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3章 エピローグ

時系列バラバラです


3-10から3ヶ月後までの話です

レグシ国王城内


ガーネットの執務室でその報告を受ける。報告を受けた後、少し1人にさせよと人払いをするが、なぜか1人残っている者がいた


「余は1人にさせよと申したが?」


「最愛の人を亡くした人を1人にさせるのはあまりにも・・・」


「ぬかせ・・・そなたは知っているではないか」


「偽装とはいえ周囲には最愛の人を亡くした人を演じ続けなければならないのでは?で、なければ2年後・・・」


自称恋愛マスターのセリーヌが、ガーネットに力説する。それをため息混じりで聞いた後、椅子に深く腰掛け、背中を背もたれに預け天井を見上げる


「なんにせよ2年か・・・天秤はフェードに傾き、ナキスは堕ちた・・・それだけの事・・・か」


少し出たお腹を擦りながら言うガーネットにセリーヌは眉を顰めて苦言を呈す


「最近、運動もされてませんし、暴飲暴食が過ぎます。少し前までは体調も優れませんでしたし・・・そんなんでは病になりますよ?」


「ふふ・・・そうよな。ところで、そなたはどうする?『十』がどうなるのかは知らんが、『十王』がおらなんだ・・・宛はあるのか?」


「もちろん!ラクス様を探して・・・と言いたいところですが・・・ガーネット様にお仕えしても?」


「無論・・・こちらとしては嬉しい限りだが・・・良いのか?」


「ここに居た方が最上の結果が得られる・・・そう感じるのです」


「女の勘・・・というやつか」


「そうです!女の勘です」


「・・・当てにならぬがのう」


「え?」


最後の言葉はガーネットがボソッと小さい声で言った為、聞き取れなかった。セリーヌの勘のことではない・・・自分の勘が外れた事により、そんなものは当てにならないと思ったからだ


2年後・・・100年に一度の大戦争を前にレグシはどう動くべきかを思案する


「当てが外れたな」


更に聞き取れないような小さい声で呟き、また少し出た腹をさするのであった




マベロン国某所


ボサボサ頭に無精髭の男が椅子に座り、テーブルの上にある肉にかぶりつく。男の後ろには兵士が2人立っており、傍から見ると死刑囚が最後の晩餐でも行っているように見える


そのテーブルの対面の席に断りもなく1人の青年が席に着く。銀のフルプレートに身を包み、 身だしなみもキチンとしているところから、目の前の人物とは対照的に映る。その目の前の人物はかぶりついた肉の肉汁をくたびれた服で拭い周囲から軽蔑の視線を送られていた


「ゼブラさん・・・お手拭きタオルがあるでしょうに」


呆れるように銀のフルプレートの青年は目の前の人物・・・ゼブラに苦言を呈す


「これはお前・・・アレだ・・・」


口の中の肉を咀嚼しながら喋り、テーブルに食べかすを飛ばす。そして、手拭きタオルを口元に持っていき口の周りの汚れを落とす


「な~?」


ニヤリと笑い、こう使うんだよと言わんばかりにドヤ顔をかますが、周りはドン引き・・・新たに来た銀のフルプレートの客に注文を取ろうと来た店員はあのタオルは洗わずに捨てようと心に決めていた


店員に手を振って何もいらないと示すと、青年は呆れた表情でゼブラを見た後、腰に吊した剣を外してテーブルに立てかけた


「そんなんだから、王家が愛想を尽かすのでは?」


「愛想尽かしたのは俺だ俺~。あいつらは危機感ってもんがねえ~」


「王家にあいつらは不敬ですよ!・・・危機感とはやはりナキス王子とロキニス王の崩御の件で・・・」


ナキス亡き後、メディア国王ロキニスもまた病に勝てず後を追うように亡くなっていた。メディアは現在幼きセーラを擁立するが、執政をナキスに頼り過ぎていた為、無政府状態と言われている。メディアに面している国、レグシとデニスがどう動くのか注目が集まっていた。特にレグシはナキスと婚約状態であったガーネットの動向は離れたここマベロンでも連日のように噂されるほど


婚約は解消、友好関係を取り消し今が好機と攻めに転じる


亡きナキスを偲び、友好関係を継続し、より強固な関係へ


ナキス殺害の首謀者であるフェードのファラスに向け進軍


など、好き勝手な事を囁く


ロウ家や元『十』の者達にとっては、戦争は2年後と頭にあるが、知らぬものにとっては6ヶ国のバランスが崩れ我が国にも影響が出るのではないかと気が気でない


「それもある~・・・たが、それだけじゃない~」


ゼブラは今回の100年戦争で国がいくつか滅びると思っている。戦争を管理していた『十』が空中分解し、機能しない中での戦争・・・しかも100年に一度の大戦争。それをファラス国王自らが引き起こした。つまり、戦争を管理されたくない・・・予定調和で終わらせないとの意思表示に思えたからだ


それをマベロン国国王に進言するも袖にされ、今まさにマベロンから出奔しようとしていた所だ


「ゼブラさん・・・あなたの智略を借りたい!この国を滅ぼさない為に!」


目の前の青年は100年に一度起こる戦争を知らない。ゆえに焦りも一入・・・だが、だからこそマベロンにとっては救世主になり得るのでは?とゼブラは考える。2年後とたかを括り目先の事しか考えていない国王や己の権力や財力にしか目のいかない腐れ果てた上層部よりも遥かに


「対価はなんだ~?タダ働きはせんぞ~?」


決してマベロンを見限った訳では無い。ただ崩れゆく家から引越しするのは当たり前。補強したところで崩壊を止められないと訴え、建て直しを提言するも跳ね返されれば引越しもするであろう。ただそれだけであった。だが、目の前の青年は諦めず未来を見据えている。それに手を貸すのは吝かではない


「私が将来得るであろう財産の1割・・・」


青年はゼブラを真っ直ぐ見つめると、指一本を立てて言い切る。それは一般的にみれば高いのか安いのか分からない。しかし、ゼブラは思わず唾を飛ばしながら叫んだ


「俺に街でも買い取れって言うのか~!?」


「お望みなら」


すぐに返事する青年に少しのブレもない。ただ真っ直ぐとゼブラを見つめ、返事を待つ


ゼブラは顔に手を当て、目の前の青年の評価を改める。これは建て直しが無事に済めば、ひょっとしたらいけるのではないかと考え始めた


「さすが・・・あのじゃじゃ馬を手懐けた事はある~。駄馬にそこまで賭けるか~」


「じゃじゃ馬って・・・。駄馬に扮した駿馬を口説くのに、1割なら安いものです。良薬は口には苦いですが、喉元過ぎればなんとやら・・・国王にもいずれは理解して頂けるかと」


「・・・強行か~、タイミングは~?」


「近々・・・と言いたいところですが・・・」


青年はチラリと周囲を見渡す。一般的な食堂で誰も彼らを警戒している者はいない。だが、どこに耳があるか分からない状態でこれ以上の話は危険と判断した


「続きは私の室で・・・」


「・・・まだ頷いてないんだがな~」


「返事は聞かなくても分かります。ここで返事を待つ方が無粋ってものでしょう。食事は私が持ちます。後ろの御二方もどうぞ・・・追加は私のツケで構いませんので」


「さすが太っ腹~!おい!この肉後3皿追加だ~!・・・ほれ、お前らも席に着いて食え。俺の就職祝いだ~」


「・・・程々に・・・では後ほど」


青年は剣を持ち立ち上がるとゼブラに一礼してその場を後にした。残されたゼブラは残りの肉に食らいつき、酒で肉を流し込む


「さぁて~死に場所を得たか、はたまた栄華を約束されたか~・・・『戦神』の孫は戦の神か死神か~?・・・どっちに転ぶかね~」


指に付いた肉汁を舐めながら呟くゼブラに周囲は冷ややかな目線を送るが、当の本人はこれから起こる激変に心踊らせ熱い視線で見据えるのであった・・・マベロンの未来を




デニス王城内王の寝室


ドカドカと靴を鳴らし、無遠慮に開けられたドアが激しく音をたてた


「ザマットか・・・」


何事かと構える近衛兵と床に伏しながら、片目を開け来た人物の名を呟く老人・・・デニス国王サトス。力なきその目は自室に荒々しく入って来た息子を咎めることなく、ただ見つめるだけだった


「父上!聞いたか?メディア国王と王子の件!」


そのまま室内に入り王の眠るベッドに腰掛けると足を組み興奮したように今受けた報せを口にする。サトスはやれやれといった感じで上半身だけを起こし、ザマットを見つめる


「それがどうした?所詮他国の事。あそこは王女も健在・・・これから大変だろうが・・・」


「だから!・・・我が国は『守りのデニス』と揶揄される!これを機とせず何が機だ!敵の混乱をつくのは定石だろう?高い壁は臆病者の象徴か!?」


「いつ・・・どこでメディアは敵となった?」


「他国は全部敵だ」


「・・・ならば滅ぶのはデニスぞ?」


「メディアを足がかりにレグシを飲み込み、南を統一すれば後は北のみ!常に各国の脅威に晒されながら何が強国だ!」


「脅威と感ずるのはお主の心が弱いから・・・座して待てぬは小心者の証よ」


「座して何を待つ?機を待っていのならば、今がその時・・・それが分からぬのであらば置物と変わらぬ!」


お互いが譲らぬ平行線。幾度となく繰り返された議論はメディア国国王と王子の死去により、激しさを増す。無論、ザマットも6ヶ国協定と『十』の役割は知っている。100年戦争も


ザマットは管理された中で強国を名乗り、畏怖される違和感に憤りを感じていた。ピエロを演じる気は無い。デニス以外の国はデニスに生かされていると考えるべき。そして、弱った獲物がいれば食らいつくのが当たり前。そう考えていた


「それはお主が語るべきことでは無い。ワシが・・・そして、ワシが亡き後はサリナが考えるべき事。お主は・・・」


「ああ、メディア国のナキスはガーネットに婿入りし、第2王女のセーラに王位を継承させたらしいですな。ならば、サリナもあの陰気な男にくれてやればいい」


「お主何を・・・!」


「さよなら、父上」


ザマットがいつの間に抜いた短剣がサトスの胸に刺さっていた。あまりの出来事にそこにいたメイドが持っていたお盆を落とし、悲鳴をあげる


目を見開き、ザマットの肩を掴み何か言おうとするが、吹き出してきた血が邪魔して言葉にならない。ザマットはその手を振り払い立ち上がるとサトスを見下ろした


「アムスによって生き永らえて国を先細りさせてさぞ満足か?最後の手向けとして伝えておこう。軍は既に掌握している。後は愛しの娘をそちらに送ってやるので楽しみに待っておけ」


死にゆく父親を興味無さげに見下ろすと、居合わせた近衛兵に命令を下す


「デニス国国王サトスは暗殺され崩御された!暗殺の首謀者は第1王位継承権のサリナ・ロウ!実行犯は『神威』シヴァ!決して逃がすことは許さぬ!全軍にて拘束後すぐに処刑せよ!王殺し・・・親殺しを決して逃がすな!」


部屋に居た近衛兵が短く返事をするとすぐさま動き出す。あらかじめ決められていた行動に移るように淡々と。お盆を落としたメイドはガタガタと震え、失禁していた


「メイド・・・何か見たか?」


ザマットが声をかけると、無言で首を振る。震えは次第に激しさを増し、近付くザマットを懇願するような目で見つめる。ザマットはメイドの顎に手を当て、顔を起こすと値踏みするように見つめていた


「ふむ・・・見目は悪くない・・・少々汚れたが」


チラリと濡れたスカートを見て呟き、離れると近衛兵に耳打ちする


「豹紋兵の所に連れて行け・・・奴らは汚れていようが構わぬ」


「!?・・・それは・・・」


「二度言わせるな」


ザマットに鋭い眼光を向けられ、即座にメイドを拘束し連れていく。メイドはどこに連れて行かれるか分からず、拘束した近衛兵の顔を何度も見ていた


ベッドの上で上半身だけ起こし事切れた父親に目をやり近付くと、見開いた目をそっと手で閉じさせる。その目はなぜか慈愛に満ちていた


「父上・・・仇は必ず」


自らの手で殺害し、冤罪にて実の姉を殺そうとする者とは思えない優しい表情にその場に残っていた近衛兵は身震いするのであった





シャリア某所


寒空の中、シャリア国首都ガーデンロウから一人の男が出て行った


男の名はバラン。『十』の1人で『暴君』と呼ばれ、シャリア国担当だった男だ。ナキスの凶報を聞きすぐに行動を開始する。目指す場所は・・・


歩いているとある一団に遭遇した。街道を大きな馬車で塞ぎ周りには近衛兵が取り囲む。全員がバランを見つめる最中、気にせず通り過ぎようとすると馬車の窓にかけられているカーテンが開く


「こんな時間にどこに行かれるのかしら?」


今は昼の3時頃。特段出掛けてもおかしくはない時間帯なのだが、やけにトゲのある聞き方をしていた


「えらいタイミングが良いな。用があるならさっさと言え・・・ユキ姫」


馬車からバランに声を掛けたのは、シャリア国第2()()ユキナ・ロウ。通称ユキ姫と呼ばれ、国民に愛される絶世の美女。色白でスラリとした体型にスタイル抜群。切れ長の目で流し目をされると誰もが恋に落ちるとまで言われている


「フフ・・・寒いでしょう?目的地まで送って差し上げますよ?乗ってくださいな?」


ユキナは場所のドアを開けるとバランを手招きする。昼の3時でもこの時期は寒く、吐く息も白い。特に断る理由もないバランは馬車に乗り込んだ


「俺の目的地を知っているのか?ガーデンロウじゃねえぞ?」


馬車の中はユキナしか乗っておらず無駄に広いスペースが更に広く感じさせた。バランは背中の戦斧を立てかけ、ユキナの正面に座り足を組む


「このまま南下してもローズソートしかありませんし・・・そこに御用があるのかしら?それともその先?」


馬車は動く気配はなく、バランが乗った後もその場に留まっていた。バランはため息をつくと身を乗り出し、ユキナに顔を近付ける


「茶飲み友達が欲しいなら他を当たれ。てめえらほど暇じゃねぇし、お喋りは好きじゃねぇ」


山賊風の強面の顔が近付いても何処吹く風のユキナは開いていたカーテンを閉め、光を遮断する


「では、単刀直入に。・・・出奔されるので?」


「ふん!元々この国に仕えたつもりはねぇ。枷がなければどこに行こうが勝手だろうよ」


「ならば正式に仕えて下さいませんか?将軍の地位は勿論、望むものを言ってくだされば・・・」


「興味ねぇな。俺は負ける戦はしない主義だ」


「我が国が負けると?」


「勝てると思ってるのか?頭沸いてるのか?」


「根拠を・・・仰って頂けますか?」


バランは近づけていた顔を戻すと背中を背もたれに預け足を組み直す


「ったく・・・お花畑兄妹が!ファラスの王のフェードっつたっけ?そいつがナキスを殺して、帰還・・・しかも用意周到にメディアにある村を盾にしての余裕の帰還だ。更にジオンとクオンを味方につけてる可能性が高い。一国の王が何年も放浪し用意周到にメディア国王子・・・いや、『十王』を殺して帰還し何も考えがないと思えるか?」


「お喋りが嫌いな割にはお口が達者で」


「チッ・・・もういい!」


バランが舌打ちをして立ち上がろうとすると、ユキナはそっとバランの膝に手を添えて阻止する。力ではなく色香で。しなりと置かれた手にどかす事叶わず立ち上がるのを止めてユキナを見た


「そう言わず・・・そんな怖いお方が隣国に居るにも関わらず、私達を見捨てて他国に行かれると?」


「だから俺は・・・」


仕えたつもりは無いと再度言おうとした時、ハラリと衣服が肌け、乳房が顕になる。しかし、バランはそれを見ず、じっとユキナの目を見つめていた


「・・・なんのつもりだ?」


「女性が肌をさらけ出してるのに、『なんのつもりだ?』はあまりにも殺生では?」


「てめえの身体で繋ぎ止めようっつーなら、5年・・・いや、10年遅かったな」


「私が老いたと?」


「気持ちの問題だ。10年前なら脱いだ時点でしゃぶりつく・・・だが、それよりも魅力的なもんが沢山出てきちまった」


「・・・それは?」


「滾る相手・・・『十』の連中もそうだが、野に溢れた奴らが熟成してきやがった。それを相手取るのにシャリアじゃ無理だ・・・飲まれて終わる。対等な立場でやるにゃ、それなりの舞台に上がらないとな」


「それがデニスと?」


「分かってるじゃねえか。5ヶ国に囲まれ、全てと対等に戦えるデニスこそ戦いの舞台に相応しい。それでこそ俺は力を発揮出来る!シャリアで雑魚共に囲まれ死にゆく姿を想像しだけで吐き気がする」


「私の身体を独占出来る最後のチャンスですよ?」


「はっ、独占出来る訳がねえだろ?それにてめえ・・・透けてきてるぜ?運命に見放されてきたんじゃねえか?」


「・・・」


ユキナは無言で肌けさせた服を元に戻す。バランはそれを確認し今度こそ戦斧を持ち立ち上がった。そのまま馬車のドアに手をかけ出ようとする直前、ユキナに振り返り声をかける


「出来るなら・・・ファラスが宣戦布告してきた時点で降伏しな。2年後・・・大寒波がやってくる。飢えと戦争・・・同時にはこなせねえぞ」


忠告を受けたユキナは返事する事も頷く事もせず、ただ出て行くバランを見送った。馬車の外はまだ昼間というのに吐く息が白い。大寒波が来る・・・そう教えてくれるように・・・


「降伏・・・ですか・・・」


ユキナの呟く声は走り出した馬車の音でかき消される。馬車の外はいつの間にか雪が降り注いでいた




メディア国国王の寝室


静かに息を引き取った王ロキニスはベッドの上で胸の上で手を組み、まるで寝てるように横たわっている。その王の前に新王となるセーラは佇む。最愛なる兄を失い、続けざまに父も失った。15歳の少女に一国が委ねられたのだ


「失礼する」


ノックと共に隻腕の老人・・・アムスが部屋に入る。あらかじめ人払いをしていた為、部屋の中にはセーラとアムス二人きりとなった


「父もタイミングが良いのか悪いのか・・・お兄様の後を追うように亡くなるとはね」


「病も進行していました。心労が重なり持ちこたえられなかったのでしょう・・・お悔やみ申し上げます」


アムスは深々と頭を下げ、その後セーラを見つめる。気丈に振る舞うセーラだが、数日前まではナキスの遺体から離れなかった。ようやく持ち直した時に父の死・・・その心中は計り知れない


「して、何の用だ?『十王』であったお兄様が亡くなり、この国に留まる理由もなかろう。新たな『十王』が誰かは知らぬが、その者の元へと向かうという報告か?」


『十王』は本来継承制。世襲ではなく、現『十王』が次代の『十王』に継承されてきた。ナキスが突然殺された為、次代の『十王』は決められておらず、本来なら『十』が集まり次代の『十王』を決めるはずなのだが・・・


「各地に散らばった『十』の者と連絡が取れません。意図的なのかは分かりませんが・・・恐らくは離反したと思われます。現状『十』は崩壊・・・新たな『十王』など生まれはしません」


「・・・真かそれは?」


「はい。フェードの目的がそこにあったのか分かりませんが、監視者、調整者なしで100年戦争を迎えることとなるでしょう」


「100年に一度起こる・・・いや、起こす大戦争・・・100年戦争か・・・」


「ナキス様が悲願とされていた100年戦争の終結・・・始まる前に終わらせようと心血を注いで来た事も全て水泡に帰す事となり・・・」


「ファラス国を!・・・あの男とあの国を許す訳にはいかぬ!それがお兄様の悲願と逆になろうとも!」


アムスの言葉に被せて声を荒らげるセーラ。兄の悲願は知っている。それでも尚、目の前で虫けらのように兄を殺したあの男・・・フェードを許す訳にはいかなかった


「心中お察しします・・・が、ファラスを攻めるにはデニスがありますぞ?」


「ならばデニスを滅ぼせば良い!」


「後方にレグシがおります・・・そう易々とは・・・」


「あの女狐め!」


ナキスの訃報は当然婚約者であったガーネットにも届いている。しかし、返ってきた返事は『喪に服す』というもののみ。それ以降葬式すら顔を出さず音沙汰は一切ない。友好関係、同盟等の話は宙ぶらりんのままであった


「まずは地盤を固め、2年後に備えるべきでしょう。今のままではデニスすら越えられません」


アムスの言葉に親指の爪を噛み、悔しさを滲ませる。現状を考えるならセーラもそれが最善というのは理解している。しかし、気持ちはすぐにでも出兵し仇を取りたいと思っていた


「耐えて下されば・・・我らも微力ながら助力します。と、言っても人数的には3人ですが・・・」


「3人?」


「小生、ラクス、レンカは『十』瓦解と判断の後、メディアに与することに賛同を得ています」


「ワレンは?お兄様の側仕えとして活躍していたと聞いておるが・・・」


「あやつは・・・ナキス様の命によりデニスで傭兵団を組織していたのですが、その団員と共に・・・」


「単独で攻め入ったと申すか!?」


「止めること叶わず・・・」


アムスは無念と目を閉じる。セーラもそれ以上言葉が続かなかった。一つの傭兵団が一国に攻め入り無事に済むはずがない。死地に向かった仲間に無念を感じていたアムス、本来なら自分が向かいたかったと思うセーラと対象的ではあったが、言葉を失っていた


「そうか・・・」


長い沈黙の後、ようやくセーラが口を開く。ここで留まっている訳にはいかない・・・2年はすぐに過ぎ去る


「して、お主らは・・・要職についてもらえるのか?」


「お望みなら」


「ならば、その気色の悪い話し方はやめよ・・・我が国の参謀として迎える・・・それと、後・・・」


今までハッキリとした口調で話していたセーラが突然歯切れの悪い話し方に変わる。それを察してアムスが知り得る情報を話す


「崖下は深い川となっております・・・運が良ければ生き長らえているでしょう・・・あやつはしぶとい・・・大丈夫じゃよ」


最後に話し方をようやく戻し、笑顔をセーラに見せる。本当な崖下に降り、川を下り捜索したい気持ちでいっぱいなのだろう。しかし、それはあえてせず、戻って来るのを信じて待つと言い放つ


「・・・そうか・・・そうか・・・」


セーラも自分に言い聞かせるように呟く。最愛の兄の友。その存在は自分でも思っていたより大きくなっていた事に今更ながら気付いた


無事を祈りつつ、早く戻って来て支えて欲しいと窓の外を見ながら願うのであった




ファラス国謁見の間


「「「「お帰りなさいませ!フェード国王様!」」」」


玉座に座したフェードに向かって一斉に片膝をつき声を上げる面々。横にはザイトという男が立ちフェードの剣を受け取っていた


「長い旅路お疲れ様でした。既に情報は入っておりますが、よくぞご無事で」


ザイトは深々と頭を下げ主の帰還を喜ぶ。一時期は一緒に居たが、長い間王位を空にする事もならず、代理としてファラスに留まっていた


「苦労をかけたな。()はどうだ?」


「特に何も・・・座礁どころか見張りの者も影すら確認してないとの報告が」


「ふむ・・・まだ時間はあるか」


「工房の方からはある程度の進捗が上がっております。後でご拝見下さい」


「ほう・・・それは楽しみだ。他に変わりは?」


「大寒波に向けての貯蔵が上手くいっておりません。保存の効く物は限られている為、趣向を凝らし種類を増やしてはいるのですが・・・」


「食べる物があったとしても、毎日同じでは飽きが来る・・・続けて開発させよ。・・・今までサボっていたツケが回ってきたな」


フェードは記憶を探り、保存にあった食材を思い浮かべる。食べれれば良いとさほど興味を持っていなかったのか、出てくる数は非常に少ない。やはり専門家に委ねるしかないと考えているとおもむろに目の前で片膝をついていた少女が立ち上がる


「お父上~アシス隊長は~?」


首を傾げる少女・・・キャロンはフェードに尋ねる


「キャロン様・・・ここは謁見の間にて、『お父上』ではなく、陛下とお呼びください」


ザイトがキャロンを窘めるが、悪びれた様子はなく「いけねぇ~」と舌を出し、その横いるキュロンに「姉・・・無惨」とからかわれる始末


「良いではないか。キャロンも長い間身分を偽り苦労している・・・で、アシスの件だが、あの場に残っていた者の話では崖下に落ちた後は生死不明・・・捜索隊も出されていない」


「うへぇ~紐なしバンジーかよ~」


「ヒュルルル・・・ブチッ」


「紐な・・・?お主らまた父上から新しい言葉を仕入れておるな?キュロンも生々しい効果音は止めよ・・・しばらく潰れた物を見ると吐いてしまいそうじゃ」


キャキュロンの横にいた男・・・クピトが何かを想像したのか身震いしながら2人に抗議する


「ははっ、クピトの傭兵団での苦労が知れるな。案せずともアシスの運命は強い・・・必ず生きているだろう。そうでなくては私の苦労が水の泡だ」


「もう一対の羽・・・でしたか?」


ザイトがフェードが語っていた事を思い出しながら尋ねる。羽は一対あれば飛べる。だが、異なるもう一対の羽を見つける事でより遠くへ、より速く飛べるようになると


「そうだ。これより2年後に起こる戦争に欠かせぬ羽よ。・・・戦争で思い出したが、今度の戦争より奴隷制度を復活させる」


「奴隷・・・ですか?」


奴隷制度は何百年も前に廃止されていた。理由は戦争の在り方。これまでの戦争は勝敗をハッキリとさせていなかった。つまり、戦勝国と敗戦国が生まれない。それゆえ奴隷制度を設けると禍根を残すことになり、意図しない戦争が起こりやすくなっていた。その為、奴隷制度を廃止し、今日まで捕虜は解放する協定が組まれていた


「今回で6ヶ国は一つとなる。それは()()()()だ。ゆえに敗戦国から捕虜が大量に出るだろう。その捕虜を奴隷として扱う」


「大量に・・・奴隷が出来ますね」


「うむ。まあ、戦争中に我が国に寝返れば奴隷としないと約束すれば、無益な争いも減るだろう。抗えば死か奴隷・・・どちらかとなると分かればな」


「あ~私欲しい奴隷いる~」


キャロンが手を上げてアピール。フェードは興味深そうにキャロンを見つめた


「ほう・・・誰だ?」


「んとね~6番隊の隊員だったエーレーン~」


「バイン・・・バイン」


「・・・確か槍使いか。何かされたのか?」


「ん~ん。されてないけどね~お胸が・・・ムカつくの~」


「主張し過ぎ・・・尻も」


完全な逆恨みだが、キャキュロンは握り拳で力説する。クピトが横で驚きの表情を見せるがお構い無しに続ける


「奴隷にしてね~お椅子にしたり、部下に犯させたり・・・色々遊ぶの~」


「胸を小さくしたいって・・・だから、2人で凹ますの・・・コレで」


キャロンは未来を想像し笑顔で、キュロンは武器を持ち上げて不気味に笑う


「お主ら・・・仲良く見えたのじゃが・・・女は恐ろしいのう・・・」


クピトが引き気味に言うと、キャキュロンは小さな胸を張り、当然と鼻息を荒くした


「アレがいると小さく見えるの~。世界基準を変えるの~」


「ちっぱいこそ・・・至高」


フェードに毒されている・・・そう周りの者達は思うが、口にはしなかった。なるべく巻き込まれないように「そうか」と聞き流す


「楽しみが増えたな。だが、まずはシャリア・・・そして、マベロンだ。その後になるから生き残ってることを祈るんだな」


フェードは娘の成長を喜ぶように顔を緩ませ、そう告げると来たる戦争の準備を指示する。2年後・・・大寒波と同時に起こる戦争に向けて




テラス近郊の西の森


一人の男が日課である川へと向かっていた。目的は川魚。男は今まで仕事をし金をもらい、その金で支払う事で食事をしていた。しかし、ここ最近は自給自足の毎日を強いられている。本人曰くエリートであった為、今の生活に慣れはするが染まりはしていなかった


「ナタリーの姉さんは動けなくなってから、扱いが酷いし、サテスの姉さんは口うるさいし・・・」


ブツブツと年下を姉さん呼ばわりする男・・・グリムが川まで辿り着くとそこには見慣れない物体が・・・いや、見慣れた人物がそこに横たわっていた


「!・・・は?・・・お嬢?」


しばらく前に分かれたはずの首領の娘であるシーラと、シーラを連れて行ったターゲットの孫アシス・・・その2人が川辺で横たわりピクリともしない。急いで近付き、生死の確認をすると2人を流されないように少し移動させ、すぐに村へと駆け出す


「こいつは大変だ!・・・何が・・・一体何があったんだ!?」


救援を求め走るグリムは二人の身に起こった事に思いを馳せながら呟く


傷つき寄り添う2人の身を案じながら・・・

SSはさみ4章に行く予定です


今後ともよろしくお願いします

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