1章 3 村
すったもんだがあって予定より少し遅れて村に到着。暖を取り抱っこをしてやってきた道中・・・素敵な会話は一切無し。水飲むか~腹減ったか~と聞くもなしの礫。こりゃあ、しばらく村に留まり会話のレッスンでも受けないといけないかなーって考えてると村の入口に立っていた男────サムナが話しかけてきた
「なあ、どういう状況だぁ?」
うん、分かる。いつもジジイと来ていた俺が1人で来ただけでも珍しい状況なのに、見ず知らずの女をお姫様抱っこして村に来る。俺が門番なら木を削っただけの槍をエイっと突きたくなる
「・・・」
「あの・・・わたしが動けない所をアシスに助けて貰って・・・」
「ふぅん・・・でも、来る方向がおかしくねぇかぁ?アシスは分かるがお前さんはなして森の方にいる?」
「道に迷ってしまって、ふらふらしてたら夜になって・・・」
「あー、ここからダーニまではそこそこ街道ぽくなってるけど、ちょい離れると道なんてねぇもんなぁ。迷ってうちの村迂回して森に向かっちまったか」
「ええ、それで・・・」
「そりゃあ大変だったなぁ。まあ、何もねぇがゆっくりしてけ」
会話だ!the会話だ。なるほど勉強になるな。俺が答えられないとイノがすかさずフォローしてくれた。所々に嘘は付いていたが、まあ、本当の事を言うと村に入れないかもしれないし、会話の流れってやつだな
「すまん、足を痛めてるのだが薬屋は来てるか?」
「あちゃー、今日は来てねぇよ。傷薬か?」
「ああ」
「なら、村長の所にあるかもしんね。行ってみな」
「助かる」
そうか・・・薬屋は行商してるからもしかしたらと思ったが、そんなに都合良くは居ないか。村長なら何度かジジイと一緒に行ったことあるな。確か一番奥の大きい家か
木造りの家が雑然と並んでおり、広い空間で子供たちが走り回っている。何人か見知った顔もあったが、ここは急ぐとしよう。何せ今でもお姫様抱っこは継続中~あっちでヒソヒソこっちでヒソヒソ。子供たちなど気付いた瞬間にヒャーとか言ってるし
記憶を頼りに歩いてると他の家より一回り大きい家の前に辿り着いた。確かここが村長の家だったはず。参列した結婚式もここでやってたんだよな。
イノを降ろし扉をノックしたらすぐに人が出てきた。あー確か・・・
「ナタリーさん、こんにちわ」
「あら、アシス君?こんにちわ。どうしたの?アムスさんと一緒?」
ナタリーさんはチラリとイノを見て俺に訪ねた。村長の娘で俺が参列した結婚式の花嫁さん。つまり必殺のお姫様抱っこの被害者だ
「いや、今日は1人・・・だったけど、ここに来る途中で拾った」
と、イノの背中を押しナタリーさんの前に出させる。アウアウ言いながら、ペコりとお辞儀すると足を引きずりまた俺の後ろに移動する
「こら、犬猫じゃないんだから拾ったとか言わないの!こんにちわ。何ちゃんかな?」
「・・・・・・イノ」
「ん?」
「イノ」
「そっかーイノちゃんか~。私はナタリーよろしくね。所でお二人して何の用?まさか私達の時みたいにここで結婚式挙げたいとか?」
ブッーと後ろでイノが俺に唾を吐きかける。首筋にかかった唾を拭いながら首を振りイノの足を指さした
「足の豆が潰れて歩くと痛みが出るらしい。傷薬があれば譲って欲しい」
「あらあら、大変。薬のストックはあるから私が看るわ。アシス君は村で散策でもしといて」
笑顔だけど何か断りにくい雰囲気を醸し出すナタリーさんに気圧される
「いや、でも・・・」
「いいからいいから♪旦那がそろそろ猟から帰って来るはずよ。旦那とお昼でも食べてて」
イノは家の中に連れていかれて、俺は家の扉の前で1人佇む。強引だな。ナタリーさんとはほとんど話したことないが、こんな性格だったのか
仕方なくナタリーの旦那────トマスさんだっけか?探しに行くか。程なくトマスさんの姿を見つけ話しかける
「トマスさん」
「おう!アシス君!こんにちわ」
上半身裸で腰の帯に猟の成果であろう鳥を2羽ぶら下げ笑顔で手を振る
「ちなみにトマスじゃない・・・トーマスだ!」
「ああ、そうだった」
「かー、相変わらず無愛想だな!どうした?アムスさ・・・んと一緒じゃないのか?」
「うん、ちょっと中央に用事があってね。んで、その道中で厄介事をひろ・・・厄介事に出会って今ナタリーさんに看てもらってる」
「ほーん、そっか!ちょっと捕ってきたこいつらを処理するから、一緒に来るか?」
腰帯から鳥を外し、片手で2羽の鳥を持ってこちらに突き出しながら言ってきた。すぐに食べないなら下処理しないとダメになるんだっけか?
「うん。それ今朝獲ってきたの?」
「ああ!こっちの鳥は夜中に飛んでた所を落として、こっちは帰り際に偶然見つけて落とした!こっちの夜中の鳥が本命だ・・・ここいらでは見ないから良くわからんが脂が乗って美味そうだ」
今にもヨダレが出そうなくらいの勢いで言い放つと、こっちだ!と言いながら処理をする場所へと歩いてく。筋骨隆々のトーマスは狩猟の達人で、飛んでる鳥を石で落とす。俺も何度か試したがなかなか上手くいかない。どうやらコツがいるらしい
「アムスさんとアシス君でここいらの凶暴な獣は狩ってくれたからな!やっとこさ俺らが狩れるような獣が戻ってきた!2人のおかげだよ」
この人も十分強いから、普通に狩れると思うのだが・・・まあ、得手不得手みたいなのがあるのかな?ノシノシと歩くトーマスに付いて歩きながらそんな疑問を浮かべていた
────
ナタリーは玄関から入って奥の部屋にイノを案内すると、ベットを指さした
「このベットに腰掛けて」
イノは頷き素直に従う。木で組み立てられたベットはイノが座ると、ギシッと音を立てる。ベットの上には布が被せてあり、ふかふかとまではいかないが座り心地は良い。村に入って村の人の服装やら生活具合を見て、あまり裕福な村ではないのはすぐに分かる。それからすると、このベットは少し不釣り合いなくらいよく出来たベットだとイノは感じた
「足を看せてね。あらあら、これは酷いわね。靴が合ってないのかしら?ちょっと待ってね」
ナタリーは言うと部屋から出て、戻ってきた時には布と薬の入れ物なのか筒を持ってきた。
「ちょっと染みるわよ」
言うと筒の蓋を開け、豆が潰れ血が出ていた部分にかける。染みたのかイノが顔をしかめるが、ナタリーはそのまま傷口を塞ぐように布を巻いていく
「2、3日したら痛みも引くと思うわ。履いていた靴を見せて」
言うとナタリーはイノの靴の中と足を見比べながらウンウンと頷いた。
「靴のサイズが合ってないわね。この靴の革は履いてれば足のサイズに合わせて広がるけど、成長と広がりの速度が合わなかったのね。しばらく足に布を巻いた状態で履くと良いわ」
「ありがとう・・・詳しいのね・・・」
「ええ。靴は大事よ・・・歩くにしても何をするにしても・・・」
イノは身構える。殺気ではないがナタリーから異様な空気を感じたからだ。顔は笑顔のままで、目は笑ってないように見える
「この村に・・・いえ、アムス様に何の用?」
さっきまでの口調と変わらない・・・が、沈黙は許さない、そんな圧力を感じたイノは体が硬直した。警戒していたはずだが、その変わり身の早さに思考が追いつかない
「この村を迂回してアムス様の住まう森へと向かったのは知っているの」
「・・・」
「ダーニの村には寄ったみたいね。報告は来てるわ。6人組の怪しい集団がこちらに向かったてね」
ナタリーはクスリと笑い続ける
「ダーニからこの村に来るのは行商のみ。特産物もなければ、名所もないのよ。どんな姿形をしてようが見知った行商以外は怪しいの・・・まさかフードを被ったまんまの怪しさ全開でダーニを通り過ぎるとは思わなかったけどね」
「っ・・・」
「言い逃れ出来るとは思わないでね。こんなのもあるし」
言うとナタリーは薬とは別の筒をフリフリとイノの前で動かす。それを見てイノは更に体を怖ばせる
「うちの旦那が撃ち落とした鳥に付けられてた文入りの筒・・・血文字で書かれた内容は暗号ぽいから分からないけど、出処は知れてるから応援要請か現状報告か・・・」
「あ・・・」
「うん?」
「あなたは・・・あなた達は何者なの?」
「フフ、聞いてるのはこっち♪隠すつもりはないから教えてあげても良いけど、まずはあなた達の目的を教えて?」
ナタリーの圧力は徐々に上がっていく。この距離で絶対の自信があるのだろうか。真っ直ぐとイノを見据える。イノは観念したのか、ため息をつき緊張を解いた
「アムスの暗殺」
「アムス様ね?」
緊張を解いたイノに凄まじいまでの圧力がのしかかる。殺気の含まれていなかった時と違い殺意の塊がイノを打ち抜く
「アムス・・・様の暗殺」
「そう・・・」
言い直しに満足したのかナタリーは内容には興味なさげに呟く
「この文はなんて書いてあるの?」
「欠員の為任務遂行不可能 増員求む」
「あら素直ね・・・でも暗号の中に『嬢』という文字があるの。これはあなたの事じゃないの?」
「!・・・」
「他は完全に暗号で読み取れないけど、この『嬢』は固有名詞ぽいのよね」
ナタリーは文の嬢の部分を見ながら人差し指を頬に当て首を傾げた。文から目を離しイノを見据え話を続ける
「暗号を読み取られる程間抜けな集団ではないのでしょうけど、ちょっと迂闊よね」
「・・・」
「この村の近くに潜んでる4人に聞いても良いのだけど・・・手間取らせないでね?」
「嬢は・・・わたし。アムス・・・様の所に向かう途中で、わたしは向かうのを拒否した」
「なぜ?疲れちゃった?」
「いや、殺すのも殺されるのも・・・失うのも嫌だった。わたしは自分の意思で生きたい・・・ただそれだけ・・・」
「あなた達がアムス様に適うとは思えないけどね。失うのもって言うのは仲間の事?」
ナタリーが尋ねるとイノは首を振る
「恐らくわたしはアムス・・・様に勝てる。でも・・・失う」
「要領を得ないわね。勝てるって言うのも眉唾だし、失うってのもよく分からないわ。で、文にはなんと?」
「嬢・・・つまり、わたしが謀反の兆しあり」
「なるほどね・・・嬢って言われてるって事は首領の娘か何か?」
「ええ」
「父親にいい様に使われて、歯向かって・・・反抗期ねぇ」
「違う!」
ナタリーの言葉に激しく反応する。思わずベットから立ち上がるが足に痛みを感じ、すぐに座り直した
「あそこは地獄だ・・・自分の意思と関係なく特訓の毎日・・・見知らぬ人を殺し、仲間すらも疑い・・・言われるがまま生活するだけの日々」
声を荒らげたせいか、肩で息をしながら目を閉じ、今までの日々を思い出す
「大陸の最南端・・・ここまで来れば逃げられると思った・・・あの5人と共に抜けようと言ったがダメだった・・・このまま指示されて誰かを殺すのはもう沢山だ!ターゲットの所まで行き、わたしだけ逃げる事も考えた・・・でも、もし5人がその人を殺してしまったら・・・わたしが殺したも同然だ!もうやめなくちゃ・・・戻れな・・・!」
何かがイノを包み込む。驚き目を開けるとナタリーに抱きしめられていた。人に抱きしめてもらうのなんていつ以来だろうか・・・ふとイノは思いふける
「全てを信じるとは言えない・・・でもあなたの想いは伝わった」
「多分本当だと思うよ」
「!アシス様!?」
「様?」
「あっ・・・」
いつの間にか扉を開けて中を伺うアシスがそこに居た
────少し前
中央の広場より少し離れた場所に共有の処理場があった。なんでも干したり燻したりと調理などもここでするらしい。他の木造りのの家と違い石造りの小屋だ。切断面などを見ると良くこんな建物が作れたもんだと思う
「さて、血抜きして・・・」
手際よく鳥をさばくトーマスを見て何かを思い出す。そう・・・もう昼前・・・昨日の夜から何も食べてない
「腹減った」
「ああん?なんだ飯はまだだったか!よし待ってろ!今極上の鳥料理を食わせてやる!つっても焼いて塩ふるだけだがな!」
ガハハハと笑いながら次々と手を進める。俺が腹減ったて事は、やっぱりそうだよなー
「わりぃトーマスさん!ツレがいるんだ!ちょっと連れてくる」
「え!?おい、ちょ・・・」
小屋から出ると一目散に村長の家を目指す。あいつが最後に飯食ったのがいつか分からないが、昨日俺に会ってから食ってないのは確かだ。傷の事ばっかり気にしてたけど相当腹減ってるだろう
村長の家に着き軽くノックしたが誰も出ない。中から人の気配はするし治療中だろう。俺は扉を開け中に入る
「お邪魔します」
中に入ると奥の方から話し声が聞こえる。ただちょっと穏やかな感じではない・・・何かあったか?俺は声のする部屋の前まで進んだ
「・・・ここまで来れば逃げられると思った・・・あの5人と共に抜けようと言ったがダメだった・・・このまま支持されて誰かを殺すのはもう沢山だ!ターゲットの所まで行き、わたしだけ逃げる事も考えた・・・でも、もし5人がその人を殺してしまったら・・・わたしが殺したも同然だ!もうやめなくちゃ・・・戻れな・・・!」
・・・・・あの時揉めてたのはそういう事か、なるほどね。俺は部屋のドアを開けるとナタリーがイノを抱きしめている。どういう状況だ?ああ、宥めてるのか。ナタリーは囁く
「全てを信じるとは言えない・・・でもあなたの想いは伝わった」
「多分本当だと思うよ」
「!アシス様!?」
「様?」
「あっ・・・」
様?君って呼ばれてたような・・・てか、ナタリーに様呼ばわれする言われはないのだが・・・
「ト・・・トーマスは?」
「鳥捌いてる」
「あの野郎・・・」
えー、ナタリーさん怖い!超怖い!目が据わってる・・・
「まっ・・・まあまあ。ンン・・・その・・・俺が会った時、何か揉めてる様だった。恐らくそれがイノの言っていた事だろう」
イノはナタリーから離され、俺の言葉に頷いた。
「・・・」
ナタリーは何かを考えてるのか目を瞑り、眉間にシワを作る。腕を組みウーンと聞こえそうな感じで黙り込んだ。腹減った
「そうね・・・もう明かしても良いはずだから・・・」
1人で納得するように呟くと、ナタリーは俺の前で片膝を床につけ、両手の拳を握り同じく床につけた
「アシス様!今までの御無礼お許しください」
おおう!なんだなんだ!?
「アムス様の命により、この村にアシス様がお越しになった際、社会を円滑に経験出来るよう我々が配備されました」
意味が分からないがとりあえず腹減った
「この村は以前、外界との接触に余裕が無いほど困窮しており、アムス様が南の森でアシス様をお育てになる少し前から我らは村の立て直しを行っていました」
え?つまり俺の社会経験の為に貧乏な村を笑顔飛び交う村にした?どんだけだよ
「アシス様を欺く形になり、大変な御無礼を!」
「それジジイから言われたんだろ?」
「はい・・・しかし、それでもアシス様を欺いてたことには変わりません!」
「それよりなんで・・・様?」
「本家のご子息・・・いえ、継承者の方は我らが師と同等。故の呼び方です」
「堅苦しいし・・・本家?継承者?」
「ハッ!アシス様は阿吽僧の本筋に当たります阿家の家督をお継ぎになられる方。また阿家の継承者には黒きマントが授けられます。アシス様が黒きマントを授けられた時点で継承者となります」
阿家?そんな家柄だったのか・・・知らなんだ。このマントもそんな大事な物だったとは・・・ジジイ・・・
「現在本来ならば家督はアムス様の御息女アイリン様でしたが、行方が知れず、アムス様が代行しておりました。この度アシス様がマントを授けられた事により家主となり、継承者となります」
「・・・だからか」
「え?」
「ジジイからいきなり母親を探せって言われたんだ。で、情報も集まりやすい中央に向かっている。会って家督を譲られて継承するかもしくは・・・」
「アイリン様が家主に戻られるなんて有り得ません!いざ家督を継ぐ際に、継ぎたくないと全てを・・・お子様ですら置き去りにし去った方など・・・!」
言い終える前に俺を見て、ナタリーは口を閉ざす。母親の記憶なんざないから別に気にしなくて良いのに・・・と言うかすんごい事に気付いた・・・イノの話をしてたのに、俺らの身の上話に、なってるし!
「ま、まあいいや、俺の事情は置いておこう!それよりもイノだ。ちなみに治療は?」
「滞りなく。2、3日もすれば歩けるかと。またご報告が遅れましたが、村近辺に4人の不届き者が潜伏しております。いかが致しましょうか?」
「へぇー、逃げたかジジイの所に行くと思ったんだか・・・」
「恐らくはその辺の事情はこちらにお聞きした方が早いかと」
ナタリーさんは片膝をついたまま、目線をイノに向ける
「・・・多分わたしがいるからだと思う・・・鳥文の内容から増員とわたしの処遇の確認をしていたから・・・」
「鳥文?」
「俺が夜中に撃ち落とした鳥に付けられてた手紙ですよ」
後ろからトーマス登場・・・ああ、ナタリーさんの顔が怖い
「・・・トーマス・・・」
「し、しかたないだろ!?急に走り出して引き留める言葉が出なかったんだ!つーか、鳥の処理なんて面白くも何ともねえもので引き留めなんて出来るか!?」
「ひ、ら、き・・・直るな!」
目にも止まらぬ速さで俺の後ろに居たトーマスに後ろ回し蹴り・・・油断してたのかトーマスはヘボッ!とか言いながら壁まで飛ばされた。
「偽装結婚?」
「いえいえ、立派な夫婦です♪結婚式にはアムス様に御無理を言い参列して頂きました」
なるほど・・・偶然結婚式じゃなかったのね。そう言えばあの時村に用事はなかったような
「して、いかが致しましょうか?」
再度ナタリーが俺に尋ねる。当然────
「始末する」
「かしこまりました。準備致します」
「待って!」
デジャブのようなマッテを頂き、イノを見る
「待たない」
「っ・・・」
「あの時止めをささなかったのは温情ではない。放っておいても生き残る可能性は低く、生き残ったとしてもジジイに手を出す状態じゃないからだ。でも、他の4人は違う」
「・・・」
「鳥文?の内容から増員を頼んだって事は諦めてない可能性が非常に高い。身内が狙われてるのに指をくわえて眺めておくほど薄情じゃないんでね」
実際、立ち合った感じジジイにとって物の数ではないだろうが・・・
「わたしが説得すると言ったら?」
「問題外だ。俺と遭遇する前に言い争ってる段階で説得出来る可能性は皆無。1人倒されておめおめ引き下がるほど程度が低い奴には感じなかった。引き際の早さ、組織への報告、現在の張り込み・・・奴らがどんな集団か知らんが、徹底したプロに感じる」
「そんなのやってみないと・・・!」
「やってみた時のリスクが高過ぎる。今は奴らが見張っている立場だ・・・が、説得に赴くことにより、こちらが気付いてる事を悟られる。その場合の奴らの行動が読めない限り説得なぞ無駄だ」
良く考えると俺・・・会話してるな・・・なんだろ・・・考える前に口から言葉が出てくる。ナタリーに至っては『さすが阿家の家主様』とか言ってるし・・・
「どうしても?」
「どうしても・・・だ」
俺の言葉を聞きイノは目を閉じる。ベットについた手を握り拳を作り震えていた
「逆に疑問だ。どうして拘る?同郷だからか?」
「・・・・・・分からない・・・死が簡単な世界に居たから、そこから抜けたいだけなのかも知れない・・・一緒にここまで旅して情があるのかも知れない・・・」
生きるか死ぬかに折衷案はないよな・・・さてどうするか
「彼女の意見を聞く必要はないかと・・・ご命令頂ければすぐにでも!」
ナタリーはまた片膝をつきながら言ってきた。これが獣なら話は早いんだけどな。困った困った腹減った。ふと考える・・・俺このまま中央に行っても大丈夫なのだろうか?技を使えばある程度は相手を殺せるだろう。しかし、いざこざの度に人を殺していたら人口減りまくりの恨み買いまくり・・・いかん手加減覚えないといずれ詰むぞ
「分かった・・・生け捕ろう」
「!」
「無茶です!リスクが高すぎます!相手は命を狙って来るもの。実力は知れませんが、こちらにも犠牲が出る可能性が高まります!」
「犠牲って・・・俺だけで対応するよ」
「それこそダメです!御身に何かあれば・・・!」
「なら、カゴの中にでも入れておくか?・・・俺を」
少々過保護すぎるので、ちょっぴり威圧する。てか、御身って・・・御身って
「ひぅ・・・し、しかしながら、あえてリスクを背負う必要性は・・・ございません!」
「これぐらいでリスクとか言っちゃうの?阿家って」
「いえ、それは・・・」
「なら、問題ないだろ?安心して欲しい・・・傷ひとつ負う気はないから」
ぶっちゃけ阿家なんて今日初めて聞いたんですがね!しかも、家主とか言われてるし・・・ジジイ覚えてろよ
「向こうも離れて監視してるくらいだ。普通に近づいても逃げるだけだろう。奴らに近づく作戦でも立てましょうかね」
「ありがとう」
イノがこちらを見てボソッと言った
「悪いがこちとら手加減したことないから・・・」
「うん」
間違えて潰しても良い許可も得たし、ちゃちゃっと終わらしちゃおう。と、その前に・・・
「トーマスを起こしてくれ」
ナタリーの回し蹴りでだらしなく目を回してるトーマスを指さす
「はっ!」
ナタリーは立ち上がりトーマスの元へ
「は・・・」
「は?」
「腹減った」