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3章 8 顔合わせ

傭兵団の二対の羽に加入する事になった俺達は、早速顔合わせをする為に傭兵団の溜まり場に行く事になった。溜まり場と言っても、酒場とか店ではなく、建物を買い取り集合場所みたいな形で使っている言わば待機所。仕事のない時にはここで話したりカードゲームに勤しんだりしているらしい


総勢約100名程になる傭兵団だが、全員集まる事はほとんどなく、仕事のない時には地方に出稼ぎに行ったり狩りに行ったりとするとの事。基本自由だが、戦争や大規模な依頼の時は集まる事もある


傭兵団の強みはギルドからの仕事の斡旋がある事。大量の獣の発生や盗賊団の撃退など多数の相手がいる時などは信頼の厚い傭兵団が逆指名される事が多々ある。細かい依頼なども、あそこに頼めば・・・と思われてる傭兵団なら仕事に困る事はないらしい


ちなみにフレーロウでは『鋼の剣』と『二対の羽』以外にも傭兵団は存在するが、二大傭兵団に吸収される事がほとんどのようだ。30名以上という大人数を抱える者として仕事の斡旋量は死活問題・・・早くに信頼を得られれば軌道に乗り常駐傭兵団として活躍できるが、信頼を得られなければ既存の傭兵団に吸収された方が良い。二対の羽も二つの傭兵団が食うに困り吸収される事を望み一気に人数が増えたという


勢力の集中はデメリットがほとんどないと言われているが、ガーレーンの件を考えるとデメリットはあると思うのだが・・・国はあくまでも傭兵団の数を少なくしようと躍起になっている。何故かは今度ナキスに聞いてみよう


傭兵団のシステムに関しても、ほとんどの傭兵団が同じらしい。ギルドから傭兵団に依頼もしくは依頼書からの受注。その後、人数や行く者を選定し、依頼が終わればギルドから傭兵団に報酬が支払わられ、二割ほど引いた金額を達成者が受け取り、残りの二割が傭兵団の収入となる


二割の使い道は、仕事のない者への分配やこういった待機所などの施設料、傭兵団の食事などに当てられる。分配金に関しては、貸すといった名目な為、あまりにも仕事のない者は借金まみれになる事もあるらしい。働かざる者食うべからずってところか


グロウやメンスなどの言わば幹部と言われる者達が仕事の分配をしている為、一応は均等に仕事が与えられるように気を配っているが、どうしても能力により差は出てしまうらしい。要は無能には仕事が少なく、有能には仕事が多く回ってくる


あらかた傭兵団の仕組みを教えてもらい、いざ挨拶と待機所に赴くと4、50名ほどの傭兵が各々好き勝手していた。女性の傭兵を口説いている者、剣の手入れをしている者、昼間っから酒を飲んでいる物・・・まあ、様々だ


グロウが入ると中はピリッと空気が張り付く。そして、新参者の俺たちに好奇の目を向けてくる。ちなみにシーリスはしばらく用事が出来たとシーラを俺に託して出掛けてしまった。もしかしたら、『カムイ』関連かも知れないが、目的も目的地も告げずに出て行ってしまった為、知る事はできなかった


なので、俺とシーラとリオンが傭兵達の前に立たされ、紹介されている


「今回、新たに我らと共に歩んでくれる事となったアシス、シーラ、リオンだ。知っている者も多いと思うが全員赤の称号の持ち主であり実力者だ」


メンスが俺達の横に立ちながら全員に紹介しているが、反応は様々だった。好奇の目がほとんどだが、中には睨むとまではいかないが、恐らく仕事仲間と言うよりライバルと思っている奴、シーラに邪な目線を送る奴もチラホラ・・・


「副団ー!赤のって事は隊長待遇ー?」


1人の男が手を上げてメンスに問う。団長、副団長がNo.1、No.2となるが、その下に団員の数によって隊長職が設けられている。二対の羽の場合は約20名の隊が5部隊で構成され、各隊には隊長が存在する


「んー、いや、彼らは傭兵団の加入自体も初めてとの事なので、各隊に・・・」


「いえ、彼らが加わり我が団も総勢117名となりました。そこで新たに隊を作ります。15名の隊となりますが、隊長をアシスとし、新たに加入した2人と他12名の計15名の新部隊の設立です」


メンスが俺らを各部隊に配属させようとしていた矢先にグロウが割って入り、そんな事を言ったもんだから、今いる人達はザワザワしている


「破格の待遇だねー。それほどか?」


先程メンスに問いかけた男がヘラヘラと笑いながら言うとグロウは笑顔で頷く


「ここにいる全員が束になってもこの3人は倒せないでしょう・・・それほどです」


おおーい、煽るな煽るな。グロウが言った瞬間に傭兵達の顔色が変わる。そりゃそうだ・・・腕一本で稼いできた者達が突然加わった奴に劣ると言われれば腹も立つだろう


何人かが殺気立ち前に進み出るが、メンスがそれを制しグロウに抗議の目線を送る。見えないまでも感じ取ったグロウは笑顔で首を振ると高らかに声を上げた


「拠点が壊されたら堪りません。広い場所に行きましょう!」


言うとメンスの制止も聞かず1人でサッサと外に出て行ってしまう。どこに向かったのか聞くと、街から出て南西の方角によく訓練などをする空き地がありそこに向かったらしい


仕方なく後を追い、待機所に居た全員と共にその空き地に到着する。確かに何も無く訓練等にはうってつけだ。だが、近くに崖があり恐る恐る下を見ていると川が流れているのが見える。落とされたら死ねるな


「・・・この川・・・多分テラス近くに流れている川に繋がってるね」


ああ、確かに川が流れていたな。そんなに深い川ではないけど上流であるこの付近の川は深そうだ・・・ナタリーさん達は元気だろうか


物思いにふけていると後ろから俺らを呼ぶ声が聞こえ、戻るとグロウが話しかけて来た


「加入早々申し訳ありませんが、納得のいかない人が多数おりまして・・・」


「誰も隊長にしてくれとは頼んでないが?」


「アシスさんなら造作もないかと・・・」


「いや、倒す倒さないじゃなくて、隊長なんて・・・」


「俺はグロウ殿との一騎打ちを所望する!」


よーしよし、リオンハウス!


イマイチ話の噛み合わない俺とグロウに焦れたのか、リオンがいつもの様に吠える。コイツは懲りないとこが長所なのか短所なのか・・・


「ふむ・・・では、私とリオンさんの一騎打ち。その後アシスさんと団員との戦いと言う事で・・・」


言う事で・・・じゃない。話が本人を目の前にして勝手に進むのはどうなんだ?しかし、話は決まったかのように団員達はグロウとリオンを中心に円になって広がる


「アシス・・・下がってろ」


事の成り行きについていけずにボーとしていた俺を邪魔者扱いするリオン。悲しくなりトボトボ歩いてシーラの近くまで戻ると「リオンだし・・・ね?」と慰められた。リオンだしって言葉に納得してしまう自分が怖い


「いざ尋常に!」


両手に剣を構え、飛びかかるリオン。受身がちなリオンには珍しい。グロウは冷静に剣を引き抜き、リオンを待ち構えると、左右より繰り出された斬撃を軽くいなす


体勢を崩さないところを見ると、リオンも牽制の意味を込めての斬撃だったらしく、そのまま剣円舞へと繋げた。周りから「おおー」という歓声が上がるが、グロウは後ろに飛び退き、余裕で対処してみせた


「・・・荒いですね」


「荒い?」


グロウの言葉に技を否定されたと感じたリオンは更に剣速を早め、剣円舞は更に唸りを上げる


「一見隙間のない見事な剣さばきですが・・・無駄が多すぎます。技としては些か荒さが目立ちますね」


剣の軌跡が円を描き、周りから見ても隙がなく、これを攻撃するには躊躇してしまいそうだ。しかし、グロウは何事もないように無防備で近付き、剣をそっと突く。暴風の中をスルリと抜けてリオンの体にトスという音を立て突き刺さった


「ぐっ!」


リオンは慌てて飛び退き、剣を止めると傷口を剣を握ったまま触れ、その深さに顔を歪める。リオンの装備は胸の部分を主に防ぐハーフプレートの鎧を着込んでいる。そのハーフプレートの隙間である脇の部分に剣をねじ込まれていた


「どうして・・・」


やられたリオンは訳も分からず傷口を押さえて止血する。リオンの疑問はもっともだ。俺も戦った事は何度もあるが、剣円舞の隙間をぬって攻撃を当てるのは至難の技。それを事も無げにやれるのは何故なんだ?


「その剣技・・・それが完成形でしょうか?剣を振り円を作り出すことにより四方八方からの攻撃に対処出来るかに見えて、実際は円を描くことに集中し(じつ)のない攻撃に感じます。ですので、流れさえ掴めれば容易に突破出来てしまうのです」


容易じゃねえだろ・・・しかし、以前の俺なら厳しいが今の俺なら同じ事が出来るかもしれない。リオンは攻撃が来るとそこに集中し層を厚くしている。だが、流れを掴み薄くなった所を狙えば層を厚くする前に突破すれば・・・言うほど容易じゃないな、やっぱり


「くっ!」


自分の技を欠陥扱いされたリオンは苦虫を噛み潰したような顔をしている。さて、次の一手・・・あの技を使うか?


「死ねぇー!『千』」


殺すな!


リオンの出した技は剣円舞が受けと防御特化だとしたら、防御無視の攻撃特化。虚実など関係なくただひたすら相手に打ち込むという技?と言いたくなる攻撃手段。だが、その勢いは本物で捌くことは難しく俺も手合わせの時は飛び退くぐらいしか手がない


『千』って名前からも相手にとっては千手の攻撃に晒される感覚に陥る。防御無視の為、千手なくともリオンから感じる圧力がそう見せている


「ほう・・・これはなかなか」


迫り来る『千』の圧力にグロウも驚きの声を上げるが、表情は変わらず淡々としている。そして、迫り来るリオンの前で横に一閃剣を振るうとリオンの両手は弾かれたように後ろに持っていかれた。そして、すぐさまグロウの剣はリオンの首元に置かれる


「・・・降参だ」


目で追いながら、流れを確認してみた。まだ薄らとしか分からないが、今の一連の流れは理解出来た。剣を凄まじい勢いで振るうリオンは流れをグロウに向けていた。その流れを横から当てることにより強制的に変えさせ、意図しない方向に向かわせる。後は剣を首元に当てただけ。簡単そうにやってのけるが、流れが分かった所で同じ事が出来るかと問われれば無理と答える。流れを読む事は出来るだろうけど、流れは言わば激流。その激流に合わせて剣を振るうなど到底無理に思えた・・・今は


「先程の技より今の方が流れがこちらに向かっていた分、隙もありませんでした。しかし、流れが単調になり読みやすくなってしまったのが欠点ですね。虚実のない技と言うのは読まれやすく捌きやすい。もし改良するなら虚を混ぜてみてはいかがでしょうか?」


「虚を混ぜたところで、グロウ殿には通じまい?」


「ふむ・・・虚実を勘違いされてるみたいなので・・・」


グロウは剣を振り上げ、勢いよく振り下ろす。リオンは咄嗟に剣を上に構えるが、剣はいつまで経っても振り下ろされない


「初めから虚・・・つまりフェイントを意識していれば相手に読まれた時点で取るに足らない攻撃となるでしょう。ですが、虚から実、実から虚へと変化をもたらすことで相手に攻撃を読ませない」


「な、なるほど」


振り下ろされた剣は途中で止まっている。目だけで追う敵なら当てる気もない攻撃でも騙され、フェイントとして有効だが、流れを読む敵だと当てる気が無ければフェイントにならない。だから、当てる気で放ち、途中で流れを変え当てなかったり、逆に当てないように放ち、途中から当てるように動いたりするって事か・・・要は最初っから決めずに臨機応変にする事により相手に読ませないようにする


「ただ闇雲に剣を振るうだけで通じるのは下位の者だけです。より高位の者は力ない斬撃は無視して渾身の一撃を放ち絶命を狙うものも出てくるでしょう。命を取れば勝ち・・・取られれば負けですからね」


暗にリオンの攻撃が軽いと言っているように思える。まあ、あれだけの連撃に一撃一撃に込める力はあまりない。もちろん斬られれば致命傷になるかも知れないが、急所を避ければ死ぬこと無く剣を振るう事も出来るだろう・・・斬られる恐怖心を克服出来ればの話だが


「しかし、見事でした。剣速は団随一でしょうね。これで虚実を混ぜれば私ですら危うい」


リオンの肩を叩き、褒め称えるが圧倒的差に項垂れている


「さて、シーラさんは傷が癒えていないので、アシスさんの番ですが・・・」


正直、グロウと戦ってみたい。勝てる気がしないが、強くなれる気がする。しかし、団員の実力も知りたいし、ここは・・・


「全員でかかってこい」


周りが一斉にザワつく。あれ、だってグロウがさっき俺は団員と戦うって言ってたような・・・


「良いのですか?私は団員の誰かと戦えば実力を分かって貰えると思ってたのですが・・・まさか3隊仕事で居ないとはいえ、残り2隊と少し・・・50名程の相手をされるとは」


・・・やっちまった。どうせなら『団員の誰かと』って最初に言って欲しかった。ここで『やっぱり代表者1人で良いですか?』なんて言え・・・るわけないよな


「団長ー。彼もやる気ですし、いいんじゃないですかー?」


殺気立った団員達が円を組んでたのを狭め迫ってくる。グロウは一息つくとチラリとこちらの方に顔を向け、『ご武運を』とだけ残して離れていく。1対50・・・しかも有象無象ではなく、訓練され実戦経験もあるであろう傭兵達が相手だ。ガーレーンの時の実戦経験のない雑兵とは比べ物にならない


目を閉じ両手を前で合わせ、力を流し込む。目を開けると視界はクリアとなり、相手の敵意を感じ取れる。今までよりもより鮮明に・・・


黒龍が呟く。『背中は任せろ』と。その言葉に頼もしさを感じ、相棒に告げる


「さあ、行こうか」


────


メンスの所まで辿り着いたグロウはアシスの方に急いで向き直る。感じていた熱が急激に上昇し、ありえないほど高まったからだ。目を閉じ熱量を感じれるグロウにとってそれは、突然巨大な化け物が生まれたように感じ取れた


「・・・これ程とは・・・」


「は?」


熱を感じ取れないメンスは50近くに囲まれて絶体絶命のアシスをどのタイミングで助けようか注視していたが、横からのグロウの言葉に理解が追いつかなかった


「・・・せっかくお前が見つけたもう一対の羽だ。ここと判断したら躊躇なく止めるぞ?」


以前にグロウから聞いた二対の羽の一対の羽になりうる存在・・・アシスがせっかく団に加入したのに、ここで壊されては目も当てられない。しかし、グロウは首を振る


「止める必要はありません」


「おいおい、2番隊と3番隊が丸々残ってるんだぞ?自分の団を過小評価し過ぎじゃないのか?それとも殺気立ったアイツらが手心を加えるとでも?」


「・・・見ていれば分かりますよ」


「ほーん・・・一体何者なんだ?あいつは・・・お前にそこまで言わせるなんて。・・・そうだ!賭けをしないか?あいつが何人倒せるか」


「何人倒せるかでは賭けになりませんね・・・何分持つかでしょう」


「え?」


メンスの間抜けな声に、グロウは苦笑し目の前の戦いに集中する


動きがあったのは2番隊。隊長であるカイトが自分の隊に指示を飛ばす


「長物は前で牽制ー!後詰めは剣を抜き構えつつ、待機ー!弓は使うなー!仲間に当たるー」


続いて3番隊。隊長のダルムトが巨体を揺らしながら叫ぶ


「3番隊はこちらに集結!2番隊と常に連携し奴の裏を取れ!」


正面に2番隊、後ろに3番隊が配置され、残りの隊に所属していない者達は隙間を埋めるように左右に分かれる。カイトは剣を抜かずに指示のみに徹する構え。ダルムトは青龍刀のような剣を構え先頭に立ちアシスを警戒する


まるで1匹の猛獣を相手にするような陣形。逃がさず確実に倒す為に慎重に指揮を執る。カイトの頭の中では、この陣形を突破するのは難しいと考える。セオリーなら層の薄い左右に攻め入り、陣形を突破するのが最善に思われるが、2番隊と3番隊に裏を取られ、やられる可能性が高い。逆に長物・・・槍を構える者達を突破しても後詰めの剣士達が牙をむく。3番隊に向かうのは論外。2番隊の槍がすぐさま背中を捉えるだろう


ジリジリと間合いを詰め、包囲を狭める。グロウが加入を熱望していたのは知っている。油断せず最善に務める


槍先が近付き頃合を見計らったようにアシスが動く。と言っても両手を左右に突き出すのみ。その場から動かずに技の名前を叫んだ


「震動裂破!」


大気の振動がアシスに近い者程衝撃を与える。構えた槍は弾かれたように跳ね上がり、体は後ろに仰け反る


「やっぱ耐えるか」


3番隊の先頭に居たダルムトもまたその衝撃に晒されるが、咄嗟に腕をクロスし、衝撃に耐えてみせた。しかし、正面からの衝撃と言うより体全体を包み込む衝撃に体は固まり動きを止める


「頑丈だな。借りるぞ」


その瞬間を逃さずダルムトの懐に入り込み、腹に手を当て力を流し込んだ。巨体は後ろに吹き飛び、後ろにいた隊の連中を巻き込みながら倒れる


「くそ!横の奴ら突っ込めー!剣部隊出るぞー!」


比較的離れていた左右に展開していた者達と槍部隊の後ろに構えていた剣部隊が入れ替わりアシスに向かう。3番隊を吹き飛ばしたアシスは左右に手を広げた。先程の衝撃がまた来ると身構えた左右の者達の足は止まり、迫り来るのは正面の2番隊のみ


「バッキャロー!フェイントだ!」


挟撃が叶わなくなったのを見て舌打ちし、自らも剣を抜きアシスに向かう。足を止めた左右の者達はその言葉で我に返り動き出すが、止まらず動いていた2番隊との距離は離れてしまっていた


迎え撃つアシスは2番隊を冷静に対処する。先頭の者の剣を躱し腹に当て身、次に迫り来る剣を体を回転させ躱すとその勢いのまま回し蹴りを当てる。カイトはそれでも波状攻撃を続ける。離れれば先程の衝撃が来る。ならば、休む間もなく近接攻撃を仕掛けるしかなかった


残った者達では実力が足りない。一撃で戦闘不能にされていき、数が減る一方で攻略の糸口が見えなかった。せめてダルムトが残っていれば形勢も違ってたと唇を噛み締める


気付けば目の前の剣部隊は全て倒され、残るはカイトと左右合わせて6人の傭兵のみ。しかし、後ろからダルムトの巨体をまともに喰らわなかった5人が加わり、合計11名がアシスを取り囲む


ある程度の人数が揃った瞬間、気持ちに余裕が出来、間を与えてしまう。アシスは両手を体の前で合わせ、再度力を流した


「ちぃ・・・しまったー!」


カイトの脳裏に初撃の風景がよぎる。距離を置くか詰めるか一瞬の迷いがアシスの好機を生み出した。裏を取られたままを嫌い3番隊の残りに向かう。双龍の状態の為、起きてきた5人は呆気なく片付けられた


そのまま振り返り詰めてきた者を3人倒し合計8人・・・残り3人


「なろー!」


剣を逆手に構え、突進するカイトを躱すと、ついてこなかった後ろの2人を倒す。残ったのはカイトだけ


「お前・・・わざとかー?」


「隊長ってのはどういう指揮をするのか見たかった。難しいもんだな」


圧倒的戦力差と思っていた。しかし、それは間違いである事に途中で気づいたにも関わらず攻め方を工夫しなかったのはカイトの落ち度。どうすれば目の前の化け物に勝てたのか今更ながらに考える


「お前ならどうしていたー?」


「・・・考えてたけど・・・この戦力じゃ無理だな」


「なーるほど!」


カイトは姿勢を低く、駆け抜けザマに足を狙う。アシスは油断しているのか微動だにしない。しかし、剣が届こうとした瞬間にカイトの意識は途絶えることとなる


アシスは向かってくるカイトに対し、震龍裂破を頭に放ち、意識を刈り取っていた。その後に全員の状態を目を閉じ確認した後に大きく息を吐く


「終わったぞ」


グロウを見やり、勝敗が決した事を告げるアシス。グロウは頷きメンスに団員の手当を頼む。1対1の戦闘なら自信があるグロウだが、集団を相手にすると途端に目が見えないのは不利となる。アシスと同じ事が出来るかと言われたら、難しいと答えるだろう


「な、何なんだアイツは」


メンスは手当の指示を聞いても動いていなかった。いや、動けなかった。無傷で本気ではないにしても50名もの傭兵を相手取り倒してしまう想像を超えた出来事に呆気に取られる


パン!と手を鳴らしメンスを正気に戻させると、再度手当を頼む。こうして、顔合わせは終了し晴れて二対の羽の団員となったアシス達は6番目の隊・・・6番隊として活躍する事となる


────


「よっ!」


相も変わらず書類と睨めっこのナキスに挨拶すると、ジト目で見られた。書類を見過ぎて目が疲れたのか、目頭を押さえた後、ため息をついている


「お前も少しは体を動かせよ。鈍るぞ」


「元々鈍るほど鍛えてないよ。だから、今が正常と言えるね」


「どんな理屈だよ」


今度は椅子に座りながら背伸びをする。長い間、座って書類作業していたんだろうな


「最近は出掛けないのか?」


「父の具合が芳しくないんだよね。晩餐会が終わってからはずっと床に伏してるよ」


確かに王は顔色良くなかったな。巡りで治療出来れば良いのだが、病気の場合は悪化させる場合があるらしいので、下手にする事は出来ない


「シーラを1人にして大丈夫なのかい?」


「リオンに頼んだ。で、結局依頼人は分からず仕舞いか?」


「あの5人からはもう情報は出ないから手詰まりだね。シーリスが吐かせた情報以外は出なかったよ」


「そのシーリスはどこに行った?」


「さあね?それは本人に聞いて欲しいね」


あー、これは嘘ついてるな。まあ、ナキスが俺に対して不利な嘘をつくのは考えられないし、それ相応の理由があるんだろうな


シーリスの話はそこまでにして、俺達は他愛もない話に花を咲かせる。宿屋をいつまで使っていいかとかシーラの傷の具合とか・・・宿屋の期限は『いつまででも』だ。特に出て行く理由もないし慣れたって言うのもあるから、そこは甘えておこう


「あっ、後傭兵団に入った。お前のオススメの『鋼の剣』じゃなくて『二対の羽』にだがな」


「・・・」


一瞬・・・ほんの一瞬だけ眉をひそめるナキス。その意味は分からない


「そうか。今回世話になったし、悪い噂も聞かない。妥当なところかな」


「本当にそう思うか?」


「なに?」


俺の質問の意味を汲み取れず、今度はあからさまに眉をひそめて聞き返す


「『二対の羽』・・・いや、グロウは信用に足る人物か、と聞いている」


「・・・それは君が判断し、その結果加入に至ったのだろ?」


「少し気になる事がある。お前は俺が傭兵団の加入するかも知れないと言う話の時に『鋼の剣』を勧めてきた」


「・・・古くからフレーロウにある傭兵団だし、信頼も・・・」


「それだそれ。わざわざ信頼も厚いって言うのと、シーラが世話になった直後だと言うのに『二対の羽』と言わなかったのはなぜだ?」


「・・・」


「答えは・・・グロウに対して思うところがあるから・・・じゃないのか?」


「・・・そこまで考えて、なぜ『二対の羽』に・・・まさか!」


(なか)からじゃないと見えない事もある。実際に恩も感じてるってのもあるけど、話せば話すほど思うんだ・・・グロウはナキス・・・お前に似ている」


「僕に?」


「ああ。何と言うか雰囲気なのか分からないが・・・何となく。それが気になったのも入った理由だな」


ナキスは俺の言葉を受け、目を閉じて考えてる感じだ。長い沈黙の後、静かに話し始める


「正直な話、僕にはグロウは計れない。彼は()()()()からね。推察好きの僕としては見えないと途端に自信が無くなる。最近は悪い方に考えてしまう傾向があってね・・・」


「まっ、それもいずれ分かるさ。そう言えば傭兵繋がりで、1つ聞きたい事があるんだが・・・国はなんで傭兵を一つにまとめようとしている?」


ギルドに張り出されている依頼は他愛もないものが多い。大きい仕事の場合はギルドが依頼を受けた時点で傭兵団に相談する。その相談する傭兵団はほぼ固定。フレーロウで言うなら『鋼の剣』と『二対の羽』。ガーレーンで言うなら『鉄鎖団』といった具合になる。すると、他の傭兵団はおこぼれを貰うか他愛もない依頼をこなさなくてはならなく、いずれジリ貧となり他の団に吸収される。ギルドの運営は国でやっている為、方針も国が定めているはず


「・・・そうか・・・やはり君は疑問に思うか・・・」


「?・・・当然だろ?信頼を得なければギルドから依頼が来ない・・・それなのに依頼は既に信頼を得ている傭兵団に集中している。後から出来た傭兵団は食うに困り、既存の傭兵団に吸収される・・・新規にあまりに不親切な流れを国が、ロウ家がわざとやってるように思えてならない」


「傭兵とはなぜ存在する?」


「ああん?質問を質問で返すなよ」


「必要な事だ」


「・・・軍の手の及ばない雑事をこなしたりするのが傭兵だろ?例えば商人の護衛、獣の駆除、盗賊の撃退・・・後は細かいもので言うと遠い場所の薬草を取りに行ったりとかも依頼であったな・・・戦争になると参加するとか・・・そんな感じか?」


「概ね合ってるね。さて、ではなぜ軍はそこで動かない?はっきり言って軍でもやれる仕事ばかりだが」


「それを俺に聞くか?傭兵の仕事を奪わないように・・・じゃないのか?」


「ふむ・・・では、そろそろ種明かしをしよう。全ては戦争の為の育成システム。軍の兵は日々訓練し統率された動きをする言わば駒。将軍はそれを統率する役職。そして、傭兵は依頼を受け日々実戦に身を投じる経験者。それらを融合して上手く戦争を運んだ国が勝つ。軍と軍が対峙し、より統率の取れた動きの方が優勢になろう。そこで、臨機応変に戦況を変える事が出来る傭兵が戦争の流れを変え・・・」


「待て待て!ちょっと待て!お前は何の話をしている?」


「戦争という名のゲームを楽しむ為に作ったロウ家のシステムの話だね」


そうか・・・そうだったのか。ロウ家にとって必要なのは結果。戦争後に起こる技術革新こそが目的であり、戦争という過程など興味ないのかと思ったが・・・


「人の命なんざ知ったもんかってところか」


「目的の為の礎ってところかな」


「・・・反吐が出る」


「同感だね」


言ってみれば傭兵も軍の一部。国で鍛えられるか野で鍛えられるかの違いで、鍛え方の違いが戦争で発揮出来れば優勢になり、発揮出来なければ劣勢になる。負けても滅ぶことは無く、国の立て直しに苦労するかしないかだけの生存が約束されたゲーム


以前は一傭兵と言っても実績もなければ、自覚もなかった。でも、傭兵団に入ってロウ家のシステムに組み込まれたと考えると腹が立って仕方ない。今『ロウ家は必要か?』と聞かれたら、要らないと答えてしまいそうだ


「内から見るのと外から見るのじゃ、全然違うのな」


「それはそうだよ。後は上から見るか下から見るか・・・傭兵団に入ったのなら、後は上に上がるしかない。そして、発言力を高めて欲しい。・・・協力してくれるんだろ?友として」


「けっ、都合のいい友だこと・・・ちなみに俺隊長になったぞ?」


「・・・それは予想外だね」


呆気に取られるナキスを見て少し溜飲が下がる。まあ、俺もまさか初日に隊長になるとは思ってなかったから、今でも信じられないが


「だろ?・・・そろそろ行くわ!また来るよ」


「ええ。あっ、そうそう。セーラが君を護衛として指名依頼すると言ってたけど・・・」


「ああ、俺じゃなくて、()()()を指名だろ?」


「?だから、君・・・そういう事か」


「そういう事だ」


「あまり邪険にしないでもらいたいね。あの子は良い子だよ」


「今は忙しい。暇になったら相手してやるよ」


俺は立ち上がり、部屋を出る為にドアを開ける。すると廊下の奥から女性の叫び声?が微かに聞こえた。緊急性も無さそうだしその声を無視して、王城を後にした


────


「あなたは誰ですの?」


「アシスっす」


「・・・」


「・・・」


王城内の一室で護衛の依頼をかけたセーラは派遣されてきた護衛と対面していた。少し前まで椅子に深々と座り、入って来たアシスにどんな言葉をかけてやろうかとニヤニヤしながら・・・


『所詮あなたは私からは逃げられない』


『一生私の護衛をしなさい』


『護衛の護るものは何も体だけではなくってよ』


と頭の中で考えていたが、台詞は使われる事はなかった。入って来た男の顔を見た瞬間に何処かに飛んで行ってしまったからだ


「私が指名したのは『アシス』よ。『アシスッス』では無いわ」


「あー、アシスって名前っす!そういう事になってるっす」


「そういう事?なってる?」


「・・・こっちの話っす」


「で、あなた誰ですの?」


「アシスっす」


「「・・・」」


見つめ合うセーラとアシスもどき。似ても似つかない容姿に、少しばかり近付けようと努力したと思われる黒いマントが痛々しさを醸し出していた。ニコニコとセーラを見つめる目の前の男に、次第に口元が歪み、腹の底から言葉が溢れてきてしまった


「お・・・」


「お?」


「お前じゃねぇぇぇぇ」


椅子から立ち上がり、仰け反るように口汚い言葉を吐く王女を見て、部屋に居た近衛兵とメイドが戦慄を覚えた。その叫び声は王城内に響き渡り、かなり離れた部屋で静かに眠る王すら起きたという・・・絶叫王女の誕生の瞬間であった

次回から傭兵団の話を数話挟みます。本編として書こうと思ってたのですが・・・


今後ともよろしくお願いします

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