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4章3 捲土重来

セーラが去った後、シーラに何を話したのか聞いてみたが一言「内緒」と言われて有耶無耶にされた。結婚の話もどうなったか分からないし、シーラは何故か晴れやかな顔してるし・・・謎は深まるばかりだ


そして、夜・・・共に行動して来たが、同じ部屋で寝るのは初めての俺とシーラ・・・が、布団に入った瞬間に寝息を立てるシーラを見て少し残念な気持ちと助かったという気持ちが入り交じり呆気なく初日を終えた


次の日の朝、早目に寝たのに寝不足そうなシーラを連れてギルドに向かい『二対の羽』の消息を探る


セーラが既に追放と討伐のお触れを解除していた為、これからは追われることはないと思うが、他のギルドへの通達は遅れる為、それまでの間に捕まったりしない事を祈るしか無かった


これまでで捕まったり討伐されたりした者は2人・・・あの場で殺されたのが8人・・・合計10名が命を落とした。その中でグロウに与したのは何人か知る由もない・・・何人がグロウと共に行動し何人が散り散りになったのかも分からない


ただ散り散りになった面々が無事であり、追放と討伐の解除を知りさえすればまた会えると信じるしかなかった


特に新しい情報は得られずに、ギルドにあるお願いをして後にする。次の目的地は『カムイ』のメディア拠点


グリムのヘタレが行かないので、仕方なくシーラの案内で訪れると迎えたのはヨングという男。シーラを見て驚いていたが、その後は淡々と現状を話してくれた


曰くシーリスの行方は『カムイ』も掴めていない。『カムイ』は別の依頼を受けている為、アムス暗殺は休止中・・・中止ではなく休止なのは期限が設けられていない為らしいが、本当の事は分からないらしい。グリム達の処遇は死んだ扱いになってるから別に狙うことも無いと言っていた・・・残念


最後にシーラの事を首領に知らせていいかと尋ねられて良いと返事をする。敵対するなら蹴散らすだけだし、もしかしたらシーリスに伝わるかもしれないと思ったからだ。恐らくシーリスはリオンと行動してるのでは・・・そう考えている。あの二人・・・意外と仲が良いからな


得られる情報はこれが全て・・・結局は何も分からず・・・といったところか


これからすべきを考えようとしていた矢先、道を歩いていると兵士が俺に向かって走って来る。そして、目の前で立ち止まり、息を整えた後に跪く・・・え?なにこれ


「女王陛下よりアシス様にと・・・」


兵士は手紙を渡してきた後、敬礼して去って行く


受け取った手紙を開くとそこには次の行動を決定づける内容が記されていた


『デニス軍襲来』


もう少し間隔が開くと思ったが・・・予想以上に早い・・・いや、早すぎる。俺達が戻ったのは昨日・・・デニス軍も戻ったのは同じくらいだろう・・・いや、大平原からフレーロウまでの距離とデニスまでの距離ではデニスの方が近いとしても、そこからキャメルスロウまでの距離を考えると・・・


「アシス・・・どうする?」


俺がウンウン考えているとシーラが顔を覗き込み聞いてきた。そうだな・・・何故とか考えている場合じゃない。報告がきたって事は、軍がメディアに進行してる。しかもその数は前回の倍近い5万・・・まるでこの進行で終わらせるって数だ。お互いがぶつかり合えば死者の数が万を超えるぞ


「とりあえずセーラの元へ・・・」


「軍に参加する?」


「いや、それだと動けない・・・単独で動くか別働隊とし動くか・・・向かいながら考える」


軍に参加して、誰かの将軍の下に付けば、その軍は手伝える・・・だが、向こうの大軍に対して一軍が手伝えたとしても、他がやられたら意味が無い。戦争を止めることは出来なかったが、人死を少しでも少なく・・・迅速に戦争を終わらせる・・・それが俺のやるべき事


「背負い過ぎないで」


あれこれ考えながら歩いているとシーラが言葉をかけてきた。俺は頷いたが、今の俺に出来る事はやらないと後悔する・・・背負えるものならなんでも背負うさ


王城に入ると真っ先に向かった先は謁見の間。そこにセーラが居るとの事だったが、あの将軍達もいるんだろうか?ともかくセーラと話をするべく急いで向かった


道すがらすれ違う兵士達は慌ただしく顔は険しい。初戦が終わったと思ったら、すぐに敵が攻めてきたのだ。しかも大軍ときている・・・余裕がある方がおかしいか


謁見の間に着くと扉は開けられ、中に入る。今日は将軍達は居らずセーラとジェイス、後は近衛兵らしき者がいるだけだった


「すまぬな・・・火急ゆえ伝令を送った。もう少し猶予があると思うていたが・・・」


セーラの顔は少し優れない。デニス以外の何かがあるのか?


「いや、構わない。で、状況は?」


「デニス国境の物見からの報告では、大平原に来ていた軍が国境を越えてからすぐに別の軍隊が出てきたとの事。恐らくは撤退直後に鳥文にて報せ、戻るまでの間に編成し待機していたのであろう。戻るまで待ってた理由は戻って来た兵を組み込んだ可能性がある」


マジか・・・やっと戻ったと思ったら、また行くの?みたいな感じか・・・でも、それ以外待つ理由がないか。そうなると半分近くは疲弊した兵って事か?でも、どれくらい組み込んだかにもよるし・・・あまり当てにしない方がいいな


「今回出張ってきた将軍の情報とかは?」


「うむ・・・そこが1番厄介でな。今回の総大将は誰でも知っている大物・・・将軍ジュラク」


どうやら俺は誰でもに組み込まれていないようだ。ピンと来ていない顔をしていると、ジェイスが眉をひそめ、セーラが苦笑する


「大陸一の大将軍・・・『十』ですら適わぬと言われている超大物ですわ・・・だ。実際に『大剣』とやり合ったと聞く」


少し気が緩んだのか素が出るセーラ。それはさておき、ラクスと・・・か。そいつはヤバいな


「ところでそのラクスはどこで何を?」


「・・・分からぬ。アムスの話ではメディアに味方してくれるとの話であったが・・・消息不明。探してはいるのだが・・・」


「ふーん、で、ついでに今話に出たジジイは?」


「ついでか・・・アムスはガーレーンにおる。その・・・デュラスと反りが合わなくてのう・・・」


なるほどね。左遷されたか・・・聞いた話だとグロウに右腕を切り落とされたらしいが、そのせいで老け込んだか?


「今回は話に出たガーレーンにて向かい撃つとの事。お主にはガーレーンに行ってもらい太守であるソルトとアムスに従ってもらいたい」


ソルトの親父は引退したか・・・って


「そんな所まで攻め入られるつもりか?」


ガーレーンは最後の砦とか聞いた事あるし、抜けられたらもう防ぎようがないぞ?


「デニス軍5万に対して、ガーレーン1万、ここから救援で2万の軍勢・・・合わせて3万で迎え撃たねばならぬ。防壁がなければ飲まれて終わりよ」


「籠城するって事か?」


「籠城ではなく迎え撃つ。ガーレーンにはデニス軍を想定しての防衛策を幾つも持っておる・・・兄が考え、前太守とソルトが築き上げた策だ・・・使うのは今回が初めてだがな」


そう言えばソルトが防衛網がどうとか言ってたような・・・ナキスはこういう事も想定してたのか・・・


「具体的な話は向こうに行って聞くとするか。デニスからガーレーンまでの間の街と村は?」


「全て武装解除するよう通達しておる。なんなら下ってもいいとな。無抵抗の人を殺すほど腐ってはおるまい」


それを願うしかないか・・・。ラクスとやり合う将軍と5万の大軍・・・ガーレーンを抜けられれば滅亡待ったなし・・・


「兄の遺してくれた策がある・・・それにお主もおる。期待しておるぞ。今回も活躍したのなら我の婿にでもなるか?」


あれ?昨日普通に求婚してたやんけ・・・って、そうか、あの時は周りにはシーラしか居なかったし、身分の差もある。こうやって公然と言えば、俺が活躍した時に結婚しやすくなるだろう。近衛兵の中にもデュラスと繋がってる奴はいるだろうしな


「よろこ・・・」


「陛下もご冗談を・・・一介の傭兵に発破をかけるにしても、現実離れし過ぎて要領を得ません。そのようなお気を回して頂かなくとも、私とアシスは粉骨砕身、依頼をこなそうと存じております」


「冗談では・・・」


「陛下もご多忙でしょうし、私達もガーレーンに向けての準備がございます。吉報をお待ちください」


???・・・突然会話に入り、有無も言わさぬ怒涛の勢いで押し切り、俺を引っ張り謁見の間を後にする。チラリと玉座の方を見るとセーラは苦笑し、ジェイス他近衛兵達はポカンと口を開けたまま固まっていた。うん、分かる。俺もそんな感じだ


「あのー・・・シーラさん?」


俺が恐る恐る引っ張るシーラに声をかけると、晴れやかな笑顔でこう答えた


「行こ・・・ガーレーンへ」


どうやら部屋で二人きりの時に話した内容が影響しているみたいだが・・・笑顔を見る限り悪い話では無さそうだ


こうして俺らはまた戦地へと旅立つ────




────一日前


大平原より撤退後、ようやくデニスまで辿り着いたデニス軍


敗軍の将として唯一生き残ったユニスは国境にそびえ立つ壁が、自らを拒んでいるように感じていた


必勝を約束し、蹂躙せよとの指示の元、勇んで行くも結果は惨敗・・・唯一の救いは兵力がほとんど減ってない事くらい。総大将のワーノイスと次席のヴァルカが戦死した為、敗戦の責はユニス1人にのしかかる


国境の門に近付くと扉が開くのが見えた。事前に報せておいたので、迎え入れてくれると思いきや、中から数名の男達が馬に乗り出て来てこちらに向かってくる


見知った顔・・・そして、今会いたくない顔にユニスは頬を引き攣らせた


「無様・・・を絵に書いたような風体よな・・・ユニス」


男達の先頭にいた男・・・デニス国最強にして権力においてもNo.2のジュラクがそこに居た


「ジュラク将軍!此度は・・・」


ユニスは慌てて下馬し、跪き弁明しようとするが、ジュラクが手を前に出し言葉を遮る


「儂が聞きたいのは二つ。一つは何故負けたか。もう一つは何故お前が生きているか・・・その二つだ」


「!・・・」


ジュラクの迫力に縮上がり、その言葉に恐怖する。敗戦の報告はすぐに鳥文と伝令を使い報せてある。細かい事は王城に戻ってからと思っていたが、まさかのジュラクの出迎えに全身がガタガタと震える


「親父・・・そう威圧するなって。ほら、こんなに震えて・・・可哀想じゃねえか」


ジュラクの斜め後ろに居た男が下馬し、傍まで来てユニスの肩にそっと手を置く。その目はユニスの身体を舐め回すように見て、口元は薄く笑う


「ジュモン・・・お前は・・・まあ良い。して、どうなのだ、ユニス」


馬上にて呆れた様子で息子であるジュモンを窘めようとするが、諦め再びユニスに問い質す。ユニスは震えながらも目線を地面に向け、開戦の顛末を話した


「なるほど・・・そのアシスなる者はそれほどか」


「はい!2将軍を一刀のもとに切り伏せ、矢をも弾き返すその姿は聞き及んでいた『戦神』・・・いえ、『鬼神』の如き強さで・・・」


「で、何故お前は生きている?『鬼神』の如き強さであろうと残存する兵力には敵うまい。お前が指揮しそのアシスとやらを殺した後でも充分勝機はあったはず・・・まさか3万でも勝てぬとは申すまい」


「うっ・・・あの場で引き返さねば私も殺られ、軍の統率が・・・」


「一万の軍で二千の軍を相手取り攻めきれず、あまつさえ後方からの敵の接近に気付かなかった失態はこの際目を瞑ろう。だが、その後、何故再度攻めなかった?」


「その・・・アシスに引くと約束し・・・」


「つまりは敵との約束は守り、ザマット陛下との約束は反故にしたか」


「いえ!そのような・・・」


釈明しようと顔を上げた瞬間に肩に圧力がかかる。肩に手を置いていたジュモンが握り潰さん力でユニスの肩を掴んでいた


「ユニスちゃんさあ・・・現状把握してる?君はこれだけの兵力を残しておめおめと帰ってきたんだよ?陛下との約束である『必勝』を無視してさあ。本当に死に物狂いでやった?もしかして、アシスって奴に唆されて裏切ったんじゃない?」


「決してそのような!・・・」


「頭が・・・高いよ?」


いつの間にか握られていた鉄で出来た棍で、延髄を押し付けられ地面に突っ伏すユニス。ジュモンは更に力を込めた為、ユニスは呻き声を上げた


「相手より多くの兵力を持ち、その兵力を残したまま戻って来た無傷の将軍に、陛下が感謝の言葉を述べると思ってるの?裏切ってる事を考えて国境付近まで出した兵の数2万・・・戦争に行きただ戻って来た兵の数3万・・・これでどれだけの金と労力が動いているのか分かってるの?」


事実キャメルスロウより2万の兵を出兵させ、国境内に待機させていた。寝返った可能性は限りなく低いが、3万の兵が突然攻め込んでくれば被害は甚大・・・しかも王城まで警戒されることなく進める故、他国が攻めてきた時よりも被害が大きくなる可能性が多分にあった


「ジュモン・・・もうよい。ユニスよ、ここに我らが来た目的は二つ。一つは謀反を警戒して。もう一つは・・・メディアに攻め入るため。今より編成し5万の軍勢をもってメディアを落とす」


「恐れながらがっ!」


「恐れるなら喋るな・・・砂利が!」


ユニスの後ろで跪いていた2軍副官のベオスが立ち上がり、ジュラクに進言しようとしたが、ジュモンの棍に顔を突かれ倒れる


「負け犬根性が染み付いたお前らの意見など聞いていねえし、聞かねえ・・・言われた事をやればいいんだよ!」


ベオスは今回の戦に参加した兵の疲労を考え進言しようとしたが、それを言う前に機会は閉ざされる


今回のワーノイスが率いていた軍勢3万は総大将であったワーノイス、副将ヴァルカ、ユニスの将軍達に1人ずつ副官がつき、その下に30名の千人長、300名の隊長がおり、1人の隊長の元に100名ほどの兵士で構成されていた


他に兵站部隊、諜報部隊など合わせると総勢で、3万を越えており、全ての兵に馬を宛てがうことは出来ず、隊長クラス以上及び兵站部隊、諜報部隊の1部にのみ宛てがわれた。つまりそれ以外の一般の兵士は徒歩である


鎧を着込み、武器を携え行軍中は自分のペースで歩けず、戦争中は命令を受けて走る・・・そうしてまた同じ道のりを戻って来たのに、再度出兵せよと言われれば士気は下がる一方だった


ベオスが進言しようとしなければ、1軍の副官であるグスカが進言していただろう。しかし、目の前のベオスの状況を見て口を閉ざす


「なあーに、頭数さえありゃあ良い。常勝無敗って言葉を使えなくした弱卒をデニスに入れる訳には行かねえんだよ。少しでも戦果を上げて凱旋させてやろうって親心を無駄にするな・・・分かったら編成するから千人長を集結させろ!モタモタするな!」


ジュモンが怒鳴るとグスカは倒れているベオスを起こしながら一礼し、軍の元へと歩き出す。同じくユニスも動こうとするとジュモンに止められた


「ユニスちゃんは待て・・・親父・・・良いよな?」


「構わん・・・降格処分としよう」


「よし!・・・ユニスちゃんは今から俺の副官だ。今回の戦の責でな。敗軍の将に対しては寛大な処分だろ?俺に感謝しろよな?」


優しく肩に手を回して言うジュモンに寒気を感じ、またガタガタと身体を震わすユニス。それを見てジュラクがため息をつく


「壊すなよ・・・それでも元赤の称号の傭兵だ。戦況は読めんが、いずれ役に立つ」


「親父・・・違うだろ?それはユニスに言う言葉だ。『壊れるなよ』ってな」


ジュモンは肩に回した手に力を込めて笑い、ジュラクは呆れたように首を振る。その後ろで一際大きい戦斧を背負った男が面白いものを見たという様子で笑い、目線をメディアの方向に移す


「2年・・・長かったな」


北の大寒波の影響で乾燥した唇を舌で湿らせ、来たる戦いに胸を踊らせる


デニス軍総勢5万が大きな波となりメディアを飲み込もうとしていた


────


ガーレーン太守館会議室


20名は収まろうテーブルに座している3人の男達。ガーレーン太守ソルト。傭兵から将軍へとなったディーダ。そして、アムスの姿があった


「・・・最終的には挟撃になりましょう。ガーレーンに1万・・・メディアより2万の援軍・・・果たしてこちらの申し合わせ通りに動いてくれるか・・・」


ソルトが対デニス軍の戦略の総括を述べると、ディーダは腕を組みながら、アムスは左手で生え揃った髭を触りながら唸る


「一抹の不安は残るが、臨機応変にワシらが動ければ良いじゃろうて。水はどうじゃ?」


「確認しましたが問題ないかと・・・しかし、本当に・・・」


アムスの言葉にディーダが返す。しかし、不安な気持ちは隠しきれなかった。ソルトの要請で傭兵から将軍となり、ガーレーン唯一の将軍としての初の敵軍の進行を目前にし弱気になる


「問題ないじゃろうて・・・考えたのはナキス様、実行したのはソルト殿・・・申し分ない・・・いや、これ以上ない組み合わせよ」


「お褒めの言葉は嬉しいが、実際は私も不安です。なにせ1度も試してないのですから・・・」


ソルトが恐縮しながらも、不安を口にする。負ければメディアの滅亡と成りうる為、重圧がのしかかる。何年もかけて仕上げた防衛網が水泡に帰す可能性もあるのだ


「なんじゃ?いっそワシが1度踏み抜いてみるか?」


「おやめ下さい・・・復旧にどれだけかかるか・・・そして、誰が見てるかも分かりませんし」


冗談めかしに言うアムスにソルトは真面目に答える


「確かにのう・・・箝口令を敷いているとはいえ間者が居たとも限らん・・・じゃが、それでも見破れんとは思うが・・・」


「やってみない事にはなんとも・・・後、フレーロウより救援で来られる将軍ですが、どなたが来られるとお思いですか?」


「デュラスじゃないことは確かじゃのう・・・No.2のイカロスかNo.3のラトーナか・・・もしくはその二人」


少し考えて出した二人の名はソルトも知っている。デュラスでなければ、権力的にはソルトの方が上・・・勝手な真似は控えてくれると踏んでいる


メディア内の権力は王─総司令官─太守─将軍となっている。アムスは参謀、相談役と言われているが、地位的には将軍と同じ位である


「ここが最前線であり、最後の砦・・・その事を理解して頂けるか・・・」


「それは来てのお楽しみじゃな」


「お楽しみってそんな悠長な・・・」


ソルトが心配し、アムスが楽観し、ディーダが突っ込む・・・そんな三者三様のまま会議は終わり、後は援軍の到着を待つばかりであった


────


猶予は1ヶ月くらいか・・・セーラからの依頼を受け、準備を整えた後に馬を走らせガーレーンに到着。今回は俺とシーラに、グリム、チロス、ラニーが同行しモリスはフレーロウで、留守番となった。リオンとシーリスが宿に戻ってくるかもしれなかったので、行き違いを避けたかった為だ


「物々しいわね・・・さすがに」


旅の準備で一日費やし、朝から馬を走らせて着いたのは昼過ぎ。1番活気のある時間帯でも住民の顔は優れない。既にデニス軍の話は聞こえているのだろう


「だな・・・。まずはソルトの所に行って現状を聞くか。グリム達は宿の手配を頼む。・・・3部屋だぞ」


「あら、2部屋でいいのに・・・」


「3部屋だ」


シーラの言葉を遮り、グリムに念押しする。落ち合う場所をギルドに決めて、俺とシーラはソルトのいるであろう太守館へと向かった


前に来た時は1度も入った事はなかったが、なかなか大きい建物で、建物の前には噴水や庭園すらある。鉄の門の前に守備兵が立っており、事情説明とセーラからの手紙、後は称号を見せ中へと入った


敷地内は王城と同じ・・・いや、それ以上に忙しなく動いていた。兵士や文官らしき者、メイドから執事まで声を荒らげて右往左往・・・大丈夫か?これ


案内を頼めば良かったと後悔しながらとりあえず館に向かっていると、あちらから俺らに向かって歩いてくるハーフプレートの男・・・確か・・・


「テーター!」


「ディーダだ!・・・久しぶりだな。晩餐会以来か?」


ああ、そうそう。ディーダだ。鉄鎖の使い手で俺に殴られ、リオンに串刺しにされた


「なんか・・・失礼な事考えてないか?」


「はは」


見透かされたので、とりあえず笑って誤魔化す。呆れながらもそれ以上は突っ込まず、お互いに軽く現状を話し合った


今の慌ただしさはもうすぐ来る援軍の駐留場所の確保に追われているかららしい。ガーレーンの1万の軍の他に倍に当たる2万の軍がガーレーンに入って来る。そんな場所は作られておらず、急ピッチで仮設的ながらも駐留出来る建物を建設中との事


戦争は金がかかると聞いていたが、そりゃあかかるな。軍が到着したら、食事の手配もあるだろうし・・・ソルトもなるべくギリギリに到着するよう要請したらしい。遅れたら目も当てられないが、長く居座られるのもそれはそれで問題なんだと


ディーダの案内でソルトの所まで来ると、ディーダはまだやり残した事があるからと去って行く。俺とシーラは案内されたドアをノックして返事を待ってドアを開けた


「久しぶりだな!アシス!」


「思いのほか元気そうだな、ソルト」


ソルトとも晩餐会以来だな。ここはソルトの執務室らしく机の上に山ほど乗せられた書類の山に埋もれていた。ついついその姿にナキスの姿を重ねる


「なんだ・・・気持ち悪い。ニヤニヤして・・・まあいい。良く来てくれた。まだ借りを返してないのに、また借りを作ることになるな」


「晩餐会の件で、一旦チャラで良いさ。今から作る借りは前回と比べられないくらい大きいからな」


「そうか、それは期待して良いってことだな?」


「添えるよう頑張るさ。それよりジジイは?」


「ジジ・・・アムス殿か。今は仮設駐留場の建設の陣頭指揮を取ってもらってる。本来なら俺がするべきだが、色々とやる事が多すぎる・・・会うなら時間を取るが・・・」


「いや、大丈夫だ。とりあえず今回の戦争に向けての話を聞きたいんだが・・・」


「ああ。とりあえずかけてくれ。茶を準備させよう」


そうして俺らは執務室にあるテーブルの席につき、メイドから出されたお茶を飲みながら今回の作戦の概要を聞いた


「大掛かりだな・・・ナキスはどこまで考えていたんだ?」


「王子の念頭には、ここが最後の砦であると共に、人が住まわる場所である事。如何に被害を受けずに、如何に敵の侵攻を止めるかを考えられたのだと思う」


「そう・・・だな」


ナキスが常に考えていたのは、戦争を止めること。だが、それが叶わなかった時のことも考え、実行していた。今、俺に出来る事は・・・


ふと俺の膝に手の感触が。見るとシーラが真顔でこちらを見ていた


「おいおい、そういう事は宿に帰ってからにしてくれ。こっちは書類との格闘が残ってんだ」


茶化すソルトを威嚇して、また時間を作ると約束して外に出る。最近シーラの様子が少しおかしい。戦争が近付いてるからか?


とにかく、後はデニス軍の到着を待つばかり・・・ギルドでグリム達と落ち合い、ギルドに頼み事をした後に宿に戻った


確保された3部屋に安堵しながら、刻一刻と迫るデニスに緊張を高めながら部屋で目を閉じた。同室のグリムは布団に入った瞬間に寝息を立て、俺も寝入る寸前で隣からノックの音が


コンコンコンコンコン


謎の5回だ・・・俺も同じく5回ノックして、返答がないことを確認した後、再度目を閉じる。決して誰も死なさないと心に誓い────














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