3章 9 一蓮托生
6番隊も結成から半年が経ち、シーリスが加わった事もありスムーズに依頼を達成出来るようになっていた。依頼のない時には訓練をしているのだが、それも効果が出てきている
1番強くなったのはカイト。阿吽程ではないが、元々速かったスピードは力をコントロールする事により更に速くなり、傭兵界隈では有名になりつつある
1番変わらないのはデクノス。元々が弱かった為、経験を積み強くなったとはいえ、所詮はデクノスだった
シーリスはすぐに6番隊に溶け込み、『カムイ』での隊長経験を生かしてカイトと双璧をなす副隊長に就任。隊員も増えた為に俺を中心にカイト班シーリス班に分かれて依頼をこなす事も出来るようになり、ますます隊としての幅が広がった
2年後に起きるであろう大戦争・・・100年戦争を止めるべく奔走するナキスとはすれ違い、最近ではゆっくりと話は出来ていない
「隊長ー、考え事ですかー?」
依頼達成報告の帰り、拠点から宿屋に戻る前に1杯飲んでいこうとカイト達に誘われ店に向かって歩いている時、物思いにふけていると、カイトが顔を覗き込みながら言ってきた
「ああ・・・平穏だなって思っていると・・・厄災はやってくるもんだな!」
カイトに答えている最中、突然の激しい力の高まりを感じてその場から飛び退く。すると、懐かしい顔がそこに存在していた
「厄災扱いはひでえな・・・不意打ち食らってのびてたガキが偉そうに街中を仲間と歩いてるのを見たら・・・ちょっと小突きたくなっただけだ」
「偉そうに見えたのは卑屈になってるからじゃないのか?・・・ウカイ」
そこに立っていたのはウカイ。黒龍と黒虎の力を借りて、死に体で黒龍を取り戻す事に成功したが、未だ俺の力はコイツには及ばない。圧倒的強者の前に体が自然と強ばる
「そうビビるなよ。あれから黒虎に幾度となく語りかけても返事はねえ。かと言ってお前が嘘をついてるようには思えねえ・・・だから、答えを知るお前に会いに来た・・・それだけだ」
特に臨戦態勢に入っている訳でもないのに、ウカイからは凄まじい威圧を感じる。カイト達も訓練のおかげか目の前の化け物の力を感じ取り動けなくなっていた
「なら、店に入って阿吽トークにでも花を咲かせるか?」
「ほざけ。お前とは拳で語り合う以外の手段はねえ。お前を見かけた瞬間、黒虎が少しざわつきやがった・・・やはりお前が鍵だ」
言い終わると指を1本立てる。それが何を意味するのか、ウカイの言葉を待つ以外なかった
「1ヶ月・・・お前に時間をやろう。それまでに仕上げて来い。・・・ガッカリさせるなよ・・・阿よ!」
ウカイはそれだけ言うと踵を返し去って行く。去ってからしばらくして体中から冷や汗が吹き出ていた事に気づいた
「なんですかあれ・・・なんなんですか?」
カイトはウカイが去った後、しばらく呆然と呟いていた。嵐のように来て嵐のように去った化け物の姿の幻影に怯えるように・・・
────
宿に戻りアシスの部屋で3人にウカイの件を話した。1ヶ月後・・・あまりにも短い期間で何が出来るというのか・・・前の黒龍を取り戻す戦いとは違う。恐らくはどちらかが死ぬまでの戦いを挑まれた事を話を聞いた3人は理解する
「逃げる・・・という手は潰されたわね・・・」
ここに居る4人の前で、戦いを挑んで来たのなら、逃げる手もあった。だが、実際は傭兵団の隊員の前で挑まれ、しかも阿と強調された。もし逃げたのであれば、傭兵団に戻る事はおろか、阿家家主にすらも戻れない。名誉名声を重んじる傭兵団、大陸にその名を知られる阿家にとって、一騎討ちから逃げてたあればいい笑いもの・・・決してあってはならない事だった。しかし、ここにいる3人は傭兵団として阿家家主としてのアシスではなく、アシス個人としての仲間である為、ここでアシスが逃げようが見限ったりはしない。逆に逃げる補助すら買ってでるだろう。リオンですら、ウカイの実力を目の当たりにし、今はその時ではないと判断していた
「今やれば・・・負けるか・・・」
実際に戦ったアシスが身に染みて分かっていた。実力差がありすぎる。到底1ヶ月では追いつけないほどの差が
「1ヶ月・・・依頼を止め付き合おう」
「いや、それには及ばない・・・なんとかしてみるさ」
リオンの申し出にアシスは首を振り断る。実際はアシス本人ですらどうすれば届くか見当もついていない。誰かと実戦さながらに修行した方が伸びる可能性は高いが、相手は吽家のウカイ。無手の相手となると勝手が違う。前の~流~の修練の時を繰り返しても無駄というのは、ウカイと対峙したあの時肌で感じていた
「・・・『神威』を使う」
「シーラ!」
シーラの言葉に激しく反応するシーリス。要領を得ないアシスは首を傾げる
「『カムイ』を?ウカイを暗殺するって事か?」
「違う・・・そうじゃない。『神威』は・・・」
「シーラ!・・・いい加減に・・・」
シーリスが再度窘めるように声を上げるが、シーラの目を見て言葉を失う。前に『カムイ』に戻ろうと言った時に拒否した時の目・・・いや、それ以上に意思の固さを感じる
「ふう・・・いいわ。ここに居る2人なら・・・」
シーリスはシーラの説得を諦め、アシスとリオンを見る。長い間共に行動している者達・・・もしかしたら、これが仲間なのかとシーリスは思い始めていた。妹の為に『カムイ』に・・・父に忠実に従ってきたシーリスにとって、『カムイ』以外の仲間・・・ありえないと思っていた存在がそこにはいた
「ありがとう・・・姉さん」
そして、シーラの口から語られるのは『神威』の真実。『神威』とは技の名前。使えるのはシグマら首領の血族のみ。『カムイ』首領シグマ。『十』であるシヴァ。そして、シーリスとシーラの4人である。その技は使えば誰が相手でも必ず殺すと言われている程で、その技があるおかげで『カムイ』は現在の地位を確立した
「その技の正体は・・・一生に2度・・・いえ、正確には1本につき1回放てる至高にして唯一無二の技の名前・・・それが『神威』」
「1本につき1回?」
「ええ。技を放てば、腕は使えなくなる。自己暗示により腕の限界を無くし、限界を超えたただの投擲・・・だけど人には躱せない必中の技」
「そんなもの・・・どうやって習得すんだよ?打ったこともないのに威力も分からないし・・・ましてや教えようがないだろ?」
「血の記憶と呼ばれている・・・自己暗示により限界を無くした時に蘇るの・・・その呪われた記憶が・・・そう・・・声が聞こえるの『ただ放てば良い』と・・・」
その時の恐怖なのだろうか、シーラは自分を抱きしめるようにして震え始めた。血の記憶・・・それを聞いてアシスは自分のマントを見る。漆黒のマント・・・そして、アシスに語りかけてくる相棒・・・
「ウカイは『神威』の事を知っているわ・・・なんせ自分の父親を殺した技だからね・・・」
「なに!」
シーリスから事も無げに言われた言葉にアシスは衝撃を受ける。ウカイの父親・・・つまりはその時の吽家家主の事である
「ウカイの父親・・・ウラヌスは私の父であるシグマと争い、そして、父の『神威』で命を落とした。・・・以来父の片腕は 動かない」
シーリスは動かないと言った時にシーラを見ていた。もしシーラが『神威』を放てば、同じ末路になる・・・そう警告するように
「実際、どうしてそうなるかは分からないらしいわ。聞いたら感覚が全く無くなるとか・・・あってないような・・・肩からぶら下がっている物・・・に成り下がる」
「構わない!」
シーリスの脅しとも取れるような発言にも怯まず真っ直ぐな目シーリスを見て口を開く
「例え腕が・・・両腕がそうなろうとも、それでアシスの・・・1人の命が救えるのなら、わたしはそれで構わない!」
「シーラ・・・」
意思が変わらないのは分かっていた。しかし、ほんの少し・・・躊躇してくれたら、望みはあると思ったが、一切の躊躇のなさに説得するのを諦めた。シーリスとしては、シーラが例え腕が・・・『神威』が使えないとしても、世界で唯一の妹・・・それは変わらないと『神威』の使用をこれ以上止めることはなかった
「私が使えれば・・・」
シーリスは自分の不甲斐なさに歯噛みする。シーリスは本来使えるはずの血族。だが、自己暗示の段階で血の記憶の言葉を拒否していた。それは父が放った『神威』への潜在的な恐怖感なのかシーラに対する洗脳への反抗心なのか・・・ただこの事を知っているのはシーラのみ。シグマや『カムイ』の者達はシーリスも使えると思い込んでいた
「違うよ姉さん・・・わたしが『神威』を使えるのはきっとこの時の為・・・」
「待て待て、勝手に話を進めるなよ。誰がその『神威』を使ってくれと頼んだよ?」
姉妹の話に割り込んで来たアシスは、心外だと言わんばかりに肩を竦めていた
「だって、今のアシスじゃ・・・」
「言ったろ?なんとかしてみるさって。例えその『神威』が腕1本使えなくなるってリスクがなかったとしても、俺はシーラに打ってくれとは頼まない。これは俺とウカイ・・・そして、阿と吽の問題だ」
「・・・死ぬ気?」
シーリスは贔屓目に見てもアシスの勝ちはないと思っている。前回もウカイがその気ならアシスの命はなかったのだから
「死ぬ気はない」
「勝てる見込みは?」
「・・・」
答えに窮するアシス。それを見てシーラが立ち上がり訴えようとするが、それを手で制す
「正直・・・前回戦って未だその時のウカイにすら勝てないのは分かっている。今のウカイは・・・前回以上だ。それでも・・・俺はこの戦いに向かわないといけない・・・そんな気がする」
アシス本人ですら、要領を得てない理由に気持ち良く送り出せる訳もなく押し黙る。しかし、シーラが静かに口を開いた
「もし・・・もしアシスが死んだら、わたしも死ぬ。それでも戦う?」
「!」
見つめ合う2人。それは前のベッドの上で見つめ合っていた時のような甘い雰囲気はなく、まるで戦い前の睨み合いに近い感じであった。張り詰める空気が2人の近くにいるシーリスとリオンにすら緊張を生み出す
「ああ」
長い沈黙の後、短い言葉でアシスが答える。その答えを聞き、シーラは目を閉じ踵を返した
「・・・そう」
「ちょ、ちょっとシーラ!」
そのまま部屋を出ていくシーラを慌てて追いかけるシーリス。その姿を無言で見つめた後、部屋に残るリオンに告げる
「時間が惜しい。今からグロウとナキスに話をしてくる」
「何処で鍛える?」
「前に獣の討伐に行った場所が静かで良い。そこに1ヶ月篭ってみる」
「・・・本当に手伝わなくて良いのか?」
「大丈夫だ。すまんな、心配をかける」
「気にするな・・・もう慣れた」
互いに口元を緩め、話が終わるとアシスは立ち上がり部屋を出た
────
まず向かった先は傭兵団の拠点。グロウの元を訪れ事の成り行きを説明し、6番隊の隊長をしばらく副隊長のカイトに任せることを告げる
「勝てるのですか?」
「さあ・・・な」
「見届けても?」
「構わないさ。まだどこでやるかも決めてないけどな」
「それならいつもの空き地がいいでしょう。あそこなら、いくら暴れても大丈夫ですし」
「確かに」
「・・・私に出来ることは?」
「・・・勝てるように祈っといてくれ」
「セーラ王女より散策の護衛依頼が来ています。日にちはこちらに合わせるとの事でしたので、1ヶ月後で良いですか?」
「死んでなければな」
「王女からの依頼は『アシス率いる6番隊』指名です。これを破れは私は国家反逆罪になるのでしょうか?」
「知らねえし・・・そうはならねえよ」
1ヶ月後以降の約束・・・それを受けるのは死なない、無事に終えるの意思表示。決意を新たにグロウに6番隊を頼むとだけ告げて分かれた
決戦の場を決め、少しづつ高まる気持ちを抑え拠点を後にして、目指すは王城のナキスの元。勝手知ったる王城内を突き進み、ナキスの部屋をノックする。返事が聞こえ、中に入るといつもの風景・・・書類に囲まれたナキスがいた
「これはこれは・・・最近ご活躍の6番隊隊長殿ではありませんか」
最近忙しくて会いに来れなかったからな・・・嫌味の1つくらいは勘弁してやるか
「そういうお前の方からも連絡すらないじゃないか」
勘弁してやるが、返さないとは言ってないと嫌味を直球で返す。お互いニヤリと笑い、椅子に座るように即されると、いつもの様に正面にドカッと座った
パンパンとナキスが手を叩くとメイドが俺の分のカップを置き、茶を入れる。ナキスの方にも茶をつきたし、部屋を後にした
「で、今日は何のようだね?」
「耳の早いお前にも届いてないか」
新しく入った茶の匂いを嗅ぎながら聞いてきたナキスは、俺の返しに疑問を持つ
「何かあったのかね?」
「ウカイが来た」
その言葉に持っていたカップを落としそうになるのを必死に耐える。コイツがここまで動揺するとは・・・まあ、厄災級の人物だから仕方ないか
「それは不味い・・・丁重にお引き取り願おう」
「どうやって?」
「『十』の誰かを送る。例えウカイでも『十』と揉めるのは得策ではないはず・・・」
「もう既に勝負を挑まれた・・・1ヶ月後にな」
「先手を打たれたか・・・君はなんと?」
「答えてはいない・・・けど、隊員の前で朝っぱらから堂々と挑まれたよ・・・最後に『阿よ!』とも言われたな」
カップを置き、顔で手を覆う。手の隙間から見える目はロウモードだと感じた
「君は名を欲しない・・・だったね」
「欲しないが、出来た仲間との絆を大切にしたいし、名ばかりだが阿家家主としてのプライドもある」
「避けては通れぬと?」
「避けて通れるほど道幅が広くないな。アイツでかいし」
「道幅が狭ければ広くすれば良い。インフラ整備は王家の仕事だ」
「それで避けて通ったとして、その先の道はお前の目的地に繋がっているのか?」
「繋がっていなければ、作ればいい。それを作るのが僕の仕事だ」
「一度逸れた道から戻るのにどれくらいの月日がかかる?そして、戻れたとしてその道はお前の道か?」
「僕が作る道だ。必ず戻してみせよう」
「最短で真っ直ぐ突き進むお前と、脇道に逸れ戻ってきた俺は友と呼べるか?」
「!・・・アシス!」
「共に歩むと決めた以上、お前が命を削り全力で進むなら、俺も全力で応えよう。ウカイを降し、阿吽家の復興する事はお前にとって有益なんじゃないか?」
「僕と友になったのは阿吽家ではない、ただのアシスだ」
「そのアシスが阿吽家と家主になる。友になったのは俺だが、その俺が力をつけて悪い事あるか?お前の夢はお前でしか叶えられない。なら、使えるものはなんでも使ってみろよ?ナキス・ロウ」
カップを再度手に取り、飲みながら目を閉じた。俺の言葉を噛みしめるように
「一つだけ言っておく・・・君の命には僕はおろか大陸中の運命がかかってる・・・それでも挑むかね?」
「ついさっき・・・それと同等くらいのものは背負ってきた」
「なに?」
「シーラの命だ」
「・・・それでも挑むというか・・・ならば何も言うまい」
ナキスの用意する道は安全な道だろう。しかし、その道に逃げて戻った時の俺は俺ではない気がする。それにウカイとは戦わなくてはいけない・・・そう感じるのも確かだ
「期日は1ヶ月後か・・・場所は?」
「フレーロウの南西に傭兵団がよく使っている空き地がある。そこを予定している」
「見に行っても?」
「構わない。なんなら弁当持参で気軽に参加しろよ」
「未来の旦那の勇姿を見せるためにセーラも連れて行くか・・・」
「おい」
「・・・半分冗談だよ」
半分ってどこの部分だよ
「1ヶ月何をするつもりだ?」
「足掻く・・・ただそれだけだ」
「そうか・・・一蓮托生・・・その言葉を胸に刻んでおいて欲しい」
「?どういう意味だ?」
「結果はどうなろうと運命を共にする・・・そういう意味だよ」
「・・・胸に刻み、肝に銘じとく」
話は終わったとばかりにカップの茶を飲み干し立ち上がる。ナキスはそれを静かに見つめているだけだった
立ち上がり部屋のドアに手をかけた時にナキスが声をかけてきた
「アシス!・・・勝てよ」
「ああ・・・必ず」
振り返らず答えて部屋を出る
食料を全部現地調達している暇はない。王城から出た後に携帯食料と水を買い、そのままレグシ側の門に向かうとそこにはシーラとシーリスの姿があった
顔を見る限り止めに来たのではなさそうだ。まっすぐと門に向かって歩き、通り過ぎるところでシーラが口を開く
「全てを投げ打って・・・何を得るの?」
「何も」
「あなたの今までの人生が無駄になるかもしれない」
「かもな」
「あなたに寄り添う者も共に歩む者もいる」
「知っている」
「そう・・・なら」
シーラは素早く動き、小さい声で耳打ちする
「は・・・え?なんて?」
聞こえたが、意味が理解出来ずに聞き返すが、シーラは目も合わさずに無言で去って行く。シーリスも何が起こったのか分からないようで、俺とシーラを交互に見て混乱中
「ちょっと!シーラ!・・・もう!アシス!少しでも強くなりなさいよ!少しでも!」
言うとシーラを追いかけてシーリスも去って行った。門兵が首をかしげる横を赤の称号を見せて門を通った。生き残りをかけた1ヶ月が始まる・・・
「さてと・・・」
荷物を大樹の根元に置く。結局ここまで来てしまった。街に近ければ邪魔が入るかも知れないし、ここならある程度離れているので、来るとしたら狩人くらいだろう。一応念の為に現在誰か居ないか探ってみる・・・すると、すぐ近くにこちらに向かってくる2つの力を発見する・・・獣ではない・・・人?
しばらくして姿を現す2人。1人は見覚えがあった。ウカイと戦う前に遭遇する機能でも備わってるのかね?そして、隣は妙齢の女性・・・
「何しに来た?アーク」
「うーん、なんだっけ?」
アークは忘れたのか、考えて分からないっといった風に隣の女性に確認する。女性はアークの頭にポンと手を載せると微笑んで前に出た
「大方察しはついてるでしょ?」
「母だったもの・・・ってところか?」
「あら?随分な言い草ね。間抜けだった息子だったものに丁寧にも地図を描いてあげた母の献身に感謝の気持ちはないの?」
前は間抜けなって言われたような・・・過去形って事は間抜けじゃなくなったか?・・・にしても、あの地図はコイツだったか・・・ジジイだと思ってたが・・・画力は遺伝かよ
「で?何の用だオバサン」
「死にたいの?」
「生きる為に修行しようとしてるのに、邪魔してるんだ。既に俺を殺しにかかってると判断したが?」
「まあまあ、ひねくれちゃって・・・アークはこんなに素直なのにね~。素直にお母様~って抱きついてきてもいいのよ?躱すけど」
躱すんかい!・・・正直何しに来たのかサッパリ分からん。確かに前回はアークとの戦いが役に立ったが・・・まさか
「修行の手伝いに来たのか?」
「うーん、厳密に言うと違うけど、まあそんな感じね」
「ほう、お母様~が息子だったものを?どんな心境の変化だ?ボケたか?」
「1ヶ月後より早く寿命を迎えたいならそう言ってよね。今なら手は空いているわ」
「子を食らう母鬼がいると聞いてましたが、お母様~の事でしたか」
眉間に深くシワができる。目は笑顔のままだが、器用だな。さすが年の功
「口が悪いわね・・・そんな子を産んだ覚えはないわよ?」
「産んでもらった記憶はないからな」
「こう言えばああ言う」
「ああ言えばこう言う」
ビキッと音がした瞬間、母だったものが「アーク!」と叫ぶ。アークは待ってましたと言わんばかりに素早くこちらに向かってくる
「せーの、にこ!」
アークの右拳に力が固定されている。二虎・・・それを俺にぶつけてきた。左手で拳を受けると素直に地面に流す。破裂音と共に少し地面が抉れた
「いきなり・・・なんだ?」
「へぇー、すんなり流すじゃない?これなら間に合いそうね」
「だから何の話だ?」
「1ヶ月・・・三虎から始めて4日で一虎づつ上げていくわ。私が六虎、アークが三虎まで使えるから、同時に流せば合わせて九虎ね」
「同時には流せないだろ?」
「少しでもズレればの話しよ。全く同時に当てることが出来れば、それは同一の攻撃と同じ・・・そんな事も分からないの?」
「少しでもズレればどうなる?」
「まあ、吹き飛ぶわね」
「・・・それを俺に信用して受けろと?」
「親子の絆を信じなさい?」
「俺とお前の?」
「アークと私の・・・よ!」
突然近づき蹴りを放って来た。アークを警戒していた為、流す事が出来ずに普通に右腕で受ける
「今のは?」
「・・・憂さ晴らし」
おい・・・っていうか普通の蹴りなのにだいぶ重いぞ・・・腕が痺れてる
「なぜ突然現れて、手伝う。誰かに頼まれたか?」
「いいえ。あなたを手伝うと私の願いに1歩近づくの」
「願い?」
「ええ、楽しい老後計画の・・・ね」
これから訳の分からない事をのたまう母鬼と弟もどきとの激しい1ヶ月が始まる
────
「ここに」
王城内のナキスの部屋で一人の男が跪き、ナキスから手紙を三通受け取る
「ワレン様、アムス様にラクス様・・・ですか?」
「ああ。今回は鳥文だけで構わない。往復している時間は・・・ない」
男は返事をすると一礼して退室して行く。それを見送ったナキスは椅子にもたれかかり、天井を見上げた
「手出し不要の真剣勝負・・・それに手を出す汚名・・・この身で引き受けよう」
一人部屋の中で呟くナキス。それは誰もいない室内に木霊し、まるでナキスを責めるように頭の中まで入ってくる。それでも頭を振り払い固く決心する
一蓮托生────どのような結果であれ、共に行動する・・・どのような結果・・・それをより正解に近い結果にする事がナキスの悲願の為でもあるから・・・
3章10は早目に投稿致します
予定では明日になります
誤字脱字やツッコミ、感想などお待ちしております
また、評価やレビューなど頂けましたら、泣いて喜びます
今後ともよろしくお願い致します




