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4章5 合流

雨は止んだようだ。窓から見える外は雨雲が去ったのに暗くなっている。陽は落ちて、いつの間にか夜になっていたようだ


小屋の扉を開け、外に出ると少し離れた場所で1人の男が背を向けて立っていた。その足元は死屍累々たる有様・・・中には見知った女将軍のものもある


体からは蒸気が立ち込め、暗闇の中で淡く光って見える。その立ち姿は地獄の番人・・・俺にとっては天国の番人か・・・いずれにせよ感じた懐かしい気配はやはりこの男だったか


「リオン!」


俺が声を掛けるとゆっくりと振り向く。懐かしいその顔は2年前より少し大人びていた。血と汗と雨でグシャグシャになり、それでも笑顔で俺を迎えてくれた


「人をいくら倒しても人王は現れぬか・・・」


「それで現れたら楽なんだがな。意外と根に持ってるのか?」


「まさか。ほれ・・・忘れ物だ」


見慣れた剣をこちらに向けて差し出す。ジュモンとの戦いの際に落としてしまった俺の剣・・・受け取り鞘に収める


「剣は剣士の魂・・・もう忘れるなよ」


「肝に銘じる・・・」


一度起きた時、懐かしい気配を感じてすぐに消えた・・・気のせいかと思ったが、今目の前にいる・・・不味い・・・涙が出そうだ


「どうしてここに?」


「ギルドの伝達を聞いてな・・・それでガーレーンに行くとお前とシーラが戦場に出たって聞いて駆けつけてみれば・・・お前らを追うこいつらに遭遇したって訳だ」


「リオンにしては随分間が良いじゃないか」


「何を言ってる。俺はいつでも間は・・・」


「悪いわよ!」


背後から声が聞こえた。後ろには小屋にいるシーラしか居ないはず・・・と思い振り向くと・・・居た・・・何故か小屋の上に居た。しかも不機嫌そうにこちらを睨みつけている


「シ、シーリス・・・久しぶり・・・」


「アンタ・・・やったわね・・・」


俺の背中は冷や汗でびっしょりだ・・・半乾きの服が更に湿るのが分かる。リオンは訳が分からず首を傾げているが、そのまま理解せんでよろしい


「私達が敵と戦ってる時に・・・」


「ほとんど俺が相手してたが・・・」


「お黙り!」


シーリスの怒鳴り声の後、扉が開き中からマントを羽織ったシーラが眠気まなこで出てきた・・・おおう、間が悪いよ、お姫様


「アシ・・・ス?あれ?リオン?」


目を擦りながらリオンを見て、再度擦り幻覚じゃないか確かめている。すると、シュッタと音を立ててシーリスが小屋の上から降りると一目散に室内へ・・・


「あ・・・え?姉さん?ちょ・・・ちょっと!」


「ノーーーーーー!」


小屋の中からシーリスの雄叫びが聞こえる・・・その声は静寂に包まれた森を切り裂くほど大きく、寝ていたであろう鳥達が一斉に飛び立つほどだった・・・何を見て叫んだのか・・・理解出来たが、あえて何も言うまい・・・


「な・・・一体何が・・・」


リオンがシーリスの叫び声を聞き、狼狽する横で、さあ、何でしょうねー・・・と遠い目をしながら言い訳を考える。ジュモンに殴られた頭の傷が開いて血が・・・よし、これでいこう。ワタワタ慌てるシーラを見て、あら可愛いと現実逃避するのであった────




小屋の中に全員入り、久しぶりに顔を合わせる。4人揃うのはあの時以来だ。シーツを切り裂き、顔を拭くリオンに、シーツの1箇所を慌てて隠すシーラ・・・それを微笑ましく見る俺と般若の如き面で俺を見るシーリス・・・息が苦しい・・・


改まって2人に感謝の言葉を述べ、再会を喜んだ


「ハア・・・まあ、いずれはこうなると分かってたから良いけど・・・時と場合を選びなさいよ・・・シーラ・・・コレは意外と優良物件だから、手放さないようにね」


「ちょ・・・ちょっと、姉さん!」


はい、意外と優良物件です


「アシス!泣かせたら承知しないわよ!」


「はい!義姉さん!」


「誰が義姉じゃボケェ~」


般若だ・・・般若がおる


「まあまあ、よく分からんが、シーリスもそんな顔・・・いや、本当に怖いな!・・・とりあえず、現状をまとめよう」


リオンの場合はすっとぼけなのか天然なのか分からないが、とりあえずお互いに現状の報告をすることになった


俺らは2年前のテラスに流れ着いてから今までの話。そして、シーリス達から同じ時に何をしていたかの話を聞く


俺らが崖から落ちた後、シーリスとリオンは俺らを探しに行く準備をしていた時、ジジイから無事である事を伝え聞く。ナタリーさんが鳥文をジジイに送ったと言ってたからな。それで迎えに行くかどうか決めかねている時に、リオンから『二対の羽』の面々を探しに行こうという提案が出た。リオンは2番隊隊長だったし、シーリスも6番隊の副隊長だ。シーリスはさほど思い入れはなかったが、リオンは2番隊が気になっていたらしい


シーリスが渋々了承した後、2人は主に西側で捜索に入る。ギルドから討伐依頼も出ていたので、街には居られない・・・そうなると森の中や、小さい村を渡り歩く他ないと判断し、森や村を虱潰しに探した


逃げる団員、探すリオン達、追う傭兵・・・三者が入り交じり、余計に捜索を難しくさせていたが、ある村で1人に出会うと後は芋づる式に見つける事が出来たが、それからが大変だったらしい。普通の生活はまず送れず、森の中や懇意にしてくれる村だけの生活・・・リオンとシーリスが街に買い出しに行き、何とか生活していたが、1人また1人と離脱していき、最終的には50名の者が現在一緒に居るらしい


「その中に・・・カイトは居たか?」


「カイト?・・・いや、俺らが見つけたあの中には居なかった。途中ではぐれたか軍に殺られたか・・・」


「そうか・・・実は・・・」


俺はさっきあった出来事を2人に話す。カイトの裏切り・・・そして、正体・・・2人もそれなりに交流はあったので驚きを隠せない様子だった


「ちょっと・・・それじゃあ、まだあの中にも裏切り者が居るかも知れないって事じゃない」


「・・・隊長2人・・・ハリマダとエリモが裏切り者・・・いや、裏切りではないのか・・・グロウが元々ナキスに近付くのが目的で『二対の羽』を結成したのだったら・・・」


「そうね・・・裏切りではないわね。ややこしいからファラスの奴らでいいんじゃない?」


「そうだな。えっと、ハリマダとエリモがファラス勢で、カイトも同じく・・・つまり俺らが加入する前の3人の隊長がファラス勢だったって事か」


後は1番隊のロリーナと3番隊のダルムト・・・それにメンスか


「メンスもロリーナもダルムトも一緒に居たわ。別に変わった様子はなかったけど・・・カイトも逃げる前は普通だったし何とも言えないわね・・・」


「アシスには悪い知らせだが、お前の6番隊の双子の女の子と弓の男の子はファラス側だぞ。フェードと共に逃げるのを何人か見ている」


「・・・そうか・・・」


「・・・」


リオンの話を聞き、シーラは無言で目を閉じ眉をひそめた。寝食を共にした仲だ・・・少なからず仲間意識は持っていた。まさかキャキュロンと・・・弓の男の子?


「弓の男の子ってクピトか?」


「んー、確かそんなような名前だったかな?」


「クピトよ」


リオンが曖昧な返事をすると、シーリスが横から断言する。てか、男の子って・・・


「クピトはああ見えて最年長だぞ。俺らの倍は生きてる」


「・・・ウソだろ!何度か見かけたが、双子の女の子と同じくらいかと・・・」


「ちなみに双子の女の子も俺より歳上だ」


「・・・ありえん・・・」


絶句しているリオンは置いといて・・・まさかあの二人とクピトが・・・


「シーリス・・・デクノスとエーレーンは?他の6番隊は?」


「デクノスとエーレーンは一緒に居るわ。他の6番隊は数名はいるけど、後は・・・」


デクノスとエーレーンは無事か・・・でもどうしてもファラスの影がチラつく・・・どうにか見分ける術はないものか・・・


「今ガーレーンにいる中にファラス勢が居たら大変ね・・・内部から何かされかねない・・・かと言って誰がっていうのも何とも言えないし・・・」


シーリスも同じ事を考えていた。何か印とかあれば分かりやすいんだが・・・


「ねえ・・・カイトの言葉で疑問に思ったんだけど・・・」


考えているとシーラが喋り出す。カイトの言葉とは、ジュモンとの戦いの時の言葉か・・・


「カイトはこう言っていたの・・・『父の身を案じるのも子の役目』って。最初はアシスを助けようとしたけど、アシスが強過ぎるからって・・・その父って誰?」


うん?カイトはカイト・ロウと名乗ってたし、グロウは確か偽名でフェード・ロウだっけか。だから、カイトはフェードの・・・息子?


「おかしいぞ・・・グロウ・・・フェードが国王なら、カイトはフェードの息子・・・でも見た目は同じくらいだろ?そんなの有り得るか?」


どうなってんだ?カイトくらいの子供がいるようには全く見えない・・・クピト・・・キャキュロン・・・まさか・・・


「ロウ家って歳を取らない?」


シーラが有り得ない事を口にする。でも・・・それ以外で説明がつかない・・・


「なら、ナキス王子の父親・・・前国王のロキニスはどうなるのよ?見たけど爺さんだったじゃない」


「そう・・・よね」


「だけど、ナキスも若く見えた。セーラは年相応って感じだが・・・」


「ファラスが・・・特別?」


ナキスがただの若作りで、ファラスだけが特別なのか・・・ロウ家全体が特別なのか・・・あっ!


「なあ、ナキスがよく『見る』って言葉を使って、相手の目を『見る』と相手を見透す事が出来るみたいな事を言ってた・・・そんな事出来る奴って他にいるか?」


「聞いた事ないわね」


「私も・・・知らない」


「いるぞ」


シーリスとシーラが首を振るが、意外な奴が知っていた


「リオン、誰だ?」


「ファラス国王フェード・ロウ」


これまた意外な人物の名が・・・


「何故知ってる?」


「言ってなかったか?俺はファラス国出身だ。ファラスで過ごしている時、幾度となく話に聞いた。『王は人の心を見透かす』と」


そりゃ、初耳だ・・・シーラとシーリスはデニスだし、俺はメディア?リオンがファラス出身とは・・・。それよりも、フェードは見透かす力があった・・・そして、ナキスの力も知っていた・・・だから、目を閉じ対策していた?


「そう考えるとファラスが特別じゃなくて、ロウ家全体が特別って事になるわね。老いず見透す力を持つ一族・・・セーラ女王もこれから歳を取らなくなるのかしら?」


うーん、確かにある程度は歳を取ってから老いなくならないと赤子のままになっちゃうしな・・・ナキスの親父は?うわー、堂々巡りだ


「手っ取り早いのは本人に確認する事か・・・セーラに聞いてみるか・・・そうだ!ついでに見透す力?があれば傭兵団の中のファラス勢も分かるんじゃないか?」


「バカ言わないで・・・敵国の間者がいるかも知れないのに、女王の前に連れて行ける訳ないでしょ?ただでさえファラスは鬼門なのに・・・」


そっか・・・そりゃあそうだよな。ファラス国王のフェードに兄であるナキスを殺されてるんだ・・・連れて行ける訳ないか


「そうなると・・・フレーロウにも連れて行けないよな・・・俺らが間者を手引きする形になっちゃうし・・・」


「そうね・・・ハッキリするまでは避けた方が良さそうね・・・誰かその見透す力ってやつを持っている人がいれば良いんだけど・・・」


せっかく無罪放免になっても、カイトみたいな奴が出てこないとも限らない・・・誰かいないか・・・誰か・・・


「ねえアシス・・・レンカさんって見た目凄い若いよね・・・」


「レンカ?・・・ああ、フェードの母親代わりとか言ってる割には・・・あっ!」


そうだ・・・レンカ・・・確かギルドで初めてあった時・・・俺を見て何かに気付きいきなり去って行ったなあ・・・もしそれが見透す力で何かを見て気付き去ったのなら・・・見た目も若いのは老いないから・・・だがレンカはロウ家じゃないぞ?


「どこかの王の隠し子・・・とか?」


「それだ!」


なんかシーラが冴えまくってる・・・そうだ・・・誰の子だ?いや、この際誰の隠し子かは問題じゃない・・・レンカが見透す力があれば、傭兵団を見てもらえば良い・・・レンカならやられはしないだろうし、うってつけだ


「で、そのレンカはどこにいるんだ?」


「・・・」


リオンの言葉に皆言葉を失う。そういや見かけてないな・・・メディアにいないのか?


「アムス・・・さんの話なら、レンカとラクスはメディアに付いたって話しよ。だから、メディアにいると思うけど・・・隠し子とか出生はどうでもいいけど、本当に力があるのか・・・王族じゃないロウ家って聞いた事ないのよね・・・」


うーん、ジジイに聞くのが早そうだ。とりあえず、傭兵団の事は目処がついた。後は現状をどうするかだな・・・


「ジジイにレンカの居場所を聞くとして、本題に入るか・・・正面の戦闘はどうなってるか知ってるか?」


戦闘の始まった音は聞いた


策の内容は戦闘にならないようにする為だったが、イカロスって奴のせいで・・・やるなら1人でやれよな・・・兵士を巻き込むなって話だ


「私達が出た時はメディア軍が押されていたわね。壁上からの弓の援護で何とか保ってる感じだったわね・・・雨も強くなったし、視界も悪かったから、言葉通りの泥仕合にでもなってたんじゃないかしら?」


そうなると1日目、中央は一進一退か?反対側に行った軍はどうなったろう・・・うーん、とりあえずガーレーンに戻った方が良さそうだな


「情報を持ち帰る意味でも一旦ガーレーンに戻ろう。出来ればあの豹紋兵って奴らの情報がもっと欲しかったが・・・」


ある程度の実力があれば問題ないが、あれは危険だ。気配を殺すのが上手いし、身軽だし、何より人を食う・・・下手したら逃げ惑う兵士すら出そうだ


「情報が知りたければ、表にいる女兵士に聞いたらどうだ?やたら偉そうだったし、それなりの地位だと思うが」


は?表にいるって・・・女将軍?


「いやだって・・・お前が・・・」


「殺してないぞ?打ち所が悪くて死んでしまった奴もいるかもしれないが、ほとんど気絶しているだけだぞ?」


「な、なんで・・・」


「そりゃあお前・・・」


「久しぶりの実戦・・・何度も戦いたくて手加減してたのよ。倒して起こして倒して起こして・・・体のいい拷問ね」


「いや、それは・・・」


「どうした?かかってこい!もうへばったのか?まだだ!まだ戦えるぞ!ほら、今だ!俺は隙だらけだ!・・・私の拷問が裸足で逃げ出すわ」


鬼畜だ・・・気絶しているだけとはとても思えん。精神やられてないだろうか。泣きながら剣を振るうデニス軍を想像して同情しながらも、表に出て女将軍を小屋に連れてくる。雨で湿った感じが少しいやら・・・


「へぇー」


シーラさん・・・そんな目で目ないでください


女将軍をベッドに寝かせ、起きるのを待つ間ガーレーンに戻ってからの事を話し合う


ジュモンがいなくなった今、主要の将軍は後2人・・・と思いたいが、この女将軍みたいに副官として来ているかも知れない・・・そうなるとまた三軍に分かれたりする可能性もあるし、このまま二軍で行動する事もあるだろうな


あーだこーだ話していると、モゾモゾとベッドの上で動く女将軍


ようやくお目覚めかと振り向いたら目が合った


「なっ・・・鬼神!?くっ!」


女将軍は飛び起きて身構えるが、体中に痛みが走ったのか、苦悶の表情を浮かべ、ベッドの奥に降りて片膝をつく・・・ん?キジン?よく分からんが、かなり憔悴し切ってる感じだ


リオンのイジメのせいだな


「そう警戒するなよ・・・とって食ったりしないから」


「・・・もう動けるのだな」


麻痺の効果は完全に切れている。コイツとしては麻痺の効果中に俺を殺したかったんだろうな


「まあな。それよりも話を聞きたい」


「話?話すことなどない!」


「そっちになくてもこっちにはあるんだ。まー、座れよ」


「断る!」


馴れ合うつもりはないってところか。そりゃ、そうか。敵国同士だしな


「じゃあ、交換条件だ。聞いた事に答えてくれたら逃がしてあげよう」


「ちょっと!アシス!」


シーリスが驚き咎めるが、問題ないだろ・・・逃がしても


「そんな戯言信じると思うか?」


「え?だって逃げてどこ行く?デニスに帰るか?また椅子になるのか?」


「ぐっ・・・」


「お前が取るべき道はそう多くはないが、デニスに戻るのは悪手だろ?1回の失敗で椅子だ・・・度重なる失敗で何になるつもりだ?」


「それは・・・お前のせいで・・・」


拳を握りワナワナと震える女将軍


さて、いじめるのはこれくらいにしとくか


「なんならセーラ・・・メディア国王に口利きしても良い。メディアの将軍は無理でも、情報によっては無罪放免となるやもしれん」


「無罪放免?亡国の王がそう決めたからと言って何になる?」


「亡国?今回の戦争で滅びるのはメディアだと?」


「そうだ!お前はデニスを知らない!」


「初戦は勝ったぞ?」


「あれはお前が余計な事をしたから!」


「まだ俺はいるぞ?そして、デニスは逆にジュモンがいなくなったぞ?」


「まだこちらにはジュラク将軍がいる!そして、バラン将軍も!」


バラン?バラン・・・なんか聞いた事があるような・・・ないような


「元『十』の『暴君』バラン・・・デニスにいたか」


さすが強者マニア。よく知ってる。『暴君』か・・・なんかヤバそうだな


「たとえ『鬼神』のお前でも、『魔棍』ジュラクと『暴君』バランには勝てまい」


「・・・さっきからキジンとか言ってるが、なんだよそれ」


「先の戦場で一太刀で将軍達を斬り伏せるその姿を見て、兵士達の間で囁かれ恐れられていた・・・鬼神と」


・・・え?何を勝手に・・・


「鬼の神で鬼神ね・・・アシスにピッタリじゃない・・・元『鬼の16歳』だし」


「ううむ・・・羨ましいな。俺も二つ名を付けてもらいたい」


シーラが嫌味ったらしく、リオンが見当ハズレの事を言い、シーリスが大爆笑・・・そういうのって自分で名乗ったりすんじゃないの?


「断固拒否する!鬼神なんて・・・せめて龍の型から『龍神』とか・・・」


「無理ね・・・ぷっ・・・一つの戦場で勇名を馳せると大陸中に知れ渡るわ・・・昔の人で戦場で剣が折れた後に木の枝で戦い生還した将軍なんかは『小枝』よ。その将軍はかなり強かったらしいのに、『小枝』は生涯変わらなかったらしいわ」


枝拾って戦わないようにしよう・・・くっ、お前があの『小枝』のアシス!とか相手に言われたら笑ってしまいそうだ


「『双剣』はありきたりか・・・『羅刹』・・・しっくりくるな・・・」


ブツブツ言ってるリオンはさておき、勝手に付けられた二つ名は風化してくれる事を祈りながら話の続きをしよう


「ゴホン・・・えー、そっちがその2人ならこっちには『戦神』アムスに『大剣』ラクス・・・それに・・・レンカがいる」


レンカの二つ名なんだっけ?


「『戦神』『大剣』『飛槍』・・・やはり隠していたか。それならば・・・いや、しかし・・・」


そうそう、『飛槍』だ。まあ、2人ほど行方不明だが・・・もう一押しか


「ガーレーンには必勝の策があるし、余裕もある。だが、より確実な勝利にはお前の情報が必要だ。協力してくれないか?」


これでダメなら諦めるか。メディアは情報収集能力が低すぎる。ナキスがいる時とは違い、誰も情報の有用性に気付いてないのか?いや、戦争がただのごっこと思ってるから本気になってないのか・・・


「・・・いいだろう。私も戻れないのは分かっていた。我が国が勝つと思っていたから逃げても・・・もし、私の情報でメディアが勝つ確率が上がるなら・・・」


「交渉成立だ。任せておけ・・・負ける気は毛頭ない。でだ、まず聞きたいのは豹紋兵。あれはなんだ?で、何人いる?」


「そこに目をつけたのはさすがだな・・・豹紋兵・・・あれは戦局を数名で変えることの出来る者達・・・デニスにある秘境の森に住む狩猟民族よ」


曰く人里離れた場所に住み、言語も怪しいが狩りに特化している。気配を完全に消し、殺気も抑えることにより気付かれること無く獲物に近付き、動物はもちろん人をも食らう集団・・・体の豹紋柄は何かを食べた際に浮き出た痣で体内に毒を持つという・・・それゆえ共食いは起きないのだとか


「ザマット陛下が手懐け、総勢200名の内、90名を連れて来ている。各将軍に30名ずつ・・・だが、バラン将軍が連れて行くのを拒否したらしく、ジュラク将軍の元に後60名いる」


あれが60か・・・厄介だな。あの身体能力なら気付かれず外壁を登ることさえ出来そうだ。気付かない間にアレが街の中に・・・そう考えるとゾッとする


てか、デニスって広いだけあって色々いるな・・・『カムイ』、吽家、そして、豹紋兵か・・・探せばまだいるんじゃないか?


「正直我が国はメディアを舐めている・・・ただの大陸統一への足がかり・・・最終的には南側を統一して、北を統一した国との決戦を見据えているからな。今回の遠征も前回の遠征で疲弊した兵がほとんどだ。それに2万の軍勢を追加し攻めている・・・通常ならありえん」


「なるほど・・・編成はどうなっている?混成か?」


「いや、単純に既存の3万をジュラク将軍が。新規の2万を二つに分けてジュモンとバラン将軍が受け持っている・・・まあ、ジュモンの軍はジュラク将軍に引き継がれるだろうが」


そうなると・・・中央は捨石か?2連続の遠征で能力も発揮できないだろうし・・・ジュモンは俺を探していたみたいな事を言っていたから、アッチの主戦力はバラン?


「バランはどこに向かっている?単純に迂回して挟撃狙いか?」


「分からん・・・作戦会議には出席出来なかったからな。ガーレーンの攻め難きは知っているみたいだから、何かの策だとは思うが・・・」


ガーレーンは首都フレーロウと目と鼻の先・・・落とされて拠点にでもされたら目も当てられない。だから、落としにくいよう街道を細くして、大軍が一斉にかかってこれないようにしている・・・しかし・・・


「豹紋兵が内部に入り込み、街を中から崩されたら堪らんな」


リオンの言葉通りそこが気がかりだ。街中には今も住民がたくさんいる・・・そこに無差別に攻撃してくる食人族なんか入った日にはパニックが起こるぞ


正面・・・もしくはバランさえ囮で、本命は豹紋兵による内部からの崩し・・・なんて事も考えられるか・・・


「豹紋兵は能力に優れている分、細かい指示には向かないわ。食らえ、殺せ、捕らえろ・・・そういう単純な命令以外になると受け付けないわ」


あー、そう言えば戦ってる時に豹紋兵同士で重なったりと間抜けな面があったな・・・だが、逆を言えば命令しちゃえば止める者がいなければやりたい放題か・・・やはり危険だ


「一度この情報は持ち帰るべきだな。ガーレーンで対策する必要がある。それと・・・」


俺は女将軍を見た。まだ聞ききれてたい情報もあるだろうし、捕虜として連れ帰った方が良いか・・・本人が逃げたければ、それでも良いが・・・


「お前・・・はどうする?」


そう言えば、名前なんだっけ?聞いた覚えはあるが、忘れてしまった・・・女将軍、椅子将軍・・・なんて言ったら怒るだろうな


「ユニスだ。コレでもデニスでは『首切り』ユニスとして有名だったんだぞ。主に傭兵時代だがな・・・逃げろと言われても宛がない。無罪放免の約束を守るなら一時的に捕虜になるのもやぶさかでないが・・・拷問と肉奴隷だけは勘弁だ」


にく・・・?


「性的な目的の奴隷って意味よ。奴隷制度が廃止され、今では失われた汚点よね・・・歴史上の」


シーリスが眼光鋭く解説してくれた。肉奴隷って凄い言葉だな


「別に・・・アンタが囲ってくれるなら、肉奴隷でも構わないがな」


なに!?いや、待て・・・別に興味を持った訳では無い・・・姉妹2人で般若はやめてくれ


「そ、そんな事する訳ないだろ?何を言って・・・」


「その割には顔真っ赤じゃない?もしかして・・・想像しちゃった?」


ユニスが少し上目遣いで妖艶に笑う・・・馬鹿な事を言うな・・・こっちには般若が2人も居るのに・・・


「へー・・・興味あるんだ?」


「男なんて所詮そんなもんよ。どうせシーラの体が目的なのよ」


へ、ヘルプ!リオンさん!


「ん?囲うのか?俺は反対せぬが」


てめぇー!火に油を注ぐスタイルを地でいくんじゃねぇー!


「肉奴隷に興味もないし、囲いもせん!良いからさっさとガーレーンに戻るぞ!」


「へぇー・・・ソウデスカ」


「気をつけなさい。口ではああ言ってるけど興味アリアリよ!シーラの目を盗んで・・・」


「肉奴隷にするならちゃんと囲わないといかんぞ?」


うるさーい!と怒鳴りたい気持ちを抑え、軽蔑の眼差し二つと真剣な眼差し・・・更には悪戯な眼差しを一心に受けて、早くガーレーンに向けて出発するように働きかける


こうしてガーレーン防衛戦の1日目が終了した








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