながら立ち上がると、棍の飛ばされた位置を確認する。そして、ニヤリと笑い一言


「頃合いだ・・・あの女が食われない事を祈ろうぜ・・・お互い」


ジュカイが言い終わると壁の上から悲鳴が上がる。よく見ると壁には獣の皮を纏い、身体中に痣のある者達が張り付いていた


「豹紋兵か!」


「おや、知っているか。さぞ俺らの戦いは良い見世物だったろうよ・・・壁によじ登る奴らに気付かないほどにな」


「謀ったか!ジュカイ!」


「当たり前だ。ここは戦場だぜ?一騎討ちで決するなんておとぎ話でも聞いた事ねえよ。てめえが死んでも門が開くとも思ってねえし、俺が殺られても軍は引かねえ・・・見世物に付き合ってくれてありがとなっ!」


ジュカイは棍に走り寄り拾うとそのままリオンから離れる。その動きを見て追いかけようとするが、壁上部からの悲鳴に気を取られ、足を止めてしまった


「くそっ・・・シーリス!」


急ぎ戻ろうとした時、後ろから強烈な殺気が感じられる。見ると弓兵がすでに構え、次の瞬間に矢が放たれた


「くお・・・剣円舞!」


無数の矢に晒され、その場で全て弾き返すリオン。しかし、止んだと思った矢先にまた矢が飛んでくる


幾度となく放たれる矢は止むことなく続けられ、次第に腕に力が入らなくなる


ジュカイとの戦いで体力が消耗し、続け様に放たれる矢に限界を迎えようとしていた


変わらず聞こえる壁上部からの悲鳴・・・止まない矢の雨・・・そして、体力の限界


矢を受けてでも戻るべきと判断し、矢の雨が途切れた瞬間に出入口へと走り出す


矢の雨の範囲外へと逃げれたと思ったが、一本の矢が足を貫き、勢いで地面に転がる。そして、これ幸いと降り注ぐ無数の矢が頭上から降ってくる


「ジュカイぃぃ!」


罠に嵌めたジュカイに恨みをぶつけ矢に対するが、転げた姿勢で技は使えず矢をその身に受けるしかなかった。そして、覚悟を決めた瞬間────


キイインと音を立て、矢が空中で弾かれる


幾度となく見た光景・・・長く共に歩んだ仲間の技


「アシス!?」


「いや、アムスじゃ」


スタスタと散歩でもするようにリオンの元まで歩き、リオンの状態を確認するアムス


「ふむ・・・間に合った・・・とは言い難いか。すまんのう、敵兵がおったから、大分遠回りした。ガーレーンより目立たぬように来たのに、ここで見つかっては目も当てられん」


ガーレーンに残っていたアムス。救援依頼は来なかったもののフレーロウに大軍が押し寄せている報を聞き、単身フレーロウへと向った。後方からの強襲も考えたが、一人で万の軍勢を相手には出来ないと判断し見つからぬよう迂回し今に至る


「助かりました・・・あ・・・壁の上部に豹紋兵が!」


「それには心配に及ばんて。少しは自分の好いた者を信用せい・・・ほら、一旦引くぞ」


アムスはリオンに手を差し伸べ、リオンを起こす。敵の弓兵達が矢の届く範囲から逃れたリオン達を更に追い詰めようと前進すると今度は壁上部から矢が放たれデニス軍を襲う


「なっ・・・上は・・・」


「だから、信用せいて。お主よりよっぽど強かじゃぞ・・・あの者は」


アムスの言う通り、シーリスは抜け目なく豹紋兵に対応していた。各場所に2番隊を配置し、登ってきた豹紋兵を次々と撃破。打ち漏らした豹紋兵に何人かの兵士が殺されるも、2年で強くなった2番隊の面々とシーリスにより豹紋兵を全て倒すことに成功。そして、無警戒に近付いてきたデニス軍に矢を放ったのだ


正直、リオンの窮地に生きた心地がしなかったのは胸に秘めておこうとシーリスは人知れず思い、リオン達が無事に出入口へと辿り着くまで援護射撃を続ける


リオン達が門の内側に入った事により、北門の攻防は終わりを見せた。豹紋兵に殺られた兵士達は10名にも満たず、登ってきた20を超える豹紋兵を全て倒し、壁に張り付いていた豹紋兵を槍などで落とす事に成功し全滅させた


死した数ではメディアの勝利と言っても過言ではない。束の間の勝利に歓声を挙げるが、依然3万の軍勢は健在・・・お互いに攻め手を欠き膠着状態が続いた



────



東門にてアシスは飛び降りた後、向かって来るはずであった敵兵を待っていた。しかし、敵兵は襲って来ず、整地していた兵士達も逃げ惑い、一人ポツンと佇む


自分からわざわざ攻撃をする事もないと警戒しながら周囲を伺っていると、遠くから10数本の矢が飛んでくる


震動裂破を使うまでもないと飛び退き躱すと続けて同じくらいの数が飛んでくる


「嫌がらせかよ」


同じように飛び退き、敵側を睨みつけると慌ただしく動いているのが目に入る。陣形を忙しなく変え、整然と並ぶ兵士達に違和感を覚える


「上から見れればすぐに分かりそうだが・・・ウネウネしてる?真っ直ぐではなく・・・何の為に?」


デニス軍が動きを止めた後、護衛に囲まれた一人の男が兵士達の前に現れる。背丈はジュモンと同じように他の兵に比べて頭一つ大きく、威圧感は他を圧倒する


「・・・総大将の登場か」


アシスは呟き身構えるが、ジュラクと思われる男は大分離れた場所で歩みを止めた


このまま一騎討ちになると思っていたアシスは肩透かしを食らった状態となり気を抜いていると、風きり音と共に矢が飛んでくる


「何がしたいんだ?何が!」


躱す事の出来ない程の広範囲に放たれた数百の矢に仕方なく震動裂破で弾くが、弾いた瞬間に次の矢が既に放たれており、連続して撃つ羽目になる。一度二度と続き、そして、三度・・・その時アシスが相手のやっている事に気付いた


「まさか・・・マジかよ・・・」


アシス一人に対してデニス軍は矢の波状攻撃を仕掛けてきた。最初に少ない矢でアシスの動きを確認し、それに対応出来るように陣形を変える。そして、ジュラクの出現により動きを止めたアシスに対して息もつかせぬ波状攻撃


全てを弾く事は困難と判断したアシスは黒龍に力を流し体を屈めその身を包み込む


「俺一人にやる攻撃じゃねえだろ?」


ポスポスと矢が当たる音が聞こえる。力を流した黒龍なら矢が突き破る心配もないだろうと思っていた時、警戒していた男が動き出す


「ば・・・マジか!?」


マントの中、矢が当たる音が止んでいない為、その動きに起き上がる事さえ出来ないアシスは力の流れだけでどこに当たるかを読み、その部分に集中する


ドグッと鈍い音を立ててマントに棍が突き刺さる


「ん?」


感触のおかしさにジュラクが首を傾げるとボフッという音を立てマントの下から土煙が舞う。そして、同時にマントが宙を舞い、その中からアシスが蹴りを繰り出す


「痛えじゃねえか!」


「ハエが」


アシスの蹴りをものともせずジュラクが棍を横に振るう。アシスは咄嗟に流すが、宙に浮いてた為に流しきれなかった衝撃で数メートル吹っ飛んだ


「・・・不思議な感触だ・・・貴様何をしている?」


吹き飛ばされた先で起き上がるアシスを見つめる。本来ならば骨は当然の如く砕けるであろう一撃に対してアシスは無傷と言ってもいいような状態。色んな武芸者と戦ってきたジュラクにとっても初めての経験だった


「ペラペラ話すと思うか?食らって自分で考えな!」


「そうか・・・なら、良い」


ジュラクは踵を返し、護衛の元へと戻って行く。拍子抜けしたアシスに嫌な予感が頭をよぎる


「うそ・・・だろ?」


ジュラクが離れると同時に放たれた数百の矢。やはり連続して放たれる矢にどうする事も出来ずにまたマントに包まる


アシスは先程見えない状況で、ジュラクの攻撃を流し、地面に放つと同時に宙に浮き、攻撃に転じた。しかし、その芸当が簡単に出来るものでは無いと思っている。つまり、同じ事が繰り返されれば、いずれジュラクの攻撃をまともに喰らい、その瞬間に全てが終わる


マントの中で冷や汗が頬を伝うのが分かった


また矢の波状攻撃の中、気配が動く。その動きに全神経を集中させ、再度攻撃に合わせようとするが、気配は動かず矢も止まった


マントの中で動けないアシスは極限状態に陥る。ジュラクが間合いにいるのは分かっている。恐らくは棍を構えて隙を伺っている・・・しかし、そこから動かない。そして、アシスもまた動けなかった


膠着状態が続き、傍らにいるジュラクが一言漏らす


「なるほど・・・阿家の~流~というやつか」


「!」


その言葉にアシスは青ざめる。何が起こったのか冷静に分析し慎重に事を運ぶジュラクに対して、次の攻撃は流せないと判断したからだ


しかし、時既に遅く、ジュラクはすぐさま攻撃へと移る


「ならば、これは流せまい!仁王!」


渾身の二連続の突きがアシスを襲う。一撃目を流すが、すぐに来る二撃目が一撃目の衝撃を流すのを許さずアシスの体内で暴れ全身を痛みが襲う。そして、二撃目の攻撃はそのままアシスの脇腹に突き刺さり容赦なく骨を砕いた


「昔踏み潰した芋虫を思い出したわ・・・不快だな。死ね」


呻き声を上げるアシスに対して冷たく見下ろし棍を構える。その時、不意にフレーロウの壁上部から異様な気配を感じ、見ると先程のアシスと同じように上部から飛び降りる人影があった


そして、アシスと同じように事も無げに着地するとジュラクとアシスの元へとスタスタと歩いてくる


「何奴」


「そうね・・・そこに転がってる間抜けの関係者ってとこかしら?連れて帰っても良い?」


「断る」


ジュラクは新たに現れた人物に目を向けたまま、アシスに向けて棍を突き出す。しかし、痛みを克服し、意識を取り戻したアシスは地面に手をつき後ろに跳ね何とか躱す


「ほう・・・回復は早いな」


「それが取り柄なんでね・・・で、なぜここにいる?」


アシスはジュラクを警戒しつつ距離を取り、新たに現れた人物に問いただす


「なぜここに・・・って随分な言い草ね。まっ、私も私の為に来たのだから、そう言われても仕方ないけど・・・」


「私の為?」


「私の楽しい老後計画の為」


突如現れたのはアイリン。1ヶ月前まで意識がなく、ただ食事をするだけの状態だった。しかし、セーラからの手紙の内容を耳にし意識が戻ると、フレーロウに向かっている最中のラクスを止め、再び小屋に戻るよう願った


それは母としての矜持なのかラクスとアークには分からなかったが、2年の歳月を取り戻すかのように体を動かし、元通りとはいかない迄もある程度回復してみせた


「はあ・・・さいですか。で、コレはどうする?」


「お引き取り願いなさいよ。私の好みじゃないし」


「だ、そうですが?」


「小バエのじゃれ合いに付き合っている暇はない。早々に散れ!」


アシスとアイリンの会話に業を煮やしたジュラクが、まだ傷の癒えていないアシスに襲いかかる。その間にアイリンが割り込み、ジュラクの突きを手の甲で受け、そして流した。だが、ジュラクは先程と同じように二撃目をすぐに放ち流れを断ち切ろうとする。アイリンはその二撃目を一撃目の力を利用して弾く。ほぼ同時とも言える連撃に瞬時に対応するアイリンに警戒を強めジュラクは飛び退いた


「ほう・・・熟練度ではそやつより上か」


「こんな美女を捕まえてハエはないんじゃないの?ハエは。せめて戦場に咲いた一輪の花くらいの表現をしてもらいたいものね」


「戦場に咲いた花など踏み散らかされる運命・・・そうなりたいなら手を貸そう」


「戦場に咲いた花を愛でる事も出来ないほど余裕がないのね。デニスの『魔棍』ジュラクとあろうものが」


「・・・なんだ愛でて欲しいのか?ジュラクに」


「お黙り!」


一瞬の攻防の後、互いに距離を保ち時間が流れる


しばらくして、ジュラクが構えを解くと自軍の方に踵を返し戻って行く


「あら?どこ行くのかしら?」


「今回は副官に全て任せている。少し出しゃばり過ぎた・・・今は引く」


「そう・・・なら、その優秀な副官に伝えといて。矢の補充は忘れないで・・・てね」


「・・・」


ジュラクは答えずにそのまま自軍の方向に歩き、途中で護衛の者達と合流し奥へと消えて行った


「最後の会話・・・なんだありゃ?」


「ああ、矢の補充?一人の男に対してこれだけの矢を使って仕留められない優秀な副官に忠告したのよ。無駄な努力ご苦労さまって」


「・・・焚き付ける必要あるか?」


「ないわね。でも、影でコソコソしてる奴・・・ムカつくじゃない?さあ、とっとと帰るわよ」


新たに現れたアイリンに警戒しているのか、ジュラクが戻ってからも軍は動きを見せずにいた。ただ油断なくこちらを見つめ、指示があればすぐにでも動けるよう陣形は整っている


アシスとアイリンは動かない敵軍に背中を向け、一旦フレーロウへと戻る事にした


日も落ち始め、フレーロウ防衛戦の初日が終わろうとしていた



────



いやー、参った。容赦なくつつかれて、脇にある骨が何本か持っていかれた。巡りで治療し続けているが、全力で戦うのは少し無理そうだ


サラシを巻いて補強するが、シーラに『当分なしね』と宣告された・・・頑張ったのに・・・


とにかく今回は反省点が多い


各門の話を聞くと救援がなかったら危なかったらしい


つまり・・・戦を舐めていた


個の力でなんとかしようとしたのは良いが、考えなしに突っ込み、窮地に陥る。それが各所に見られたのだ


「バカよバカ・・・全員揃ってバカ三昧」


「んだとー!」


王城内軍議室にて反省を兼ねての報告が行われ、状況を全て聞いて放ったアイリンの一言にレンカが噛み付く


「てか、あなたが一番しっかりしなきゃいけないんじゃないの?知人だからと言ってひょいひょい戦地に行って罠にかかるなんて呆れて何も言えないわ」


「ぐぬぬぬぬ」


おお、レンカが押されている。もしかして二人は知り合い?・・・長く生きてりゃ、会う機会も・・・げっ、二人から同時に睨まれた


「それとリオン君も一騎討ちを受けるのはともかく、その後を全く考えてない。まずは相手の腹積もりを探り、こっちのペースに引き込まないと・・・彼女にいつまでもおんぶに抱っこじゃ締まらないわよ?」


「・・・面目ない」


はっはー、リオンめ、怒られてやんの。最近シーリスとの仲が進展してるからと言って調子に乗り過ぎだ


「最後にアシス!あんたが一番ダメ!」


「ひょ?」


心の中で笑ってたら、突然話題を振られて変な声出た


「慢心、考えなしのオンパレードね。彼女に良い格好見せようとして、丸まって棒でつつかれるなんて・・・母として情けないわよ本当・・・」


うっ・・・返す言葉が見つからない。確かに何とかなると思って碌に作戦も立てなかったし、アイリンが来なかったらと思うと・・・


「あなた達が慢心で死ぬのは勝手よ・・・でも、あなた達の肩にはフレーロウの全住民の命がかかってる。私の老後生活が、かかってるのよ!」


「なんでてめえの老後の面倒を見なきゃ行けねえんだよ!」


「うるさいわね、チビババア。あんたはそろそろ落ち着いたらどうなの?」


「あーん?」


「なによ?」


「これ、御前じゃぞ!いい加減仲良く出来んのか二人とも」


アイリンとレンカが睨み合っているのをジジイが間に入る。やっぱり知り合いぽいな・・・あまり良い関係ではなさそうだが・・・


「いや、本音で語り合うのも悪くはなかろう・・・喧嘩は好ましくないが、将軍達の姑息な会話より心地良い・・・それにアイリン殿の指摘は我にも響く・・・考えなしなのは我も一緒・・・アシス達に任せっきりになっているでな」


セーラが微笑みながら言うと、アイリンとレンカがフンと互いにそっぽを向いた。ジジイの止める行為よりセーラの言葉が効いたみたいだ


「いえ、後から来て偉そうに言っていますが、ラクスの参陣が遅れたのは私のせい・・・大変申し訳なく思っています」


「気にするな。こうして来てくれただけでも有難い。実際窮地を救ってくれたわけだからな。して、アイリン殿は戦況をどう見る?」


「・・・かなり厳しいかと。ラクスの話ではレグシが動く可能性が低いのは聞いておりますが、油断は出来ません。デニスに関しては、こちらの情報が筒抜け・・・そして、想定外の事が起きればすぐに引く冷静さがあります。長引けばメディアに不利なのを分かっている・・・そういう攻め方に思われます」


「つまり・・・このまま兵糧攻めに移行すると?」


「そこまでは・・・しかし、日が経つにつれこちらの焦りが向こうの有利に働く・・・東の門を見る限り全軍投入している訳ではなく、一部で攻め、一部は身体を休めたり、食料確保に奔走しているかと・・・長期戦覚悟の上行動しているのがありありと知れます」


「なんでそこまで・・・」


まるで敵から聞いてきたような内容に思わず口を挟む。するとアイリンはこちらを見てため息をつきやがった


「あなたは壁の上から何を見ていたの?総勢10万の軍が三軍に分れれば均等に考えたら凡そ3万強・・・でも、目の前にいたのは多く見積っても2万程よ。他の門に多くいるという報告もないなら、違うことをしてると考えるのが普通でしょ?デニスは10万を投入しているって事は決めに来ている・・・今更落とせませんでしたで帰るとは思えないわ・・・何かない限り」


うへ、確かに敵の数まで数えてないや。あー、いっぱいいるなーとは思ったけど・・・。話を聞く度に自分がどんだけ考えてなかったか気付かされるな


「セーラ様・・・食料はどれほど持ちますでしょうか?」


「1ヶ月前より準備はしていたが・・・メイカートを抑えられたのが痛くてな・・・それに加えてレグシも出て来てる・・・流通は南側のみからの為、ほぼない・・・持って1週間かそこらだ」


「いっ・・・1週間!?」


嘘・・・そんなもんなん?そう言えばメイカートはマベロンとの交易ルートだし、ガーレーンはもちろん、レグシ側もダメ・・・南は自国ルートのみとなると・・・食料確保がこんなに大変だったとは・・・


「それでも節制して何とかってところだ。余裕もなければ猶予もない・・・八方塞がりとはまさに今の状況よな」


いやいや、冷静に仰ってますが、もう少し焦ろうよ。後6日しかないし!


「焦るな、バカ息子!相手の思うつぼだ。奴らが兵糧攻めを選択しない理由を考えろ。普通なら黙っていれば餓死する連中に攻撃を仕掛けるか?」


え?理由?うーん、そう言えばアイツらも10万もいるんだから手持ちの食料じゃ足りなくなるだろう。食料調達してるとはいえ都合よく大量の食料が手に入る訳もないし・・・


「奴らも食料不足?」


「もちろんそれもあるわ。大軍を維持するには膨大な量の食料がいるだろう。だが、それだけではない。長期間の行軍に心身共に疲弊しつつある兵士達の士気は下がり、目の前にご馳走があるのにお預けくらえば、暴動も起こるかもしれない」


「ご馳走って・・・」


「兵士達の中ではご馳走に映るのよ・・・このフレーロウが。戦勝国と敗戦国・・・この上下関係がいかに惨たらしい結果を生むか・・・」


アイリンのその言葉に部屋の中がピリつく。もし敗れ、奴らがフレーロウへと入って来たら・・・一体どうなるのか想像もつかない。略奪、強姦、殺戮・・・無法地帯と化したフレーロウを想像し身の毛がよだつ


「座して待つのも攻めて待つのも結果は変わらない。少ない犠牲で最良の結果を得るなら前者。犠牲を出してでも鬱憤を溜めさせないのなら後者・・・それを上手く見極めて動いている・・・って事か」


「そうね。憂さ晴らしに黒い物体を弓で攻撃するなんて、丁度いいんじゃない?」


ほうほう・・・って、それ俺の事!?


「一部を休ませ、一部を戦場に・・・適度に緊張感を保たせ、時期に来る食糧不足を待つか・・・的確だが、やられてる方としては堪らんな」


ラクスが発言すると周りは頷き、各々打開策を模索する


だがすぐにこれといって妙案が浮かぶわけもなく、ただ現状を把握しただけで軍議は終わった


セーラはこれから将軍達との軍議が始まる・・・俺ら守護者達は早々に宿に戻り体力の回復に務める・・・はずだった────



今回で4章終わるはずが・・・

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