3章 番外編 6番隊新戦力
初任務は全員泥だらけの汗だくで幕を閉じた。フレーロウに着いたのは夜深く、門番も見た目が薄汚れた集団が大勢で大きな荷物を抱えて現れたものだから、「敵襲~!」と叫んだくらいだ。おかげて入るのに一苦労で、称号ではなく玉璽の欠片を出す始末となった
ギルドは夜でも開いている為、運んだ部位をギルド前に置かせた後、他の隊員は家に帰し、俺とシーラでギルドの門を叩いた
「シーラさん!・・・とアシスさん」
受付に居たのはマクトス。明らかに俺とシーラの呼び方が違うのは相変わらずだ。晩餐会でセーラへの突撃を邪魔したのも根に持っているかも知れない
「依頼の達成報告だ」
依頼書と俺の持っていた部位を机に載せると、あからさまに嫌そうな顔して依頼書と袋に入った部位を見る
「うっ・・・臭っ・・・?あれ、証明部位は頭部となってますが・・・」
「頭部は爆散した。他の部位ならギルドの表に積み上げてるが・・・」
「爆散って!それに頭部以外って・・・全部?」
「ああ、全部だ」
受付からギルドの外に出て、表に積み上げられた袋を見て数歩後退る
「何の嫌がらせですか?これは」
「だから、頭部が爆散したから、代わりに頭部以外全部持ってきたんだ。これで倒した証明に・・・」
「なりません!」
俺の話の途中で割り込み、キッパリと言い切りやがった
「でも・・・」
「なりません!」
「お・・・」
「なりません!」
取り付く島もない。言葉を発したら、自動的に言うつもりだ
「マクトスさん・・・」
「なり・・・シーラさん、残念ですが、証明部位は頭部と決められている以上、他の何を持ってきても討伐証明には出来ないのです。その決まりを破ってしまうと嘘をつく輩や偽造する輩などが後を絶たなくなってしまうので」
「俺が嘘偽りを・・・」
「なりません!」
おい!なんだこの待遇の違いは!
「せめて依頼主さんに確認してもらえない?」
「うーん、そうしたいのは山々ですが、ギルドとして、お受け出来ない以上、依頼主に話をするのは・・・」
「分かった」
「なり・・・え?」
さすがに頭にきた・・・あれだけ苦労して運んだのに、それを無下に断るなんて・・・一体誰のせいで・・・って俺か?いや、これは怒ってもいいだろう
「討伐を認めないって事は依頼が達成されてないって事だよな?」
「え、ええ。そうなり・・・ますね」
「なら、今回の依頼内容はコイツを討伐しないと狩りに行けないって話だったよな?」
「そう・・・書かれてますね」
「だとしたら、ギルドは一生依頼主にそこで狩りをするなって言ってるのと一緒って訳だ」
「なぜ・・・そうなるのです?」
「アホか!コイツが怖くて行けないから依頼を出したんだろ?コイツの討伐が確認出来ないのに行くのはおかしいだろ?」
「獣にも寿命がありますので・・・」
「怖くて必死に逃げてきて、どんな獣かも確認出来なかった狩人に、いつ寿命が尽きるか分かるか?」
「・・・」
「分かったらお前は依頼主に確認すりゃー良いんだ!それでも認めないつーんだったら、他の奴らに討伐依頼を出せば良い!一生見つからない獣を探せってな」
「わ、分かりましたよ!明日にでも依頼主に見せて判断を仰ぎます!これでいいんでしょ!」
マクトスは「明日は夜勤明けで休みだったのに」とかブツクサ言いながら、中に戻って行った。獣の部位はこのままで良いのか?異臭騒ぎになっても知らんぞ?
なんて、思ってるとシーラがジーッとこちらを見ているのに気付いた
「?なんだ?」
「なぜ熊の頭は吹っ飛んだの?」
「あー、それは阿吽の基本技って実は2種類あってな。溜めた力を相手の体内に流してダメージを与える技と外側に放つ技があるんだ。力を体内に流す場合、相手の図体がデカい場合効きにくかったり、無機質な物とかは通らなかったりする。その場合は外側に放つ方で攻撃する」
顔合わせの時にダルムトを吹っ飛ばしたりしたのも外側に放出した結果だな。震動裂破や震龍裂破が外側で、~流~とかが内側の技の派生となる
「ふーん・・・身を呈して守ったり、証明部位を吹っ飛ばしたり・・・必死になってたね」
「いや、そりゃ隊員だし・・・」
「所詮男は巨乳好き」
なんか名言ぽい言葉を呟き、そそくさと歩いて行くシーラ。いやいや、エーレーンじゃなくても、あの場面でデクノスでも・・・ちょっと噛まれた後くらいには助けに行ったはず・・・多分
自分を納得させるように考えているとシーラはずんずん進んで行くので慌てて後を追う。追いかけて来た俺を見て少し口の端を上げているから、機嫌が悪い訳でもなさそうだ。何を考えているのかさっぱりだ
でも、宿に着く前に一言「自分の身も案じてよね」と呟き、その後は無言で帰路についた
翌日昼頃に拠点に向かうと、依頼の達成を告げられる。依頼主の朧気な記憶と持って帰った獣の死体が一致したらしく、これで安心して狩りに行けると喜んでいたらしい。これで6番隊の初任務は達成という形で幕を閉じた
「達成証明部位が無い時点で認めない依頼主もいますので、今後は気をつけてください。ただし、最も優先すべき事柄は全員無事に帰ることです。うちは名声よりもそちらを優先していますので、お忘れなきよう・・・後」
グロウは最初は淡々と、次第に優しい顔で俺に語りかけていたが、一旦言葉を切ると険しい顔で続けた
「最後に報告を受けた際に非常に不味い点が一つあります。それは、1人の隊員を隊長が庇ったところです」
え?どこが非常に不味い?
「隊の中での隊長の役割は主に隊員達への指示ですが、その中でも最も重要な指示が撤退の指示となります。押すことは出来ても引くことは難しい・・・戦況を読む力が必要となります・・・それを一任されているのが隊長であるのです。一度攻めてしまえば、各隊員で考え行動する事も可能ですが、撤退だけは隊長命令以外では各自で判断するのは困難となります。それを踏まえて考えて頂きたい・・・今回のアシスさんの行動が、隊全体にとってどんな行動だったのかを」
「・・・つまり、俺が殺られたら、撤退の機会を逃し全滅する可能性がある?」
「そうです。隊にとって、頭を取られるのは非常に不名誉な事。副隊長に指揮が変わったとしても撤退の判断は下しにくいでしょう。判断が鈍り隊が全滅・・・そうなると結局は助けた者に加えて隊員達全員の命を危険に晒すこととなります」
「副隊長に隊長が殺られたら撤退するように指示しとくとか」
「言ったでしょう?頭を取られるのは非常に不名誉な事なのです。仮にそういう指示を与えてたとしても、目の前で隊長が殺られて冷静でいられる可能性は低いと思われます」
確かに・・・俺がナキスの元で動いていたとして、ナキスが殺られて引くかと聞かれれば・・・難しいだろうな。名誉とかは別にして
「なので、今回のアシスさんの行動は、1人を助ける為に隊全体を危険に晒してしまった・・・となります。隊長は隊の要。常に隊全体の事を考え、的確な指示を出すのが役割となります」
言っていることは分かる。でも、目の前で殺られそうになっている仲間を見て果たして動かずにいられるか?
「・・・アシスさんの考えている事は分かります。ですが、隊を率いている者は必ずそういった場面に出くわします。小を殺し大を生かす・・・そういう判断を下さなければいけない場面が・・・必ず!」
グロウは責めるわけでもなく、諭すように語りかけ、最後は悔しさを滲ませるように言って席を立った。最後に「ご苦労様でした。今日は休んでください」と告げると俺の元から離れていく
グロウの言いたいことは理解できるが、思わずナキスならどう言うか考えてしまう。そして、アイツなら『そうならないように考えるのが隊長の仕事だね』と言い切るだろうな。ナキスとグロウ・・・似ていると思ったが、考え方は違うな
モヤモヤしながらシーラと共に一度宿に戻ろうかと歩いていると珍しい2人に遭遇する
「おう!アムスの孫か」
レンカとフェンの2人がこちらに気付き声をかけてきた。レンカはレグシに向かう際に会った以来、フェンはレグシから戻って来てから以来の再会だ
「ども・・・じゃ」
関わり合いたくないと思い、立ち止まらずに通り過ぎようとしたら、剣の鞘を握られ妨害された。・・・くそっ
「おいおい、なんだよ連れねえなぁ・・・ってお前・・・上がった?」
何がだよ!って突っ込んだら負けだと思い、ここから立ち去る理由を考えてると、更に胸倉を掴まれ、顔同士がぶつかる寸前まで引き寄せられた
「・・・この短期間で何をした?上がり過ぎだろ?」
だから、何がだよ?と突っ込みたい気持ちが溢れるが、レンカはつまらなそうに俺からの答えを待つことなく突き放す
「ったく・・・どんな死線超えれば・・・同世代でのトップが・・・」
俺を突き飛ばした後にブツブツと訳の分からない事を呟くと、目線をフェンに送る
「フェン!今からコイツと立ち合え!」
「・・・承知」
街のど真ん中で突然槍を構えるフェン。なんだこの状況は?
「ちょ・・・ちょっと待とうか・・・なんで俺がフェンと立ち合わいといけないんだ?しかも、この場で?」
周りの人は俺らを最大限避けるように歩き、野次馬も遠くの方で興味津々に見ている。昼の人通りの激しい時に何の抵抗もなく槍を構えるフェン・・・さすがフェンタイ
「あ?アタイが立ち合えつったら、立ち合えばいいんだよ。それとも何か?アタイとやるか?」
なぜそうなる?レンカの思考回路についていけないが、拒否権がないのは分かった。ならばここは・・・
「ここでは人目につきすぎるし、邪魔になるし守備兵も来る・・・仕方ない・・・こっちだ」
俺は団で使っている空き地へと案内する事に決めた。突然の申し出で疑問をぶつけたが、正直フェンとは戦ってみたかった。ナキス曰くレンカ切れの発作がなければ黒の称号にとっくになっていたという実力に興味があったからだ
2人は素直に俺の後に着いてきてくれた。どうやら立ち合えれば場所はどこでも気にしないらしい。シーラとレンカが見守る中、フェンは到着後再び構える
「・・・いざ」
レンカが近くにいると言葉数は少ないまでも喋るのな
俺は剣を抜かずにまずは相手の出方を見る為に左腕に黒龍を纏い、構える。他の人は知らないが、俺は少し槍に苦手意識を持っている。と、言うより圧倒的に対戦の経験が少ない。強者とやるのは人生初めてなのだから
俺が構えるなり、フェンが槍を突いて来る。そのスピードに面食らい、飛び退いて躱す。ラクスが大剣を振るほどの速度での突き・・・しかも、襲ってくる攻撃は線ではなく点で来る為に慣れるまでは流せそうもないな
「なんだ?上がったと思ったが気のせいか?んだよ、そのへっぴり腰は?フェン!構わねえからやっちまえ!」
レンカの言葉にフェンはコクと頷き槍を構えると次々と槍を放つ。連続突きは凄まじい弾幕となり際限なく襲いかかってきた
上がったとか意味の分からん事はさておき、へっぴり腰には同感だ。避けてばかりじゃ勝負にならない
「阿・・・吽」
槍の弾幕に向けて震龍裂破を放つ。双龍からの震龍裂破ではない為、威力もそこそこ・・・だが、槍を弾くには充分な力は込めた
しかし、放った瞬間に突きを止め、槍を横に薙ぐフェン。すると空気を裂くような激しい音と共に震龍裂破はかき消される
「見えてるのか?」
震龍裂破をかき消した槍の一閃も凄いが、何より見えないはずの力の流れを苦にすることなく合わせてきたのは見えている証拠だ
「ったりめーだ!力を読み取るのは上位者には当たり前の事。そして、力を操り始めてやっとこさ一人前だ」
ん?俺が読み取れたのは最近・・・力を操る事は出来たから、今までは半人前だったてことか?つまり、上がったって言うのは、半人前から一人前に上がったという意味?
考えている隙にフェンは再度突きを放ってくる。何気なく纏っている左腕で槍を受け止め、次の攻撃に備えようとした瞬間、激痛が左腕を包み込む。黒龍を貫通した訳では無い。だが、左腕に槍の穂先はめり込み、激痛を与えていた
「はん!腕で受けるたぁバカもいいとこだ」
レンカが得意気に語るので、フェンを注意深く観察するとうっすらと力の膜が体全体・・・槍までも包み込んでいた。双龍が力を体内に流し全ての能力を上げるのとは違い、力が全体から溢れ出ている。まるで力の鎧を纏うように
「阿吽僧だけが力の使い方に長けている訳じゃねえ」
まるで鬼の首を取ったように腕を組みながらニヤリと笑うレンカ。誰が鬼だ!と心の中で突っ込み、両手を合わせ力を流し込む
「・・・ふうん、ちぃったーマシになったか」
今度はこっちの番だ。すぐさま間合いを詰め、剣を引き抜きざま斬り掛かる。槍で受け止めて反撃に転じようとしていたが、俺の予想外の斬撃の強さに体ごと吹っ飛ばされた。面を食らったフェンは慌てて態勢を戻そうとするが、その前に再び間合いを詰めた俺の左の拳がフェンの腹を貫いた
「フェン!」
一瞬の出来事に顔を歪めるレンカ。レンカは双龍の力を瞬時に警戒していたが、フェンは恐らく見誤った。力を読み取る練度が足りなかったのだろう。しかし、フェンは諦めてないのか、起き上がるとボソボソと呟く
「一点集中・・・槍翔天武」
「フェン!よせ!」
レンカの慌てる声が遠くに聞こえる・・・槍の穂先に異様な力が集中していた。恐らく今まで体に纏っていた力を槍先に集中させている。下手したら触れただけでその部分が消滅してしまうのではないかと思うくらいのプレッシャーを感じる
背中に冷や汗が伝う。間合いは槍の間合い。躱すのは不可能に近い
「しっ!」
短く息を吐くと、力の塊がこちらに向かってくる。いなす事も躱すことも出来ない・・・ならば、受ける
「バッ!・・・おい!」
「アシス!」
俺がフェンの槍を剣で受けに行くのに気付き、レンカとシーラが咄嗟に声を上げる。なんだかんだで俺すらも心配してくれてるのか?レンカは
槍と剣がぶつかり合う瞬間、剣に双龍を流し込む・・・武具流化・・・イノシシの時は相手の力を利用したが、今回は純粋に双龍のみ。力が剣先に流れ込み槍とぶつかり合うと凄まじい音をたてた
ギイイン
2つの武器は互いに動きを止め、その場で膠着。しかし、次の瞬間に甲高い音を立てて槍の先に亀裂が走る
直後、剣を引き再度フェンを斬りつけようした時、前にギルドでレンカと対峙した時と同じようにいつの間にか目の前に槍があった
レンカが俺とフェンの間にいつの間にか入り込み、槍を2本クロスさせて1本は俺に、もう1本はフェンに突きつける
「おしまいだ・・・ガキ共」
なぜフェンにも・・・と思ったが、フェンも槍の先に亀裂が入った瞬間、槍を回転させ石突の方で俺を攻撃しようとしていた。無警戒に剣を振るっていたら、もしかしたらやられていたのは俺かもしれない・・・そんな事が頭をよぎる
「引き分け・・・って言いたいところだが、槍をやられたてめえの負けだ・・・フェン」
一瞬何かを言いたげにしたフェンだが、槍の穂先を見て目を閉じ頷いた
「まさか虎の子の槍翔天武を弾き返し、槍まで破壊するとはな・・・まさかそこまで上がっているとは思わなかったぜ」
「さっきから上がる上がる言ってるけど、上がるってなんだ?」
剣を納めながら、さっきから疑問に思った事を問い掛ける
「・・・ステージだよ。力を読み取れるようになって始めて上がることの出来る・・・アタイらと競えあえるステージさ。まだ上がりたて・・・挑んでくれば蹴落とすがな・・・」
槍をしまい、邪悪に微笑むレンカ。こんな女に惚れているフェンはやっぱりフェンタイだな
「・・・お前、傭兵団に入ったらしいな?」
嫌な予感が頭の中に駆け巡る。不味い・・・とにかく不味いぞそれは・・・
「よし、フェン!コイツが入ってる傭兵団に入れ!お前には今は師よりもライバルが必要だ。同レベルのな」
「!・・・しかし」
情けない顔で拒否るフェン。コイツ美形なのに、この辺が情けないよな・・・ウチの残念性能よりも実力がある分残念感は上だな
「かー、情けない顔すんな!槍も新調してやるし、たまには顔も出してやるから」
「・・・でも」
そう言えばレンカは『十』でメディア担当らしい。だから、フレーロウに居ることは多いが、メディアも広い。他の街に行くこともあるだろうから、フェンが傭兵団に入るのならば、離れて暮らす事になるだろうな
「・・・分かった分かった!そんな暗い顔するなよ!なら、傭兵団に入ってそこで1番になったら、母ちゃんが何でも1つ言うこと聞いてやる!」
1番って・・・そんな制度、傭兵団にあるのか?てか・・・母ちゃん?
「・・・承知」
え?何この流れ?傭兵団って自由意志での加入なの?
「つー訳だ!よろしくなアムスの孫!」
良い笑顔で言われたが、ここで拒否したら殺されるのだろうか・・・笑顔なのに有無も言わさぬ迫力を感じる
「・・・」
「なっ!アムスの孫!」
俺が答えに困っていると笑顔に少し陰りが見え始めた。と言うか、歯がむき出しだ。・・・怖い
「分かった・・・団長には伝えておく」
ようやく絞り出した答えに満足したレンカはフェンを連れて去って行く。明日の朝、ギルドでの待ち合わせとなった・・・何この敗北感・・・そして、罪悪感・・・グロウすまねえ・・・
フェンという爆弾を傭兵団に入れる事になってしまったことから片膝をついてこうべを垂れると、慰めるようにシーラが肩にポンと手を置いた
こうして、傭兵団にフェンが加入する事になった
番外編・・・もう少し続きます




