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4章7 それぞれの思惑

夜更け過ぎまで続いた軍議に疲れ果て、答えの出ぬまま太守館を後にした


シーリス達は別の宿をとっており、朝に再度今後を話そうと分かれた。シーリスがシーラを見て名残惜しそうにしていたが、それもそうだろう・・・2年ぶりに会えた妹とろくに話もできず色々あったからな・・・後で2人の時間をつくろう


朝のまどろみの中、そんな事を考えていると、恒例のように部屋のドアが音を立てて開けられた


「おはよー!シーラ・・・って、なんでアンタが居るのよ!?」


「ん?夜遅くてグリムは寝てたからな」


「平然と答えてんじゃないわよ!国が窮地に立たされてるのに・・・」


「英気を養った・・・ってところか」


「リオンは黙ってなさい!」


「俺らだって昨晩・・・」


「お黙り!」


殺気のこもった鋭い視線で黙るリオン。そうか・・・2年は長いもんな・・・


「遠い目してんじゃないわよ!シーラも暖かい目線は止めて!・・・さっさと準備して下に降りて来なさい!」


バン!とドアを閉めて荒々しく足音を立て階段を降りていってしまった。グリム達もいるし他の客もいるだろうに・・・


「アシス・・・先に着替えて下に行ってて」


「ん?別に一緒に行けば良いだろ?別に今更・・・」


()()()()()()


「はい・・・」


右手だけだと服を着るのが大変だと思ってたが、シーラの迫力に負けて着替えて先に出た。ここで減るもんじゃないしとか言おうものなら、何をされるか分かったもんじゃない・・・む、もしかしてこれが尻に敷かれるって事か?


理想の関係を模索しながら下に降りるとシーリスとリオンの他に懐かしい顔が多数・・・


「あっ・・・メイス!ロリータ!ダルシム!デクノスケ!エーレーン!」


「メンスだ!誰が武器だ!」


「ロリーナよ!立派な淑女よ!」


「ダルムト!もはや誰だ!?」


「天才剣士の名を間違えるとは・・・隊長も耄碌したものだ」


「・・・」


ああ、そうだった。仕方ないだろ?2年前ですらあまり名前を呼んだ覚えはないし・・・


「ふーん、エーレーンだけ間違えないなんて・・・へぇー、そう・・・」


シーリスが邪推している・・・いや、ほら同じ隊だったし・・・


「俺は2番隊の隊員の名前を1人も覚えてなかったがな」


リオンナイスフォロー・・・でもないか。それはそれでどうなんだよ?


「と、とにかく無事で良かった・・・他の連中は?」


「ここには入りきらないわ。後で会わせてあげるから、とりあえず主要メンバーだけで今後を話しましょ」


主要メンバーにデクノスケがいるのもどうかと思うが・・・まあ、無事で何よりだ


席に着き、お互いの無事を喜んだ後、朝食を頼みシーラを待つ


降りて来たシーラは面子を見て驚き、少し伏し目がちになり俺の隣に座った。少しシーラの様子が気になったが、そのまま朝食を取りながら今後を話す


一般の人も多くいる為、現状は細かくは話せないが、大方の状況は濁して話した。それを聞いて皆一様に表情に影を落とすが、ガーレーンは安全である事を告げ、万が一の時の協力を要請した


一番厄介なのは、豹紋兵。現在は60人程だが、向こうの増援の中に居ないとも限らない。なので60人倒したとしても油断は出来ない状況だ


後はガーレーン周辺の堀。長期間滞在され、堀を埋められては、残りは壁だけとなってしまう。弓兵を配置して堀を埋められないようにするだろうが、いつまで保つか・・・


「ガーレーンはなぜ安全なんだ?確かに壁も高いし扉も厚い。しかし、そう長く保てるとは思えないが・・・」


メンスの言葉に、答えようか迷う。策の内容は聞いている。恐らく漏れても問題ないだろう・・・しかし、カイトの存在がチラつき、もし漏れたら・・・と考えると言い出しにくかった。策がどうこうより、疑いたくないという気持ちが言うのを憚らせる


「そこはアシスを・・・いえ、ナキス王子を信用してとしか言えないわね。私も知らないし・・・」


シーリスが俺の心情を察して、そう伝えた。実際はシーリスも策の内容を知っていた。しかし、私も知らないと言う事で、より秘匿という印象を与えている・・・え?って顔をするリオンはシーリスの肘鉄の餌食となったが


「そ、そうか。そこまで言うなら・・・」


「アシス殿は!・・・こちらの宿にいらっしゃいますか?」


突然入口で叫ぶ兵士?伝令か?手を挙げてこっちだと伝えると即座に駆け寄り膝をつく


「ソルト様より至急太守館へ来て欲しいとの事!御足労では御座いますが、何卒よろしくお願い致します!」


「了解~・・・って、なんだろ?」


「さあ・・・ね。ここでは話せない事でしょうね」


残りの朝食を胃袋に入れ、後で合流すると約束しシーラと共に太守館へと向かった


デニス軍に動きがあったか?まさか策の不発?あれこれ考えてる間に太守館に着き、軍議室ではなくソルトのいる執務室へと案内された


中にはいつものメンバー、ソルト、ジジイ、ディーダがいた


「どうした?策が不発とか言うなよ?」


「安心しろ。策はもう昨日の晩から発動させてる。後はかかるのを待つだけだ・・・それより今はこれを見ろ」


ソルトは二通の書状を差し出してきた。一つは封を開けられており、一つは封されたまま。開けられた書状を受け取り内容を読むと・・・


「特別?・・・護国者?」


「メディア国国王直属特別太守護国者。新たに創られた役職で、これまで存在しない。地位としては俺と同等・・・もしくはそれ以上か・・・細かい事は省かれているが、国王直属ってのが太守より上と思わせる」


「ん?それがどうしたんだ?」


「文を読め!・・・まあいい。アムス殿、ラクス殿とレンカ殿・・・及びアシス、お前がメディア国国王直属特別太守護国者に任命された。これよりお前は陛下の命令以外は誰にも命令されること無く独自に動く事を許可され、地位で言うならば将軍にすら命令する事が可能だ」


「俺?・・・俺傭兵なんだけど・・・」


「抜かせ!もうどっぷりメディア国の重鎮だ!それに陛下と懇意にしているお前なら、権限だけを与えられたに過ぎない。与えられて損をする役職ではないぞ」


あくまでもメディアの友として、傭兵としてやろうと思ってたのに・・・何を勝手に・・・いや、裏を返せばそれだけ差し迫った状況だから、民を・・・将軍達を安心させる為に名を使ったか。相手方の将軍を各個撃破出来る俺と元『十』の3人・・・それがメディアの要職についたとあれば相手にも伝わるだろうし・・・


「陛下直属なら軍に左右される事もあるまい・・・で、じゃ、アシスどう出る?」


「今まさに決めようとしていたところだったが・・・ジジイは?」


「ワシはガーレーンに残る。策が成ったとしても、何が起こるか分からんからな。お主の言った豹紋兵という奴らも気になるしのう」


ジジイがいれば安心か・・・ならやはり


「俺はフレーロウに戻る。その特別なんちゃらになる前から自由に動こうと思ってたし、やる事も変わらない」


「メディア国国王直属特別太守護国者だ!まあ、長いから守護者とでも言っておけ。文面にも書いてあるしな。ほれ、お前の分の書状だ」


封をされてる方を受け取り、どうせ書いてある事は一緒だろうと思い開けると・・・違った


『託す』


ただそれだけが書いてある。どんだけ男前だよセーラ陛下


シーラが書状を覗き込み、指でチョイチョイと下の方を指すと、そこには追記らしき文が・・・


『あなたの愛しの姫より』


だーれが姫じゃ!バリバリの国王陛下じゃろがい!その文のせいでシーラからジト目を頂くことになる事を計算済みなんだろうな・・・国王怖いわ


部屋を出て、真っ先に集合場所として約束していた場所に向かう。その途中、シーラの足取りが重い事に気付いた。最初は昨日からの疲れと左腕が動かないせいだと思ったが、どうやら違うみたいだ


「シーラ・・・」


道中で足を止め、シーラの顔を見つめると、どこか暗い感じがする。まるでレグシに行った時、ナキスに言い含められた後のような・・・


「・・・何でも・・・ないわ」


えー、2日連続・・・いや、1日で2回はがっつき過ぎ?でも、2回目はちゃんと承諾を・・・待てよ。シーラがおかしかったのは傭兵団の奴らを見た時から・・・傭兵団・・・そうか


「2回はさすがに・・・ぐっ!」


鳩尾に一撃喰らい、やはりそっちじゃないことが分かった。それにしても痛い・・・


「カイトの言葉か?」


「・・・」


「・・・そうか。集合場所に行く前に、宿に寄っていかないか?」


「え゛っ!?」


引くな引くな・・・そういう意味じゃない。てか、変な声出てたぞ。こんな状況で誘うなんて俺でも引くわ


「話をするだけだ話を!俺を何だと思ってるんだ!?」


「・・・猿?」


「猿じゃなーい!良いから行くぞ!」


俺らは一旦宿に戻り、少しばかり話をすることにした・・・というか、俺が強引に連れ込んだ形だが


「話って・・・」


「ああ・・・道端で話す事でもなったしな。前から思っていたが、『カムイ』にジジイを殺すように依頼したのって、フェードなんじゃないかなって思ってる」


「えっ?」


「何となくだけどな・・・アイツは小さな火種をいくつも用意して、それが燃え広がり、気付いた時には大火事になっている・・・そんな事をいくつもやっているんじゃないかと・・・そして、火種の一つにシーラの誘拐もあるのでは・・・そう考えている」


「・・・」


「証拠はないし、ただの勘だ。でも、傭兵団加入までアイツの思惑通りなら、俺の考えは間違ってないと思う。アイツは火種を増やし、本来ならそれに気付いて水をかけ消していかなければならないのに、気付かず今では大火事の真っ只中さ」


「全て・・・フェードが?」


「そう思う。本来その大火事を消すのはナキスの役目だ。だけど、もう居ない・・・俺はナキスの遺志を継ぎ、大火事を消したいんだ・・・それには俺の力は小さ過ぎる・・・かけてもかけても焼け石に水って感じだ。・・・なんでそんな話をするかって言うと・・・その・・・俺の水の供給源って、シーラなんだ」


「え?」


「今までも・・・今からも。シーラに出会い、様々な人と出会い・・・全ての出会いが俺を成長させてくれた。もちろんその中にはナキスもシーリスもリオンもいる。だけど、共に歩み進む原動力は・・・だから・・・お荷物とか言われても・・・」


気にするなと言おうとしたところで、シーラの人差し指が俺の口にスっと置かれ閉ざされた


「ふふ・・・アシスは勘違いしてる。私はね・・・アシスと姉さんと・・・ついでにリオンさえいれば良い。アシスと結ばれて強くそう思う。だから、他人になんと言われようと気にしないわ・・・でもね、宿でエーレーンを見て思ったの。前まではアシスが取られるんじゃないかと・・・今はアシスを私が独り占めしていいのかと・・・セーラとは堂々と気持ちを伝えあったわ・・・でも、エーレーンは・・・」


あ・・・え・・・そうなのか。てっきりカイトに言われた言葉が未だに・・・あー、そう考えると暴走した事が妙に恥ずかしい


「エーレーンの気持ちは分からない。でも、俺にはシーラがいる。それはこれからも何があっても変わらない」


「・・・浮気はダメよ」


「善処する」


「・・・こら」


やっと笑顔の戻ったシーラに安堵し、頭に手を乗せ部屋を出ようとすると、突然肩を掴まれるとくるっと回される・・・いけません・・・朝っぱらですぞ────


────


「どうだった?居たのか?」


宿の1階で腰を落ち着かせていたリオンが降りて来たシーリスに声をかけると、シーリスは肩を竦め首を振る


「居たけど疲れてるみたいだわ。今はそっとしておきましょう、()()()さん」


「うん?ついで?なんのついでだ?」


「さあ?私のかしら」


「???」


リオンは要領を得ず首を傾げるが、シーリスは意に介さず同じテーブルに着くと飲み物を頼んだ


「待たせている連中もいる。俺が呼んでくるか?」


「無粋ね・・・まだ時間はあるわ。ゆっくりしましょ」


そう言うならとリオンも同じ飲み物を頼み、シーリスとの時間を楽しむのであった


────2時間後


かなり大きい音がする。恐らく街の外から・・・策が発動した音か。急いで服を着てシーラと共に1階に降りると・・・


「お、お、遅かったわね・・・迎えに来たわよ」


引きつった笑顔をしたシーリスと腕を組み寝ているリオンが居た


「まさか・・・ずっと待ってた?」


シーラが尋ねるとシーリスは今来た所と言うが・・・チラリとテーブルを見ると飲み終えたコップが何個も・・・どんだけ喉乾いてたんだよ。リオンはあれか?瞬時に寝たのか?


「それより今の音・・・」


「ああ、策が発動したと思う。これでガーレーンは安全だと思う・・・懸念はあるがな」


ナキスの考えた民を守る為の策・・・それは東西南北にある門の前に大きな落とし穴を作ると言う事。もちろん普段はどんなに踏んでも落ちることは無い


深く穴を掘り周りを木で囲む。そして、扉を2箇所設けて普段は閉めておく。穴を土で埋めて途中で水を通す管を流し、また土で埋めていくと普通の地面の出来上がりだ。最後に薄い木の板を地面に敷き更に上から土をかける


策の発動は扉2箇所を開け放ち、管から水を大量に流す。すると最後に引いた木の板の下は泥となり、扉から徐々に流れていく。やがて板の下は沼と化し、その状態で重いものが載ると・・・板が抜け落ちるって寸法だ


内側からは強固で幅が十分な扉が橋の代わりになるよう細工してあり、軍を出す事も可能。相手は門のギリギリの所まで穴になっている為に橋をかけることは出来ない。縦ではなく横に橋をかけようにも堀を越える必要がある為、かなり至難となるだろう


本来なら発動後に敵が迂回しフレーロウを狙った場合、フレーロウとガーレーンの挟み撃ちをするというのが目的だ。しかし、今回は防衛のみで構わないだろう・・・援軍の2万も帰ったし、下手に攻めても焼け石に水だからな


「これで一先ずは安心って事かしらね?」


「かな?豹紋兵の存在が気になるが、ガーレーンを無理に落とす意味はなくなったしな・・・」


メイカートを拠点にするつもりなら、ここは落とす必要性はないと思うが油断は出来ないな。それでもこの策と軍1万があれば充分凌げるはず・・・


「みんな待ってるわ・・・急ぎましょ」


シーリスの言葉に頷き、宿を出ようとするとリオンが起きていない事に気付いた


「おい、リオンを・・・」


「ええ、そうね。()()()に起こしましょ。()()()に」


「・・・姉さんやっぱり・・・」


「なーに?ほら、リオン、起きなさい!」


シーリスが引っ叩くと眠気まなこで俺らを見て一言


「終わったのか?」


「「何が?」」


「・・・戦争?」


「「終わるか!」」


俺とシーラの迫力に気圧され、訳の分からんことを言うリオンを無理やり立たせ仲間の所まで急いだ


────


ガーレーン周辺デニス軍陣営


テントの中でジュラクとその副官キナリスが兵士の報告を受けていた


「落とし穴だと?」


「はっ!破城槌にて門を破壊すべく特攻した際、突如門の前の地が抜け、巨大な落とし穴により兵士が数十名及び破城槌が落ちました」


「昨日、門の前にメディア軍がおったが、なぜ落ちぬ」


「わ、分かりません!ただ現状穴の規模は大きく、底なし沼のように兵を飲み込みます・・・門を攻めるのは得策ではないかと・・・」


「沼?・・・ならば土をかけ固めてしまえば良い」


「試みましたが、すぐに沼と同化し・・・それに矢が無数に飛んで来てしまい思うように・・・」


報告に来た兵士は千人長・・・将軍、副官に次ぐ者だが目の前の将軍ジュラクに対して酷く怯えていた。それもそのはず、息子であるジュモンの死は軍全体に知れ渡っている。親であるジュラクの機嫌が良いはずもなく、少しでも機嫌を損ねれば首が飛ぶと考えていた


「ふん・・・ならば兵を突っ込ませろ。底なし?本当に底なしかどうかいずれ分かる」


「なっ!・・・生き埋めになれと?」


「そうだ。役立たずが役に立つのだ。これ以上の誉れはあるまい」


「そんな・・・誰も好き好んで生き埋めなど・・・」


「逆らえば反逆罪で死体となって放り込まれるまで・・・うむ、良い考えが浮かんだ。列になり全員で前の者を押すのだ。押してる者は前の者で埋まれば助かる・・・埋まらなければ自らも埋まる・・・そうだな・・・ギリギリで助かった者は強運の持ち主に違いない。取り立てて部隊長にでもしてやろう」


自分の考えが気に入ったのか顎に手を置きニヤリと笑う。とても先日、子を亡くした親の姿には見えなかった


「お戯れを。千人長を困らせても仕方ありますまい。当初の予定通りメイカートまで移動致しましょう。亀が甲羅に閉じこもっているのに、無理に突っつくのも時間の無駄というもの」


ジュラクの横にいた副官キナリスが呆れながら言うと、ジュラクは見せていたニヤケ顔をガラリと変え、神妙な面持ちとなる


「キナリス、お主でも落とせぬか?」


「落とせと言われれば落としますが、時間と人員と労力には合いませんね。そういった意味ではガーレーンは落とす価値はありません」


平然と答えるキナリスに面白くなさそうに鼻を鳴らす


「ふん、落とせぬとは言わぬか・・・まあ良い。援軍は誰が指揮しておる?」


当然デニス軍にも増援の報は来ていた。今回の遠征でメディアを落とすつもりであり、当初の予定通りの為に驚きはない。しかし、誰が指揮するかまでは決めてはいなかった


「ジュカイ様とジュリ様です」


「仲の良い兄妹だ・・・ジュモンが焦るのも無理はないか・・・」


「手駒を増やし、御二方に対抗するおつもりだったと?」


「しらばっくれるな・・・お主の入れ知恵だろう?」


「滅相も御座いません。私はただ空言を聞いただけで御座います」


「食えぬ男よ・・・死人に口なしか・・・」


ジュラクには妻が10人子が8人いる。その内の4人はデニス国の将軍となり、ジュラクの跡目を狙っていた。今回戦死したジュモンは長男。次男がジュカイ、三男がジュスイで長女がジュリであり、順当に行けば長男のジュモンが跡目を継ぐはずだった


ジュラクの中では跡目などどうでも良かった。自分の引退後、もしくは死後の事などどうでも・・・だから少しでも楽しむ為に競わせたのだ・・・より強き者に跡目を譲ると伝える事により


跡目を継げれば軍の頂点・・・継げなければ一将軍として一生を終えることとなる。ジュモンは手駒を増やし、ジュカイとジュリは結託し、ジュスイはただひたすらに腕を磨く


強き者という曖昧な定義に翻弄され、4人が争う姿を見てジュラクは己が欲望を満たす。刺激という欲望を────



────



レグシ国国王執務室


「これ、それはいかんと言うたろうに」


ガーネットが言うと、それを聞いていた男が咳払いをし話を続ける


「ゴホン・・・ですから、このタイミングでメディアを裏切った理由を知りたいと・・・」


「メディアを・・・裏切る?」


言われたガーネットは意味が分からないとでも言うように首を傾げる


「ええ。亡くなったとは言え、ナキス王子は陛下の元婚約者・・・メディアとも友好関係を築く予定だったはずです。それが・・・」


「予定・・・はず・・・そなたも分かっているではないか。正式に書面で交わした訳でもない。憂慮する必要など欠けらも無いわ・・・これ、待て」


部屋で暴れ回る幼子を捕まえて、抱っこしながら答えるガーネットに、男は持っていた布で汗を拭う。齢20にして父の将軍職を引き継いだラナット。その目に映る幼子はどう見てもガーネットの子息・・・2年前に病気の為姿を見せず、その時に産んだのでは?と噂されているが、本人の口から言われない限り、臣下として言えるはずもなかった


だが、王が未婚の母に・・・しかも、相手は恐らく・・・聞くのがタブーの質問をラナットは若さゆえに踏み込もうとしていた


「その・・・子は・・・」


「メイド長マリネスの孫よ。名付けを頼まれてな・・・『カーネス』と付けた・・・可愛かろう?不思議なものよ・・・名をつけたが故か分からぬが、他の子より愛着が湧く」


「ガーネット陛下!」


明らかな嘘に声を荒らげる。マリネスはラナットも知っており、孫は・・・いない


「なんだ?大声を出すでない・・・子が怯えるではないか」


カーネスはビクッとしてガーネットの首に手を回し、力を込める。その様相にガーネットがラナットを睨みつけるが、それが質問の拒絶なのか、声を荒らげた事による叱責かは分からない。ラナットはこれ以上は踏み込むべきではないと質問を変える


「改めてお聞きします・・・メディアを攻める理由を・・・」


「・・・デニスの宣戦布告を聞いたか?匿っている王女を差し出せ・・・そうのたまっておる。さすがデニス国・・・メディアの逃げ道を上手い事塞ぎおるわ」


「?なぜそうなるので・・・」


「そなたが盗んだ余の下着・・・早う出せ」


「は?なっ?」


突然言われのない罪に問われ、困惑するラナット。メディアとデニスの戦争について話していたはず・・・頭が混乱し言葉が出ない


「今すぐ出せば許そう・・・出さねば死罪だ」


「い、意味が分かりません!私は盗んでなど・・・」


「残念だ・・・下着ごときで忠臣を失うことになるとは・・・」


「へ、陛下?」


ため息をつきながら首を振り、子を抱いたまま背を向けて歩き出す・・・まさか本気で・・・そう思った時、ガーネットが悪戯っぽく笑いながらラナットを見た


「と、まあ、こんな感じだ。余はそなたに罪をなすり付け、そなたは濡れ衣だと主張する・・・さて、決着はどこでつける?そなたは盗んでないものを盗んでいないと証明出来るか?『私はやってません』だけでは通用せぬぞ?」


「そんな・・・証明出来るはずが・・・」


「メディアも同じよ・・・匿ってもいない王女を出せと言われて始めた戦争・・・降伏したとて王女を出せねばデニスは納得すまい・・・そなたが死罪を免れようと盗んだと白状しても下着を出せぬと同じようにの」


「わ、分かりましたが、なぜ下着なのですか?」


少なからずラナットはガーネットに憧れを抱いていた。その想いが見透かされた・・・もしくは無意識に目線が・・・そう思ってしまい混乱してしまったのだ


「他意はない。さて、ではなぜ余がこのタイミングで仕掛けたか理解したか?」


「・・・いえ、デニスの思惑は理解出来ましたが・・・」


「ふむ・・・では、余はなぜメディアに仕掛けた?」


「いえ、それを先程からお聞きしているのですが・・・」


「分からぬか・・・そうだろう。メディアにも分からぬだろうな」


「申し訳ございません・・・仰られてる意味が・・・」


「・・・そなたがメディアとなり、敵であるデニスに降伏もできない状況で圧倒的な戦力差で攻め込まれたらどうする?」


「・・・救援を要請します」


「その要請を断られ、要請を出した国に攻め込まれたら?」


「自害する他ないでしょう・・・」


「それはそなた個人の考え・・・国として考えよ」


「・・・降伏します」


「さて、それはどちらの国に降伏する?降伏を許さない強国か?救援を出したが攻め込んで来た隣国か?」


「!・・・しかし、そんな上手くは・・・」


「事が運ぶかは分からぬ。だが、デニスはこのまま静観しようがメディアの次に我が国を飲み込もうとするだろう。救援を出して共に撃退したとて何になる?いずれケリをつけるなら、無傷の状態でそっくりそのままもろうた方がお得だろうて」


「労せず一国を・・・」


「手を取り合って歩む道は閉ざされた・・・ならば強かに生き残る算段をせねばなるまい。のう?」


ガーネットは抱いているカーネスの頬を指で押す。遊んでくれると思ったのか、カーネスは幼き手でガーネットの指を掴みブンブンと振り回す


「理解及ばず・・・失礼致しました・・・」


「構わぬ。疑問に思えば聞けば良い・・・疑念は時として足枷となるが、何も考えずに命令だけで動く事に価値はない。もう下がれ・・・身体を休めるのも仕事ぞ」


「はっ!」


ラナットが頭を下げ部屋から退室すると、ガーネットはカーネスを降ろす。降ろされたカーネスはまた走り出し、本棚にある本を片っ端から取り出しては放り投げた


「また・・・どう言えば思い通りに動いてくれるか・・・なかなか思い通りにならぬものだ・・・子も・・・国も・・・」


本を投げては喜ぶカーネスを見て慈愛の表情を浮かべるガーネット。カーネスを見つめるその先に、戦争の行く末を重ね、目を細める


「今度は選択を間違えてはならぬ・・・決して・・・」













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