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3章 番外編 6番隊初陣

番外編2話目です

新部隊に仕事が回ってくるのは少しばかり時間がかかった。その間に各部隊の隊長との面通しを済ませることが出来たから、決して無駄な時間ではなかったのだが・・・


傭兵団の中でも各部隊の役割は違う。例えば1番隊。ロリーナという盾使いが隊長であり、護衛のスペシャリストの部隊だ。なので護衛任務の依頼が来ると1番隊に仕事が回る


2番隊はリオンが隊長になった。元々突撃隊だった為、リオンにはもってこいの部隊だろう。ただ、依頼は単独で受けるには頭が足りない・・・突撃隊だけあって考える事を放棄しているらしい。カイトのように細かく指示すればまた違うのだろうが、リオンだしな・・・


3番隊は破壊のスペシャリスト。顔合わせの時に戦ったダルムトが隊長で、力自慢が揃っている。どんな依頼を受けるかと言うと、建物の破壊や荷物の運搬など力が必要な依頼は3番隊が一手に引き受ける


4番隊は情報収集部隊。隊長の名はハリマダと言い、赤の称号の持ち主だ。隠密行動にも優れ、情報収集以外には暗殺もこなすらしいがギルドの依頼ではそんな物騒な依頼はないらしい


5番隊は後方支援担当。隊長はエリモと言い、なかなか気さくな奴だが、こいつも赤の称号。いつもニコニコしているが、怒らすと怖いらしい。糸目で(さい)という短剣を少し細長くした武器を使う。怒ると目が開くらしいが・・・ちなみに女性らしい。良かった・・・下手なこと言わないで


んで、新部隊の6番隊。役割は遊撃隊・・・まあ、何でも屋だな。特に役割もなく臨機応変に動いて構わないとの事


以上が『二対の羽』の部隊の全容であり、役割だ。2番隊の先行きが若干不安ではあるが、グロウが何とかするだろう


「アシスさん、ちょっと良いですか?」


拠点でボーッと考え事をしていた俺に話しかけて来たのはグロウ。メンスと話してチラチラこちらを伺っていたのは知っていたが、何の用だろ?


「ああ、暇してる」


皮肉にも聞こえる言葉に苦笑しながら、前にある椅子を手探りで探し、見つけると椅子を引いて座った


「今日は訓練には行かないので?」


「毎日やると壊れちまうよ。勘のいい奴は掴めてきているし、急がずゆっくり鍛えてやるさ」


6番隊結成から1週間、朝に拠点に行き、何も無いと確認すると訓練に赴く・・・それの繰り返しの毎日だ。初日こそ気絶する程の力を流してみたけれど、それでは誰も掴めないと分かり力を弱めてみたり、巡りを使ったりして工夫してみた。結果は上々で何人かは掴みかけてるみたいだ。グチグチと初日は何だったんだと言われているが


「それはそれは。さすが影で『鬼』と言われているだけありますね」


『鬼』と言う単語でシーラの方を見ると、咄嗟に視線を逸らしやがった。情報の出処はこいつだな・・・


「ところでアシスさん達に依頼を持ってきました。6番隊の初依頼となりますが、如何致しますか?」


おお、やっとか


「内容は?」


「獣退治です。ですが、依頼内容が変わってまして、依頼してきた狩人の話によると『獣を狩っているといつの間にか周りに獣の気配が消えて、信じられないくらい大きい獣が出現する・・・あれは獣の王だ。3人ほど殺られて怖くて狩りに行けない。どうか退治して欲しい』だそうです」


「「・・・」」


どっかで聞いた事がある話を耳にして、俺とシーラは無言になる。それ、2番隊に・・・って言うほど余裕はなく、二つ返事で依頼を受けた


拠点に集合し目的地に出発する。場所はレグシ側の門を出て北に向かった所にある森。結構深い森で、今回の依頼の場所はその森の中心地点になる。目安としては、樹齢100年以上になる大樹が中心部分にドシンと構えており、その付近に出没したとのこと。なので、まずはその地点を目指すこととなった


距離と依頼内容から1日で終わりそうだが、出て来なかった時の事を考えて3泊出来るように準備はしている・・・と言うか、カイトから準備して行けと言われた。カイト曰く本来なら1週間現地に留まれる位の準備をするとの事。戻る手間を考えたら、現地で達成するまで留まるべき・・・って考え方らしい


「別に戻れば良いだろうに」


「時間の無駄ー。中には借金生活に突入してる奴もいるからー」


「森で寝泊まりは久しぶり。ちょっと楽しみ」


カイトの切実な話もなんのその。シーラは腕が完治とまでいかないが、ほとんど自分でできる所まで回復しており、久しぶりの遠出にウキウキだ


傭兵団からお金を借りて生活をしている者は依頼達成して配布される金額から自動で天引きされる。なので、今回の依頼の達成料を貰えない奴までいるらしい。もっと依頼やらないとダメだな


体力に差が出始めたのは大樹が遠くから見えて来たら辺から。主に剣の抜けない剣士だが・・・


「俺の事はいい・・・先に行け」


と、言うから無視して進むと慌てて追いかけてくる。アイツは何がしたいんだ?


そうこうしていると、目的の大樹まで辿り着いた。途中獣の出現がなかったのは大所帯で行動しているからだろう。テントを設置し、皆が集まり行動を開始する


「まずは匂い消しからだな。体に泥を塗り人の匂いを消す。後は身軽な者は木の上で待機し、周辺の獣の位置を探れ。3人1組で行動しなるべく離れろ。報せは木を叩き音で知らせること。決して叫んだりするなよ?」


「な、慣れてるなー」


「1つの森から獣を根絶やしにした事あるからな」


クルアの森を思い出す。あの頃は狩りが唯一の遊びだったな。その日の飯に直結していたから、生活のかかった遊びだったが・・・


「隊長~この服お気になんで~汚したくありません~」


容赦なく泥を塗りたくる


「泥団子・・・たんとお食べ」


受け取り投げつける


「剣士が狩人の真似してどうする?剣士とは・・・」


無言で塗りたくる


「私を汚したいのか・・・穢らわしい」


頭の上からドパーと泥をかける


「皮膚呼吸が生命線なんじゃが・・・」


丁寧に塗りたくる


「「「「「鬼~!」」」」」


カイトは自分で塗っており、他の者達も俺に塗られるよりマシと思ったのか、自分で塗っていた


シーラも泥の匂いを嗅いでは、嫌そうな顔はしつつも体に塗り、全員が泥だらけになったのを確認すると先程の指示通り3人1組になり、狩りの開始だ


クピト以下3名が木の上に登り、キャキュロン他1名が北に、カイト以下3名が東、エーレーン以下3名が来た道の南、俺とシーラとデクノスが西を捜索する


「ちょっと冷えるね」


土を少し湿らせて泥にして体に塗った為に体温が下がり、南西とは言え北に位置するこの森は少しばかり体を冷やした。無言でマントを外してかけると「・・・ありがと」と言ってマントに包まるシーラ。それを見てデクノスが「俺も寒い・・・主に心がな」という言葉を吐くが無視を決め込んだ


しばらく歩くと目の前に四足歩行で丸々とした口から出た牙が特徴の獣に遭遇する・・・イノシシだ。肉も食べれるし、皮も需要がある。牙も硬く生体丸ごと需要のある獣。しかし、皮が意外に硬く、普通に斬っただけだと剣が通らず、突進の餌食になるから注意が必要だ。注意するのは突進と硬い牙。後は細かい動きはしないから、狩りやすい獣でもある


「む・・・剣が・・・抜けん!」


焦って剣を抜こうとするデクノスがカチャカチャと音を鳴らすので、余裕で気付かれた。その剣、呪いでもかかってるのか?


イノシシはこちらに気付くなり、足で何度も地面を蹴り、低く構えて突進の準備をしている


「敵意剥き出しだな。いい事だ」


クルアの森ではここから追っかけっこの始まりになるのだが、危機感がないのか、俺らを捕食対象として見てるのか分からないが、逃げる気はないみたいだ。なので俺も剣を構え、イノシシの突進に対して身構える


準備万端なのか一声嘶くと勢いよく突進してくる。迎え撃つ為に剣を構えるが、ふと試してない事を思い出した。剣を持つ右手ではなく、持たない左手をイノシシの方に向け、突進に備える。イノシシの大きさは、高さが俺の体半分くらいで全長で言うと俺と同じくらいか。体重で言うと何倍もの塊が突進してくるので、普通なら人は弾き飛ばされて終わりだ。その突進力を片手1本で止めるのは無理だろう


「ちょっ・・・アシス!?」


シーラが驚きの声を上げるが、いけるはず・・・イノシシの突進を左手で受けるとすぐさまその力を体に流し右手の剣に伝える。~流~からの武具流化・・・無機質な武具などに力を流すことは可能。だが、常に流れた力は放出し続ける為、一瞬・・・ほんの一瞬だけ武具の能力が上がる。斬れ味、強度が力に包まれ上がり、その一瞬を見計らいイノシシに向かって振り下ろす


イノシシの頭の骨は硬い。しかし、力に包まれた剣は何の抵抗もなくイノシシを真っ二つにする。うん、初めて使ったがえげつないな


通常阿吽は拳で戦う事を想定しての技がほとんどだ。しかし、俺がラクスに教わってたように剣技も磨き、その為の技もある。もしかしたら、戦争などの多数との戦いの為に開発されたのかもしれない。リーチの差はかなり不利になるからな


剣を一振し着いた血を払うと、真っ二つになったイノシシに近付く・・・内蔵を取り出す手間はなさそうだが、皮剥が・・・と思っていると今回の目的が狩りではなく、獣の討伐だったことを思い出した。血の匂いで寄ってくる?いや、どうだろ・・・狩りをしていたらって聞いたから、血の匂いは関係ないのか?うーん、分からないから半分捌こう


手際よく皮を剥ぎ内蔵を取り出す。懐かしい・・・森の生活の時は今夜の食事を考えてヨダレを垂らしながら捌いたもんだ。食べれる部位を余すことなく捌き終え、いざ持とうとしたら、かなり重い・・・チラリと今の面子を確認するが、これは分担で持って行けそうにないな


「ちょっと持とうか?」


「肉は食うもので持つものではない」


病み上がりのシーラに持たせる訳にもいかず、デクノスに肉を半ば強引に持たせる。ブツブツ文句を言っていたので、依頼料減らすぞって言ったら黙り込んだ。こいつも借金生活か?


一度中央の大樹に肉を置きに戻ることにした。他の隊員の事も気になるし、もしかしたら、獣の王が出ているかもしれない。特に合図の音は聞こえないから、出てはいないだろうが成果は上がっているだろう


大樹の元に戻り木の上にいるクピトに目配せすると首を振り、獣の王が出てないことを知らせる。そう簡単には出てこないか。そこまで木が密集している訳では無い為かなり遠くも見渡せるから大きな獣が出てくればすぐに分かりそうだが・・・あっ、あれ試してみても・・・


クピトに全員帰還するように合図を送ると、クピトは5回木槌で木を叩く。あらかじめきめていた決めていた帰還の合図だ。しばらくするとゾロゾロと戻って来る


「あ~ダメだった~私の歌に連れられて獣がわんさか溢れると思ったのに~」


「音痴だし・・・仕方ない」


いや、歌つーか、音を出したら逃げるだろ?


「人気のない所に誘導し・・・穢らわしい」


いや、森に人気はないだろ?


「いやー、小さい獣なら狩れたけどなー」


クルアの森でもよく見た耳長の白い獣を片手に残念がるカイト


「それ、獣じゃなくて動物」


シーラが少し不機嫌になりながら、ボソッと言った


「動物?獣だろ?」


別名食料とも言うが。シーラはその言葉に首を振るい、俺らに説明する


「獣は人間に襲ってくるものを言うの。アシスが仕留めたイノシシなんかもそう。大型で人を恐れない。更に肉を食べる事から人を食べるものもいる。動物は基本人に対して襲ってこない。草食だったりして、人が近付いてきたら逃げる事が多いの。そのウサギとか街にいる馬とかが動物に分類されてるわ。後は人間に飼われている牛や羊なんかも動物になる」


おおーと周りから博識なシーラを讃える声が上がる。そうなのか・・・人以外は獣かと思ってた


「当然じゃ・・・と、言うか知らなんだ方が不思議じゃが」


木から降りてきたクピトがため息混じりに呟く。一般常識のようで違うのか?その辺が曖昧だな。俺は基本的にジジイの教育のせいだが・・・


「気にしたことないなー。基本食えれば獣って判断だから、馬ですら獣だぜー?」


カイトが耳を持ち、ぶらんぶらんさせていると、シーラの不機嫌さが増したように感じたので、カイトから奪い取り、地面にそっと置いた


「とにかく獣の王って奴の出現する条件はここら一帯の獣が居なくなった時ってくらいしか情報がない。狩りを続けようと思うがその前に試したい事がある」


皆が俺の言葉を聞き、何をするのか黙って見てる。俺は両手を合わせ力を流すと目を閉じ、気配を探るのに集中する。シーラが攫われた時に幾度となく試した方法。グロウ曰く熱って言うのは獣にも存在しているはず。さっきのイノシシも流を使うことが出来たし、人と変わらないはずだ


静寂の中、薄く広く探りを広めていく。王と言うくらいだから、最も大きい力を感じれるはず・・・少しでも・・・広く・・・すると俺らがイノシシと遭遇した方向に反応がある。遠いからぼんやりとだが、かなり大きい


「西か・・・」


俺が呟くと、周りは何のことか分からずにハテナ顔だ。素早く説明して、相手に悟られぬように静かに行動するように伝える。全員で一緒に行動しても良いが、人数が多いと悟られる可能性が高い為、正面から俺の組とキャロンの組。大回りで裏を取るように残りの3組が回り込む


「逃げられぬ事が優先だ。俺は気配を探りながら進むから・・・歌うなよ」


キャロンに念押しすると、今まさに歌おうとしていたキャロンが舌を出し誤魔化そうとする。これで逃げられたら、警戒した獣が姿をくらましてしまう。クルアの森で飯を逃した時のジジイの小言は半端ないからな


静かに二組6人がイノシシを倒した方向に進むと、目の前に現れたのは巨大熊・・・美味そうだ


「・・・あれ、無理~」


「美味しく・・・食されそう」


「我が刃・・・通らば何とか・・・」


物怖じする2人に意味の無い計算をする1人を置いといて、物陰に隠れ、静かにカイト達の到着を待つ


巨大熊は人が倒したイノシシをガツガツと食らっており、時折唸り声を上げて周囲を威嚇する。どうやら血の匂いで釣られてきたぽいな。前も狩人達が狩った獲物の血の匂いに釣られて現れたか


熊の食事が半分くらい済んだ所でカイトの姿が熊の後方に見えた。さて、俺抜きでどこまでやれるか見てみるとするか


事前に打ち合わせていた通り、カイトは後方部隊を指揮する。俺らと来た6人の内、俺とシーラを除いた4人は頷き合って熊の前に躍り出た。怖気ずいていたと思ったが、肝は据わっているらしい


後方部隊が動く前に、キャキュロンが勢いよく食事中の熊に先制とばかりに突進し、左右に分かれ武器を構える。お互いの小さいハンマーの先端を絡め、振りかぶるとそのまま熊に向けて降り抜いた


「トゥインクルアタッ~ク!」


「食前・・・アタック」


訳の分からない技名と食べられる気まんまんの言葉を叫びながら熊に向けて放つが、デカいのに動きが俊敏で横に飛び退きキャキュロンの攻撃を躱す


大振りな攻撃の為、体勢を崩し熊の良い的になってる。本当に食されそうだ。そこにカイト達後方部隊のクピト組が矢を放ち牽制するも刺さった矢は1本・・・しかも、背中に申し訳程度の刺さり方の為、一睨みするだけで、依然目標はキャキュロンのままだ


慌てたカイトが全員を突撃させるが、熊は立ち上がり両腕をしきりに振り回す。エーレーンの槍も届かず弾き返され、全員その迫力に足を止めてしまった・・・ここまでだな


「はいはーい!全員注目!」


俺は熊の前に立ち、両手を叩いて話を聞くように指示する。突然現れた俺に熊は警戒し、一旦身を屈め、突進の準備を始めていた


「闇雲に攻めてもダメだ。連携で相手を崩し、一気に攻めないと手負いの獣は予想外の行動をするから危険だ。まずはこちらの思う通りに行動をさせる事が肝心!デクノス!」


「ぬ?」


「ぬ?じゃねえ!お前が熊の前に立ち、構えろ」


「馬鹿な!俺を囮に使うつもりか!?」


「そうじゃない・・・お前が仕留めるんだ。安心しろ。傷1つつけさせやしない」


「いや、しかし・・・」


「流すぞ?」


俺が脅した瞬間にビクッとなるデクノス。熊<阿吽か・・・トラウマを植え付けてしまったか


熊が俺に腕を振り下ろして来たが、流で残ってた双龍の力と共に地面に流す。熊は何が起こったのか分からずにキョトン顔だ。意外と可愛い


「クピト組は合図と共に矢を頭部向けて放て!その後カイトとエーレーンで足を刻め!体を丸めたらキャキュロンがさっきの攻撃だ!やるぞ!」


皆の返事が来る前に熊が再度俺に攻撃して来た為、後ろに飛び退き、デクノスを代わりに前に立たせる。震えながらもデクノスは剣を抜こうと努力している


「我が・・・剣の前に・・・」


抜けると良いな


「クピト!」


熊が怒りの咆哮を上げ、両手を上げてデクノスを威嚇した瞬間に俺からの合図でクピト組が矢を放つ。頭部に矢が刺さり、忌々しげに後方部隊の方を振り返る熊。その横をカイトが通り過ぎさまに一閃、反対からエーレーンが槍を突く


痛みで怒り狂い完全に後ろを向いた熊にキャキュロンがデクノスの前に出て再びハンマーをクロスさせた


「トゥインクル・・・アタッ~ク!」


「食後の・・・アタック」


掛け声は合ってないが、息の合った動きで熊の尻にハンマーが突き刺さる。ボグッと鈍い音がしたのを聞いて、お尻の穴がキュッとなってしまった・・・かなり痛そうだ。キュロンの食後のってそういう意味か?


もう考える力はないのか、本能で痛みの方向に振り向き、飛び退いたキャキュロンの代わりに棒立ちになっているデクノスを見つけ瞬時に「お前か!」みたいに唸り声を上げた。そして、最初の時と同じく立ち上がり両手を上げる


「剣を相手に向けて押しだせ」


まだ剣が抜けてないデクノスの後ろに回り込み囁くと、剣はスルリと抜けた。だが、頭の中が真っ白になっているのかそこから先は動けなかった・・・仕方ない


「後は相手に差し出すだけだ」


そっとデクノスの肘を押すとそのまま吸い込まれるように剣は熊の胸に。その後に熊の両手がデクノスを襲うが、デクノスの頭を押さえつけ、その攻撃を躱す


「よし!後は弓と長物で削るだけだ!迂闊に近付くな!」


と、叫びながらデクノスを抱えて飛び退くと、目に入ってきたのは槍で足を突いた後、引くこともせずその場にいたエーレーン。おいおい、一撃離脱は常識だろうよ?


足が竦んで動けないのか、槍を構えたままその場に居たエーレーンに熊は狙いを定めたらしい。両足を傷つけられているため近場の獲物を狙うのは必然か


既に本能のまま美味しそうなご馳走にかぶりつくようにエーレーンに襲いかかる。こんな依頼で欠員が出たとあったらグロウに顔向け出来ないなと考えながら、阿吽で瞬時にエーレーンの前に飛び肩口で熊の口撃を受けた。牙が肩に食い込み、肉が引きちぎられそうになる瞬間に呟く


「二虎」


食い込んだ牙を跳ね返すように肩の筋肉が盛り上がる。血は出たが寸での所で食われずに済んだ


「大丈夫か?退いてろ」


熊の顔が横にある状態で後ろにいるエーレーンに笑いかけ、痛みをくれた熊の顔にそっと手を当てる


「阿・・・吽!」


熊の頭部は吹き飛び、森を揺らすとばかりに大きな音を立て倒れ込む


「アシス!」


「隊長!」


食われかけた俺を慮ってかシーラと隊員が駆け寄ってきた


「大丈夫・・・食われちゃいない」


肩に着いた血を拭い、傷口の浅さをアピール。シーラが傷口をマジマジと見るが既に血も止まっている。虎の型は筋肉を膨張させる。その力が傷口を塞ぎ血を止めた。知らん人からしたら、え?こいつ肌硬ぇってなるだろうな。柔肌ピチピチの16歳なんだが・・・


「ふ・・・ふん・・・助かった」


穢らわしくはなかったらしい。エーレーンはそっぽを向きながら言い放つと少し離れる。顔合わせの時もそうだが、かなりの負けず嫌いだな。助けられたというのが許せないんだろう


「隊長ー」


カイトが傍に来て、呼ぶので振り向く。こいつも心配して・・・と思いきや倒した熊の上に乗り、本来あった頭部の部分を指さしていた


「討伐証明部位がー」


ん?討伐証明部位?・・・そう言えば、依頼書の中に討伐した際の証明部位として、頭部が指定されてたような・・・あれ?爆散してるぞ・・・


「・・・」


「・・・」


無言になる俺とカイト。見つめ合う2人の次の言葉を固唾を飲んで見守る隊員達。うん、分かってる。行軍に半日、そして討伐でお疲れのところは承知です。でも、仕方ないだろ?


「・・・切り刻み、各員分けてフレーロウ迄運ぶぞ!腐敗を考え泊まらずにこのまま戻る!」


カイトが無言で熊を指さした後、自らを指さす。ジェスチャー的には『コレを俺らが?』だろうな。俺は無言で頷いたら、周りからは非難ゴーゴーだ


「え~隊長が吹き飛ばしたんだから隊長運んでよ~」


ごもっとも。でも、君らも手伝いなさい


「玉の部分は・・・譲らない」


何のこだわり!?オスと決まった訳じゃ・・・オスでした


「1番の功労者に・・・荷運びをさせると?」


お前は運べ。重い部分を運べ


「・・・」


無言が怖い。槍の穂先に刺して運びそうな雰囲気だ


「腰が!陣痛が!」


木をスルスル登ってたジジイが!てか、産むな


「これー、刻むのも一苦労だが・・・」


「刻むのは俺がやる。文句を言って運ばない奴は・・・報酬なしだ!」


「「「「鬼ー!」」」」


静寂を取り戻した森に隊員達の声がこだまする


初依頼は少し苦い思い出となりそうだ

もう少し番外編続きます

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