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1章 2 村へ

「うん?」


月明かりの中歩いていると妙な気配を感じる。テラスから森までの間特に何も無く人の気配を感じるのはおかしかった。獣────ではない。規則正しく数人?の気配がこちらに向かってくる。


あちらはまだ気づいてないのか、歩の速度は変わらない・・・が、気付いたのか急に止まったみたいだ。


「・・・ぅ・・・・・ぉ・・・」


遠いからハッキリと聞こえないが言い争ってる?こんな場所でこんな夜中に言い争い?ますます怪しい。気付かれないよう回り込み様子を伺うか・・・


「ぃ・・・!」


聞こえてきた。・・・い・・・いまさ・・・今更?


「この任務がどれだけ重要か分かっているはずだ!それを・・・!」


見るとフードを羽織った人が6人。誰も顔が見えないので誰が誰に言っているのか、まったく分からん。ただ内容から責めている感じか


「・・・」


反論しているのかまったく聞こえない。・・・さて、どうするか・・・テラスから森に向かってるって事は十中八九ジジイかラクスに用がある。って事は・・・無関係じゃないなー。仕方ない


「こんな夜中に何用で?」


気配を隠していたが、2人に用事なら俺も関係者だ。話しかけても問題あるまい


「・・・!」


と、思ったがなんか緊張してる。バッと音を立てて今いた場所から5人が数メートル飛び退く。・・・1人は動いてないな


「誰だ!?」


先程怒鳴っていた者が聞き返してきた。声からすると男か。フードそのままで顔が見えないから分からないが、体格からすると飛び退いた5人全員男のようだ。残った1人は頭一つ身長が低く見える。子供か女か


「質問を質問で返すなよ。こっから先は森だ。で、こんな夜中に何用で?」


知らないってこともあるから丁寧に説明してもう一度質問。


「・・・」


うーん、返事がないのはなんだろ・・・後ろめたくて無言なら面倒だな。ジジイやラクスをどうにか出来るとは思えんが・・・


「何者だ?」


えー、言い方変えれば答えると思ってるのか?なんか話が進まない予感。睨み合っていても意味ないし・・・はぁ


「俺はアシス・・・で、君たちは?」


折れたよ折れてやったよ。大人だね。


「・・・」


おい・・・マジか!こっちが譲歩しても進まないの?もしかしてこっから俺の身の上話を延々としないといけないのか!あの2人や村の人は素敵に言葉のキャッチボールしてくれるのに・・・外の世界の人は違うのか・・・えぇやだな


って考えてると5人が動く。俺を取り囲み一定の距離で構える。


「アムスの近縁者か」


わーい、返ってきた。言葉のキャッチボールって大事な。独り言は寂しいし傍から見たらアホみたい


「だったら?」


緊張して短くなっちゃった・・・って!


ヒュッと音がすると短剣が目の前まで来ていた。避けられないスピードでは無いが、柄の部分を左手で掴むとゾクリと何かを感じる。掴んだ短剣の影からもう一本の短剣が飛んできていた


ズッという音とともにマントに短剣が突き刺さる。


「・・・」


お互い無言。追い打ちをかける訳でもなく、こちらの出方を伺っているのか、構えたまま微動だにしない。ちょっと痛いしイラッときた。俺は投げてきた前方の奴を見ながら気配を探る


右手に持っていた荷物を地面に置き、短剣を右手に持ち替える


フッと息を吐き短剣を前方の相手に投げ、大地を蹴り横にいた左の相手に急接近。5mは離れていたであろう距離を1足で縮め、まずは左肘で鳩尾を打つ。装備は軽微だったのか肘はめり込み相手の体は、くの字に曲がる。そのまま手の平を顎に当て腕をのばすと喉があらわになる。んで右拳を無防備な喉に突き刺した


「1人」


そうつぶやくと周りの気配が少し遠のく。警戒してなのか次の攻撃準備なのか。倒れてる奴の感触から帯剣していない。短剣を投げるのが主流なら距離を置くのは準備か・・・


動いているのは4人。今だに背の小さいのは動きを見せない。倒れてる奴は気絶したのか呻き声も出ていない。まあ、喉潰したから出せないだけかも・・・にしても、いきなり攻撃してくるとは。俺が投げた短剣は相手は躱したのか無傷ぽい。まあ、気を向かせるだけだったから別にいいけど


「確かに・・・刺さったはず・・・」


自分の放った攻撃を受けて普通に動く俺に警戒してるのか、呟いたまま、また睨み合い。さて、いきなり攻撃されたし短剣刺さったしこれは命のやり取りだよな?・・・ってことは命取られても文句ないはずだ。っと、ここである重大なミスに気付いた。ジジイから口を酸っぱくして言われてたこと・・・あーやっちまった・・・もしかしてそういう事なのか・・・


「こんばんわ!」


そう・・・挨拶。人と会った時始めに発する言葉。朝はおはよう昼はこんにちわ夜はこんばんわだ。うっかりしていた・・・そりゃあ短剣も投げるわな。


しかし、相手は俺の挨拶にビクッとしてから反応がない。もう遅いわー、って感じかな・・・1人、のしちゃったし。


ヒュンと音が聞こえ後方から短剣が飛んでくるがこれは躱す。左に倒れ込み地面に手をつくと体を回転させ態勢を戻す。連続して投げてこないのは優しさか?距離は7、8mって所かそんな離れてたらいくら投げても当たらんよ


「黒きマント・・・血縁者か・・・」


さっきから喋ってるのが前方の奴だけなんだが、リーダーなのか?やっぱり知ってるって事は用事はジジイか。しかも、挨拶したのに襲ってくるってことは穏便な用事じゃないな・・・いや、1人えらいことになってて怒ってる可能性も・・・


って考えてたら4人になった奴らはやる気なのか手に短剣を構える。両手に持ってるから計8本。短剣の柄の部分ではなく刃の方を指で挟み構える。他の者と同時に投げる気なのか離れていながら周りの気配を伺い呼吸を整えてる


あーもうこれは会話では済まないなー面倒だ。いや、もしかしたらジジイからの旅立つ前のサプライズプレゼントかも・・・人に対して技を使えるようになれよ的な・・・ないな


でもチャンスかもな。それだけが不安だったし、こいつらなら良いだろう・・・俺を殺す気ぽいし・・・ね


「くっ・・・散!」


っと、やる気になった途端に構えてた4人が消えた。消えたというか全力で俺から離れてる。サプライズプレゼントが・・・


ただ気絶した奴と動かなかった奴は置いてけぼり。え?困った・・・どうしよう。あいつらがジジイの所に行っても無害に近そうだし放っておいても良いけど、倒れてるコレ・・・獣の餌だよな


気絶した奴の所に近づき顔を覗き込むが覚める気配なし。仕方ない・・・と腰にぶら下げた剣を抜く


「!・・・待って!」


おお!喋った!残されたもう1人が。声からするとやはり女か。んで、困った。何を待つのだろう?


「いや、処理しないと生きたまま喰われるのは可哀想だろ?」


生きたまま動けないのを放置したら獣のお食事だ。獣が来る前に目を覚ましたとしてもジジイの敵なので邪魔になるし・・・うん、やっぱり処理しよう


「待って!」


再度待てが来た。さっきからどうも会話が成り立たない。もしかして世間知らずの俺のせい?いや、テラスの人とは会話出来たし特段変な会話はしてないはずだ。なんだろ・・・やばい外の世界が恐ろしい・・・


「多分その人の仲間が助けに来るはず・・・だから殺さないで」


・・・なるほど。やっと会話が出来そうだ


「こいつらは俺を襲ってきた。もし傷が治ればまた襲ってくるかもしれない。だからトドメをさす」


いかん、会話が出来るのは嬉しいが、なんかカタコトだ。・・・・・・会話難しい


「・・・」


会話終了。悲しい・・・やばい・・・涙が出そう。かなり面倒臭いしもういっか


剣を納め無言で村の方に歩き出す。離れていった4人の気配は完全になくなった。遮蔽物がないこの一帯で気配も感じられないって事は相当離れたらしいな


「待って!」


危なくコケそうになった。本日何度目のマッテだ。なんだ単語しか使えないように呪いでもかけられた不遇な一族の末裔かなにかか?


「何?」


ヒィーそんな不遇な一族の末裔もココに。駄目だ頭の中と口から出る言葉が違いすぎて辛い


「連れて行って」


おお?なんだが会話が必要な予感。よし気合いだ


「なぜ?」


くっ


「誰も居ないの」


居るだろそこに。動けないが


「なぜ?」


「ここに連れてこられて場所も分からないし・・・」


「こいつらの仲間じゃない?」


コクリと頭を下げる。そしてフードを取ると長い髪と同時に顔が月明かりに照らされる


うんやっぱり女だ。整った顔をしてる。村1番の美人さんと言われてるナタリーより整ってるんじゃないかな?髪は銀髪で肩まで伸び良く月の光に映える。俺と同い年かちょい下ぐらいか


「どこまで?」


「・・・家はデニス国にあるの・・・」


中央か・・・目的地は一緒だけどそこまで面倒見るのか・・・えぇ


「無理」


うん、無理。意味わかんないし・・・無理


「ここの近くの村までで良いの!お願い!」


テラスまでか・・・まあ、それなら別に良いか。後2時間も歩けば着くし・・・ハッ!後、会話・・・会話の練習になる!


「分かった。着いてこい」


よし!これでカタコトアシスから喋れるアシスにレベルアップ間違いなし。スタスタと歩き始めると近づいてこようと走ってきた


「っつ・・・」


走ったと思ったら顔を歪め、しゃがみこんでしまった。足を押さえているがもしかして・・・


「挫いたか?」


聞くと首を振り履いていた靴を脱ぐ。豆を潰したのか血だらけになった素足が出てきた。既に俺の心は折れそうだ


「あ・・・あの・・・ついて行くんで・・・ついて行くんで」


置いてくなってことか。見た感じこのままでは歩けそうにない。荷物の中身も下着しかないし、それで止血しても良いが傷口は綺麗な布でないとダメだと教わったからなぁ・・・決して俺の下着が汚い訳では無い


仕方ない・・・俺はうずくまりながら足を押さえ、必死に懇願する女に近づき体をヒョイっと持ち上げた。たまたま村に立ち寄った時にやっていた結婚式で花婿が花嫁にしていた必殺お姫様抱っこってやつだ


何が必殺だか分からないが、そのまま右手に持っていた荷物を手首を返して女の腹に載せ「うっ」とか呻いてたが、脱いでた靴を蹴り上げ更に荷物の上にぽんと載せる


「これでよし」


女はキョトンとした顔で俺を見るが俺は構わずズンズン進む・・・と、あることに気づき手を離した。ドスンと聞こえそうなくらいの勢いで女は落ち、目を白黒させる。何が起きたのか理解出来てないみたいだ


「クサイ」


「え?」


「クサイ」


「「・・・」」



沈黙の時間が続く。いや、マジで。日に1回必ず水浴びする俺からしてみると、鼻が曲がるほどの臭いを放つ元をこれ以上持っていられなかった。無理これは無理


ふと近くの川の存在に気付いた。臭いなら洗うしかない。俺は空を見上げ大きく息を吸い込むと息を止め再度、女をお姫様抱っこする。よし、これなら行ける!


急ぎ足で川の元まで行き、そこで女を下ろすと川を指さした


「入れ」


命令・・・これは絶対だ。事情も良く分からない女を抱っこして連れていく(臭いのおまけ付き)などやってられん。傷口も洗えて臭いも取れる一石二鳥な策に俺は満足し腰に手を当てて佇んだ。


「え?」


なに!?ここでも会話という障害に・・・俺は両手を地面につき項垂れそうになるのをグッと我慢して考える。ここは『臭いから体を洗ってほしい』と言うべきか『傷口を洗わないとえらいことになる』と、うそぶくか・・・これからの人生人間関係の構築と会話熟練者への道程を試されている。臭いと言われると人は嫌がるはず・・・俺なら凹む果てしなく凹む。なら正解は


「傷口を洗わないと・・・えらいことになる」


えらいことってなんだ?と自分に突っ込みつつも満足した会話が出来た。もう熟練者は目の前まで・・・


「あ、はい」


撃沈だ!意思の疎通とは技の習得より難しい。女は川に入り洗っている・・・足だけ。ちゃぷちゃぷと小気味いい音を鳴らしながら、ええそれはもう丁寧に


「っ・・・あ」


言葉が出ない。どう紡げば意思の疎通及び気遣いの合わせ技になるのか・・・ここで挫けては今後他の人に『臭いので水浴びしてもらえます?』→『はい死ね』と短剣を投げられる。いずれ刺さる。絶対刺さる


「水浴びしたのはいつぐらい前だ?」


えっ?と目を見開き自分の匂いを嗅ぐ女。もしかして正解ではないだろうか・・・自発的に気付かせる事による気遣い。合わせ技以外のなにものでもない


バシャと水の音がしたと思ったら、頭だけを川から出し真っ赤な顔でこちらを睨む・・・残念ながら不正解だったようだ


「少しあっちに行ってもらえます?」


女は睨みながら言い放つ。声の感じから少し険があるように感じるが気のせいではないだろ。会話の失敗者を責めているのだ


「なぜ?」


「み・・・水浴びをします。」


「で?」


「え?」


「「・・・」」


水浴びをする=あっち行け・・・なぜ?頭がこんがらがった状態でふと思いつく。あ、もしかして俺も・・・臭い?そう言えばラクスと試合した後に水浴びしてない。勝負は一瞬でも汗はかいた。うん、臭いかも


ンバッと上着を脱ぎ、軽やかに下を脱ぎ裸になると川に近づく。夜なので日中は汗ばむ陽気だが少し寒い。頭以外川に浸かり寒くないのだろうか。「ヒィ」とか行って頭だけ出した状態で離れていく女・・・器用だな


「気にするな。俺も水浴びしたい気分なだけだ」


臭い訳では無い。あくまで気分


「いや・・・その・・・わたし・・・おん」


「ん?」


「わたし・・・女です!」


突然のカミングアウト・・・てか、知ってるし。やばい・・・この言葉に何が含まれている?いや、会話を続け意味を理解するのが会話ではないだろうか・・・そんな真理が頭の中に響いた


「で?」


俺の頭と口を直結すればまともになるのだろうか・・・


「で?って・・・」


言いにくそうだ。うむ、別の方面からのアプローチでいくか


「そう言えば名前を聞いてなかったな」


「今!?」


あれ、これは俺がやらかしてる感じがヒシヒシと・・・


「・・・イノ」


ん?なんか答えたぞ。ゴチャゴチャって言った後に確かに言った


「イノか」


ホエと間抜けな顔をしているが、どうやら聞こえてなかったと思ったのになぜ?って感じか。フフ、耳は良いのだよ


「イノか良い名前だ。俺は知ってると思うがアシス。村までの仲だがよろしく頼む」


褒めて名乗って社交辞令・・・俺の中で過去最高の台詞と言えるのではないだろうか。女────イノも驚愕の表情を浮かべている


「近くの村まで2時間ほどで着く。水浴びが終わった後少し暖を取ったら行くぞ。・・・ああ、気にするな。足に負担をかけないようまた抱っこを・・・」


「・・・・・・」


「ん?」


耳の良い俺でも聞き取れないくらいの声でボソボソと喋るイノ。俺の気遣いに感謝の台詞でも、と思った瞬間


「わたしは女って言ってるでしょ!ちょっとは気遣え~!何一緒に入ってんの!?しかも、いきなり名前聞いてきたり・・・ここは出会い湯浴みか!頭湧いてんの?何が『よろしく頼む』よ!この状況で『ええ、こちらこそ』とか言えると思ってるの!?」


今までで1番大きい声で捲し立てた。勢いで立ち上がり濡れた服が体にピッチリと張り付いている。胸の膨らみから女と確認出来た。男女の違いは胸の膨らみと、ついてるかついてないかだ


「ふむ、女だな」


「死ねー」


脱いでなかった靴を持ちこちらに投げてきた。やっぱり会話に失敗するとこうなるのか・・・靴はもしかしたら最終兵器なのかも知れないので躱し、どこで失敗したかを考察する・・・前に興奮するイノから離れよう


会話って難しい


────


同時刻


アシスと争った場所に警戒しながら戻ってきた4人は倒れている男を、見つめていた


「無理だな」


トスっと短剣を心臓に突き立てると気絶していた男は苦悶の表情を、浮かべそのまま息を引き取る


「くそ・・・マントからして息子いや、孫か?」


「かもしれん・・・このままでは任務遂行は不可能。シーラも居ないし人員も減った」


「なんだって急に・・・」


「気持ちは分からんでもない・・・が、私情を挟む問題でもない・・・この任務は絶対に成功させねば」


アシスに短剣を放った男────グリム。この集団の統率者だ。


「まずは死体を埋めろ。後は・・・考える」


他の3人に支持し、グリムは紙を取り出し指を噛み血で何かを書き始めた。程なくすると書き終えた紙をクルクルと円柱状に巻き、指で輪っかを作り口に持っていく


ピュゥイ


静寂の中どこからともなくやってきた鳥はグリムの差し出した左腕に止まり羽根を閉じた。


「まさかシーラをこのままにする訳にもいくまい」


鳥の足に先程の紙を括りつけ、干し肉を嘴の中に放り込む


「行け」


左腕を上に上げると鳥はその勢いで大空へと飛び立った。すぐに闇夜に消えた鳥から目線を外し、埋め終わった3人に向かい言い放つ


「頭領からの返事が来るまで、奴を追う。気付かれるな」


3人は頷くとグリムの後を追い闇夜へと消えていく

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