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2章 4 ガーレーン1

相部屋のリオンのイビキがうるさい以外は快適な宿生活にも慣れてきた。赤の称号を貰っていざ傭兵生活!と思いきや大した依頼もなく、日々ダラダラと過ごす毎日・・・飽きてきた


「アシス!今日は立ち合うぞ!」


「今日も・・・だろ?」


一国の王子の言葉が効いたようで、カムイからのちょっかいもなく、ギルドに依頼書を見て、リオンと立ち合って、買い物を楽しんで・・・のサイクルは今日も崩れそうにないな


「どデカい盗賊団の討伐依頼とか獣の群れが出たとかないもんかな?」


俺の考えを見抜いたのか、リオンが体を動かしながら呟く。平和なのはいい事だが、これじゃあ傭兵になった意味もない。ジジイ達に聞いてた通りメディアは傭兵には刺激が足りない


「遠征でもするか?」


王都は守備兵の数から問題が起きても速やかに解決されてしまう。傭兵ギルドに頼めば依頼料はかかるし、どんな傭兵が来るかも分からないから、個人的な困り事以外は守備兵が解決してしまっているみたいだ・・・ナキスめ!かたや周辺の街や村は守備兵は配置されてるが、あくまでも街や村の守備が基本。ギルドへの依頼も一定数あるみたいだ


「街にはそこにいる根付いている傭兵団がいるな。そいつらで事足りてるのが現状だ」


リオンは旅をしながら傭兵家業をしていたから、身に染みて分かっているようだ。大きなトラブルがない限り他の傭兵など無用の長物。縄張り意識もあり、他の傭兵を嫌う所もあるとか


「やっぱりデニスに行かないとダメか・・・」


当初の予定では傭兵ギルドへの登録が終わったら、さっさとデニスに向かい、そこで母親の情報を得ながら名を上げる予定だったが・・・


「ナキス王子の件がある!」


そう・・・リオンの言う通り、ナキスから頼まれごとがある。未だ何も言ってこないが、それを聞くためにこの宿に泊まっているから、勝手に出ていく訳にもいかない


「はあ・・・なら仕方ないか」


リオンとの立ち合いは充実している。お互いの実力が分かってきたから、ギリギリの所まで戦えるので良い経験となっている


「傭兵団・・・に入るって手もあるが」


剣を腰に付けているとリオンがボソリと言った


「入れば依頼は来るかもしれないけど、しがらみとかあるんじゃないのか?」


「・・・あるだろうな。俺も入った事はないが、勝手気ままって訳にはいくまい」


「ならパスだ。とりあえずナキスからの依頼をこなしてからだな」


「こなしてから・・・どうするつもりだ?」


そうなんだよな。なし崩し的にシーラ、リオン、シーリスと行動しているが、目的がない。母親を探す旅がいつの間にかカムイ討伐に・・・しかし、それも必要なくなったこら、母親探すか・・・と思ったが、カムイ討伐との温度差が激しくてやる気が起きない


「その時はデニスにでも行くさ」


そう言ってドアノブに手をかけとようとした時、ドアが勢いよく開かれる


「きゃっ」


開いた先のシーリスが驚きの声を上げて仰け反った。驚きたいのはこっちだよ


「ちょっと!ドアの前でぼーっとしてんじゃないわよ!」


理不尽な!


「これから訓練でもしようかと・・・」


「そんなのあとあと!面白い依頼があったわよ」


言うと依頼書をこちらに見せてくる。依頼書って持ってきてもいいのか?


「受けてきたから問題ないわ」


どうやら心を読まれたらしい。てか、勝手に受けてきた事に驚きだが、まあ良いか


「なになに・・・盗賊らしき集団を見かけた。調査及び討伐依頼か。調査だけなら金貨1枚、討伐の場合は規模により応相談。ギルド職員随伴案件か」


リオンが俺の後ろから依頼書を読みブツブツ言っている。随伴?


「不確定要素がある依頼にはギルド職員がついてくることがあるのよ。この場合は盗賊か否かと盗賊たちだった場合の規模が不確定だから、その確認ね」


なるほど。しかし、心を読まれると楽だな。いちいち喋らなくて済む


「いや、声に出しなさいよ」


と、思ったら突っ込まれた


「依頼はガーレーンか」


「小さい村とか?」


「いや、行ったことあるがそこそこでかい街だ。守備兵もいるし、傭兵団もいると思うが・・・」


「ギルドも街にあると思うわ。なのにわざわざ王都のギルドに依頼してくるなんて面白そうじゃない?」


「面白そうの基準が分からないが・・・ところでシーラは?」


「さあ?さっきまで一緒だったけど・・・トイレじゃない?」


「勝手にトイレとか言わないで」


シーリスの後ろからシーラがひょっこりと少しむくれた顔を出す


「1階で食事の手配をしていたの。朝食まだでしょ?食事しながら予定を立てましょ」


何も無い日々に焦れていたのは俺だけではなかったらしいな。予定を立てるもなにも、馬車の手配、ギルドの同行者、旅の準備を既に終えていた。あとは俺ら男連中の準備だけだった


「どんだけ暇だったんだ」


宿屋の1階でパンを貪りながら呟くと、シーリスはため息をつき首を振る


「殺し殺されの世界で過ごしてきたのに、ここ1週間妹とショッピングよ?それはそれで楽しかったけどさすがに精神衛生上良くないわ」


「擦れすぎだろ?精神」


「そうでもなきゃ、やってられないのよ」


「・・・まあいいや。で、俺らの準備はすぐ終わるだろうから、出発はそれ次第か?」


「そうね。あんたらの準備なんてたかが知れてるんだから、さっさと行きましょう」


かなり雑に扱われている感は否めないが、ここでグダグダしていても仕方ない。適度な暇つぶしには丁度いいだろう


「分かった。なるべく早く準備する」


俺とリオンは朝食をかきこむと2階に上がりいそいそと準備する。と言っても、持っていくものなど限られてるから数分で終わり、再度1階に降りると朝食を食べ終えた2人の元へ向かう


「・・・男っていいわね。荷物も少なくて」


「急いで来たのに酷い言われようだ」


「別に嫌味で言ったわけじゃないわ。全員分の水と日持ちする食料の準備もしてるから、後は馬車とギルドの人待ちね」


「随分用意が良いな」


「旅慣れてるからね。諸々で金貨1枚かかってるから、調査で終わったら赤字ね」


「金貨1枚なら、トントンじゃないのか?」


「馬鹿ね。向こうで泊まる宿代はギルドの人と馬車の御者の分もこちらが負担するのよ。何日もかかったらそれこそ大赤字。だからこういう依頼は売れ残ることが多いいの」


なるほどね。一種の賭けみたいなものか


「ちなみにギルド職員が死んだ場合、金貨30枚の罰金を取られるわ」


「30枚!?」


破産ですぞ。まあ、元々俺は金貨自体持ってなかったが


「そう。私とリオンのお金を足しても足りないわね。だから、今回の依頼は完璧にこなさないとやばいわね。ギルド職員を守りつつ、相手が盗賊であり、かつそこそこの数がいる・・・それではじめて完璧よ」


うっ、胃が痛くなってきた。人を守りながら戦ったことないし、そもそも本当に盗賊なのか?見間違えならシャレにならんぞ


「ああ、こちらで合ってましたか。遅くなりましたギルドよりまいりましたマクトスと申します。シーリスさんですよね?」


宿の扉を開けて入ってきたのは細身の男。緑色のダボダボしたローブに身を包み、髪は黄色に近い金髪で長髪。爽やかな笑顔とは裏腹にシーリスに話しかけている時の目線は胸の谷間をガン見だ


・・・守りきる自信が無くなってきた


「ええ、そうよ。こちらも準備が終わっているから、馬車が着次第出発しましょう」


慣れてるのか目線を気にせず肩に乗った髪をかきあげながら答えるシーリス。ファサッと音が鳴ると髪についたいい匂いが鼻腔をくすぐる。こいつ・・・わざとやってるな。マクトスって奴は目がハートになってるし


「見目麗しき女性とご同行出来るなど、感極まりそうです。他3名とお聞きしていますが」


「ええ。これとこれ。後は妹が今トイレよ」


「だから、居ない時にトイレと決めつけないで!忘れ物を部屋に取りに行ってたの!」


これ扱いされた俺らを他所に姉妹でキャッキャッ言い合ってる。なにこれ?


「ふふ、仲睦まじくていい事です。今回の件はお聞きして頂いていると思いますが、調査をメインに場合によっては討伐に切り替わります。その点をご注意下さい」


「そうね。その時の査定は・・・よろしくね」


シーリスがマクトスの顎を撫でるように触ると、顔を真っ赤にしながら咳払いをする


「んんっ、公正明大を心がけておりますゆえ・・・ただ、人間ゆえ私情に流される事もしばしば・・・」


効果絶大だな、シーリスのお胸は。リオンを見ると大変面白くなさそうでございます。仲間からも守るのなんて無理だぞ?


「おや、馬車が来たようですね。シーリスさんが手配した馬車か確認してまいります。しばしお待ち下さい」


言うとマクトスは宿屋から出て、前に止められた馬車の御者に話しかけ、話が終わると戻ってきた


「やはり手配した馬車で間違いないようです。すぐに出発出来るようですが」


「ええ、行きましょう。ガーレーンまで半日もあれば着くけど、あまり遅く出ると日が暮れるわ」


「では、そのように。あ、そこの君。御者護衛のため御者席に座ってくれるかい?」


そんな事をリオンに言うマクトス。命が惜しくないのか?


一触即発か?と思ったが、リオンはため息を大きくつき、馬車の御者席に向かって歩く


「なんだ?体調でも悪いのか?」


小走りにリオンの近くに行き尋ねるとリオンはドヨンとした顔でこちらを向き首を振る


「あんな軟弱野郎だと怒りすら湧いてこない・・・そこそこ使える奴なら滅多滅多にするんだが、アレだと吹けば飛んでく」


「たしかに」


苦笑しながら、リオンの肩を叩き慰めると御者席に向かう足取りは少しばかり軽くなった気がする。馬車の中でイライラするより、御者席で顔を合わせない方が結果的には良いような気がするな


「アシス!行くわよ」


仕切り屋のシーリスの呼びかけに答え、既に3人乗り込んでいる馬車の中へと入るとそこには既に席が決められていた。扉から向かって右側奥にギルド職員マクトス、手前にシーリス。左側奥にシーラが座っているから自ずと左手前が俺の席になる


「どうしたんだい?君がドアを閉めないと馬車が動かないじゃないか」


金貨100枚くらい稼いだら、獣の群れにでも投げ込んでこよう


ドアを閉めると同時ぐらいに馬車は動き出し、ガーレーンに向けての旅が始まった


「いやー、姉妹揃ってお美しい」


「赤の称号をお取りになるなんて、お美しいのにお強いなんて!」


「フレーロウを拠点とされるので?私も事務処理だけではなく、身体を鍛えないとダメですなー」


「こう見えても前はフレーロウでは一目置かれる存在でしたのですが、腕を痛めてからは頭を使う事ばかりで・・・ハハ、参りましたよ」


早くも挫折しそうだ。まだ小一時間走ったくらいなのに精神的ダメージがでかい。シーリスは適当に聞き流し、シーラは外をじっと見ている


ガタンと馬車の車輪が小石か何かに乗り上げ揺れるとマクトスの体はシーリスの胸に一直線。が、御者席から飛び出してきた剣によって胸へのダイブは阻止される


「すまんな、揺れた拍子に剣が突き刺さった」


いやいや、どんな状況だよ。御者も「旦那~」と泣きそうな声を上げているが、リオンが修繕費を払うと伝え、事なきを得た。目の前に急に突き出た剣にマクトスは顔を真っ青にしてシーリスから少し距離を置く


しばらく静かになった車内の雰囲気をよそに、外から慌ただしい音が聞こえてきた。真っ直ぐに走っていた馬車は少し斜めに移動しペースを極端に落とし完全に止まった


「な、何かありましたか?」


マクトスが御者席に話しかけるが、聞こえてないのか返事はない。そのすぐ後に馬の駆ける音が前方から聞こえてきて、大きくなったと思ったらすれ違ったのか後方へと遠のく


「すみません、急使ぽい馬が見えたので止まってました。すぐに発車します」


御者がこちらに話しかけ、馬車はゆっくりと進み出した。ガーレーンからフレーロウへの急使?やな予感がしつつも馬車に揺られガーレーンを目指した


丁度小腹が空いてきた頃に馬車はスピードを落とす。小窓から外を見ると大きな壁が見える。フレーロウよりは低いが頑丈な壁に覆われた街・・・ここがガーレーンか


門の前まで着くと門兵がこちらに歩いてくる。今回はガーレーンからの依頼のため入街税はかからない。依頼書を見せると軽く中を確認し、いくつか御者と話すと門が開かれた


「フレーロウには劣るがここもまた」


幅広い石畳の道に建ち並ぶ建造物。街と村の違いは石と木の違いなのか?って思うぐらい石造りの建物ばかり。前に聞いたら人口密集地で木造りの建物が並ぶと火事になった時に街全体が炎に包まれた・・・そんな怖い事がどこかであったらしい


道を石畳にしてるのも、雨が降った時に土だとぬかるみ、馬車の車輪が空回りし動けなくなったりとか、泥がはねて汚れるとか散々だったらしい


「田舎者もちょっとは都会に慣れてきたのね」


あまりキョロキョロしない俺を見てシーラが言ってきた


「そうだな、フレーロウ見る前だったらもっと驚いてたかもな」


フレーロウの細かい工夫には驚かされた。村から街へ街から王都へと変貌を遂げたであろう城下町


「あんたねぇ・・・ちょっとは言葉の裏を読みなさいよ」


呆れたようにシーリスが言うが、言葉の裏?


「シーラが言ってるのは・・・モガ」


「姉さんが言うとわたしが凄い酷い事を言ったように感じるから!」


シーラがシーリスの口を手で正面から閉ざし、言葉を途中で遮る


「んーん・・・パッ、ちょっと!息出来ないじゃない!」


シーリスがシーラの手をはねのけ抗議するが、シーラはフンっと鼻を鳴らしてそっぽを向く


まーた2人でキャッキャキャッキャやり始めたので、俺はドアについてる窓からガーレーンの様子を伺う


活気に溢れているとは言いがたく、道行く人はどこか晴れない表情。今まで通った街とは少し違う感じだ


「ガーレーンはデニスに対しての守備の要。ここを落とされるとフレーロウまでの障害もなくメディアは滅亡の危機に晒される・・・って言う建前の元、兵の増強に力を注ぎ街の発展は二の次らしいわ」


「住民としては兵の増強ばかりだと面白くもねえか」


「そうね。それもあるし、後ろめたいことなくても兵士の目は気になるもの。その目が増えれば増えるだけ居心地はいいものでは無いわね」


たしかに辺りを見回すと守備兵らしき者が多い気がする。王都フレーロウより。人口比率で言ったら圧倒的にガーレーンの方が兵士が多そうだ


「なら、今回の依頼も他の街のギルドに頼むなんかより、守備兵で解決した方が早いんじゃないか?」


ふとマクトスを見ると首を振ってその意見を否定する


「守備兵はあくまでも街を守護する兵士。今回のような調査依頼に動くのは皆無」


ふうん、そんなものか。話していると馬車は止まり、ドアが開かれる


「ギルドに着いたぞ」


リオンがシーリスとマクトスの距離を確認しながら言うと、マクトスは空いていた距離をもう少し空けて頷く


「は、はい、行きましょうか」


打たれ弱すぎ。リオンが相手にしなかったのも頷けるな


馬車を降り、御者に適当に端っこに馬車を停めといてもらうと中に入る。造りはフレーロウと変わらず正面にカウンター、右には簡単な食事が出来そうな具合にテーブルがいくつかある。その奥に依頼書を貼るボードがある


フレーロウと違うのは人の多さぐらいか。閑散としているので、開店休業状態だ


「フレーロウのギルドより参りましたマクトスと申します。この依頼を受けたのでお話をお聞きしたいのですが」


依頼書を見た受付嬢は明らかに顔を歪め、「お待ち下さい」と言って奥へと消えていった


間もなく受付嬢と髪をオールバックにした厳つい顔をしたオッサンがカウンターまで来た


「わざわざフレーロウよりお越しいただき感謝する。私はここのマスターのレブラと言う。遠路はるばる来てもらって申し訳ないが・・・」


レブラは目を閉じ、言いにくそうに言葉を絞っていく


「この依頼はなかったことにしてもらいたい」


マクトスの渡した依頼書をくしゃりと握りしめ、苦々しい顔で言い放つ


「なっ、なかったこととはどういう・・・」


マクトスが驚きを隠さず詰め寄るがレブラは首を振り、ため息をつく


「言葉の通り、依頼の破棄だ」


「ちょっと待ってください!他ギルドへの依頼は容易に破棄できないことは知ってますよね?」


「依頼破棄の申請は今朝送った。止むを得ない状況と判断して欲しい」


「理由を聞きたいわね。こちとら馬車の手配、人の手配、物資の手配で金貨3枚の損失があるのよ。はいそうですかで帰れると思う?」


たしか金貨1枚って言ってなかったか?3倍になってますが・・・


「かかった費用はこちらで負担しよう。理由については・・・」


レブラが話そうとした時、ギルドの扉が音を立てて開かれ、数名の兵士がなだれ込む。その先頭に顎髭だけを妙に長く生やした男が偉そうに胸を張りこちらを値踏みする


「フレーロウより来た傭兵はお前らか?」


「ああ、そうだ」


リオンが男に答えると、男は鼻を鳴らして手を振る


「帰っていいぞ。ギルドから聞いたか知らんが依頼は無しだ。馬車の手配費用だけはこちらで持とう。どうせあんなしょっぺえ馬車だ。銀貨50が相場だろう」


ギルドに入る前に馬車を見たのか、男は恐らく銀貨が入っているであろう袋をこちらに投げてよこす。リオンは無言で受け取るが、そのまま男に投げ返した


「あん?いらないのか?」


「冗談じゃないわ。ここまで来るのに馬車の手配だけで済むと思って?」


リオンの横に並び立ちリオンの肩に手をかけながらシーリスは言う。多分投げ返したのが良かったのだろう。リオンの尻に尻尾があれば全力で振られているだろう


「ソルト様!何も貴方様が負担なされなくても・・・」


レブラがカウンターから出て来てソルトの前に出る


「別に構わん!して、女!いくら欲しい?」


「金貨5枚ね」


「馬鹿な!あんな馬車、それだけあれば馬車ごと買えるぞ!」


「馬車の手配と物資の手配で金貨1枚、それに私達への迷惑料として1人金貨1枚で合計5枚。妥当だと思うけど?」


「元々調査だけで終われば金貨1枚で終わる依頼。何もしてない奴らに5枚など払えるか!」


「だから言ってるでしょ?迷惑料だって」


「しょっぺえな!フレーロウにはこんな低俗な傭兵しかいねえのか」


その言葉を聞き、何を思ったかマクトスがリオンとシーリスの前に出て、鼻息荒く片手を腰に当てもう片方の手をソルトに向けて指さしする


「あなたがどちらさんか知らないけどね!うちの傭兵を馬鹿にするって事は、うちのギルドを馬鹿にしてるってことだぞ!」


おお、軟弱者の汚名返上だ


「どちらさんか知らないなら、喋るな三下。はっ、ギルドの職員が無能とは、フレーロウのギルドマスターも苦労するな」


「なっ!?」


「おやめなさい・・・本来ならあなた達が話すことさえ出来ない立場のお方です。これ以上無礼な立ち振る舞いをされるのでしたら、拘束させていただきます」


レブラがマクトスの前に立ち塞がり静かに語る。ソルトってお偉いさんだったのか。街でお偉いさんって・・・太守?


「そう言うなレブラ。低俗な奴らにゃ人を見る目なんてないさ」


レブラの肩を叩き、鼻で笑うその姿はさすがにイラつく。顎髭抜いたろうか


ソルトは無造作にシーリスに近づき、顎に手を当てると強引に顔を向き合わせた。身長はシーリスより高く、リオンより低い。ちょっと顎を上げるだけでシーリスとソルトは顔を向き合わせる


「お前が1晩相手してくれるなら、金貨5枚やってもいいぞ」


つり上がった眉毛を更に上げながら、目を細めて言うソルトにシーリスの目付きが変わっていく。低俗な奴らにゃ人を見る目なんてないって言う見本を見してくれてるみたいだ


「これ以上顔を近付けたら、首から上無くなるわよ?」


「ほう、どうやって?」


「リオン」


シーリスが言うが早いか、ソルトの首元にリオンの剣が押し当てられる。抜いた音すら聞こえないほど神速にソルトの後ろにいた兵士はピクリとも動けない


「貴様!」


1人の兵士が動こうとするが、ソルトが手でそれを制止する


「構うな・・・ちょっとしたお遊びだ」


横目でリオンを見ながら、そっとシーリスから手を離し後ずさる。それに合わせてリオンも剣を収めた


睨み合う3人、あわあわするマクトス、蚊帳の外のシーラと俺。あー、なんだかもう・・・


「めんどくせえ」


俺が歩き出すとリオンの行為で殺気立った兵士が槍を構える。だが、お構い無しに歩くと何故かソルトが立ち塞がってきた


「なんだお前は?」


「邪魔なんだが、どいてくれないか?」


「ふん、お前が避けて通ればいい」


こいつ・・・近くで見ると面白い顔をしてるな・・・と思いながら、横を通り過ぎようとすると


「「アシス!」」


後ろから2人の呼ぶ声・・・シーリスとリオンの声が重なって聞こえた。別に用はないだろうと思いそのまま通り過ぎると兵士たちの睨みも躱し、ギルドの出入口に到着


「何してる?帰るぞ」


兵士越しに3人とマクトスに伝え、外に出るとソルトの笑い声が聞こえる


「ワハハハ、低俗な奴らの中にも物分りの良い奴がいるではないか!さっさとフレーロウに帰るがいい」


シーリスとリオンが歯軋りの音がここまで聞こえてきそうな位鳴らし、歩き出す。シーラとマクトスはその後にひょこひょことついてくる


「おい!」


ソルトは先程の銀貨の袋を再度投げて寄こした。シーリスは咄嗟に短剣を投げ袋に当てると、銀貨はギルドの中でぶちまけられる


「いらないってか!?まあいい」


ぶちまけられた銀貨を兵士たちが拾う為に屈むと、立っているソルトと目線が合った


「観光なら好きなだけしていけばいい!ようこそ!ガーレーンへ!」


両手を大きく広げ笑いながら言うソルトに対して、シーリスは扉を思いっきり閉めることで答えた


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