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3章 5 捜索

ナキスの衝撃的な発表から始まった晩餐会も終わりに近づき、セーラに押しかける人数も大分落ち着いた。王は体調が優れない為、すぐに会場を後にしていた


もう御役御免だろうと勝手に決めて、セーラの目を盗みシーリス達の所に向かうと何かを飲みながら談笑してやがる・・・羨ましい


「受けるんじゃなかったよ・・・護衛なんて」


精神ダメージがでかい。リオンは飲んでいたコップをこちらに向けて上げ、笑顔で俺を労う


「なかなかサマになってた。傭兵から転職したらどうだ?」


「冗談じゃない。美味そうな飯が並んでるのを見るだけなんて苦痛以外のなにものでもない」


テーブルの上に置いてある残り物を口に運ぶ・・・おお・・・美味い


「残ってる料理を持って帰るか?明日でも食べれるだろ?」


「やめておいた方がいいわ。日持ちする料理じゃないし、何よりみっともない」


「そっか・・・で」


チラリと見覚えのある人物を見やる。うーん、ギルドで会った記憶はあるが、名前が・・・


「グロウです。お久しぶりです、アシスさん」


頭を下げてきたので、こちらも頭を下げるが・・・そうそう、グロウって名前だった。確か目が見えなくて、ギルドの掲示板をシーラと一緒に読み上げて・・・あれ、シーラは?


辺りを見渡し、それらしき人物を探すが居ない。まさかずっと中庭に?


「シーラは?」


「少し風に当たって来ると言ったきり戻ってないわね・・・」


つーと、俺が見かけてからずっと中庭にいるのか・・・薄手のドレスしか着てないのに寒くないのだろうか・・・


「そうか、見てくる」


今度は違う料理をヒョイと取って口に運ぶと中庭に向けて歩き出す


「あ、私もご一緒します」


何故かグロウが俺の後に続くとシーリスとリオンも付いてくる。見えてないのに、それを感じさせない歩きに本当は見えてるんじゃないかと思えてきた


「なんで見えないのに・・・」


大方何度も受けてきた質問なのだろう。皆まで言わずとも、俺が何を言わんとしているのか分かったみたいで、グロウは答えてくれる


「人は生きているだけである程度の熱を発しています。今の状態ですとそれがハッキリと感じられるのです。ですので、暗闇の中にぼんやりと人型の光が動き、それを避けたり、付いて行ったりとする事が出来るようになりました」


熱・・・阿吽で言う所の力みたいなものか。目を閉じて他の人の力を探るが、グロウの言ったみたいには感じる事は出来なかった


「おいおい、そんな簡単に同じ事が出来るわけないだろ?」


リオンが俺のチャレンジに対して言うが、グロウはクスリと笑い首を振る


「アシスさんならもしくは・・・。他の人に比べて熱が淀みなく、まるで川の流れ。私はここまで会った事のある人物の中ではずば抜けて熱の流れがスムーズです」


「スムーズだと凄いのか?」


なんか流れがスムーズって別に普通のような気がするが


「・・・そうですね。言い方を変えると、余分な力が入ってない自然体で動かれてるという感じです。例えば腕相撲なんかで力のスムーズな方とそうでない方がやると確実に前者が勝ちます。100の力を100で使うのは難しいのですが、アシスさんならそれが可能でしょう」


なるほどね。確かに阿吽の呼吸って力を一時的に腕に流して、相手に打ち込んだりするのが基本。そう言った力の流れを操っていたからこそ力の流れがスムーズなんだろうな


「俺はどうだ?グロウ殿」


いつもの如くしゃしゃり出てきたリオンにグロウが答えてる間に中庭に到着。到着した後も話は終わってなかったので、俺は2人を無視してシーラを探す為に更に中庭を進む


「警備の者はチラホラ見えるけど、客はいないわね・・・」


いつの間にか隣に並んで歩いているシーリスが呟く。確かに警備兵ばっかりで客は中庭には出ていない。なら、警備兵に聞けばすぐ分かりそうだな


「ちょっといいか?」


警備兵に話しかけると直立不動のまま「はっ」と返事をしてくれた


「青色のドレスの女が中庭に居たはずなんだが知らないか?」


すると警備兵はこちらをチラリと見て、視線を戻し答える


「その質問にはお答え出来ません」


なに?知らない、見てないではなく、お答え出来ません?


「どういう事だ?」


「・・・お答え出来ません」


答えられない理由も答えられない・・・胸騒ぎがする


「ちょっと!あの子は私の妹よ?答えられないってどういう訳よ!」


焦れたシーリスが問い詰めるが、警備兵は無言


まったく答える気はないらしく、こちらを見ずに警備を続行している。知らぬ存ぜぬを押し通すなら、こちらにも考えがある。尚も問い詰めるシーリスの肩を掴み、代わって前に出ると懐から玉璽の欠片を取り出しもう一度問う


「シーラはどこに行った?」


「!・・・それは・・・」


「さっさと話せ」


「・・・はっ。シーラ様はマベロン大使ニコラス様と共に中庭にある通路を使い王城外へと行かれました。通路は秘匿の為・・・」


チラリとシーリスの方を見る。恐らく俺には伝える事は出来るがシーリスには教えられないという意思表示だろう。マベロン大使?シーラと知り合いとは思えない・・・何があった?


「シーリス?」


「知らない奴ね・・・チッ」


シーリスに尋ねると眉間に皺を寄せ返ってきた。辺りを見渡し、その通路の存在を確認している


「その通路は?」


「いや、ですから秘匿の為・・・」


「悪いが緊急事態だ。そっちの都合は知らない。すぐに教えろ」


威圧するように伝えるが、警備兵は首を縦に振らない・・・焦りが次第に大きくなり、思考がまともに働かない。くそっ・・・冷静になれ


「何かあったのか?」


後ろから声が聞こえ振り返るとナキスがいた。俺らの行動に気付き様子を見に来たみたいだ


「ナキス・・・ここから出る通路を教えろ。シーラがいなくなった」


すぐに詰め寄るとナキスは一瞬驚きの表情を見せ、警備兵に顔を向ける。警備兵はかしこまり、先程俺らに伝えた情報を復唱しナキスに伝えた


「ニコラス・・・が?・・・分かった。こっちだ」


「ナキス様!?」


「構わない。この者達は信頼出来る」


すぐさま移動を開始すると俺らもその後に続く。リオンとグロウも合流し向かった先は中庭にある少し色の変わった地面


「ここに隠し通路がある。ここから王城の外へと出れるが・・・」


チラリと会場を見る。まだ晩餐会は続いており、ホストであるナキスは残らなくてはいけないだろう


「構わない。俺らで後を追う」


「すまない。何かあれば出口付近にも警備兵は多数配備している。玉璽を使い聞けば足取りも掴めるはずだ」


色の変わった地面を少しずらすと中から階段が見えてきた。ここは1階のため地下通路になってるのか?


「分かった」


短く答えると俺らは階段を降りて先を急ぐ。しかし、降りた先ですぐに人の気配を感じた


「誰だ!」


俺の問いかけに、ビクッと通路の先の者が動く。その声に反応し、会場に戻ろうとしていたナキスが引き返してきた


「どうした?・・・何が・・・」


ナキスの声に反応し、通路にいた人物がこちらに向かって来る。ようやく顔が見えた時にナキスが呟いた


「・・・ニコラス・・・」


こいつが・・・だが、シーラの姿が見えない。なんだ・・・なんでこいつは1人でいる?


「ナキス様・・・どうしてここに?」


呆けたこいつの顔面を殴り飛ばしたいのを我慢するのに苦労する・・・


「あんた!シーラをどこにやった!」


警備兵の話ではこいつと共に通路を通ったはず。だが、シーラの姿は見えない。シーリスは焦りから掴みかかる


「なんだ!君は・・・ナキス様・・・この者達は一体?」


「質問に答えたまえ。警備兵が君とシーラがここを通るのを見ている。なぜ君は1人で戻って来ている?」


「え?・・・いや、それはその・・・」


歯切れの悪い答えに苛立ちが募る。シーリスもニコラスの胸倉を掴んだ手に力がこもっているように感じた


「ぐっ、貴様・・・離せ!」


シーリスの手を振りほどこうとするが、その前にナキスが近付き、シーリスの手に自らの手を添える。そして、シーリスを目で制し力を込めるのを止めさせると、再度ニコラスに問う


「シーラはどこだ?」


その後のニコラスの話に思考が暗転する


シーラが・・・攫われた?


────


薄暗い室内、壁にかけられた松明の明かりが数人の影が揺れるのを映し出す。そこは晩餐会のような粛々とした雰囲気はなく、酒をあおれば口の端から床にこぼし、肉を食らえば骨を地面に投げ捨てる。野蛮と一言で語るにはあまりにも雑な宴だった


「今日でここともおさらばか・・・ケッ」


感傷に浸り、自虐的に笑う男はテーブルに足を投げ出し、今宵の肴を眺める。そこには声を出さないようにと自殺防止の為に口と腕を縛られたシーラが居た


「おい、サマット・・・そろそろ・・・もう我慢できねえよ」


テーブルを囲んでいるのは5人。その内の1人が目を血走りながら対面の男に言う。サマットと呼ばれた男を筆頭に彼らはフレーロウにて犯罪行為に手を染めていた。あまり目立たないように細々と


フレーロウはメディアの首都。軍も存在し、勿論警備兵も数多くいる。が、他の街には軍が存在するのは稀。犯罪者を取り締まるのは私兵もしくは国からの守備兵の配属に頼るしかなかった。その為、各国の首都以外は犯罪者にとっては住みやすく、首都は住みにくい。だからこそ、対抗組織がなく、小回りのきく少数の彼らは首都で生き抜くことが出来た


「サマット・・・俺も・・・」


先程目を血走らせていた男とは別の男もサマットに言葉をかける。その目は寝ているシーラに釘付けだった


「チッ・・・フレーロウでの最後の晩餐だっつうのに・・・まあいい、やるか」


「うはー、待ってました!さっきピッチが縛ってる時に乳揉んだら、小ぶりだがいい張りしてたぜ・・・へへっ」


5人全員立ち上がり、これから行われる事に思いを馳せながら下品な笑いを浮かべる


「まずは俺からだ・・・あとは好きにしろ」


サマットが当たり前のように言うと、周りからは一気に文句を言い始める


「おいおい、俺がここまで運んだんだぞ!」


「ずっと張ってたのは俺だぜ!」


「前の女もおめえだったじゃねえか」


「・・・縛ったの・・・俺・・・」


4人それぞれが自分が最初だと主張すると、サマットは両手を上げて降参だとジェスチャーで表す


「分かった分かった。今日が最後だ・・・仲良くで行こうじゃねえか。俺は2番目でいい。1番目はお前らで決めな」


最高の夜になる・・・そう確信した彼らは雄叫びを上げる。その声に意識を失っていたシーラが目を覚ます


「ん・・・」


猿ぐつわのせいで言葉が出せない。この場所は?彼らは誰?晩餐会はどうなった?様々な疑問が頭の中を駆け巡り、そのあとは冷静に状況判断に移る。見たことない場所と人。縛られてる状況・・・攫われたという結果に結びついた


周りの状況を再度確認・・・武器になる物は近くにない。男が5人。後ろ手で縛られている・・・だがこのくらいならと縄抜けに成功した。『カムイ』での修行が役立つ日が来るとは思わなかった


「あーあ、ピッチは1番無しな」


「・・・無念・・・しっかり結んだと・・・」


頭の後ろで手を組みニヤニヤしながら、ピッチと呼ばれた男に言うとピッチはガックリとこうべを垂れる


「後は俺とサンドとゲラか。どうするよ?」


「どうせなら楽しい決め方が良いな。ゲラどうよ?」


「こういうの考えるの得意なのはモルスだろ?俺らに聞いといて、どうせ面白いこと思いついてんだろ?」


「よくぞ聞いてくれた!分かってるじゃん」


モルスは頭の後ろで組んだ手を解き、ゲラを指差す


「どうせ裸にするんだ・・・あのドレスの生地の大きさで決めようぜ!」


言い終えた後、ニヤリと笑い2人を見ると、同意したのか同じように笑いシーラを見る


「・・・」


シーラは頭の中でシュミレートする。今の話で、5人同時ではなく3人が襲ってくると分かった。後は相手の武器を奪い3人を倒した後残り2人を相手する。全員同じくらいのレベルと思われる為、奪いやすく自分が使いこなせる武器を持つ者を探っていた


ゲラと呼ばれた男・・・短めの剣を持っていて小太りで動きが鈍そうだった。ターゲットを絞り武器を奪う事に専念し少し動くと・・・ジャラという音と共に右足に痛みが走る


「?・・・!」


右足首の付近に鉄の輪っかが付けられており、その鉄の輪っかは鎖で繋がれていた。そして、輪っかは中心に向かって先のとがった円筒状の針のような物が何本も付いており、動けばその針がシーラの足に容赦なくくい込んでくる


「なに賞品が勝手に動こうとしてんだよ?」


ニヤついた顔のまま、3人は既にシーラに手が届く位置まで来ていた。素早く上半身だけを動かして、剣を取ろうとするも後ろに下がりシーラから距離を置く


「活きがいいな・・・どれ」


腰から剣を外し離れた所に放り投げる


「はい、これで奪えなーい」


ケタケタと笑うモルスを睨みつけるが、シーラの意識はゲラの持っている剣に集中している。それさえ奪えればこの場は凌げると判断し次の接近に意識を集中する・・・が、モルスに習い残りの2人も剣を投げ捨てた


更にモルスは地面に転がっていた槍を模した木の棒を三本拾うと2本を2人に渡す


「確か赤の称号だったな・・・少し弱らせてから剥くとする・・・かっ!」


突いてくる木の先端を身動きの取れない状況の中、上半身だけを動かし躱すも、意識してない方向から痛みが走る。サンドがモルスと同時に突きを放っており、その先端が腹部にめり込んでいた


「ん────!」


痛みで声を上げ、思わずよろけると右足にも激痛が走る。こちらに向いていた針が足を突き刺し血が流れ滴る。腹部と足の痛みが同時に来た為、次の対処に思考が回せない。更に追い打ちで顔面を突かれた瞬間に思考は完全に停止してしまった


(痛い痛い痛いもうやだ痛いイタイイタイタスケテ・・・ダレカ・・・タスケテ)


「おいゲラ!顔はやめろよ!綺麗な顔が台無しになるだろーが」


「んだよ!()れれば良いだろ?」


「分かってねぇーな。綺麗な顔が歪むのを見ながら()るのが楽しいんじゃねえか!なあ、サンド」


「俺はどっちでも・・・強いて言えば整った顔が腫れ上がって醜くなってもそれはそれで・・・そそる」


「ケッ、サディストが・・・あとの2人のこともある。なるべく傷がつかないように弱らせろよ?」


再び棒を構えてシーラを見る。そして、シーラの異変に気付いた


「あー、心折れちまったか?」


目に光りなく虚ろ腕はダラリと下がり肩を丸めて棒立ちになっている


「どうする?勝負始めっか?」


「油断するな!もう少し削ってから近付け」


モルスが棒を置こうとした時、後ろからサマットが声をかける。モルス達の実力は青の称号クラス。赤の称号のシーラに圧倒的に優位な状況だとしても安易に近付くのは危険と判断する。フレーロウの厳しい環境下で生き抜いてこれたのは、偏に臆病と思われるくらい慎重に事を行ってきたから。最後の最後で油断して消えて行った者達を目の当たりにしている為、気を抜く事はなかった


「両腕を折っちまえ!それからだ」


3人はサマットの言葉に頷くと、再度気を構えシーラに打ちつける・・・抵抗なく攻撃を受けたシーラの腕は上げることすら叶わぬ状態へと変貌した


「さて・・・始めますかね」


既に股間の猛りは抑えきれないくらいになっていた。両者にとって天と地もかけ離れた時を迎えようとしていた


────


「くそっ!」


「待て!アシス!」


俺が通路に向かって走り出そうとしたら、ナキスに止められた


「どこに行く?」


「探しに行くに決まってるだろ!」


苛立ちをそのままナキスにぶつけるが、首を振り俺の行動を否定する


「どこに?当てはあるのか?」


「くっ!」


当てなどない。手当り次第・・・どこを?くそっ・・・俺は・・・どうすれば・・・


「冷静になれ、アシス。通路の先、東の配備を確認しろ!シーラの姿を知っている者を中心に3人1組で情報を集め、足取りを追う!いくら使っても構わん!総員に告ろ!情報提供者には金貨1枚、最も有益な情報を提供したものには更に5枚・・・明らかに偽りの情報だと斬首もあり得ると流布しろ!指揮は僕が取る。情報が入り次第即座に連絡!」


「はっ!」


「お待ちを!」


俺を諌めた後、すぐに警備兵に指示を出すナキス。警備兵が命令を遂行しようと走り出そうとした時、グロウが待ったをかける


「君は・・・」


「失礼を・・・『二対の羽』のグロウです。申し訳ございません・・・しかし、その方法ですと・・・」


「構わない、申せ」


「・・・はい。情報に対する対価は良いのですが、誤情報による罰が斬首を匂わせるとなると出足が鈍ります」


「しかし、情報の判別をしている時間はないぞ?」


「流布する際に言うのではなく、情報を持ってきた際に伝えた方が良いかと。偽の情報を持ってきた者はそこで淀みます。今の状況・・・まずは情報の多さが肝心だと」


「つまり、情報を聞いた後、斬首を匂わせて相手の反応を見て嘘か本当か判断するのか」


「はい。そこには私も立ち会います。顔の表情より内部の淀みは正直ですから・・・」


「・・・分かった。聞いたな?斬首の件は伏せておけ!」


2人の警備兵が命令を受けて走り出すと、他の警備兵を呼び出す


「会場のセーラに場を任せると伝えよ。危急のため現在会場にいる者達は王城内に泊まってもらうよう伝えろ」


「しかし、部屋が足りません!」


「言っただろう、危急の為と。今王城から出れば要らぬ阻害になる。それでも出たければ好きにするがいい・・・僕を敵に回す事になるが・・・ね」


「!・・・かしこまりました!」


すぐに会場に向けて走り出す警備兵を横目に、こちらに向き直り頭を下げた


「と、言う訳で僕はここを動けない。そして、今は情報を待つしか手がない・・・すまない・・・」


会場からザワッと声が上がる。警備兵がセーラに伝え、それを会場に居るもの達に伝えたのだろう。しかし、誰一人として中庭にいるナキスに問い質しに来ない。恐らく不興を買いたくないからだろう・・・いや、1人がこちらに向かって来る・・・傭兵?


「グロウ!何があった?」


来た傭兵は真っ先にリオンの隣に居たグロウに話しかける


「メンス・・・この界隈にいるならず者の所在地を知っている者を知りませんか?」


「は?・・・なんだそりゃ」


突然言われ事態が飲み込めず眉を顰めると、ようやく近くにいるナキスの存在に気付き慌てて頭を下げた


「こ、これはナキス様・・・失礼を・・・」


「構わない・・・話を続けてくれ」


「は、はあ・・・」


「メンス・・・事は急を要する」


「分かった分かった・・・と言っても俺らもほとんどがここでは新参者だ。そういった繋がりもお前が嫌うし、うちの団にはいねえぞ。知ってるとしたら土着の傭兵くらいだろ?」


「すぐに知っている者を探してくれないか?フレーロウにはそこまで存在しないはず・・・」


「知ってても言わねえかも知れねえぞ?繋がりがあると分かった時点で傭兵としてやっていけねえ」


「それは今回に関しては不問・・・って事でいいですよね?ナキス様?」


「無論。逆に情報提供者には謝礼も出す。僕の名を出しても構わない」


俺が何も出来ないのに、周りが動いていく・・・何か俺に出来ないのか・・・何か・・・


「私は自分で動くわ!」


シーリスは言うと会場に向かって歩いて行く


「シーリス、通路は?」


リオンが尋ねるとシーリスは首を振った


「どこに出るか分からないし、私が向かう先はシーラの場所じゃない・・・フレーロウに詳しい伝手を当たるわ」


そうか・・・フレーロウに滞在する『カムイ』がいるはず。それに頼むのか


「アシスさん・・・すみません、私がこんなのでなければ捜索を手伝うのですが・・・私はここで判別するくらいしか・・・」


歯を食いしばり悔しそうに言うグロウ。そんな事はない・・・俺より確実に・・・待てよ?


「グロウ・・・そのさっき言ってた熱とかの範囲ってどれ位先まで分かる?」


「範囲・・・ですか?そう大した距離は見れません。集中しても5メートル付近がいい所です。ぼんやりとなら相当な距離は感じれるのですが・・・」


それだと捜索には役立たない・・・いや、ぼんやりとでもシーラを知っている俺なら分かるんじゃないか?でも、俺に出来るのか?違う!出来るのかじゃない・・・やるんだ


スっと目を閉じる・・・意識を立っている位置から広げるようにイメージする。流れを感じるんだ・・・自分の中に流れる力を確認し、範囲を広げる・・・するとぼんやりとだが暗闇の中に光が見える・・・もっとだ・・・薄く広く・・・微かに会場内と思わしき位置に力の流れを感じ、その中で見知った他の者より少し強い力を感じる・・・これは・・・ディーダ?動いている・・・こちらに向かって・・・


はっと目を開けると会場からこちらに向かって来るソルトとディーダの姿が見えた・・・これならいけるかもしれない


「よし・・・ナキス、俺も街に出る。この通路を使うぞ」


「分かった。情報の共有は無理だが、こちらも出来る限り動こう。リオンはどうする?」


「俺はここに残ろう。情報が入り次第そこに駆けつける」


「お、おい、アシス・・・一体何が・・・」


「悪い!時間が惜しい・・・リオンに聞いてくれ!」


俺はソルトにそう答えると急いで階段を降り通路を走る。頭の中でラクスとの会話が蘇る


『持ちよさを求めて男は女を襲うんだ』


ドクンと心臓の鼓動が大きくなる


ダメだ・・・許さない・・・まず第1は生きてる事・・・第2が無傷である事だ・・・あの時・・・中庭にシーラが出たのを見た時、なぜ追いかけなかった・・・なぜ護衛など引き受けた・・・護るべき人を護れずに何が護衛だ・・・


いつの間に通路から表に出ていた。歩を止め目を閉じ先程と同じように意識を広げるよう集中する・・・焦りの為か上手くいかない


「ふう・・・」


息を整える・・・震動裂破を広範囲に放つように・・・意識を広く持って・・・・・・見えた!


ぼんやりと見える光がいくつかある。恐らく建物の中で生活する誰か・・・その中にシーラと思われる光はない


「よし・・・次だ」


俺は移動して同じ事を繰り返す


何度も何度も────


────


「はっはー俺の生地が1番大きい!」


モルスがガッツポーズをし勝利を主張していた。サンドとゲラは地面に両手をついて項垂れる


「上か・・・上が狙い目だったから」


「スリット部分がネックだった」


シーラの来ていたドレスだった生地が地面に3枚並べられ、大きさを比べていた。上部分を狙ったモルスが1番大きく、下を狙ったサンドとゲラが下半身の生地を半分に分ける形となり、勝敗はモルスの勝利で終わった


「モルスが最初。次が俺で・・・3番目はサンドか?」


サマットがサンドとゲラの大きさを比較して告げると、2人は生地を重ねて大きさを比べ、あーだこーだ話していた


「・・・さっさと・・・して欲しい」


勝負の蚊帳の外にいるピッチが恨めしそうに言う


「まっ、3番目4番目なんだから、ゆっくり決めな・・・」


モルスは勝ち誇ったように笑みを浮かべると裸のシーラに向かって歩き出す。鉄の輪っかは既に外されており、身に付けていた衣服も剥ぎ取られ一糸もまとわない姿になっていた


両腕は酷く腫れており、露わになった乳房を隠す気配もない。念入りに木の棒で殴った為、折れているのは間違いなかった


上着を脱ぎ、シーラの顎に手をやると顔を上げさせる。目に光がなく、既に心を失っているように見えた


「ん!」


「・・・油断も隙もねえ・・・まっ、慣れてるけどな」


目に光が戻り、傷付いた右足でモルスの股間を蹴り上げようとするが、顎に当てた手とは逆の手でそれを防ぐ


「よくいるんだわ・・・油断させといて近付いたらドスンってな。なんにせよ戻ってきたみたいで良かったわ・・・心が壊れてまった女より活きがいい方が楽しめる・・・さあ楽しもうぜ」


モルスはシーラに足をかけ転ばす。両腕の動かないシーラはそのまま仰向けに倒れ、防衛本能なのか瞬時にうつ伏せになろうとするがお腹の付近にモルスが乗ってきた


「んー!!」


必死に身をよじるが、乗ってきたモルスの体重によりビクともしない。体を必死に左右に動かすも変わらない


「はっはー、いいね・・・燃えてきた!」


しかし、モルスが襲いかかろうとした瞬間、部屋のドアが開かれた


「誰だ!」


全員がドアの方向を見るとそこに立っていたのは・・・


「おーおー、派手にやってるな」


「バッカスの旦那か・・・ビックリさせんなよ」


サマットが入って来た人物────バッカスの姿を見て胸を撫で下ろす


犯罪に手を染める者として、その土地の実力者の知り合いは何人かいる。裏の情報を流す代わりに見逃してもらったり、普通では手に入らない物を流したりと助け合いと言うより利害の一致。サマット達も何度かバッカスの持ってきた情報により守備兵の目をかいくぐったり、バッカスの方もサマットの情報により依頼を解決した事もある


「すげぇタイミングだが・・・もしかして、この女を助けに来たのか?」


サマットが親指でシーラを指しながら言うとバッカスはアラレもない姿でモルスに乗られているシーラを見た


「・・・いや、そいつの男は俺の忠告を聞かないいけ好かない野郎でな。助ける義理はねえ」


無表情でシーラを見下ろし、淡々と言い放つ


「そうかよ・・・じゃあ・・・」


なんでここに?とサマットが続ける前にバッカスが先に口を開いた


「ああ。今日の晩餐会の見回りで傭兵も駆り出されてな。何かを運ぶお前らを見かけて何してるのかと思いきや・・・」


「お楽しみ中だったと」


「そういう事だ・・・邪魔したな」


後ろを振り返りドアを開けた時、口が塞がれているシーラが必死に声を上げる。しかし、外に出てドアを閉める際に一瞥するが、そのままドアは無情にもパタンと乾いた音を立て閉められた


バッカスが出て行くのを見送ったモルスが下卑た笑いを浮かべ、シーラに向き直る


「待たせちまったな・・・さあ、始めようかぁ!」


「ん────!」


シーラの悲痛な叫びが部屋にこだまする────


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