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3章 幕間 ハネットの悲劇

その日、小規模な村であるハネットは日中の収穫を終え、夜の食事の準備に追われていた。各家から料理によって出る匂いと煙で村が包まれた頃、村の出入口が騒がしくなる


食事の準備に追われていた村長の孫のザンクは何事かと護身用の剣を片手に料理そっちのけで外に出た。出入口には十数頭の馬とそれに乗る人物が話をしている


その人物の顔を見て思わず顔を綻ばせ、駆け寄ると名前を呼んだ


「グロウさん!」


近付くに連れて、グロウが普通の状態では無いことに気付き、顔を歪める。村の恩人に一体何がと思いながらも速度を緩めず傍まで辿り着く


「一体・・・こんな夜更けにどうされたんですか?」


返し切れない恩のある人が夜更けに息を切らせながらやって来たのだ。気が気でない


「確か・・・その声は・・・」


「あっ、ザンクです。村長の孫のザンクです!」


そう言えばこの人は・・・と思い起こし、名乗るザンク。憧れの人の登場に興奮し忘れていた。グロウは目が見えないという事を


「ああ、そうでしたか・・・夜更けにすみません。もしよろしければ・・・また水を1杯頂けないでしょうか?盗賊も何も駆除してないのですが・・・」


微笑みながら言うグロウに、ハッとして「ただいまお持ちします!」と門番に目配せし家に戻る。その際に親友のヤットにも声をかけ何とか人数分のコップを運びグロウ達に水を渡す


「ふう・・・生き返ります。助かりました」


コップを返しながら言うグロウに、ザンクは受け取りながら先程から疑問に思っていた事を口にした


「いえ、これぐらいは・・・それよりも一体どうされたんですか?何やらお急ぎのようですが・・・」


特にこの村の周辺には来る用事はないはず。通り道としてもあまり便は良くなく、交易も寂れる一方・・・自分の村の事ながら寄るメリットなどないように思えた


「実は王国にあらぬ嫌疑をかけられまして・・・説得しようとしましたが、話を聞いてもらえず・・・」


「まさか・・・王国に追われて・・・!?」


「ご迷惑をかける訳には参りません。デニス側の出入口を使わせてもらえれば・・・」


「そ、それはもちろん。しかし、何の嫌疑を・・・」


「王子殺し」


グロウの言葉に日が落ちると冷えてきた外の空気がより一層冷たさを増す


「王子・・・殺し・・・」


「ええ。恐らくどこかの暗殺者の仕業でしょうが、たまたま近くに居た私達が疑われ、説明しようにも聞く耳持たず、仕方なく・・・」


「まさか亡命するので?」


いつの間にか来ていた村長がザンクの後ろから声をかける。作りかけの料理を見て叱ろうとした矢先、コップに水を汲む孫が伝えてきた恩人の来訪に着の身着のまま出て来ていた


「私はしがない傭兵です。亡命と言うよりは、ほとぼりが冷めるまでメディアを出て、真犯人が捕まるのを待ちます」


「ふむ・・・それがよろしいかと」


かけられた嫌疑が嫌疑だ。少しでも疑わしければ、すぐ処刑されるのは火を見るより明らかだった


「お通り下さい・・・後、少ないですが食料も用意させましょう。ザンク!ヤット!各家に行き食料を分けてもらえ。理由はワシから後で話すと言え」


ヤットは頷きすぐに駆け出し、ザンクはグロウの方を見て、何かを言おうとしていた


「グロウさん・・・俺も・・・いや、何でもない!デニス側の出入口で待ってて下さい!」


言葉の途中で首を振り、ヤットの後を追うように駆け出した。一緒に連れてってくれと喉元まで出ていた。しかし、今のグロウの状態を考えると足でまといが増えるだけだ。そう考えて思い留まり、急いで食料の調達に奔走する


「若い・・・ですね」


「血気盛んな若者じゃ・・・貴方様のような立派な傭兵に憧れを抱くのは仕方ないのかも知れません・・・」


グロウが呟くと村長が走り去るザンクを見て返した。グロウ達は村の中を進み、途中で用を足すなど寄り道もしながら出入口に着きザンクを待つ


ザンクは腕にいっぱいの量の食料を差し出すと、それを横に居たゾードが受け取り感謝する


「いずれ・・・また・・・戻って来て下さい!」


ザンクはグロウに対して頭を下げながら言うと、グロウは無言で頷き馬を返すと走り始めた


グロウ達が去るのを見届けた後、少しした後にグロウ達が来たメディア側の出入口がにわかに騒ぎ出す


「来たか・・・!」


すぐさま出入口へと向かうと案の定、王国の兵士らしき集団が門番と揉めていた


「この蹄跡が何よりの証拠!隠し立てするとためにならぬぞ!」


「ですから!これは昼間に来た行商人達が・・・」


「嘘を申すな!蹄跡だけで轍はない!馬群のみの行商などおるものか!ええい、構わぬ、村を捜索しろ!抵抗するなら斬り捨てても構わん!」


その言葉にザンクの背中にゾワっとした何かが走る。恩人の説明も聞かずに疑い追い回し、何もしていない村人に剣を振るい逆らえば斬り捨てる・・・そんな横暴を目のあたりにし、ザンクは決めつけた・・・王国の兵士はクズの集まりだと


「ふざけるな!」


持っていた護身用の剣を抜き、震える手を力で押さえ込み構える。完全なる敵対行動に王国の兵士達も一様にざわめきたつ


「ザンク!よさぬか!」


「じっちゃん・・・良いのかよ?村が大変な時に何もしてくれない奴らの言うことを聞いて・・・それで・・・」


ザンクは言葉を飲み込む。言葉の続きは「恩人に恩を返さずに」。だが、それを言うと兵にグロウ達が来たことを察されてしまう恐れがある為、村長に目で訴えた


「ザンク・・・お主・・・」


村長としてはここは穏便にすませたい。それが村長の役割と思っている。しかし、ザンクにはそれが義理を欠く行為に思えてしまっていた。今にも斬りかかりそうなザンクをヤットが後ろから羽交い締めし何とか押さえつける


「・・・探せ!」


村人の態度に誰かを匿っていると判断した兵士が他の兵士に命令する。馬を下り家の中に入る兵士達。ザンクはヤットに羽交い締めにされようやく動きを止めていたが、家の中からの悲鳴にヤットの力が弱まり、その瞬間ザンクは抜け出し命令していた兵士に詰め寄る


そして、いつかグロウの傭兵団にと毎晩のように振っていた剣を兵士に振り下ろした


「た、隊長!」


鮮血が舞い、気付いた周りの兵士が隊長と呼ばれた兵士に近寄るが、それを手で制し斬られた頬の血を拭う


斬ったザンクを見下ろしていると、捜索に回った兵士からの耳打ちに眉をしかめ、鼻で笑った


「ふん、なるほどな。妙に突っかかって来るとは思ったが・・・まさかグルだったとはな」


兵士を恐れた村人の1人が事の顛末を話してしまった。先程来た傭兵達に食料と水を提供した事を。蹄跡も真っ直ぐ村を出ておらず、どこかに寄った形跡もあり、村ぐるみで隠蔽しようとしていた節もある


「奴らを追うぞ!我に続け!・・・後、5班!村を焼き払え!」


「なっ!」


隊長と呼ばれた男はすぐさま馬に乗ると村などもう興味はないのか一瞥もくれず馬を走らせ、それに他の兵士が後を追う


残った数名の兵士達は薄ら笑いを浮かべて、ヒソヒソと話を始めていた


「おい・・・さっき入った家に・・・」


「マジかよ・・・俺の方も・・・」


「それ幼すぎじゃ・・・」


ニヤニヤ話していたが、村人の存在に気付くと咳払いをし、改まって話し始める


「あ~この村は逃亡犯幇助で焼き払う事が決定した。今回の逃亡犯は第1級犯罪者の為、弁解の余地はない」


「ふざっ!・・・グロウさんは・・・あの人達はそんな事はしない!」


今までニヤニヤしていた兵士達の顔色がザンクの言葉を聞いて変わる。そして、ツカツカとザンクに近寄り見下ろした


「グロウ?あの人達はそんな事はしない?・・・では奴が何者で何をしたのか知っているのか?」


「何者ってどういう・・・」


「ふん!何も知らずに犯罪者を庇い、あまつさえ幇助するとはな・・・奴の正体はファラス国の王フェード!そして、我らの目の前でナキス王子を殺した犯人だ!」


「え?・・・ファラ・・・?」


ザンクは兵士の言っていることが理解出来なかった。グロウがファラス国の王?フェード?我らの目の前で?全ての言葉に疑問が生まれる。グロウさんが嘘を?そんな事はない。恩人が嘘をつく訳が。ならばこいつらが?でも・・・と自問自答していると、腹部に強烈な痛みが走る。熱い・・・ふと腹部を見るといつの間にか目の前に居た兵士が剣を突き立てていた


「どっちにしろココは焼き払う。当然村人もな。メディア国内にファラス国民は要らねえよ」


剣を引き抜くと、ザンクの腹部から大量に血が飛び散る。気付いた時には膝をつき、両手で腹部を押さえていた。ヤットの叫ぶ声が聞こえる。しかし、その声はあまりにも遠くから微かに聞こえただけだった。目がぼやけているが、村のみんなが逃げ惑っているのが分かる


正義が暴走する────




「フェード様・・・あの煙は・・・」


ゾードがフェードの横に並び、後方で上がった煙を指さす。それを見てフェードが鼻で笑う


「メディア国にも判断の早い奴がいると見える。まさか何も知らぬ村を焼くとはな」


「何も知らないって~お父上が仕組んだんでしょ~」


「村人・・・トラップ」


「まあ・・・ね。家に入り一言『部屋に兵士が入って来たら私が来たことを伝えなさい。そうすれば村は助かります』ってね」


キャロンとキュロンが首を傾げながら言うと、フェードは笑いながら答えた。まんまとその言葉通りに話してしまい、結果今の惨状となる


「肉壁・・・ですかのう」


「村壁かな?大した足止めにはならないがな。まあ、水分を補給出来ただけでもありがたい。ゾード」


「はっ!」


ゾードはフェードに呼ばれると持っていた食料を捨てる。食料には一口も手を出さず、受け取ったままの状態で


「あ~勿体ない~」


「不法・・・投棄」


「あんな臭い飯食えたもんじゃない。あれなら携帯食料をかじり、途中で動物でも狩った方がマシだな。早く城に帰って美味い飯にありつきたいものだ」


「メディアを抜ければ、デニスで」


「そうだな」


マーネの言葉にメディアを抜けた時を想像し、馬にムチを入れる。温かいご飯に風呂・・・久々に女も抱くかとフェードは考え退却戦に終わりが見えて来た事にほくそ笑む


メディア国ハネット村は廃村となる。村人は全員死亡。村は焼かれ、村人はどのようにして殺されたかは酒場の武勇伝として語られるのみとなった────








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