3章 プロローグ
この章にて1つの区切りになる予定です
「単刀直入に申します。私と結婚して下さい」
ナキスの言葉の真意を探るべくガーネットの頭はフル回転していた。何を言っているんだコイツは・・・理解不能ながらも必死で持てる知識をフル活用するが答えに至らない。かと言って何と返答していいかにも困り無言の状態が続く
「殿方がプロポーズされているのに返答無しはどうかと」
ガーネットの横に立つセリーヌが沈黙を破る。他人事とは言え自分の担当する国の王が、『十』の主から告白されるという前代未聞の状況に興奮せざるおえなかった・・・が、無言が続き見守っているのにも限界が生じついつい言葉を発してしまう
「・・・戯れ言と一蹴するにはあまりにも突飛な発言・・・そなたは狂っておるのか?」
セリーヌの言葉を受け、ようやく言葉を出すことが出来たが、今までのキレはない
「愛の告白を狂ってるとは言い過ぎなのでは?」
「セリーヌ・・・そなたは黙っておけ」
「私の夢を語っても?」
ナキスの突然の発言にガーネットは素早く反応し睨みつける。次から次へと意味の分からない発言をする男に良い感情は持つことはなかった
「・・・それが今生の別れの言葉となる事を理解しておるならな」
「・・・私の夢はこの世から戦を無くすことです」
「ハァ・・・もうよい・・・セリーヌ、殺せ」
「お断りします」
「・・・なに?」
ナキスの言葉を受け終わらせようとするガーネット。しかし、セリーヌは即座に拒否
「私はガーネット陛下をお守りはしますが、ナキス様を殺せという命令には従いません」
「くっ」
「続けても?」
「・・・世迷言など聞くに値せぬ・・・が、聞く他あるまい」
諦めたように溜息をつき、椅子に深く身体を預ける
「現在・・・各国大戦に向け準備中です」
「おい!」
落ち着いていた矢先に身体を前のめりにさせ、ナキスの言葉を制する。目線はナキスの隣にいるアシスに向いていた
「ああ、このアシスは全て仔細承知しております」
ロウ家が起こしている戦争・・・それは知られてはいけない秘中の秘
「ベラベラと・・・それだけでも万死に値するぞ」
「アシスは我が唯一の友。話しても支障はありませんよ」
「友・・・?」
突然笑い出すガーネット。アシスは何がおかしかったか分からず、ナキスは微笑めながら目を閉じていた
「友・・・友と言うたか、ナキス・ロウ!ふふふ・・・ははは・・・なるほど、そなたは余を笑わすのが得意と見える」
「そんなにおかしいでしょうか?」
「ふふ、くどいと嫌われるぞ?絶対的存在であるロウ家と対等なものなどおらん」
「絶対的存在など有り得ませんよ。ロウ家とて剣で突かれれば死にもする・・・これのどこが絶対的と?」
「ほう・・・試してみるか?」
笑顔だが目は笑ってない2人が見つめ合う
「もうよい・・・そなたの話は規格外過ぎて、余には理解出来ん。そなたの目的と真意を簡潔に話せ」
「はい・・・」
ここからナキスの演説が始まる
お題は『大戦争』
まずは大陸を巻き込んだ大戦争・・・この決められた惨劇の意味のなさを説く。戦争が起こらなければ発展が遅れると言うのは幻想。発展したければ研究機関を設立し、その結果を世に出せば良い。偶然の産物を期待して戦争をするなど馬鹿げていると
平和的解決はいくらでもある。その思考を停止し、何百年も前の祖先の言葉を鵜呑みにして戦争するなど愚の骨頂
後は具体的な戦争の止め方
今回の戦争はデニスとシャリア、マベロンとファラス、メディアとレグシが戦争を起こし、成り行き次第では別の組み合わせに発展する
そこで戦争が起こる前にメディアとレグシが同盟を結ぶとする
起こるはずの戦争は起こらず、デニスは後方にメディアレグシ連合、前方にシャリアという状況に置かれる
デニスがこれをどうするか・・・戦争を強行するなら、挟み撃ちにて迎撃
1番の理想はメディアレグシ連合を警戒し戦争自体の回避になる
「・・・ふむ・・・ロウ家にこれ程の・・・落ちこぼれが出てこようとは思わなんだ」
ひとしきり聞いた感想がそれだった。ガーネットには絵に描いた餅以下の戯れ言に過ぎなかった
「これは手厳しい・・・」
しかし、ナキスの表情には余裕があった
「まず前提から成らん事をつらつら並べられても話にならん」
「メディアレグシ連合の事ですかね?」
「結婚云々とぬかしおったが、同盟の理由付けとしては良いじゃろう・・・だが、余が受けるとでも?」
「私がお嫌いで?」
「会って数分の輩になんの感情もないわ」
「陛下・・・一目惚れって言葉がございまして・・・」
「そなたは黙っておけと言うたが?」
鋭い視線を投げかけるとセリーヌは大人しく引き下がる
「残念・・・一目惚れはされませんでしたか・・・では、次の一手に移らさせて頂きます」
それから語られるのはレグシの現状
智勇優れた人材の不在
兵の練度の低さをカバーする為の民兵による数による誤魔化し
名産が生まれず流通の停滞
「このまま戦争に突入すれば、復興までに何年・・・いや、何十年かかることやら・・・」
「懐柔が無理と分からば、脅しに転じおったか・・・」
「脅しと受け取るのは、陛下の中に憂いがあるから・・・私は事実と問題点を上げているだけですよ」
険しい顔のガーネットに対して、笑顔で返すナキス。徐々にペースがナキスに移行していく
自国の欠点を上げられて面白くない・・・が、ナキスはあくまでも事実を語るのみ・・・反論の余地がなかった
「随分と調べ上げとる・・・なあ、セリーヌ」
「私は『十』が1人。『十王』が求められれば、知っている限りお伝えしますよ・・・陛下」
情報の出処であろうセリーヌを睨みつけるが、当の本人は何処吹く風・・・
「して、我が国の恥部をさらけ出して、何が言いたい」
「恥部だなんてとんでもない・・・補う事が必要なだけであって、恥に思うことも無いでしょう」
「御託は良い、簡潔に申せと言っておる」
「では・・・私なら全てを解決する事が可能です」
「・・・続けよ」
「まず民兵の件など考える必要もございません。戦争が起こらなければ済む話。同じく人材不足も。今必要なのは経済の活性化にあると存じます。そして、それを成すのに必要なのは兵の数でも武勇でもなく、知恵と工夫。名産がない事により他国との流通がなく、自国での自給自足・・・これでは先細りの一途でしょう。ですので、今やるべき事は・・・名産を作る事です」
「ほう・・・その名産を我が国に分け与えるということか?」
「まさか!名産はその風土にあった物に与えられるもの。無理に違う土地で作れば品質は落ちるでしょう。食べ物しかり、木、布、石取れる場所こそが、その物にとって最適な場所だと思われます」
「ならば・・・」
「ならばどうするか・・・それは人工物に他ならないでしょう」
「人工物だと?」
「ええ、おあつらい向きの物がここにもあるじゃないですか?」
謁見の間の壁に飾られている絵画・・・それを見ながらナキスは言った。だが、ガーネットは首を振る
「余が試さないと思うたか?民に趣味趣向に興じる余裕などないわ」
「余裕が無いのは戦争が起こるから。そして、戦争を起こすために国が搾取しているから。税率を下げれば余裕は生まれます」
「税率は6ヶ国協定で決められておろう!」
「そんな過去の負の遺産をなくすための同盟です」
「なにを・・・!」
「今現在、発言の強さは国力に直結してます。故にデニス一強。だが、メディアレグシ連合となれば発言力は一気に上がります。そして、今回の大戦争を止め、戦争回避の利を唱え、これから起こる戦争を全てなくし、税率を下げ、国民に余裕を持たせることにより、芸術品の流通を即します」
「待て・・・戦争を止めた後に戦争回避の利を唱えると?」
「大戦争まで2年と半年・・・今から利を唱え回っても手遅れでしょう。ですから、今回は大戦争を力ずくで止めます」
「まさか・・・貴様・・・『十』か!」
「言ったでしょう?使えるものは何でも使うと」
ガーネットが椅子から立ち上がり叫ぶが、ナキスは変わらず澄まし顔・・・その対比がどちらが強者かを物語っていた
しばしの沈黙の後、ガーネットは椅子に勢いよく座ると肘掛に肘をのせ、手で顔を覆う
「何故だ・・・どうしてそうなった?・・・いつから理から外れた?」
「・・・ロウ家を知らない者と出会い、初めて私はロウ家としてでは無く、ナキスとして扱われた。それは新鮮であり、衝撃的でもあった。皆、ロウ家を恐れ敬っているのではない・・・ロウ家という名を恐れ敬っているのだと気付かされた」
チラリとナキスの横に立つアシスを見る。特に特別な印象は受けない
「・・・そなたの名は?」
「アシス」
答えにピクリと反応する。今まで名前を聞いて単語で返してきた者は居ない
「もし・・・余がナキスと結婚したら、余もそなたと友になるか?」
「?ならんだろ」
ガーネットのこめかみに青筋が走る・・・ナキスに至っては自分が激昴された時よりハラハラしていた
「ならば余はなんだ?」
「??結婚したら、ナキスの嫁さんだろ?」
「ナキスとは知己となり、余とは知己になれぬと?」
「チキ・・・って何だか知らないが、ナキスとは友だが、お前の事知らないしな・・・」
「おま・・・!」
「まあ、ナキスの嫁さんになるんだったら、困った事があったら言ってくれ。ナキスのような頭もラクスのようなデタラメな強さもねえが・・・助けてやるよ、ガーネット」
数秒・・・ナキスの結婚してくれと言う発言より長く思考が停止する。ロウ家に生まれ育ち、色々な者と出会い触れ合ってきた・・・その経験を根底から覆すような発言の数々
「ふふふ・・・よもや旦那でもない、どこぞの馬の骨とも知らぬ者に呼び捨てにされる日が来るとは・・・」
ガーネットは立ち上がり、椅子の背後にある扉に向かい踵を返す
「良いだろう・・・ナキス・ロウよ・・・そなたの提案、しかと受けた!」
言うが早いか扉に向かって歩き出すガーネット。途中止まり、今一度振り返る
「ナキスよ・・・今夜もう一度・・・そなただけで来るが良い・・・」
ナキスはスっと頭を下げ返事すると、それを確認して再度扉へと歩き出した
置いていかれたセリーヌはガーネット等目もくれず、じっとアシスを見つめる。そして、一言・・・
「・・・面白い子・・・」




