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3章 幕間 『十王』

過去話になります

遡ることロウ歴281年


1人の青年が大剣を背負いし大男と対峙している所から物語は始まる


その対峙している場所は石造りで椅子が1つあるだけの殺風景な部屋


対峙する2人とは別に赤ん坊をあやす初老の男性がいるという陳腐な状況だが、皆顔は真剣そのものだ


大剣を背負いし大男は背負った大剣を鞘に納めたまま背中から外すと椅子の横にある溝に差し込み椅子に座る


「・・・また来たのか」


大男は既に顔馴染みとなった青年に呆れたように言いながら、肘掛けに肘を乗せて拳で頬を支える


「叶うまで何度でも」


青年は呆れている大男をものともせず言ってのけると、赤ん坊を抱いている男を見やる。赤ん坊は見えているのか青年の元に行こうとするかのように手をバタバタと忙しなく動かしていた


「てめえの理想は聞いた・・・その年で大したもんだ。それを叶える力もある。・・・だが、ダメだ」


「堂々巡りをしに来たのではありません。僕はダメな理由を超えてでも僕がならなくてはいけない理由を携えて来ました」


「なに?」


「次の100年戦争・・・あなたはこれをどう見ます?」


100年に1度起こる戦争────通称100年戦争、大戦争とも言う6カ国を巻き込んだ大規模な戦争はロウ家が起こし『十』が管理する技術革新の為の戦争


「どう見るだと?何を言っている・・・起こった後に見るのが役目だ。どう見るかなど意味が無い質問だ」


「・・・あなたが()()つもりですか?」


「後20年足らず・・・代替わりする必要もねえだろ?最後の大仕事として一花咲かせてやる」


「その節穴な目でですか?」


「んだと!」


部屋の空気が一瞬でピリつく。赤ん坊はそれを感じて泣き始め、抱いている男性が慌ててあやす


「僕は前に来た時に次の100年戦争は不測な事態が起きると言いました。それを聞いたにも関わらず調べもせず一笑に付したあなたが節穴ではなくなんだと言うのです?」


「ガキの根拠のねえ戯言を聞いたからと言って慌てふためく程『十』は安くねえ」


「『十』が安い高いではなく、危機感のないあなたが『十王』なのが甚だ疑問です。先代をコンコンと問いつめたい気分になります」


『十王』ラムドの眉間に深いシワが刻まれ、こめかみに青筋が走る


「てめえ・・・ロウ家だからと言って殺されねえと思ってねえか?」


「思ってないですね。あなたがそんな了見が狭いとは思っていませんし、それに僕はロウ家ではなく、ナキスとして来たと何度も言ってるじゃないですか」


「ちっ・・・」


こちらがいくら威圧しようが涼しい顔で躱す青年・・・ナキスに苛立ちを覚える。剣での勝負では無双だが、舌戦ではとてもじゃないが適わないと理解する


「僕の忠告に少しでも耳を傾け、動いてくれたのなら僕は『十王』の地位に拘らない。でも監視者であり調整者の長がタダ事が起きるのを見ているなどありえない。それは監視者ではなく傍観者です」


「・・・てめえは確か、戦争を止めろ、止めないのなら『十王』を代われ、今回の100年戦争は不測の事態が起きる・・・と言っていたな・・・何が起きると言うんだ」


「それを調べるのも『十王』の役割ではないのですか?」


「違うね。起きた戦争を監視して調整するのが俺らの役目だ」


「だったら、『十』などいらないね。解散して野に帰れ」


ダン!と音が鳴ったと思った瞬間にナキスの前に大剣を振り上げたラムドが立つ。その顔は無表情で、感情のない目がナキスを見下ろす


「いらないのはてめえの命だろ?」


「それは困りますね。振り下ろされる前にコレを見て貰えますか?」


ナキスが差し出したのは1枚の紙。そこにはグラフのようなものとそれについての考察がビッシリと書かれていた


「文字を読むのは苦手だ・・・おい、アムス・・・お前が読め」


赤ん坊を抱いてた男・・・アムスに代わりに読むように即すと、アムスはため息をつきながら2人に近づく


「『十王』ともあろうものが・・・情けない話じゃ」


「うっせえジジイ!文字を読むと頭がクラクラすんだよ!」


振り上げた大剣を肩に乗せ、歩いてくるアムスを睨みながら言い放つ。アムスはナキスが差し出した紙を受け取ると「ふむふむ」と言いながら読み始めた


「なるほどの・・・つまり周期が被る・・・ということか」


紙を返しながら呟くとナキスは頷く


「ええ。ここまでズレないとなると、逆にズレない方が奇跡と言える程です」


「おい・・・お前ら。俺を蚊帳の外にするんじゃねえよ」


訳の分からない話で納得する2人を見て再び苛立ち始めるラムド。それを見てため息混じりにアムスが口を開く


「飢饉じゃな。グラフは北の国・・・北西シャリアと北東のファラスの飢饉による紛争の起きた時期を表しておる」


「飢饉?それがどうした?」


「寒波・・・それも大寒波と呼べるようなものが北では周期的に訪れています。そして、大寒波の時に必ず飢饉に陥り、紛争が各地で起こります。食糧の奪い合いですね」


「だから、それがどうした?」


「起きている周期が30年に1度。前回は11年前。そして、次に起こるのが・・・」


「100年戦争の時・・・って訳か」


ラムドにも覚えがある。11年前に起きた大寒波に大飢饉。それに伴い起きた紛争を収めた事は数しれず。その大飢饉と100年戦争が同時に起こるとしたら・・・


「ちっ・・・」


想像するだけで気が滅入る。ただでさえ話に聞く100年戦争は熾烈を極める。その最中の大飢饉による紛争・・・収集がつかないのは目に見えていた


「記録の中では既に8回・・・大寒波が来ておりますね。ちょうど30年周期で。初めの1回は建国の時と被っている為か記録にありませんでしたが、きっちり30年毎に起きている寒波に国も対策しているでしょう・・・しかし・・・」


「戦争と被ればどうなるか分からない・・・ってところか」


戦争に良心は存在しない。勝てば略奪し、負ければ奪われる。それが飢饉の時であれば尚更・・・勝った軍の後には草すら残らないであろう


「下手をすれば・・・いや、しなくとも国が無くなる可能性が高い・・・それは人の死も比例して多くなるのは自明の理」


国が無くなる・・・それは6カ国というバランスが崩れるということ。『十』の役割が果たされず、崩壊する大陸を想像し、ラムドは背中に冷たいものを感じる


「なぜだ・・・北の国からの申し出なら納得しよう・・・しかし、遠く離れた南の国のメディアのてめえがなぜ気づく!」


「きっかけは些細な事です。母の好きな食べ物の中に北の国でしか取れない実がありましてね。それをどうにか南の国でも育てられないかと文献を漁っていたら寒波に辿り着きました。寒波にでも耐え忍び実をつけるが、暑さには滅法弱いサーラの実」


その実は成人の親指程の大きさで甘酸っぱく赤色の果物。それを食べた時の母親の笑顔が見たくて自国でも育てられないかと調べた結果、寒波に辿り着く


「調べれば調べるほど寒波の恐ろしさ・・・そして、飢饉の恐ろしさを感じました。しかし、より恐ろしく感じたのは飢饉の時のロウ家がどの文献でも苦労したように書かれてない事です」


「割を食ってるのは民だけ・・・ロウ家は飢えを感じるまでもねえって事か」


「そうです。なので、寒波に対する危機感も弱い・・・対策はしてるでしょうが、戦争となれば・・・」


「その対策も泡と消える・・・か」


長い沈黙が訪れる。ラムドも『十』の王。監視者として、調整者としての役割は6カ国の維持。それが破綻するかもしれないと知らされて黙ってはいられない。しかし・・・


「それでも・・・てめえはダメだ。賢いてめえなら分かるはずだ」


「ロウ家・・・ですか」


「そうだ」


『十』を創り出したのはロウ家。そして、役割を定めたのもロウ家。自らを客観的視点から律する為に、そして、事が大きくなる前に収めるために創り出した機関に、ロウ家が入り込めば意味が無い。下手をすれば、それがきっかけとなり戦争に発展する可能性すらある


それは意図しない戦争を止める役割を持つ『十』にとって、相反する行動となってしまう


「それでも僕はならなくてはなりません」


「てめえの何がそこまで駆り立てる?何を目指す?」


「・・・6カ国同盟」


「馬鹿かてめえは!6カ国しかない大陸で6カ国同盟なんて、それこそ統一より難しい!」


「出来ないと思っているあなたには出来ない。僕は出来ると信じている。条件さえ整えばね」


ナキスは語る。考え抜いた100年戦争を止める手立てを。不可能と思っている相手に語るにはあまりにも夢見がちな空論・・・


「もしあなたが『十王』の地位を譲ってくれるのならば、僕はこんなものはいらない!」


地面に置かれたのは玉璽。現在の王と次代の王が持つことを許される物


「王位を・・・いや、メディアを捨てるか?ナキス・ロウ!」


メディアには現在ナキス以外に子はいない。もしナキスが継がなければ、ロウ家は現王ロキニスの代で潰えることとなる


「今・・・母は身篭っています。その者に・・・弟か妹か分からないですが、メディアの王位を継いでもらいます」


「まだ産まれもしてない弟妹に押し付けるか?」


「何の犠牲もなく!事が成せる程軽んじてはいない!なんならこの命すらも!それで事が成るというならば喜んで捧げよう!」


再びの静寂。対峙し見つめ合い目で語る。王ですら震え上がる『十王』の目線を力の限り睨み返していた


「・・・足りねえな」


ラムドは言葉を発した瞬間、肩に担いだ大剣を一閃。振り下ろされた大剣は玉璽を真っ二つにした


「なっ!」


ナキスは目の前で振り下ろされた大剣と真っ二つにされた玉璽を見つめ、初めて驚きの声を上げる


「『十王』にとって、『十』は目であり手足。決して横に並ぶ存在じゃねえ。もし事を成したいなら、共に歩む・・・友を探せ」


「!・・・」


「その玉璽の半分を渡せる程の・・・共に歩む者を見つけた時、てめえは大陸の危機を救えるかもな・・・」


「それでは・・・」


「ふん・・・今日からてめえが『十王』だ」


大剣を鞘に戻し、椅子に向かうと先程と同じように大剣を溝に差し、椅子に座る


「ラムド・・・お主・・・」


「皆まで言うなアムス・・・これは賭けだ。大陸を賭けた・・・な」


「いや、そこ『十王』の席じゃぞ?」


「・・・()()からてめえが『十王』だ。ナキス」


「ご拝命承りました『十王』ラムド様」


頭を下げ、言葉を受けると踵を返し外に出る。明日から目まぐるしい日が待っている。今日から立ち止まることは許されない・・・そう心に誓いナキスは歩き出す


「アムス・・・場の雰囲気ってのをなぁ・・・」


ナキスが去ったのを見送った後、決めた所で場に不釣り合いな突っ込みを入れてきたアムスを睨む


「どうせ最初っから譲る気だったのじゃろ?下手な芝居をしおってからに」


「うるせぇ!譲る方にも覚悟がいるんだよ!気楽な隠居ジジイは黙っとけ」


「ほう・・・やっと隠居させてくれるか?」


「あー、いや、無理だな」


「・・・お主が彼を補佐すれば良いじゃろう?ワシにはこの子を育てるという使命がある」


腕の中で眠る赤ん坊を見せながら、ラムドに言うアムス


「俺には『十王』として最後にやる仕事がある」


「なんじゃそれは?」


「『十王』ナキスを各国に報せて回る。その際にうちの放浪息子も連れて鍛え直す」


「・・・気楽な隠居生活はいつ叶うのかのう?」


「さあな・・・」


話は終わりと言わんばかりに、シッシッと手を振るラムドにため息をつき寝ている赤ん坊に話しかける


「お主には・・・ロウ家や『十』みたいなしがらみのない人生を送って欲しいものじゃ・・・なあ、アシスや」


赤ん坊は寝息をたて、静かに寝ている。この日から激動の時代に突入する事など知らずに・・・

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