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2章 5 ガーレーン2

ギルドを出た後、マクトスの案内によりガーレーンの宿屋に向かった。ガーレーンには何度か来たことがあるようで、今回の同行に選ばれた理由がそれだったらしい


マクトス以外言葉を発することなく宿屋に入り、部屋を決めると男連中が泊まる2階の部屋に集まっていた


「アシス・・・聞きたいことがあるんだけど」


シーリスがこちらを睨みつけながらズイっと俺の前に来た。相変わらずデカイな。1部分が


「なぜ、あの時避けて通ったの?」


言葉は静かだが、迫力のある低い声で尋ねてきた


「避けて?ああ、ソルトを?」


ギルドを出る時のあれか


「ええ」


「ソルトが邪魔だったから」


「私が聞いてるのは『なぜ』よ」


あん?なぜって


「あいつが突っ立てたから、邪魔だったからって言ってるだろ?」


答えるとシーリスはため息をつきながら大きく首を振る


「あんたはもう少し・・・世間を知りなさい・・・リオン!」


シーリスに呼ばれたリオンは同じように俺の前に立ち、静かに語り始めた


「アシスのした行為は戦士・・・いや、傭兵として失格だ」


ん?失格?


「傭兵は戦い富を得る。ゆえに力が必要だ。だが、もう1つ重要なものがある・・・それが名声だ」


ほうほう


「仮にソルトがただ単に立っていただけなら良い。しかし、意見が対立し、解決していない状態の時にお前は立ち去ろうとした。そして、それを見たソルトがわざわざお前の前に立ち塞がり、行かせまいとした。そこで避けて通る事は『私の負けです』と公言してるようなものだ」


「なるほど・・・俺の行為は完全降伏みたいなものか」


「そうだ・・・しかも降伏ではない・・・屈服だ」


「同じだろ?」


「違う・・・降伏は負けを認める事。屈服は相手を恐れ従う事。戦士として、傭兵として最も名を無くす行為だ」


それで俺が避けて通った時、シーリスとリオンが叫んでたのか


「知らなかったでは済まされない。奴にとってはお前は屈服させた相手。これ以上手は出せない」


「これ以上手は出せないって、この依頼自体破棄なんだろ?」


「そんなことはありません」


部屋の隅で縮こまっていたマクトスがいきなり話に割り込んできた。存在自体忘れてたよ・・・


「他ギルドへの依頼は原則破棄は出来ません。出来るとしたら、依頼が自然消滅し既に完了してしまったか、依頼主が死んでしまい依頼自体の意味を失ってしまったなどです」


「ふむふむ・・・つまりそれだけ他ギルドへの依頼は慎重にしなければならない・・・なのに破棄すると言ってきたのには相当の理由があるんじゃないか?」


「その相当の理由も話さずに破棄しようとしてるのに腹が立つのよ。こちらは助けに来たってのにお払い箱みたいな扱いよ?」


助けに来たって・・・暇潰しみたいに言ってたくせに


「シーリスさんの言う通り、向こうに非があるのは確かです。今日はもう遅いので、明日にでも再度ギルドに行ってみます」


「ええ、お願い。理由はもちろん、ソルトの正体もね」


そう言えばソルトって何者か結局分からなかったな。太守か太守の息子か・・・年齢的には後者か。30半ばくらいに見えたからな


「アシスは今回は何があろうと手を出すな。知らなかったとはいえ、1度道を譲った相手だ。道義に反する」


「へいへい」


リオンに言われ返事をしたものの、モヤモヤする。あの時のナキスの言葉が頭の中で繰り返される


『戦争がなくならないのはそういうことなんだよね』


俺とナキスが仇討ちをするしないのやり取りをしてる時に、ナキスが言った言葉


今回の件は死者の出ていない単なる揉め事だ。俺達がすんなり帰れば揉めることなく終わる?それだと名声に傷が付く?


「・・・何考えてるの?」


最近めっきり存在感を薄くしたシーラが俺の顔を覗き込みながら言ってきた


「姉妹の乳の差について」


「終いの日について?」


語呂がとってもピッタリでございます。なので足を踏むのはやめて頂きたい


「くだらないことやってないで、さっさと寝るのよ。明日は何時に出るか分からないんだから」


「出る?」


「決まってるでしょ?ソルトよ」


「ついて行くのか?」


「そうよ。別にソルトになにかする訳じゃないから安心して。ただ単にかすめ取るだけよ」


「命を?」


「依頼対象をよ!私をなんだと思ってるの?」


暗殺者・・・って出そうになったけど、マクトスの手前やめといた。まあ、言ったら殺すオーラが半端なかったてのもあるが。自分から振っといて、答えようとするのを止めるのはいかがなものか


程なくしてそれぞれの部屋へとばらけた。部屋割りはこの部屋に俺とリオン、隣にシーラとシーリス、1階にマクトスと御者。1階にした理由は宿屋の厩舎にいる馬の管理の為らしい。マクトスが涙目で訴えていたが、シーリスの隣に泊まったところで何もあるまい


隣の部屋からガサゴソと音がしたと思ったら、1人の気配が消えた。恐らくシーリスが夜の街へと繰り出したのだろう・・・羨ましい。気づいたリオンもピクっとしてたが、ベットからは動かなかった。追いかけるかどうするか葛藤してるようにも見えたが、両腕を枕にして天井を見上げ、目を閉じた。どうやら追いかけないと決めたらしい


隣の部屋はシーラ1人か・・・コンコンと壁をノックすると、コンコンと返ってきた。ほう、意外と楽しいな。ココンコンコンとリズミカルにノックしたが、返事はない・・・くそ


コンコンコンコンコン


5回ノックが時間をおいて返ってきた。ふむ、何かの暗号か?


「リオン。5回の合図って何かあるか?」


「?・・・ああ、ノック合図か。5回は愛してるだな。ア・イ・シ・テ・ルってな」


「そうか。突然シーラに愛の告白されたんだがどうすればいい?」


「はあ?お前らいつの間に!?」


「さあ?」


「さあってお前・・・人が男らしく動じないようにしてる横で・・・8回叩いとけ」


コンコンコンコンコンコンコンコン


「叩いたぞ。意味は?」


「俺も愛してる」


「気色悪いな、殺すぞ」


「違う違う!8回の意味だ!意味を聞いて来たから答えたのに、俺の言葉にするなよ!」


ああ、そういう事か・・・思わず拳を握ってしまったよ


愛し合うってこういう事なのか・・・


「なあ・・・」


「なんだ?もう寝るぞ。シーリスが言ってただろ・・・」


「子供はいつ頃出てくる?」


「・・・すまん、眠くて頭が回らん・・・お前は何を言っている?」


「愛し合うと子供が出来るとジジイに聞いた。つまり、シーラは孕んだんだよな?」


「・・・・・・あ、明日くらいには出来るんじゃないか?」


お腹の大きい人を妊婦と言うらしいが、その人も前の晩に愛し合ったのか。てか、早いな


「そうか・・・明日が楽しみだ」


「ああ、早く寝ろ・・・記憶をなくすくらい熟睡しろ」


「?おう、おやすみ」


「・・・おやすみ」


目を閉じると意識が遠のいていくのが分かる・・・ああ、名前決めないとな・・・男か女か・・・シーラの意見も・・・


────


「アシス!リオン!起きなさい!」


バンとドアの開く音と同時にシーリスの声がこだまする。朝のまどろみも何のその、脳はすっかり覚醒した


「朝からどうした?」


起き上がりながら尋ねると、シーリスはドアの前で仁王立ちしていた


「ソルトが動いた!北門に兵を集結させてるわ」


まだソルトの正体は分からないが、少なくとも兵を動かせる人物ではあるみたいだな


「アシスは昨日言った通り手を出せないからマクトスの護衛でもしてなさい。私達だけで行くわ」


「アシス1人にして大丈夫?わたしも残ろうか?」


シーリスの後ろから顔を出し、見上げながら言うシーラ。それを聞いてシーリスは首を振る


「あんた達2人にする方が大丈夫じゃないわよ。何かあったら大変よ」


「何かって何よ!何もないわよ」


普段の2人のやり取りを見ていて昨夜の事を思い出す・・・腹は出てない・・・まさか、もう産んだか?いや、さすがに早いか


「シーラは置いていけ。身重で傭兵として動くのは・・・」


「お、おい!アシス!」


「は?身重?」


「???」


リオンが俺の言葉を遮り、シーリスが言葉を拾い、シーラが目を点にする


「何それ・・・どういうことよ・・・まさか昨日私が出て行った後・・・」


「待て!シーリス!これには深い訳が・・・」


「リオン・・・冗談じゃ済まされないわよ・・・」


なぜか俺とシーラは蚊帳の外で、シーリスとリオンが一触即発だ。朝からカオスだな


リオンが昨日の夜の事を身振り手振りを交えて話す。そして、結論が


「「リオンが悪い!」」


姉妹のハモリで罪人が決定した。異議はない


「ぐぅ」


グウの音も出ないと思いきや、出たみたいだ


散々リオンは責められ、それを真摯に受けるリオン。もちろん正座だ。だが、納得いかないのは、その隣で俺も正座させられている事か・・・


「次はないわ」


ギロりとリオンと俺を睨みつけると、くるりと反転し部屋から出る。シーラもそれに続くが、疑問があるので聞いてみた


「なあ、あの5回のノックはなんの意味があったんだ?」


愛してるじゃなければ、なんだったのか素直に疑問だ。まあ、愛されるのも疑問だったのだが


「・・・バカアシス・・・よ」


おう、そうだったのか・・・って、分かるか!


「バカアシスとバカリオンは朝食抜きよ!リオンは準備してさっさと降りて来なさい!」


シーリスが部屋の外から叫ぶと、リオンは項垂れていた


リオンは準備が終わり、下に降りていく。今回は別行動のため、マクトスが来るまでゆっくりしようと宿の2階から外を眺める


人の行き交いも増え、朝の挨拶やら店の売り子の声が聞こえてきた。その中で異質な集団を見かける。不揃いの鎧に身を包み、剣をぶら下げている集団。見るからに疲れ果てた感じで、足を引きずっている奴もいる


たしか傭兵団が不在の為、フレーロウに依頼が来た可能性があるって言ってたよな。戻ってきたのなら、尚更用済みだな俺たち・・・それにしても凱旋って感じじゃないな。まるで敗残兵だ


「俺はギルドに寄っていくから、ここで解散だ」


一人の男が全員に伝えると、各自バラけて行った。ふむ、もしかしたら、今回の件と関係があるやもしれん


急ぎ1階のマクトスのいる部屋に入ると、まだ寝巻きのままのマクトス発見・・・こいつ


「ああ、君か。ギルドは朝は混むから、昼ぐらいに行く予定だ。それまでゆっくり・・・って、ちょっとちょっと!」


無言でマクトスの腕を引き、外へと出る。ギャーギャー騒いでるが、今は一分一秒を争う事態・・・寝巻きで出歩いて恥をかけ


ギルドに着く頃には黙って顔を伏せてるマクトス。晒し者もいいとこだが、今は関係ない。ギルドの扉を開けると、カウンターには先程の男とギルドマスター・・・名前なんだっけ?が居た


「あ、君は・・・」


「うん?レブラの知り合いか?見ない顔だが・・・」


「件のフレーロウから来た傭兵の1人です」


「ほう」


そうだ、レブラだ・・・と思ってたら、レブラと話していた男は俺の前まで来て値踏みするように俺を眺める


ガタイが良く腰の辺りに鎖を巻き付け、ジャラジャラと鳴らしながら近づいてきた男は先程の傭兵達と違い疲れ果ててはいない


「わざわざ来てもらって悪いが、俺らが戻ってきたからにはもう大丈夫だ。手間賃などはギルドから出るであろう。それを受け取ってフレーロウに戻るといい」


うわー、どいつもこいつも上から目線で呆れるな


「戻ってきたのはいつだ?」


「・・・今朝だ」


「俺らは昨日着いて、昨日の段階で依頼を破棄すると言われたんだが・・・」


「・・・俺らが戻ることを知ったギルドの対応だろう」


「なら、昨日言わなかった理由は?」


「貴様は何が言いたい?」


「本当の理由を知りたいだけだ」


詰め寄る男は肩をワナワナ震わせている。今にも殴りかかって来そうだ。マクトスなんかは存在感を綺麗に消し去っているし・・・


「君は・・・昨日ソルト様に道を譲ったはずだ。今更蒸し返すのはどうかと思うが・・・」


さて、それを言われると困ったぞ。レブラめ余計な事を


「ほう・・・つまり手間賃の上乗せが狙いか」


男は呆れたように俺を見下しながら言う・・・金は欲しいがそういう事ではないのだが


「ふん、良いだろう。金貨1枚に足りない分は俺が出そう。どうせ意地汚い仲間に多く貰ってこいとでも言われてきたのだろう?その金を受け取ってさっさとフレーロウに・・・ガハッ」


ああ、思わず殴ってしまった。体をくの字に曲げ倒れ込む男を見下ろし、次の行動を考える・・・んー、ソルトとシーリス達は北か・・・よし!


ギルドから出て北に向かい走る。こうなったら俺が盗賊たちを見つけよう・・・話はそこからだ!


────


北の門を出た所で100名もの兵士が整然と並ぶ。先頭にはソルトが兵に向け声を上げた


「これより盗賊の捜索に入る。10名10組となり横に並び展開!ジャクルの村まで進むが間隔は横の組が目視出来るまでとする!」


「ハッ!」


あらかじめ決められていたのか、素早く10名10組となり横に展開する。ソルトからは端の組が見えないくらいに展開し、準備が出来たのか副官らしき男がソルトに目配せする


「行くぞ!」


ソルトが北に向かい剣を出すと規則正しい足音を立てて兵は進軍を開始する


「凄い・・・バカバカしい光景ね」


門の影から出てきたシーリスが言うと後ろからリオン、シーラも姿を見せる


「あれでは盗賊たちに兵が来ると伝えているようなもの・・・何を考えている?」


「守備兵なんてそんなもんでしょ?戦闘経験のないハリボテよ


「・・・でも少し考えれば分かりそうだけど・・・」


シーラが首を傾けて思案しているとシーリスは考えるだけ無駄と判断したのか動き出す


「とりあえず後を追いましょう。このまま行くようなら、迂回して先に対象を仕留めるわよ」


「まずは調査では?」


「盗賊で間違いないわ。あと、ソルトの正体もマクトスの調べを待つことなくすぐに分かったわ」


「何者なの?ソルトって」


「太守の長男でありながら、ガーレーン軍総軍団長」


シーラの問いにサラリと答えたシーリスにリオンは待ったをかける


「有り得ない!そのままいけば権力が強すぎる!独裁状態になるぞ!」


叫ぶリオンの顔面にシーリスが手のひらを当てると、そのまま圧力をかける


「ねえ?尾行中って事を忘れてない?」


こめかみにより強く圧力をかけた時点でリオンはギブアップ


「す、すまない。だが・・・」


「言いたいことは分かるわ。権力の分散化で暴走を防ぐのは世の常。独裁に良い歴史はないしね」


何百年も前の話で、同じように権力を持ちすぎ反乱の元となった話はいくつもある。その過去を知っているなら権力の集中はタブーのはずだった


「国が認めるってのは少し考えにくいわね。でも街の人が普通に知ってるのだから、当然国も知ってるはず・・・」


「特にガーレーンはメディアにとって最後の壁。反乱したら滅亡も有り得るぞ」


「危ういわね・・・まっ、国が滅びようがメディアの人間じゃない私にとってはどうでもいいけどね」


話はおしまいとばかりに手を横に広げ、先に行くソルトを伺う。全員徒歩だが日頃の訓練の賜物なのか進軍スピードは異様に早い


少し進むと街道から西の方へと向きを変える。西は木の生い茂った森になっており、視界が途端に悪くなる。それでもソルト達は隊列を崩すことなく横1列のまま森へと進入する


「この森で最初に発見されたらしいわ」


どこで仕入れてきたのか、シーリスは先行く兵達を見ながら呟いた


「発見されてから時は経っているだろう。まだ居るのか?」


「さあね。でも身を隠すなら森は最適だから、そうそう移動はしないんじゃない?」


街道付近にいれば行者や旅人の目に付く。森にいれば注意するのは狩人くらいに・・・食料も豊富で川さえあれば潜伏先としてはこれ以上はない


「でもこのまま進んで行くと、さすがに逃げるよね?」


100名の兵隊が隊列を組んで進んでいけば否が応でも目立つ。潜伏してる者にとっては、先に見つけるのは容易く逃げるのも容易だ


「平和ボケしてるのか・・・策があるのか・・・」


「うーん、見届ける必要があると思う?」


森に入って数分。一向に変化の見られないソルト達に呆れを感じていた。シーリスとしては相手の作戦を見抜き、それを出し抜こうとしていたが、このままではターゲットを逃がしてしまう。先回りして仕留めようかと思案しているその時、周りの空気が変わる


「あら、もしかしてやられた?」


「・・・のようだ」


シーリスとリオンが周りの気配の変化に気づく。森に入り、視界が悪く先行する兵達は全貌が見えない。見えても3部隊程。見えない他の部隊の行動は、森に入る際の横1列のままとたかを括っていた


森の不揃いに並んだ木々が視界を遮り、気配を分散させていた。いつの間にかシーリス達の周りを取り囲むように部隊が配置されている。シーリス達はそのままソルト達のいる方に進むと少し開けた場所に出る


「やあ、フレーロウの傭兵諸君!こんな森でお散歩かね?」


「ええ、街はつまらないから、外なら良い所があるんじゃないかと思ってね」


「つまらないとは心外だな。まあ、この森も良い所だ。・・・たまに盗賊が出るがね」


待ち構えてたソルトはシーリスに意気揚々と話しかける。その間に弓を準備する兵士たち


「あら、怖いわね。なら、早く退散しないと」


「盗人猛々しいとはこの事だな」


「ちょっと!私達が何を盗んだって言うのよ」


「ギルドの依頼を盗んだ・・・って所かな」


「正式な依頼よ」


「破棄された依頼だ」


睨み合うシーリスとソルト。見かねてリオンが前に出る


「待て。理由も聞かずに『はいそうですか』で帰れるわけがないだろ?依頼破棄の理由が知りたい」


周りを取り囲む兵士達は弓を構え、何時でも撃てるように狙いを定めている。100の矢を躱すのは無理・・・しかも、2人を庇うとなると剣で弾くのも適わない。囲まれた時点で勝機はなかった


「理由なぞない!お前らは俺の言う通りにさっさとフレーロウに帰ればよかったのだ・・・それももう遅いか・・・」


ソルトが腕を上げると兵士達に緊張が走る。上げた腕を下ろした瞬間に3名の傭兵の命が消える。実戦を経験した事の無い者達にとって想像を絶する光景が目の前に繰り広げられようとしていた


「ソルト様!」


腕が下ろされようとした瞬間、馬蹄の音と共に一人の男が近付いてきた。ソルトは下ろそうとした腕を止め、聞きなれた声の主を見る


「ディーダ・・・戻ったか」


ソルトから離れた場所に馬をとめ、歩いてソルトの前まで来ると頭を下げる


「申し訳ありません・・・私のせいで・・・」


息を切らしながら言うディーダはアシスがギルドで会った男。アシスに殴り倒された後に目を覚ましここまで駆けつけてきた


チラリとシーリス達の方を見やると、またソルトに向き直り頭を下げる


「ソルト様・・・今回は私の不始末・・・自らの手で拭わせては貰えないでしょうか?」


「あまり気負うな。もう奴らは詰んでいる。さっさと終わらせ本題に移るとしよう」


再び腕が振り上げられるとシーリス達に向き直る


「あと一人いるのでは?」


ディーダの言葉に動きを止め、考えるソルト。そして、昨日のギルドの出来事を思い起こす


「ああ、居たな。だが、そいつは問題ない。こいつらと違って折れた。今は宿屋で大人しく・・・」


「・・・その折れた相手に殴り倒されたのですが・・・」


「なに!?」


ソルトが驚いている時、シーリスはリオンに近付き耳打ちする


(今の折れたって、アシスの事よね?)


(だろうな)


(って事は、今来たやつを殴り倒したのもアシスよね?)


(そ、そうだな)


(今回はもう手を出すなと伝えたわよね?)


(あ、ああ)


(私達の窮地に駆けつける訳でもなく、敵の増援を呼び寄せたって事になるわよね?)


(・・・)


(なんなの?アイツは頭おかしいの?)


(・・・本人に聞いてくれ)


「聞けるわけないでしょ!居ないんだから!」


思わず声のトーンが上がり、周りにいた全員がシーリスに注目する


「コソコソ何か話してると思いきや、いきなり叫ぶとは何事だよ」


「おほほほ、失礼。どうぞお話を続けてくださいな」


「もう終わったよ。どうしてもここにいるディーダがお前らの始末をしたいって言うんでな・・・」


「ディーダだ。お前らの仲間に突然殴られたお返しをしたくてな。聞けばソルト様の邪魔をする一味とか・・・おい、そこの男!」


ディーダはリオンを指さし、前に出るように指をクイクイっと曲げた


「奴を探して殺すより、お前らを殺し俺に手を出したことを後悔させてやった方が効果があるだろう。恨むなら奴を恨め」


そう言うと挑発している手とは反対の手で腰に巻いてある鎖をスルスルと外す


「鉄鎖使いか」


リオンは剣を2本引き抜きながら前に出る。対峙する2人。ジリジリと距離を縮めていた・・・一方その頃────


アシスは北門を出た後に街道を真っ直ぐ進み、不意に大量の足跡が森に向かっているのを見つけた。このまま追うことも考えたが、迂回して先回りすることを選択する


アシスの頭の中のシナリオはこうだ


恐らくギルドで殴り倒した男はこれから盗賊退治に出る予定だったはず。そして、ソルトは既に出ている。シーリス達はソルト達について行き、盗賊達をかすめ取る算段。その3組の盗賊討伐隊を出し抜き、アシスが単独で盗賊退治を行い、ギルドの男に『殴って悪いな。これはお前の手柄だ』っと手柄を渡す


(完璧だ)


心の中で呟きニヤリと笑うと森の奥まで駆けて行く。途中大勢の気配を感じたが、恐らくそれがソルトの部隊であろうと思い更に走る速度を早めた


気配が遠のくのを感じしばらく進むと別の気配を感じる。今度は少数・・・盗賊の可能性は高かった


気付かれぬよう近付き見ると、動きやすい服装に剣を腰に差し、先程感じた大勢の気配の方を見ながら何か話している。数は10名程。統一感のない出で立ちは兵士には思えず、得物から狩人でもない。ほぼ間違いなく対象の者達であろう


すぐさまアシスは男達の前に出る。警戒していた方向とは別の所から現れた人物に男達は焦り騒ぎ立てる


「なっ!くそ、見つかったぞ!」


「まだ遠いんじゃなかったのかよ!」


「音が消えたんだ!だが、消えた場所からはだいぶ離れてる!有り得ねえ!」


どうやら男達はソルト達の足音で来ていることを察知し、逃げる算段をしていたらしい。その時に突然現れた人物に面食らい、混乱する。だが、一人の男がアシスの違和感に気づいた


「待て!こいつ兵士じゃねえぞ!」


「!本当だ・・・じゃあ、アイツらの1人か?」


「アイツらは街に入るのを見たつったろ?アイツらじゃねえ!」


「あー、うるさいな」


アシスが喋ると一斉に男達は沈黙し、剣を抜きながら辺りを警戒する


「こいつ1人ぽいぞ・・・サッサとやってここを離れるぞ!」


「けっ、大方アイツらの1人が残って見張ってたんだろ?」


「にしても、あの足音の数はやべえ・・・殺るぞ」


意思の統一が終わり。男達はアシスを取り囲むように動く。アシスは無言で剣を抜き、全員を見渡すと、空気を肺に溜め込み呟く


「さあ、行こうか」


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