3章 7 傭兵団
牢屋は鉄の格子と石壁に囲まれていた。布団もないし、トイレもない。いかん、心が折れそうだ。最近宿屋住まいに慣れてしまって、こういう場所で寝るのに抵抗を感じてしまう
牢屋は小部屋がいくつかあり、入口から1番手前の所に入れられた。なので奥の方に誰かがいるのかは分からない・・・待てよ。せっかく覚えたんだ。使ってみるか
精神集中、シーラを探してた時みたいに気配を探る
・・・・・・いるな。ぼんやりとだが何人かの気配を感じる。ポツポツと離れている所を見るとみんな一人づつ入っているみたいだ。にしても、フレーロウは治安が良いと思ったがいるもんだな
とりあえず人がいるのも分かったし、寝よう。牢屋の奥の方の格子の窓から日が差してきた・・・昼夜逆転してしまう・・・な
目が覚めたらベッドの上だった・・・なんて事もなく、石畳の上で寝たために体が少し痛い。どれくらい寝ただろうか・・・足音が聞こえ、そちらを見ると見知った顔がある
「やーねー、犯罪者と目が合っちゃったわ。早く行きましょ」
「・・・姉さん」
格子の奥にシーリスとシーラが居た
「何故ここに?」
「期待させたのなら悪いわね。あなたに会いに来たのではなく、尋問よ尋問」
「優しくしてくれよ?」
「あんたにしてどうする!シーラを攫った奴らによ!あんたはしばらく牢屋で反省してなさい!」
ドカドカと大きく足を鳴らしながら奥に行くシーリス。シーラはそれを追いかけるように行こうとしたが、こちらを振り返る
「アシス・・・ありがと」
「怪我はどうだ?」
「まだ痛むけど・・・大丈夫」
「くぉらーそこの2人ー!イチャコラしてないで、さっさと行くよ!」
歩いて行ってシーラが来てないのに気付いたのだろう。遠くからシーリスが叫ぶ
イチャコラの意味がよく分からんが、シーラは乾いた笑いを見せると小さく「じゃあね」と言ってシーリスの後を追っていった
まだ足を引きずり、両腕も動かせず、顔も腫れているが顔色は良くなっていた。そんな状態のシーラを連れ回しているのはどうかと思うが、恐らくシーラを1人にするのは出来ないと判断してだろう。尋問をナキスに任せれば良いのに・・・俺は冷たい地面に寝転がり、両手を頭の後ろで組み面白くもない天井を見つめていた
と、そこに新たなる訪問者・・・噂をすればなんとやらだな
「居心地はどうだね?」
「快適とは程遠いな。後、ベッドとトイレとテーブルがあれば良いんだがな」
トイレはなく、牢屋に垂れ流しだ。不衛生極まりない
「要望が多いね。それでは皆ここに居着いてしまうよ」
「犯罪者を居着かせれば治安も良くなるだろ?」
「・・・君はここに居たいのかね?」
「三食きちんと出て、さっきの要望が叶うのなら」
寝転がる犯罪者とメディア国王子が牢屋のある空間で見つめ合うという稀有な状態の中、2人は軽く笑い合う
「まだ頬が痛むんだよね」
「それはそれは・・・その痛みを忘れなければ悪さはしなくなるだろ?」
「かも知れない・・・ね」
奥の方から男の断末魔のような叫びが響き渡る。そして、そのすぐ後にシーラが戻って来た
「派手にやってるな」
「・・・気分が悪くなったから、こっちに来た」
チラリとシーラに目線を送り、シーリスがやってる尋問を想像して寒気を感じながら言うとシーラは困ったような顔をして返答する
「アシス・・・シーラには先程謝罪し、前言撤回した・・・もう殴られたくないからね」
「殴られたくなくて前言撤回するほどお人好しじゃないだろ?疑問に思ったんだが、なぜあの時にその話をした?」
「・・・マベロン大使のニコラスがシーラを連れて外に出たのに関係しているからだ」
東の警備を偽王印で動かし、ニコラスがシーラを連れ出し、実行犯が攫う・・・これが偶然と言うにはあまりにも上手くいきすぎている。だから、全部が仕組まれていたという方が納得出来た
「ニコラスは白だ。東の警備の方は確認中だが、グロウにも確認してもらい、ロウとしても見た。更にこう問い質した。『誰かに頼まれたのなら更迭はしないでおこう』とね。それでも頼まれていないと答えた」
ふむ、大使職もかなりの栄誉ある職だと聞くが、世襲制では無い為地位にしがみつく事もないんじゃないか?だが、ナキスとグロウが判断したのなら白の可能性が高いな
「偶然見つけた女性がシーラであり、酒の勢いで口説き外に連れ出した」
「それとお前の言葉がどう関係しているんだ?」
「ニコラスの話ではまるで抜け殻のように空返事をする子だと思ったらしい。酒が入っている時は自分の身分に恐れていたと思っていたらしいが・・・」
ナキスの目線はシーラに向き、続きをシーラに話させようとする。シーラはそれを引き継ぎ、ポツリと話し始めた
「・・・そのニコラスって人はほとんど覚えていません。確かに・・・その・・・上の空だったかも知れません」
「・・・つまり、その上の空の原因を作ったのはナキスであり、今回の偶然を引き寄せてしまったと?」
「そうだね。ニコラスが王城の外へと連れ出したと聞いた時点で察したよ。剣の腕もなく話術だけで晩餐会から連れ出すなんて考えられない。そうなると茫然自失な状態だったのではないかと・・・そして、それは僕の言葉が原因なのではないかと」
俺は立ち上がり、格子に近寄るとシーラの前に立つ
「すまなかった・・・ナキスの言葉くらいで揺らがせてしまって。もう大丈夫だ」
「────!」
格子の内側から外側にいるシーラの頭にぽんと手を乗せると、今度はナキスに向き合う
「もう撤回したから言う必要もねえが、一応言っとく。シーラは阿家一門。ロウ家だろうが、誰だろうが勝手は許さねえ・・・絶対な」
「・・・阿家一門としてだけかね?」
「何が言いたい?」
「いや、それならまだ付け入る隙はあるのかなと思ってね」
「?」
訳の分からんことを言うナキスは無視して、下を向くシーラに再度声をかける
「傷付いた所は俺が後で治してやる。と、言っても治りを早めるだけだがな」
こくんと頷くシーラを見た後、再びナキスに
「で、いつ出してくれるんだ?」
「いつでも」
ジャラと鍵の束を見せつけるナキス。持ってるならさっさと開けろよな
「話は終わったかしら?」
いつの間にか拷問姉ちゃんがシーラの後ろで壁に寄りかかりこちらを見ていた
「拷問は終わったのか?」
「尋問よ尋問!まだ始めたばかりよ。一つだけ聞き出せたけどね」
「ほう」
ナキスがその言葉に鋭く反応する。それもそのはず、国の尋問官が聞き尽くしたあとの情報だ。ナキスにとっては聞き捨てならないっていったところか
「私は尋問官とは違う問いをしただけですよ、ナキス様。私が今聞いたのは『あなた達が攫ったのは誰?』」
はん?シーラだろ?
「返ってきた答えは『赤の称号のシーラ』そして、その後に『知らなかったんだ、騙された』・・・と」
あん?
「なるほど・・・そういうことか」
ナキスを振り返ると納得してやがる
「どういう事だよ?」
「フゥ・・・分からない?」
シーリスはこれみよがしに溜息をつき、馬鹿にしたような目付きで俺を見た。くそっ・・・分からんがな
「・・・赤の称号のシーラ・・・称号を得てからシーラは何かしたかしら?私達と共に行動はしたけど、立ち回りで活躍したりした?デマが流れたりしてたらとも考えられなくはないけど、現状シーラは赤に成り立ての無名の新人傭兵よ。それを攫ってきてと言う人物がいると思う?」
「・・・居ないな」
返事をした俺の前で活躍してないって事を羅列され、少し頬を膨らますシーラに構わずシーリスは話を続ける
「つまり、依頼した奴はシーラの『何か』を知っていて隠して実行犯の奴らに依頼した。そして、攫った後に『誰か』がシーラの事を教えた。彼らの今現在のシーラの認識は『カムイ』であり、『アシスの仲間』よ」
「俺?」
「はあ・・・本当に自覚ないのね。今のあなたの存在は誘拐犯如きを震え上がらせるには充分よ。『赤の称号』『阿家家主』『ナキス様との仲』『ガーレーンでの出来事』。そのあなたの仲間を誘拐するなんて自殺行為・・・更に私が言うのもなんだけど『カムイ』のってつくだけで常識が欠片も残ってるなら裸足で逃げる案件ね」
すいませんね・・・欠片もなくて
「と、なると『誰か』も気になるところだね。彼らを助けたのか、シーラを助けたのか・・・」
「それは大した問題ではないわ!ナキス様。後者と分かっているしね」
突然シーリスとナキスが見つめ合う。まるで探り合いをしてるかのように
「・・・分かった。それについてはそこまでに止めておこう」
「理解のあるお方で良かったわ。後は依頼主よね・・・まだそれらしい情報も得られてないし・・・アシスはもう出れるのかしら?」
「ああ。ナキスが鍵を持ってるし、今からでもな」
ナキスはおもむろに1本の鍵を格子の鍵穴に差し込むと一捻りする。ガチャと言う音を立てて格子の扉がゆっくりと開かれた
「シーラを連れて宿に戻っていて。私はまだやる事があるし、昨日の今日で疲れもあるわ」
「分かった。ナキスは?」
「僕は尋問官を連れて来よう。お手本になるやもしれんし・・・同席しても?」
「もちろん・・・構わないわ」
シーリスは片手を上げて了承すると奥へと再び戻って行った。残された俺らはここから出ようと歩き出す。すると、ナキスが立ち止まり、俺に尋ねてきた
「アシス・・・君は傭兵団に加入するのかい?」
脈絡のない突然の質問に困惑しながらも、以前リオンと話していた事を思い出す
「メディアを拠点とするなら加入しといて損はないだろ?」
その答えを聞いて、ナキスは目を閉じ何かを考えてから言ってきた
「そうか・・・それなら『鋼鉄の剣』がオススメだね。フレーロウで1番の勢力で団長ガレスの信頼も厚い」
ガレスのとこか・・・
「ん、考えとく。俺一人の事じゃないしな」
そんな会話をした後、俺は一日ぶりに外に出た。もう日は暮れ始め、外は暗くなってきている
まずはシーラの治療・・・そして、飯だ
────
今はシーラとシーリスの部屋。ベッドの上でシーラは背中を向けて座っている。俺は服越しに両腕の上から力を流し込む。阿吽~巡り~血が出ている傷などには使えないが、打ち身、骨折などには力を流し込む事により回復を早めることができる
「どうだ?」
「ん・・・温かいような不思議な感じ」
効果の程は上々のようだ。しかし、いつぐらいぶりだろうか。シーラと二人っきりになるのは。レグシに行く前?いや、キャメルスロウでも少しだが二人っきりになったか・・・とふと首元を見ると見覚えのある紐・・・キャメルスロウで買ったペンダントだ
「・・・」
「アシス?」
急に黙った俺に怪訝そうに尋ねるシーラ
「願いは・・・叶いそうか?」
「・・・そうね。叶うかもしれない・・・かな?」
少し明るめの声で答えてくれたので、少し安心する。この部屋に入り、顔の腫れと腕の状態を見た時は誘拐犯に殺意も湧いたが、今は特にない。今後自分が守れば良い・・・二度と同じ思いはさせない・・・そう強く願う方が強かった
その時、部屋のドアがバン!と開き、その瞬間に想像出来た人物が声を上げる
「おう!アシス戻ったか!・・・すまん、最中だったか!」
最中ってなんだ最中って!
「ああ、治療の最中だ」
「そ、そうか。宿の主人に戻ってると聞いてな。部屋に居ないからこっちかと思って・・・すまん」
「・・・気にするな・・・でも、ノックはしろ!」
シュンと縮こまるリオンを見て、こいつ以前、謝るなら戦えとか言ってたよなっと思い起こす
「ああ、後グロウ殿がお前を尋ねて下に来ていたぞ」
「グロウが?」
なんだろ?今回の捜索の時に世話になったし無下にも出来ないな
「シーラ」
「うん、わたしも今回お世話になったと聞いてるし、一緒に行くわ」
「・・・」
ドアの前で立っているリオンが俺らを見て何か言いたげな表情をしている
「なんだよリオン」
「いや、なんか・・・通じ合ってるなーと」
すぐさま寝ぼけた事を言うリオンを小突いて、宿の1階にある食堂まで降りていく。すると、食堂にあるテーブルにグロウとグロウの仲間がテーブルの席に着いていた。気配で気づいたのか、こちらの方に顔を向ける
「俺を訪ねて来たと聞いたが・・・その前に、ありがとう」
俺はグロウに頭を下げ、今回のシーラ捜索の件のお礼を述べた。しかし、グロウは静かに首を振る
「礼には及びません。出しゃばった挙句、結局見つけられたのはシーリスさんなのですから。それよりも、昨日の今日のお疲れの中、突然尋ねてしまった非礼をお詫びします」
逆に謝られてしまった。どうもグロウは傭兵って言うよりは、どこかのお偉いさんって感じがする。喋り方も丁寧だし
「いや、この通り元気だし問題ない。だが、腹が減った・・・食事は?」
「まだですが・・・」
「そうか。だったら、ここで一緒に食べるか。ここの飯はかなり美味いし、どうせ道楽王子の奢りだ」
「ふふ・・・フレーロウでそのような発言が出来るのはアシスさんくらいですね。ではご相伴にあずかりますか・・・メンスは同席しても?」
「もちろん」
俺の金じゃないしな。そう言えばいつまでこの宿使ってて良いのだろうか?今度聞いてみよう
食事が運ばれて来るまでの間、シーラが昨日のお礼を言ったり、牢屋に入れられた時の話をしたりと会話を楽しんでいた。グロウは丁寧な言葉使いだが、嫌味もなくナキスと会話しているような心地良さを感じる
「そう言えば、飯はどう食べるんだ?」
目の見えない状態で人の気配は察することは出来るけど、流石に飯の気配なんてないだろうし
「熱を発しているものはある程度分かります。冷めているものや常温のものは・・・手で確認するしかないですね」
ほほう。それなら火傷とかはしなくて済むか。でも、大変だな
「たまにスープに手を突っ込むからな・・・見てらんねえよ」
メンスが笑いながら言うと、グロウは恥ずかしそうに頭を掻く。傭兵団の副団長で以前グロウに挑戦し敗れたらしい。元々赤の称号の持ち主で実力もあるみたいだ
「不自由なれど、それ以上に得られるものもあります・・・私の事など。それよりも、本日は御三方・・・本来ならばシーリスさんも含めてお願いがあって参りました」
「お願い?」
ちょうど食事が運ばれて来た。晩餐会でつまみ食いしてから何も口にしてないので、思わず出てきた料理を凝視してしまう・・・牢屋でも食事出せよな
「我が傭兵団への加入・・・そのお願いに参りました」
ガタンと給仕が皿を音を立てて置き、『失礼しました』と少し零れたスープを拭き取る
「えらい急だな。理由を聞いても?」
「優秀な人材を勧誘するのに理由が必要ですか?」
「そう言われると悪い気はしないが・・・」
チラリとシーラとリオンを見る。以前にリオンとは何となくだが話していたが、シーラにとっては傭兵団加入は寝耳に水だろう。今後なんて話してないし
「俺はアシスが入るなら入っても構わん。当面強くなれる環境なら文句はない」
「・・・わたしは・・・反対する理由もないわ。恩もあるし、入りたい傭兵団がある訳でもないし」
概ね賛成か。シーリスに関してはシーラが加入すれば入るだろうし・・・
「もし合わなければ抜けて頂いても構いません。傭兵団によっては方針が違うので、肌に合わない事もあるでしょうし」
「方針・・・か。グロウの所はどんな方針なんだ?」
「人命優先!報酬二の次!・・・だな」
メンスが突然叫ぶ。ただのお人好し集団か・・・それなら・・
「メンス・・・それでは詐欺になりますよ」
俺が断ろうと口を開きかけた時、グロウが呆れたように口を挟む
「言わなきゃダメか・・・あれ」
メンスの問いかけにグロウは嬉しそうに首を縦に振る
「くっ・・・マジか・・・割り込まなきゃ良かった。・・・ゴホン・・・人名優先!報酬二の次!最強の矛にして、最強の盾となれ!」
席を立ち、真っ赤になりながら叫ぶメンス。確かにこれは・・・
「グロウ?」
俺が説明を求めるように呼ぶとグロウは曲げた人差し指を口に当て、微笑みながら答える
「ふふ・・・全身発熱してますよ?メンス。聞いての通りです。報酬の為の傭兵ではなく、人命を優先する最強の武力集団・・・それが私達の目指す所です」
なかなか・・・小っ恥ずかしい所を目指しているな
「・・・私はファラスの出身です。貧しい名もなき村で育った私は貧しさに耐えきれず外の世界に出ました。元々剣の腕に自信があり、稼いで村に凱旋しようと考えていました・・・」
お、おう。突然昔話が始まってしまった。とりあえず飯が運ばれたので、口に運びながら聞いておこう
「十数年の時を経て、私が村に戻ると・・・そこは活気のある村へと変貌していたのです」
あら、切ない
「・・・住民が全て入れ替わった状態で・・・」
「なに?」
思わず固まってしまう。・・・全て?
「聞くと『前住民は許可なくここに住み、あまつさえ税を納めずに住み続けた。それは国家に対する略奪行為と同等・・・故に断罪した』・・・だそうです。父も母も幼かった弟も村長も隣のティーナも全員・・・処刑されました」
「・・・」
「亡骸もなく墓もない・・・信じられない気持ちで色々と探りましたが、真実は変わらず・・・絶望に暮れた私の取った行動は、少し小高い丘に皆の墓を建てることでした。せめて、かつて住んでた村が見えるようにと・・・しかし、その行動が現住民の怒りを買い、兵を呼ばれてしまいました。『これみよがしに墓を建て、村を見下ろすとは国家に対する反逆だ』と告げられ、私は自分の意図を説明しました。ただ村が・・・住んでいた村が見える位置に建てただけ。反逆の意思はないと」
食事の手は止まり、グロウの話に耳を傾ける。テラスが同じ目にあったら・・・と、考えてしまう
「しかし、兵は『無許可で国の目を盗み、領地に住んでいた盗人に死んでからでも村を見る権利はない』と、そして、村出身の私に『お前にも村を見る権利はないな』と言い・・・殺されなかったのは恐らく見る権利とやらを奪えば野垂れ死にするだろうと高を括ったからでしょう」
「国家に・・・ロウ家に恨みはないのか?」
「初めは恨みもしました。しかし、私が単独で国家に喧嘩を売り、散ったとしてもそれはただの自己満足。決して村の者達の為ではない・・・ならばどうするか・・・そして思い付いたのが、国ですら無視できない力をつけようと。村を救え、国にすら意見できる程に・・・」
こいつも・・・ナキスと同じか。ただ歯向かうのではなく、次に繋がる道を探る。憎しみをぶつけるのではなく、憎しみを生まないように努力する
「お恥ずかしい話です。私ではそんな幼稚な手段しか思い付かず、人に頼り生きています。ですが、今はそれが最善と信じ突き進む他ないのです。・・・お力を貸しては頂けないでしょうか?」
傭兵団に入ろうと思っていたのは、仕事の斡旋などが有利になるから。グロウみたいに志を持って傭兵団に加入する意志はない。だが・・・
「俺はナキスの友だ。あいつが困ってれば助けたいと思ってる。だから、もしかしたら、団の意志とそぐわない時があるかも知れん」
「その場合は抜けてもらって結構です。私としてはナキス様の意志にそぐわない事がないと思っています。かの御方の意志にはロウ家と傭兵という垣根を越えた何かを感じますので・・・」
その言葉を聞き、俺はシーラを見る。シーラは目が合うとコクリと頷き、続けてリオンを見ると腕を組み、目を閉じながら話を聞いていた。寝てる可能性も少しもあるが、目の前に飯が残っているから起きているのだろう
「分かった。シーリスは居ないから後で俺から説明しとこう。よろしく頼む」
俺が頭を下げるとグロウは立ち上がり、深く頭を下げる
「感謝します。あなた達の加入はこれ以上ないくらい心強い!」
そんな大袈裟な!と思っていると宿の扉がバン!と音を立てて開き見覚えのあるおでこが姿を見せる。・・・この展開多いな
「あ~いたいた!お兄様が言った通りだわ!」
周りの目も気にせず護衛らしき男達を置いてズンズンとこちらにやって来るおでこ
「ちょっと!なにサボってるのよ?」
はて?サボる?
「なんの事だ?晩餐会は終わったぞ?」
何を言ってるんだこのおでこは
「あら?お兄様は私の護衛を頼んだ時に『晩餐会まで』と明確にハッキリと言ったかしら?」
うーんと・・・言ってないな・・・
「ほらみなさい!あなたはお兄様から護衛を頼まれてそれを承諾したのですから、私がいいと言うまで私の護衛よ!」
なんだその謎理論は。呆れて思考を停止させていると、横からグロウが口を挟む
「失礼ですが、セーラ様」
「何よ?と言うか、誰よ?」
なんか最初は淑女って感じだったが、今は暴走お姫様って感じだな・・・こっちが素か?
「失礼を。私は『二対の羽』のグロウと申します。この度アシスさんは『二対の羽』に加入して頂けることになりまして・・・」
「だから何よ?こっちの方が先よ」
おおう、凄いな・・・俺の意思はそこにはないって感じだ
「ええ。ですが、彼もまた傭兵です。護衛という仕事をするにしても雇用契約が必要でしょう。タダ働きで何日も拘束するのは些か厳しいかと・・・」
「うっ・・・何よ!じゃあ、払えば良いんでしょ?」
「はい。しかし、先程申し上げました通り、彼は『二対の羽』に所属しております。ですので、依頼の際は『二対の羽』のアシス指定での依頼と明記して頂ければ・・・」
「おい」
「分かったわ!すぐにでもギルドに依頼をかけるわ!」
フンと鼻息を荒くして、嵐のように去っていくおでこ。傭兵団に加入して、最初の依頼がアレかよ・・・
「さて、メンス・・・傭兵団には何人アシスが居たかな?」
へ?
「そうだな・・・4、5人居るんじゃないか?」
冷め始めた肉を食らいつつ、悪い顔で答えるメンス・・・おいおい、そういう事かよ
「ふむ・・・さて、依頼が来たらどのアシスさんに頼むとしましょうか・・・」
爽やかな笑顔で考えるグロウ・・・実直な奴と思いきやなかなかの腹黒さだ。どうやら、俺はおでこに振り回される未来は回避できそうだ
こうして俺らは傭兵団『二対の羽』に加入する事となった




