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1章 1 旅立ち

「そろそろ降参か?」


大剣を肩に担いだ男────ラクスが俺を見て呟く

ジジイが居ない時は、俺を鍛える為に手合わせをしてくれるのだが、如何せん実力差があり過ぎる

肩で息をしながら、隙を探るがいくら探ろうがないものはない

攻めあぐねているともう一度ため息混じりに呟く


「降参か?」


わざとだろう隙を見せる事により、俺からの攻撃を誘う

それに乗るしかなく、短く息を吐くと大地を蹴りラクスに一直線に向かう

大剣を持つ右手側に回ると躊躇なく俺の体目掛けて大剣が振り下ろされる


「くっ!」


更に大地を蹴りラクスの背後に回り込むが、振り下ろされた大剣は地面を抉る事無く途中で止まりそのまま腕の力だけで横に薙ぎ身体を反転させる

大剣は普通の人ならば両手剣・・・つまり重量はそこそこある

それを片手で小枝を振るうように扱ってるからタチが悪い

だが、今までに何度か手合わせしているから、こうなる事は予想出来ていた

追いかけてくる大剣に向かい、また大地を蹴ると大剣の下を潜る


ブン


髪の毛を数本刈り取り大剣が通りすぎていき、無防備なラクスが目の前にたたずむ・・・はずだった


「ふん!」


ラクスの唸り声と共に大剣が来た道を戻ってくる

一瞬でも止まれば隙となるが、止まらず戻ってくる大剣に為す術なく玉砕覚悟で鳩尾辺りに拳を振るう


────


俺の拳は当たらず、ラクスの大剣の腹は俺の頬を撫でて止まっている

剣を返さずに振っていた為、空気抵抗はかなりのもののはず

それでもそのスピードには全くついていけなかった


「化け物め」


ついつい愚痴が出てしまうが、ラクスは口の端を上げて笑っている


「後手後手に回ったな・・・お前は追いかけてくるスクラから逃げるので精一杯で打つ手なし、それじゃぁいつまで経っても攻撃なんぞ出来んよ」


スクラ────自分の名前を逆から読んだだけの大剣の名前・・・ダサい


「ん?何か言ったか」


心を読むな


「いや、別に~」


答えると同時に雑草の中にへたり込む

周りには背の高い木々が生い茂り、所々から虫や鳥の鳴き声が聞こえてくる

太陽は木々によって遮られ、薄暗く感じるが丁度昼時だろうか腹が減った


「昼にするか!ちょっと狩ってくるわ!」


背を向け歩きながら手を振って奥へと消えていく

小動物でも狩ってくるのだろう

ガクガクになった足を奮い立たせ、火を起こす準備をしながら1人呟く


「調味料は~と」


腰にぶら下げた袋から調味料を出し、大きめの葉を探し2枚皿の代わりにする

戻ってきたラスクは耳の長い白い獣を2匹捕まえて来てるが、成果に納得していないのか首を傾げながら歩いてる


「クルアの森は小動物しかいやしねえ」


忌々しげに言い放つと捕まえた獲物をこちらに放り投げ、調理を即す

調理を開始するとラクスは近くに大剣を突き刺し腰を落ち着かせた


「アシス!そこも食える!」


苦いから捨てようとしてたのに食に関しては目敏い

ハイハイとその部位を拾い、集めていた枯れ木の近くで火打石を打ち合わせる

湿り気はなかったようで簡単に燃え上がったのを確認し枝に刺した部位を炙り適当に調味料を加えラクスに手渡し腰を下ろした


「食わないのか?」


「後で食べるから、先にどーぞ」


あの部位が無くなってから美味しくいただきます

ラクスはこちらの真意を気付いてか鼻を鳴らしながらも肉に食らいつく


「明日アムス殿が戻ったら出発だな」


炙り足りないのか1口食べて火に近づける・・・焦げるぞ


「ジジイが戻らなくても出発する。時間を日にち単位で守らないからね」


焦げてる焦げてる


「仕方ないだろ中央からは距離もある。メディアには入ってるはずだが」


「孫の門出に間に合わない方が悪い。朝一で出るよ」


「手持ちは?」


「中央に行く前に貰ってるし、荷物もまとめてる。剣ひと振りに黒い汚れたマント・・・替えの下着に路銀のみ」


焦げて硬くなった肉をモチャモチャ噛みながら、ヤレヤレと言った感じで両手を上げる


「ドライだなー」


「まずは中央に向かうから運が良ければ途中で会えるさ」


「中央か・・・メディアは通りすぎていきなり中央で傭兵って・・・大丈夫かぁ?」


「メディアは平和過ぎるよ。ここ何年戦争が起きてないんだか」


ここクルアの森は領土的にはメディア国南部に位置し大陸でも最南端となる

メディアから北に向かうと大国デニスだ

この大陸には6つの国があり、デニスが中央に位置するため、デニスを中央と呼ぶ者が多い


「かと言って中央は生半可じゃすぐ埋もれるぞ。メディアで実績を作り中央へ・・・てのが定石だぜ?」


確かラクスは20代前半・・・考えがオッサン寄りだからか老けて見えるのは


「おい」


顔に出てたか・・・読まれてしまった


「メディアにも勿論寄るし、傭兵登録はするよ。でも依頼が無ければ干上がっちゃうから、やっぱり中央だと思うんだよね」


「名を上げてからじゃないと誰も相手にしてくれないぜ?」


「名を上げれるほど依頼ないでしょ?」


「ふむ」


「実際メディアの現状はラクスとジジイに聞いてるだけだから寄るけど、良い依頼が無けれその日にでも中央に旅立つ予定」


やっと苦手な部位が無くなったので、自分の分を炙りながら予定を話す

メディアは北のデニス西のレグシと隣接してるが2国とも友好を築いているらしい

現国王が温和な性格なのか至って平和だ

その分傭兵職は食いっぱぐれるのだが、国民にとっては理想郷

逆に中央デニスは5カ国と隣接し頻繁に諍いが起きてるとの事だ

傭兵職には仕事にあぶれることは無いだろう


「まあいい、お前ならそうそう身ぐるみ剥がされることは無いだろう。ただし『十』は・・・」


「分かってる」


『十』────『じゅう』か。十人の者からなる国家を超えた超越者

一人一人が一騎当千、一国の王すら恐る存在

傭兵でもなく神出鬼没


「さて、んじゃあ帰るか」


火を足で消しながら言い放つと暗闇の中へと歩を進める


「ええ」


追従しようとするが、居住地と反対方向に向かっているのに気づき歩を止めた


「の前にトイレだ。先に帰っとけ」


先に言えよと思ったが、ため息混じりに踵を返し居住地へと向かうべく歩き始めた


────


「居るんでしょう?」


ラクスが呟くと影が1つ彼に前に降り立つ。高い所から降りたであろう気配はあったが着地音は一切しない


「気付かれたかのう?」


「いや、多分大丈夫・・・なはず」


影が言うとラクスは自信無さげに返す。それを聞いて影は被っていたマントのフードを外す。精悍な顔つきながら歳を重ねた証明であるシワがくっきりと刻まれ、いたずら小僧の様な笑みを浮かべるとそのシワが更に深みをました


「こんだけ離れても気が気でならん」


「明日の見送りはなしですか?」


「いらんいらん。何も言うことないし湿っぽくもならんだろうし煩わしいだけじゃ」


頭を振りため息をつくドカリと座り込む。ラクスも合わせて座る


「して、仕上がり具合は?」


フードの男────アムスが訊ねる


「一般的・・・かな。傭兵としては中の中から中の上。一流までは遠いな」


「ほほっ、厳しいのう」


アムスは白い顎髭を撫でながら愛しい孫の評価を聞く。目を細め寸評の辛さに抗議した


「身体能力は高い。しかし、それだけだ。てか何故ゆえ技を教えなかったのか疑問だな」


「技を教えなかった?」


アムスがラクスの疑問をオウム返しする


「?あれだけの身体能力ならアムス殿の技もいくつか修められよう。それとも教えたが修得に至らなかったのか?」


オウム返しされ、意図を汲まれなかったと思い細かく説明する。しかし、返ってきた言葉はラクスの予想だにしないものだった


「技は全て修めておるぞ?練度こそワシには及ばぬが使いこなせる。逆に何故に教えてないと思うたか不思議じゃ」


「・・・なに?」


ラクスは混乱する。先程の手合わせを思い浮かべるが、技の痕跡など露ほどもなかった


「全力ではなかった・・・?」


「ほほぅ・・・使わなかったか。道理で評価が低いはずじゃ。まあ使った所でヌシには届かぬと思い使わなかったか、あるいは・・・」


「あるいは?」


「・・・殺したくなかったか」


「!?・・・ほう・・・」


ラクスの拳が握られ身体から殺気が迸る。木に止まり休んでた鳥が一斉に飛び立つ。


「これこれ貴重な食糧が逃げていきおるわい。ただでさえ数が少ないのに・・・」


「そういえばこの森は動物が少ないですね。過ごしやすい環境なのに・・・」


殺気を抑えたラクスが周りを見渡しながら言う。静寂に包まれると近くの川のせせらぎが聴こえ飛び立った鳥の声も聴こえてくる。動物が好む木の実も豊富に見られ人間に開発されてない森は動物には居心地が良く感じる


「ああ・・・粗方食べ尽くしたからのう」


「この広い森をですか・・・何ともまあ」


ラクスは先程までのギスギスとした感じから一転、呆れたようにアムスを見る


「越してきた時は大変じゃったんよ。家を建てたとは掘っ建て小屋じゃ。夜もおちおち眠れん」


「んで、掃除ですか」


「実益もかねての」


アムスは腹をぽんと叩き笑いながら言った。ラクスにとって尊敬する戦士も話していると人の良い老人だ


「後は人間相手にどこまで行けるかのう」


「え?」


「じゃから、獣相手にゃ容赦なく殺せるが対人経験はない。獣と人じゃあ雲泥の差・・・はてさて」


髭を擦りながら目を細めアシスの去った方角へと向く。陽はまだまだ昇る気配を見せず可愛い孫の旅立ちには早い。たが、アムスはこれから旅立つ孫の行く末を細めた目で見つめ思い老ける


「どうせ家には戻らないのでしょう?」


「うむ・・・なんじゃ不完全燃焼か?」


「ええ・・・一手お願いします」


「技は使わん方が良いかのう?」


アムスはニヤリと笑いながら構える


「ぬかせ!」


ラクスは地を蹴りアムスへと向かう。人知れず始まった試合は日が昇るまで続いた────


────


家・・・と呼べるのか男二人で作った無骨な建物は暗闇の中人気もなくたたずんでいた。中に入り事前に用意した物を確認しそのまま床に寝っ転がる


「・・・寝れんな」


ラクスは強い・・・それはやる前から分かっていた。だからジジイ以外の相手に技を使うチャンスでもあった。だがいざ対峙すると出せない・・・出さないではなく『出せない』


「手加減って難しいなあ」


相手は見知った者しかも手加減しているのが分かっている相手に対しこちらが全力で技を繰り出した時・・・果たしてどうなるか・・・対人戦の経験が圧倒的に足りてない。これが明らかに『敵』ならば獣相手と同じく打てるのか・・・うーん考えてたら眠れなくなって来たぞ。近くの村のテラスまで歩いて3時間くらいか・・・よし!


起き上がり荷物を持つと住み慣れた家から出る。陽は昇ってないが今からなら村に着く頃には朝になってるだろう。村に向かい歩を進めた。


まずはメディア────そして中央デニスだ



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