表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/96

4章6 守護者

暗闇の中、捕虜としてユニスを連れて堀を越え、街の壁の抜け道で街の中へ


何時くらいだろうか・・・時間の感覚がないが、すぐに知らせた方が良いと判断しソルトのいる太守館へ向かった


太守館に着き、作戦会議中という事なのでそこに案内してもらう


「意外とユルユルなのね・・・作戦会議中に傭兵と敵の兵士が入れるなんて」


「まあな。危機感がないのは自覚してるよ。ただここの太守とは仲が良くてね」


軽口を叩くユニスに返事をして中に入ると、熱い議論の真っ最中だった


「無駄死にだと!?それが命を賭して戦った兵に言う言葉か! 」


「兵に言ってはいない。イカロス将軍の浅慮で亡くなった兵が無駄だと言ったまで・・・」


「浅慮だと?・・・古めかしい策に頼り、あまつさえ救援に来た援軍に対してそれに従えという方が浅慮ではないのか!」


「ろくに策も聞かずに決めつけるのが浅慮と言ってるのだ。なぜ分からぬ!」


うわー、ソルトも怒ってるな・・・コイツがイカロスか・・・確かセーラに謁見の間で会った時、左奥にいたNo.2か


「む・・・部外者を勝手に入れるな!馬鹿どもめ!」


荒れてるな・・・結構紳士的に話す奴だっていう印象があるが・・・大敗したか?


「うん?・・・アシス!無事だったか!・・・4人共・・・もう1人は誰だ?」


ソルトもこちらに気付き、眉間のシワを目尻のシワに変えて生還を喜んでくれた


「おう!コイツの事は順を追って説明するが・・・何事だ?」


怒鳴りあってる2人を見て質問するが答えはなかなか返って来ない。フンと鼻息を荒くしてソルトが首を振った


「・・・当初の予定ではこちらの策が通用しなかったら門の前に出るって話だった・・・それは俺も了承した・・・しかし、イカロス将軍は功を焦り策を出す前に門を開け・・・」


「策が策がと・・・戦も知らぬ太守が指揮している時点でおかしいのだ!だから、策に頼り本質を見失う!」


「戦を知らぬのはそちらも同じであろう!策に頼らず兵を無駄に死なすのが本質と言うか!?」


ぐぬぬと睨み合う2人・・・ソルトの横にいるジジイは我関せずとお茶をすすり、ディーダは厳しい目でイカロスを威嚇してる。もう1人の将軍ラトーナは爪を研いでいた


「戦の理も知らぬ者には所詮理解出来ぬこと・・・ここは私に任せて太守には引っ込んでいてもらいたい。それと旧知の仲か知らぬが作戦会議中に傭兵など入れるとは言語道断・・・この事はデュラス将軍に伝えさせて頂きますよ」


徐々に冷静さを取り戻してきたのか、俺らが入って来て醜態を晒したくなかったのか・・・髪をかきあげて堂々と告げ口宣言・・・しかもセーラではなくデュラスに・・・か


「傭兵ごときとは俺への当て付けか?」


ディーダも思うところがあるのだろう。眉をひそめ威嚇を更には強くする。しかし、温室育ちの将軍様には効かないようだな・・・


「そう思うのは心のどこかで卑屈になってるからでは?別に元傭兵とは言っていないのだがな」


「何を!」


うーん、ガーレーンと救援軍の関係はよろしくないな。正直関わりたくないし、早く寝たい


「ジジイ・・・年長者としてまとめろよ」


「・・・老体に鞭打つのはやめよ。コレでも眠気と必死に戦ってる最中じゃ・・・これ以上の戦いを持ち込まんでくれ」


いや、もうそれなら素直に寝てくれ!どおりで茶を飲む回数が多い訳だ


「君はいきなり入って来て、何を勝手に発言している?邪魔だから出て行きたまえ」


「俺が許可する。君こそ人の館で勝手に人の客人を帰すなど無礼千万・・・身の程をわきまえよ!」


「くっ・・・」


確か・・・太守の方が役職的には上だよな?コイツなんでこんなに偉そうなんだ?


「とりあえず・・・戦果の報告良いか?」


「戦果・・・戦果だと?なんだ外に出て珍しい草でも見つけたか?」


無視・・・無視・・・


「もちろんだ。意味の無い軍議より余程価値がある。続けてくれ」


ソルトの言葉に青筋立てて睨むイカロス・・・小物は置いといてさっさと報告して帰ろう


「相手の将軍の1人ジュモンをシーラが討った。後、ユニス・・・あー、前回の合戦の時の唯一生き残った将軍のユニスを捕虜として連れて来た。情報提供をしてくれたから、それなりの待遇で頼む。それと体中に痣のある豹紋兵と呼ばれる兵がいる。30名ほど倒したが、後60名ほど敵陣にいるらしい。そいつらは隠密行動に優れ、しかも人を食う・・・能力も高いから注意が必要だ。下手したら抜け道を使わずに壁をよじ登り侵入することさえ可能・・・対策をしなければ街の住民に被害が出るぞ」


一気に捲し立て、用事が済んだとばかりに帰ろうとすると全力で引き止められた


「待て!待て待て待て!貴様は何を言っているんだ?敵将をこの娘が?捕虜?豹紋兵?」


お前は無視だ


「あ、アシス!すまないが言葉は理解できるが内容が追いついていかない・・・せめて一つずつ細かく・・・」


「ソルト殿!そこではない!敵将軍ジュモンを討ったとは真か!?もし本当なら・・・とんでもない事をしでかした事になるぞ!」


む・・・し?何?なんで()()()()()?コイツ言葉のチョイスおかしくないか?


「イカロス将軍・・・それはどういう・・・」


「ええい、まどろっこしい!良いか、よく聞け!この戦争はお互いに高め合う為の擬似戦争だ!無論兵は死ぬだろう・・・しかし、それ以上のものをもたらす清き戦争・・・決して傭兵ごときが汚していいものでは無い!」


あー、バカ一名発見


「無知は罪・・・あなた達は私達の言葉を聞き、それを実行していればいいものを・・・残念ですが擁護出来ませんわね」


研いでいた爪をふっと一息で飛ばすと、呆れたように呟く・・・バカ二名に増えました


「すぐにフレーロウに戻り、陛下より陳情を・・・バカの勇み足でこんな事態になるとは・・・やはりここの指揮系統を早目に奪って置くべきだったか」


バカにバカにされた・・・清き戦争って・・・本当にメディアは大丈夫なんか・・・はあ、仕方ない・・・安眠の為だ


「あまりバカを晒してメディアを貶めるなよメディアの将軍。100年に一度起きる大戦争、予定され約束された戦争はナキスの死をもって終わりを告げた。ファラス国王フェード・ロウによってな。『十』を創り上げたロウ家によって『十』の制度は壊され、観察者、調整者はもう居ない。どんなに6ヶ国協定を破ろうと罰する者がいないんだよ。そこで真っ先に動いたのがデニス・・・5ヶ国に囲まれた強国は一手目にメディアを選ぶ・・・それは国王及び王子を立て続けに失い弱っていると判断したから。そして、恐らく次はレグシ・・・それにより版図は大陸の南側全土に拡がり、後顧の憂いなく北側を攻めることが出来るようになる・・・そうした意図を汲めない空っぽの頭なんぞ要らないから晒して次代に譲れよバカ将軍」


「・・・おのれ・・・おのれ!」


「失礼致します!ソルト様!物見より急ぎお耳に入れたき事が!」


俺の言葉に返す言葉なく怒りに震えるイカロスをよそに部屋のドアが乱暴に開けられ、兵士が声を荒らげる


「・・・構わん。その場で申せ」


「はっ!デニス国より更におよそ5万の軍勢が本国に向け出兵されたとの事!指揮官は不明!」


おいおい・・・


「伝令!レグシ国よりおよそ3万の軍勢が首都フレーロウに向けて出兵された模様!デュラス将軍よりイカロス将軍ラトーナ将軍は急ぎフレーロウに戻るようにと!」


「ソルト様!メイカートより救援依頼です!1万の軍勢がメイカートに向け侵攻中との事!至急対応願うとの事!」


立て続けに3人の伝令が矢継ぎ早に言葉を並べる


つまり現在いる5万の敵兵の他に更に9万の敵兵が増えるって事か?・・・いや、メイカート・・・確か東の街か・・・に向かってるのはバラン?なら8万か?


「ば、馬鹿な・・・そんな・・・事が・・・」


怒り心頭だったイカロスが膝から崩れる。ここに居る全員敵の多さに絶望した・・・メディアはどんなに集めても8万前後の兵しかおらずそれを上回る数が四方八方と攻めてくる感覚に陥った


「アムス殿!」


「・・・レグシが友軍の可能性は・・・ないか。不味いのう・・・まさか一気に仕掛けてくるとは・・・しかもレグシが乗じるとは完全に予想外じゃ。デニスだけですら手に余るものを・・・」


およそ1ヶ月後にフレーロウ周辺はデニスとレグシの敵兵で溢れかえる・・・ソルトの呼びかけにジジイは答えるが、眠気は一気に冷めたみたいだな


「ちっ・・・宛が外れたな・・・いや、当然の結果か・・・」


ユニスの呟きに誰も反応しなかった。メディアは風前の灯火・・・誰もがそう思った時、シーラがテーブルの上に置いてある紙に何かを書き始めた


「シーラ?」


呼びかけるも返事はなく、一心不乱に書き続け、終わるとソルトの元へ向かう


「これを・・・お願い」


「これは!・・・しかし・・・」


「お願い・・・それしかメディアが生き残る術はない・・・と思う」


何が書いてあるのか分からないが、ソルトは受け取り目を通すと絶句し目を閉じる。手紙の内容を咀嚼し、否定しようとするがシーラも引き下がらない


長い沈黙の後、ソルトは動き出す。それがシーラの手紙の内容かはともかく、絶望に嘆くのではなく、状況の打開に向けての行動に見えた


「イカロス将軍とラトーナ将軍は急ぎフレーロウに!その後ガーレーンは策を発動しデニス軍の侵攻に耐える!」


惚けていたイカロスとラトーナもデュラスの命令ともあって急ぎ行動を開始する。夜中だが寝ている兵達を叩き起し、フレーロウに戻る為に


「シーラ、何を・・・」


「今は信じて」


何を書いたか聞こうとするも、シーラはただ見つめてそう言った。その目は力強く、その声は何故か懐かしく思えた


「分かった・・・俺は何をすれば良い?」


「あなたはあなたの最善を・・・それがメディアにとって光となる」


おおう・・・指示された方が動きやすいが・・・それなら仕方ない


「ソルト!メイカートへの救援は?」


「無理だ!残る1万はガーレーンの防衛に当たる・・・とても救援には回せない・・・メイカートは武装解除しているから、それを・・・」


「馬鹿ね・・・わざわざ食料調達の為に1万の軍勢を率いて行くと思う?」


「まさか・・・」


「当たり前でしょ?これは戦争なのよ?ガーレーンが攻め落とせれば1番良いけど、無抵抗な街を落とす方が手っ取り早いわ。私でもそうする」


ソルトよりもユニスの方が正しいな・・・何万もの兵士達を野宿させ続ける訳にもいかない・・・なら、どうするか・・・街を奪えば良い・・・


「くっ・・・ならば策の発動を解除して・・・」


「馬鹿を申すな・・・ガーレーン1万の軍勢で何が出来るよう・・・攻め込まれては途端に火の海よ」


ソルトの言葉にジジイが返す。守りに徹すればガーレーンは強固であるが、攻めるには1万では心許ない。相手は何倍もの兵力だしな


「ならば・・・どうすれば・・・」


「逃げるしかあるまいて・・・軍が入り住民がただで済むとは思えん。出せない救援を待たせるよりも、救援は出せんから逃げろと告げた方が動きも軽い・・・」


「確かに・・・そうですね・・・」


ソルトからは守りたいという気持ちが伝わってくる。しかし、現実は到底叶わない・・・それはソルト自身も分かっていたようだ。すぐに手紙をしたため、救援依頼に来た兵士に渡す。そして、同じ内容を鳥文にて送るよう段取る


シーラの書いた内容も気になるが、シーラを信じよう・・・そして、俺は俺の出来ることを・・・絶望を希望に変える為に────


────2時間後


フレーロウ王城内軍議室


そこで行われている軍議はガーレーンに来た急報と同じ内容についてであった。大量の軍勢・・・しかも二方向から同時に攻め入られる未曾有の状況に、ある者は頭を抱え、ある者は考えることすら拒否していた


「レグシはなぜこのタイミングで動く!元々デニスと繋がっていたとしか思えん!」


「デュラス将軍!この戦争は侵略戦争ではないのではないのか!これではまるで・・・」


「ガーレーンは何をしている!?奴らが砦の役割を果たさねば、フレーロウは火の海だぞ!」


好き勝手に叫ぶ将軍達をよそに無言を貫くセーラとデュラス。セーラは今後を思案し、デュラスは思惑の違いに思いを馳せる


「陛下・・・100年戦争の・・・」


「先刻承知。以前より言うておうたと思うが?今回の戦争は以前と違うと。聞き入れぬお主が悪いのではない・・・それを聞き入れさせられぬ我が懐の致すところよ・・・」


ロキニスより100年戦争の真実を聞いていたデュラスは今回の戦争を同じ事の繰り返しと高を括る。全ては予定調和。兵は死ぬが国は滅びない決められた戦争。しかし、現状はその範疇を超えていた


デュラスの言葉を制止し、己の責とセーラは言う。高を括る将軍達を諌め、対策を練っていればと後悔する


「もはや・・・降伏しか道はありません」


デュラスの言葉にその場の全員がどよめく。降伏すれば従属もしくは滅亡・・・300年続いたメディアは終わりを告げる。しかし・・・


「それは無理だ。降伏の道は閉ざされておる」


「何を・・・このままでは!・・・」


「無論、この首で終結するのであれば、すぐにでも・・・だが、デニスが仕掛けてきた理由を思い出せ」


「理由?・・・それは・・・」


「失念したか?奴らは『匿っている王女を出せ』と言うてきておる。匿っていない王女をな。では、降伏するとしたら、何を差し出す?居もしない王女を差し出すか?」


「あ・・・それは・・・」


「降伏とは奴らの条件を飲むことになる・・・つまり、匿っている王女を差し出す以外にないのではないか?降伏して、匿っていないと言えば、嘘をつけと蹂躙が始まる・・・そうは思わぬか?」


「ならば、王女を探し出し・・・」


「デニスが2年も探して見つけられない者を短期間でどう見つける?もしくは既に内々で処理され、居らぬやも知れぬのだぞ?我は奴らが降伏を許さぬという意思表示と認識しておるがのう」


デニスの宣戦布告を聞いた際にセーラは覚悟していた。戦争では勝てないと。そして、相手が降伏を許さない事を理解していた。打開策はない・・・抗う術がない中、それでも抵抗しなくてはならなかった


「二つ・・・取るべき行動がある。一つは全面降伏。これを選択した場合、直ちに武装解除し全てデニスに従う。幹部全ての首を刎ねられようと目の前で愛しき者が犯されようともな・・・」


セーラの言葉に将軍達は想像してしまう。戦勝国であるデニスが敗戦国のメディアにする行いは決して優しくないだろう。ここに居る幹部はもちろん、少しでも抵抗の意思が見えれば、相手の機嫌を損なえば、赤子の手をひねるより簡単に殺される・・・そんな未来を


「なりませぬ!そんな事は・・・絶対に!」


「・・・もう一つは、個に委ねる」


「個に・・・?」


「今までの戦争では調整者がおった。それゆえ滅亡した国はおらん。もちろん戦争を仕掛けた方も仕掛けられた方も滅亡させる気もする気もなかったのは確かだが・・・やり過ぎた時には調整者が入ると聞いている。その調整者・・・『十』はもうない。だが、幸いにも元『十』である3人と『十』に劣らない実力者が味方してくれておる」


「まさか・・・個とは・・・」


「うむ・・・アムス、ラクス、レンカ及びアシスの4人・・・この4人に委ねる」


「バカな!10万を超える軍勢にたった4人で何が!」


「アムス殿は片腕を失っており、残り2人は行方不明・・・それらに委ねるなど・・・」


「下手に坑がえば、心象も悪くなる!ここは自ら従属の意志を持って・・・」


「静まれ!」


セーラの横にいたジュナスが重い思いを口にする将軍達を黙らせる。静まるのを見計らい、セーラが再び口を開く


「圧倒的戦力差、それに対抗出来る術がない時点の苦肉の策・・・そう思われるのは仕方がない。しかし、思い返してみよ。先の合戦で不利な状況を、アシスという個の力で勝利に導いた事を!ラクード、そちは見たのではないか?戦場で!アシスの力を!」


全ての目線がラクードに集まる。対してラクードは目を閉じ先の戦場を思い出していた


千を超える矢を弾き飛ばし、二人の将軍を瞬く間に撃破した青年は実在し、軍の窮地を救った事を


「確かに・・・陛下の仰る通り、我らが軍を率いてデニスとレグシに対抗するよりは・・・しかし、数が・・・数が違い過ぎます!」


「先刻・・・ガーレーンより報告が入った。イカロス将軍とラトーナ将軍をこちらに戻す事・・・そして、アシスらが単独でデニス国将軍ジュモンを討ったという報告だ」


その言葉に誰かが唾を飲み込み喉を鳴らす。単独で3万の軍を退け、また勇将で名高いジュモンを討つ・・・それがセーラの言葉に現実味を帯び、希望を見出す


セーラは報告を受け、即座に伝えず、タイミングを見計らっていた。報告にはシーラがジュモンをと記されていたが、より効果的になるようアシスらと濁す。その効果か将軍達の顔色は徐々に明るさを戻していた


「それが本当なら・・・僅かながら希望も・・・」


「こちらには『軍神』に『大剣』・・・『飛槍』もいる!そして、新たな協力者アシス!」


「アシス殿はナキス様と知己を結んだほど・・・それに阿家家主である事は周知の事実・・・そうなれば・・・」


各々思いを口にする将軍達。しかし、異を唱える者がいた


「確かに個に委ねる他ないかもしれませぬ。しかし、『大剣』と『飛槍』は行方が知れず、『戦神』も万全ではありますまい。たった1人で何が・・・」


「ラクスとレンカの場所は把握しておる。既に救援は依頼した。我らが出来ることは・・・篭城し民を守る事!メイカートへは街を明け渡すよう通達した。ガーレーンは難攻不落・・・後はこのフレーロウを・・・敵国デニス及びレグシから守るのだ!」


「「「はっ!」」」


「・・・そうと決まれば編成を見直すぞ!千人長を集め・・・おい、聞いておるのか!?」


「は、はっ!」


セーラの言葉で昂る将軍達。変化があったのはデュラスに対して。デュラスの言葉に対する反応が薄く、デュラスの求心力が弱まった事を伺わせた


将軍達が慌てて軍議室を出て守備の打ち合わせをしに出て行く。残されたセーラはテーブルに突っ伏し、大きく息を吐く


「災い転じて福となす・・・となれば良いのですが・・・」


ジェイスがセーラの横に立ち、危機的状況にも関わらずそう口にしたのには訳がある。昨今セーラの求心力は地に落ち、ほとんどの将軍達がデュラスの言いなりとなっていた。それを間近で見ていたジェイスは辛抱たまらず思わず口にしてしまったのだ


「滅多な事を言うでない・・・全てが上手くいったその時は勝利の美酒もさぞ美味かろう。だが、今は・・・耐えて信じるのみ・・・兄の残してくれた友を頼るのみ・・・歯痒いがそれしか出来ぬ我はなんと小さき事よ」


「何をおっしゃいます!セーラ陛下はご立派にロウ家としてメディアを支えております!」


「ロウ家として・・・か」




この日、メディア国王セーラ・ロウは4人の人物に国を託す


『戦神』アムス


『大剣』ラクス


『飛槍』レンカ


『鬼神』アシス


以上4名はメディアにおいて特別な地位につく


その地位は国王に次ぐものとされ、軍総司令と同列となる


メディア国国王直属特別太守四大護国者────通称『守護者』


メディア国国王セーラ・ロウによりメディア国全土に即時発令された


────


メディア国レグシ側の門より出て北に位置する森・・・その奥に樹齢100年以上の大木があり、その大木の前にいつの間にか建てられていた建物があった


「今日は凄いぞ!2メートル超すイノシシだ!」


「・・・うん」


「たまには野菜も取らないとな・・・まあ、この前の毒草には参ったが」


「・・・うん」


「はあ・・・お前がその調子だと俺も調子狂うし何より・・・なあ?」


「・・・うん」


ラクスが語りかけてもアークは生返事しか返して来ない。その傍らにいるアイリンなど目も合わせてはくれなかった


2年前の悲劇・・・ナキスは殺され、アシスとシーラは崖下へ。そして、もう1人・・・アイリンもまたひどい後遺症と戦っていた


ウカイの八虎をその身に受け、流す予定が流し切れずに一部は地面に、残りは体内を駆け巡った。至る所から血を吐き出すアイリンの体内はズタボロ・・・骨は砕かれ、内蔵は損傷・・・生きている事が奇跡と思える状態だった


アークが献身的に力を巡らせ、回復の兆しは見せるものの、未だ話す事すら出来ない状態。アーク曰く身体的損傷は回復したが、何らかしらの影響によりアイリンは以前の状態に戻れずにいた


まるで感情のない人形のようになってしまった母を連れ、色々な者に相談するも返ってくる言葉は全て原因不明。そんな2人を見捨てる事は出来ず、ラクスも行動を共にしてきた


人がダメなら場所を変える事で何か起こると信じ、色々な場所へ赴くと、この森を訪れた時に変化が起こる。アークがおんぶしこの地を訪れるとアイリンの手に力がこもる。アークの肩に置かれていただけの手が、力なくだが微かに肩を掴んだのだ


ここはウカイとの決戦前、兄であるアシスと修行した場所


その思い出がアイリンに少なからず作用した


アークとラクスはここに家を建て、生活を始める


徐々にだが回復の兆しが見えたが、劇的な進展はなく、今も尚表情は虚ろなままであった


そうして長い間アイリンの面倒を献身的に見ていたアークにも影響が出始める。常に共に居た母の状況・・・いつ終わるとも知れぬ日々に、言葉数は日に日に減り、今では返事するのが精一杯な状態まで悪化する


「一度・・・街に戻るか・・・」


ラクスがそう呟くと、遠くから人と馬の気配が近付いてくる。ここにはたまに狩人が来るくらいで、滅多に人は来ない。セーラの使いが一度来たが、事情を話し引き取ってもらった


「セーラ様の使いか?」


ラクスは立ち上がると、来たる人物を迎えるべく外に出た


馬はラクスの目の前で止まり嘶くと、馬に乗った人物がすぐさま下馬し膝をつく


「失礼致しました!『大剣』ラクス殿とお見受け致します!陛下より書状を預かり訪ねた次第・・・どうかお受け取り下さい」


「ああ、ご苦労。行っていいぞ」


「いえ、その場でお読み頂き、返事を貰ってくるよう命令されて来ました!何卒・・・」


書状を持って来た兵士は目を血ばらせて、呼吸を荒くしながらラクスに頼み込む


その様子から書状の内容を察した


今年はロウ歴300年────100年戦争の年である。十中八九救援依頼と当たりをつけ、家の中に入るよう即す


それに従い馬を木に繋ぎ、共に家に入る


「・・・どうしたの?」


「メディアからの使者だ。一旦街に戻ることになりそうだ」


聞いてきたアークに答えて、兵士に座るよう即す。兵士はそれを断り、早く読めと言いたげに直立不動でラクスを見つめていた


「ふう・・・どれどれ」


ラクスは封を開け、ざっと目を通す。そして、予想を超えた内容に目を見開き、手紙を握りしめる


「・・・本当か?」


「手紙の内容は知らされておりません。しかし、大軍に囲まれ、我が国が窮地である事・・・そして、打開策がない事が記されているのでしたら、それは真実です」


「・・・そうか。この・・・国王直属うんちゃらの4人の内の1人・・・アシスってのは、あのアシスか?」


「あの・・・が何を指されているか分かりかねますが、阿家家主であるとの事・・・」


「母様!?」


ラクスと兵士の会話に反応したアイリンがラクスに手を伸ばす・・・いや、正しくはラクスの持っている手紙に。いくら声をかけても反応がなかったアイリンが食事以外で自ら動くのは2年ぶり・・・表情にも微かに変化があるように思えた


「ここに来て回復の兆しが見えた時点で薄々感じていたが・・・やはりアシスか」


身体は治ったにも関わらず、原因不明の状態はアシスが起因しているのではないか・・・そうラクスは考えていたが、2人を置いて行方の分からぬ・・・生死すら不明のアシスを探しになど行けなかった


アイリンの手に手紙を渡すと、引き寄せて胸に抱く。手紙は音を立てクシャクシャとなるが、それを気にした様子もなく目から涙を流し、その目は遠くを見つめていた


「・・・フレーロウに戻ろう・・・アイリンの為にもな」


「うん!」


今までの生返事と違い、母の反応がアークに普段の活発さを取り戻させていた


「表の馬をお使い下さい。伝令用の馬の為、3人ほどなら何とか・・・」


「助かる!」


「僕は走るよ!ラクスと母様が乗って!・・・久しぶりに・・・体を動かしたい気分なんだ」


「・・・遅れても待たんぞ?」


「王城前で待ってるよ!じゃあ、先に行くね!」


「お、おい、準備とか・・・」


ラクスの制止を聞かず、アークはすぐさま家を飛び出す。まるで追いかけっこをする子供のようにはしゃぎながら・・・


「ったく・・・馬を借りて大丈夫か?」


「もちろんです!代わりに・・・国を・・・国を頼みます」


「ああ・・・案ずるな。役目は果たすさ」


ラクスは立ち上がり、アイリンを固定する紐を手に取り、大剣を背負う。アイリンを馬に乗せ、その後ろに乗ると紐で固定し一気に駆け出した


「アイリン・・・息子は・・・アシスは戻って来たぞ!後はお前が戻って来るだけだ!」


大事そうに抱えている手紙に更に力が加わった事が伝わってきた。アシスに会えば何かが変わる・・・そう信じて馬を走らせた




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ