表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/96

2章 1 姉と妹

快適な旅とはこの事を言うのだろう。今までの旅はなんだったんだ。カザムからホーデン、そしてフレーロウに向けて出発した俺たちは揺れている・・・馬車の中で


「お気に召してくれたかね?」


ナキスが笑顔で飲み物を口にしながら言ってくる。クソ・・・絵になってやがる。カザムの街でフレーロウにヤニムを連行する事を承諾した俺たちはナキスと同行する事となった。で、移動手段がこの馬車。4頭の馬が車輪のついた小屋を運ぶ乗り物。カザムの街に入った時にチラホラ見かけたが、これ程大きいのは見なかった


「この地を歩いて行くなんて自殺行為だよ。暑いし雨も急に降ってくる。獣に対する護衛が必要になるけど、それを差し引いても街の行き来は馬車一択だね」


「悪かったな。その一択を選んでなくて」


「知らなかったのなら仕方ないね。今後は利用すると良いよ。街間なら定期馬車も出ているしね。乗り合いになるらしいけど、金額もお手頃らしいよ」


乗り合いか・・・詰め込まれて輸送されて・・・なんか嫌だな。それならデニスまで行くのに馬車を買えば良いのか?


「・・・馬車って一体いくらするんだ?」


「うーん、一概には言えないと思うけど・・・金貨10枚くらいじゃないかな?」


バッとリオンの金袋を開ける・・・かき集めればありそうだな。うむ、有意義な買い物だ。チラリとリオンを見ると


「無駄金だ・・・歩け」


「どこが無駄金だ!ナキスの言葉を聞いてなかったのか?」


「そんなんだから、軟弱になるんだ。男なら歩け」


「・・・わたし女だけど・・・」


「・・・車輪のついた乗り物を買えば俺とアシスで引いてやる」


俺は馬か!


「いやよ、恥ずかしい!」


「なら、歩け」


即答するリオンにイノは助け舟を探す。俺と目が合うが、瞬時に逸らしてナキスを見た。なんかショック


「王子から何か言ってやって下さい」


「僕かい?多分無理だと思うけど・・・」


「お願いします・・・この中でまともなのは王子だけなんで」


この中って馬車の中だよな?俺もいるよな?あれ?


「リオン・・・君は効率って言葉を知ってるかい?」


「ああ」


「効率良く旅をするには馬車が必要じゃないかね?」


「旅をしながら歩いて足腰を鍛えるのも効率良い」


「そうだね・・・ダメだったよイノ」


こいつ・・・絶対説き伏せる気ないだろ


「うぅ・・・!そうよ、早く目的地に着けるわ!」


「走ればいい」


「くぉの・・・アシス!・・・は無理か・・・」


外を見よう。ほら、綺麗な花が咲いてるよ。泣いてない。泣いてないよ。と、外を見てると馬に乗って併走しているジェイスと目が合った・・・チッと言われた。中も外も残酷です


「まあ、突然馬車を買う気になったのがなんでか知らないけど、馬車を買うのはやめといた方が良いね」


「なぜ?」


「街と街の間の整地された街道ならまだしも、村へ行く道なんかは整地されてない所がほとんどなんだよね。そんな所を馬車で通ったらお尻が大変な事になるよ」


「おおー、リオン!ケツ筋が鍛えられるぞ」


「なるほど!」


「なるほどじゃない!馬車いらない!」


などとくだらない話をしてる間にホーデンを抜けフレーロウまで残すところ半分といった辺りで、噂の乗り合い馬車が前からやってきた


こちらの馬車を見て、少し端に寄っていくが、この馬車に誰が乗っているのか知っているのだろうか?それとも周りの近衛兵の姿で判断したのか。乗り合い馬車は完全に止まり、こちらの馬車が通り過ぎるのを待っているみたいだ


うん?馬車の屋根の上に人?が乗っているのか?見張りか何かと思ったが、その人影はこちらが通り過ぎる直前を見計らったように飛び降り進路を塞ぐ


「お、お客さん!」


乗り合い馬車の主人だろうか、男が飛び降りてきた客を諌めるが、時すでに遅く、こちらの馬車が止まると同時に近衛兵が一斉に剣を抜き近づく


「そこをどけ!」


「あー、そういうの良いから」


馬上で剣を向けて命令するが、相手は涼しい顔で受け流す。そして、プルンプルンしてる・・・女だ


「姉さん!?」


止まった事に何事かと窓から顔を出したイノは、女を見た瞬間に叫ぶ。耳がキーンだ


「ああ、やっぱり一緒にいたのね」


イノに姉さんと呼ばれた女は、近衛兵の剣を手で押しのけ、こちらに歩いて向かってくる。近衛兵達がどうしたものかと慌てふためいていると、ジェイスから激が飛ぶ


「馬鹿者!こちらに近づけるな!」


ジェイスの叫びに近衛兵達は我に返り再び女を取り囲む。だが、女の目に近衛兵は入っておらず、こちらの馬車に近づいてきた


「動くな!動かば斬る!」


ジェイスが構えるが、意に返さず歩き続ける女。ジェイスは躊躇せず切りかかるが・・・


「待て!ジェイス!」


寸でのところでナキスからの制止が入り、剣を振り上げたまま止まるジェイス


「若!この娘は!」


「分かっている」


ジェイスって外ではナキスを若って呼んでるんだなーと思ってたら、イノが馬車から飛び出し女に駆け寄る


「姉さん!なぜここに?」


「お姉ちゃんでしょ?なぜってあなたを迎えに来たに決まってるじゃない」


「・・・」


イノが返答に困っていると、首を傾げる姉ちゃん


「?どうしたの?帰るわよ」


「・・・帰らない」


「・・・シーラ・・・あなたこいつらに何かされたの?」


近衛兵達の動きが完全に止まる。ジェイスは結構やる方だと思ったが、役者が違うな。殺気の塊は2人の周りを包み込んでいる


「違う・・・わたしはもう・・・殺したくないの」


「やっぱり・・・こいつらに・・・それとも馬車の中に居る臆病者に?」


俺らのことかな?仕方ない


「こんにちわ」


「・・・?」


馬車から出て挨拶をしたが、無視されて首を傾げられた。挨拶が基本なんて嘘だった


「イノは俺らの仲間になった。今後は俺らと行動する」


「へぇー、それは良かったわね」


「「・・・」」


お互い見つめ合い数秒・・・無言のままだ。ちょっと周りくどかったか?


「イノを連れていくな」


「?ええ。別に私は人攫いじゃないんだから、知らない人なんかいらないわ」


「いや、それなら良いんだ。イノ、馬車に戻るぞ」


さっき、イノが姉さんとか呼んでた気がするのだが・・・まさか二人とも盛大な勘違いして、引くに引けなくなってたのか?

妹よ!姉さん!・・・誰だこいつ・・・みたいな


「ねえ・・・あなたさっきから何を言ってるの?」


俺がブツブツ考えながら馬車に向かってると、後ろから殺気を放った偽姉ちゃんが問いかける。さて、いよいよ混乱してきたぞ


「待て!」


そこに混乱に拍車をかける天才のリオンが馬車から降りてくる。こいつ今まで寝てやがったな


「君は何者だ!?」


ズカズカと歩いてきて偽姉ちゃんの前で立ち止まると、鼻息荒く尋ねやがった。混乱した時はストレートに聞くのが一番か


「シーラの姉よ。あなたこそ何者よ」


突然現れた男に呆れながらも、丁寧に答える偽姉ちゃん


「リオンだ!結婚してくれ!」


よし、拍車がかかったぞ。俺は馬車の中にいるナキスに近寄り小声で話しかけた


(おい、得意の推察を披露してくれ)


(途中までは分かったけど、最後のは意味不明だね)


(そうか)


再び3人の元に戻り、頭の中を整理する。まず偽姉ちゃんはイノとシーラを間違えて恥ずかしい。イノは姉ちゃんと偽姉ちゃんを間違えて恥ずかしい。俺まとも。リオン偽姉ちゃんに求婚・・・嘘だろ・・・ものの数分で起こったとは思えない


「ねえ・・・アンタ達ふざけてるの?そういうの腹立つんだけど」


言って両手を腰の辺りに動かして、攻撃の準備の体勢を整える。周りの近衛兵達も緊張を高めるが・・・


「一目惚れしたんだ!目が覚めたら理想の女がいた!でかい胸!美しい髪!誘うような腰ライン!吸い付きたくなる唇!でかい胸!」


全員固まった。てか、リオンの理想ってなんか・・・でかい胸って2回言ってるし


「ハァ・・・そう。分かったわ・・・」


おお、まさかの結婚かと思いきや、偽姉ちゃんは素早く短剣を取り出し、リオンに向けて放つ。こいつもカムイと同じ暗殺者か?


「愛の投擲!しかと受け止めよう!」


なんかおぞましい事を発しながら、リオンは短剣を弾く。弾かれた短剣はあさっての方向に飛ばされたと思いきや、偽姉ちゃんの手に吸い込まれるように戻った。受け止めようとか言って弾いてんじゃねーよ


「鳥肌が立つわね・・・良くこんな連中と居られたわね」


イノを見ながら偽姉ちゃんはため息をつく。心外だ・・・こいつと一括りにされてしまうとは


「次はこちらから行くぞ!」


「いいえ・・・ずっと私のターンよ」


先程と同じようにリオンに向かって短剣を投げるが、そのあとすぐに上空に向かっても短剣を投げた。正面と上から攻める気か・・・だが、リオンには


「剣円舞!」


短剣が通る隙間が無い程濃密な剣の嵐が短剣の行く手を阻む


「なるほどね・・・じゃあ、こうしましょう」


正面と上空の短剣が弾かれて、正面に放った短剣が手元に戻ると、今度は剣円舞の射程より外れた所に短剣を投げる。ちょうどその先にいた近衛兵が「うお!」とか言ってる。狙いを変えた?すぐさま短剣の方に向かうが短剣は孤を描き、リオンを再び狙い定めたように向きを変える


「小癪な!」


再びリオンが剣円舞を繰り出すが、短剣はそこに向かわず、また射程を外れ飛んでいる・・・リオンを囲むようにして飛んだ短剣は偽姉ちゃんの所に戻らず地面に突き刺さった


「自由に動かせる訳ではないのだな」


「いえ、自由に動かせるわよ?」


偽姉ちゃんは短剣を正面から放つ。無駄と言わんばかりに、剣円舞を発動しようとした瞬間


「む!?」


剣円舞は発動せず、短剣がリオンを掠める。リオンの頬から一筋の傷が出来、そこから血が流れる。なんだ?リオンの動きがおかしいぞ


「これは・・・」


「ふふ、決して切れない特別製の糸が短剣に括りつけてあるの。しかも、注意して見ないと分からない程に極細のね」


なるほど・・・それで短剣が手元に戻ったり、自由に曲がったりしたのか


「むっ、これしき!」


リオンが腕に巻き付いた糸を解こうとするが、上手く解けずもがいている


「やめてよね・・・貴重な糸が使い物にならなくなるわ」


パチンと指を鳴らすと糸が解けたのかリオンの体は自由を取り戻す。糸は指先についてたのか


「次は・・・こうはいか・・・ん」


リオンの様子がおかしい・・・いつもの事だが


「おやすみなさい」


偽姉ちゃんがリオンに近づき額を指で弾くと、仰向けで大の字になって倒れ込む


「何をした?」


「眠り薬よ・・・話が通じなさそうだったからね。あなたは?」


「遠慮しよう」


「そっ・・・帰るわよ」


またもやイノを見て言う偽姉ちゃん。そんなに間違えた事を認めたくないのか・・・


「だから・・・」


「アシス!・・・わたしの本当の名はシーラ・・・イノじゃないの」


「・・・え?」


「その・・・言い出せなくて・・・」


「なによ、イノってあなたの事だったの?道理で話が通じないと思ったわ」


「じゃあ、あの時名乗ったのは・・・」


「あの時、名乗ったつもりはないの・・・『言えないの』って言ったら、アシスが・・・」


語尾だけ聞こえてイノと勘違いした・・・マジか


「勝手に人の妹に名付けないでくれる?まったく」


横目で俺を見てため息をつきながら、イ・・・シーラ?に歩み寄る


「帰るわよ・・・今回の件は父の判断待ち・・・メディアにいる必要は・・・」


「さっきから言ってるでしょ?帰らない!」


「・・・本気で言ってるの?」


「本気よ」


「そう・・・分かったわ」


更に近づく本姉ちゃんの前に立ちはだかる


「本人が帰らないと言ってんだ。黙って帰れよ」


「誰にものを言ってるんだか・・・死にたいの?」


「出来るのか?」


「さっきのが全てと思わないでね・・・かすり傷1つで死ぬ恐怖・・・とくと味わいなさい」


「待て!」


ここで今まで静観していたナキス登場。近衛兵達は揃ってナキスの前に立ち、生きた盾となる


「あらあら、王子様まで現れるなんて・・・」


「お初目にかかるカムイのお嬢さん・・・お名前を聞いても?」


「死にたいの?」


「いや、知りたいね」


バチバチと音が聞こえるくらい絡み合う視線。良くナキスの目を見返せるもんだ


「これ以上、でしゃばらないでくれる?ただでさえあなたのせいでウチは混乱中なのに」


「なぁーに、乗り掛かった船さ。それに君らの目的を知った僕が、動くことぐらい君らは知っているだろ?」


「・・・食えない男は嫌いよ?」


「食われる気はないからね。光栄と受け取っておこう」


「・・・人の妹をかどかわして連れ去るなんて一国の王子のすることかしら?」


「1人の女性が拒否しているのを見逃すのは王子としての矜恃に反するね」


「本当・・・やな男ね」


「よく言われるよ」


「ただの姉妹喧嘩よ。関わるだけ無粋よ?」


「兄弟喧嘩で国を割ったとされる一族なんでね。過敏に反応してしまうのも仕方ないだろ?」


「ああ言えばこう言う・・・少しは黙ったらどう?モテないわよ」


「そうだね。お兄さんを見習って寡黙になるのも良いかもね」


「・・・てめぇ」


お兄さん・・・本姉ちゃんのお兄さんって事は、シーラのお兄さんでもあるって事か?


「怖いなぁ~、僕らがいがみ合っても話は進まないからやめにしないか?」


「あなた達が引けば済む話よ」


「そうもいかないと思うよ?シーラはカムイをやめて阿家に保護・・・いや、与する事になったみたいよ?」


「は?」


ナキスの言葉に、理解が追いつかなかった本姉ちゃんが首をかしげた。その様子を見ていたシーラが1歩前に出て本姉ちゃんに向き合う


「わたしはカムイを抜ける・・・もう戻らない」


「・・・家族を裏切る気?」


「姉さんと兄さんはこれからもずっと家族だと思ってる。でも、わたしは暗殺者には戻らない!父さんのあやつり人形にはならない!」


見つめ合う2人・・・固唾を飲んで見守る俺たち・・・寝てるリオン


「・・・そう」


ハッキリとした拒絶に観念したのか、本姉ちゃんは目を閉じ呟いた


これで本姉ちゃんも引いてくれると思いきや、今度はこちらを向いて目を細め、何かを見定めてる


「あなたが阿家の現家主ね」


「そうだ」


「グルム達は?」


「1人は死んだが、4人は生きて保護してる」


「暗殺に来た者を保護?何を考えてるの?」


「生きてるのはイノ・・・じゃなくて、シーラの願い。保護してるのは情報漏洩を防ぐ目的も兼ねている。それに奴らが戻ったとしてもどうせ粛清されるんだろ?」


「粛清って・・・罰は受けると思うけど、それは父の判断だから何とも言えないわね。まあいいわ、どうせシーラの為の肉壁要員・・・生きてる事は黙っててあげるわ」


「それは助かる」


恩着せがましい感じだが、奴らもカムイの一員。持ってる情報などを考えると、生きてる段階で的になるのは確実。生死不明ならば執拗に狙われる心配は薄れるだろう


「あと・・・あなた達はどうするつもり?」


「うちのジジイが狙われて、仲間が1人の殺された・・・カムイを潰してやろうかとも思ったが・・・ジジイを狙わないのなら勘弁してやる」


「勘弁って・・・どんだけカムイを舐めてるの?しかも、ウチは2人、そちらは1人・・・勘定が合わないわね」


「ウチの1人がお前らのクソ暗殺者と同じと思うな。潰すぞ」


「今、私を煽って良いことなんてあるかしら?」


「損得勘定で生きれるほど器用じゃないのでな」


本当の所はナキスに言われて冷静に考え、死んだ者の復讐ではなく、生きている者のこれからを優先する事にした。だから、カムイとの戦いはなければそれが1番良い


「・・・面白い男。そうね、決めたわ。私もあなたについて行くわ」


「なぜ?」


全力でお断りしたい


「大事な妹に悪い虫がつかないようにするのはお姉ちゃんの仕事でしょ?」


「あんたも大概いい虫に見えないがな」


「こんな美人をつかまえて、虫扱いは酷いんじゃない?せめて、花とかに例えなさいよ」


「ああ、花の16歳の姉ちゃんだもんな」


「花の・・・?」


「アシス!」


なんだ、自分で言ってたのに恥ずかしいのか。俺の鬼の~を馬鹿にしたくせに


「まあ、いいわ。何と言われようとついて行く。で、あそこで寝てる男は殺して良い?」


「うーん・・・・・・ダメだ」


「即答じゃないのね?」


「リオンも勝手についてきてるだけだ。恩も義理もない。借りはあるがな・・・」


金の。働いて速攻で返してやる!


「ふーん」


「なぜ殺す?」


「さっきの見てたでしょ?いきなり求婚してくる男・・・ウザイじゃない」


「ウザイだけで殺すなよ。それに平気だと思うぞ?本人に聞いてみるか?」


「無駄よ・・・後数時間は起きないわ。このまま置いていって獣の餌にした方が人類の役に立つわ」


エラい言われようだ。寝てるリオンに近づき、胸の辺りに手を当てる。さて、上手く出来るか・・・


「阿吽」


「アシス!?」


イノ・・・シーラが心配そうな声を上げる。そりゃそうだ。前にこの技でカムイの奴を1人殺してるし


「安心しろ・・・起こしてるだけだ」


眠りに効くかは分からないが・・・っと、思ったら効いたみたいだ


「飯か!」


ムクっと起き上がり叫ぶリオン。起こさなきゃ良かったと後悔真っ只中だ


「嘘!?なんで!?」


「阿吽は技じゃなくて、呼吸法。癒すのも壊すのもお手の物ってね」


俺の代わりにナキスが答える。こいつ色んな事知ってるな


「相手の力に合わせれば、それは活力になる。1度戦った相手なら何となく合わせる事は可能だな」


「・・・俺は?」


「そこの本姉ちゃんに眠らされてた」


「本姉ちゃん?なによ、その呼び方」


「名前知らないからな」


「負けたのか・・・アシスに続いて2連敗・・・俺は・・・」


地面に膝と手を付き項垂れるリオン。こいつダーニでも四つん這いになってたな。よく項垂れる奴だ


「無様ね。これに懲りたら私の事は諦めなさい。そもそも好みじゃないのよ」


うわー、グサグサと容赦ないな


「無論!負けたとあらば、諦める!」


「あら、潔いいのね」


付き合いは短いが、こういう奴だよな・・・リオンって。でも、次の言葉も容易に想像出来る


「今!この時は!」


「は?」


「負けたなら次勝てば良い!強さに際限なし!いずれまた求婚させてもらおう!」


「・・・ねえ、何が平気なの?やっぱりウザイじゃない」


「アンタの方が強ければ求婚されないだろ?それともついてくるのやめるか?」


「・・・ますます妹1人を置いて行けなくなったわ」


「あっそう、勝手にしてくれ」


リオンの暑苦しさで姉撃退作戦は失敗に終わった・・・


「シーリスよ」


「ん?」


「本姉ちゃんとかアンタとか呼ばれたくないわ」


「暗殺者のアンタが名乗って良いのか?」


「名乗らないのは名乗る必要が無いから。死ぬ相手に名前知られても意味ないでしょ?これから一緒に行動するなら必要でしょ?」


なるほど・・・イノもといシーラは『言えないの』、シーリスは必要ないから・・・この違いに何かあるのか


・・・ヤニムが寂しそうな顔でこっちを見てる。近衛兵の馬の後ろに乗せられており、腕はロープ、口は布で塞がれているので、喋る事も動くことも出来ない。目で必死に訴えてるが・・・


「私も馬車に乗せてもらっていいかしら?」


言うが早いか馬車に乗り込むシーリス。ちなみにシーリスの乗ってきた馬車はシーリスとリオンがイチャついている間にスタコラ行ってしまっていた


「おい、アイツには何かないのか?」


同情した訳じゃない。寂しそうな視線をヒシヒシと感じるのが嫌なだけだ


「アイツ?」


馬車の窓からひょこっと顔を出し、ヤニムを見るとしばらく考えて


「誰よ?」


「お前の所の斥候だろ?」


「知らないわよ。ちなみに次にお前って言ったら・・・」


「分かった分かった、シー姉ちゃん」


「勝手に変なあだ名付けるんじゃないわよ!良いからサッサとフレーロウに戻るわよ!」


おま・・・シー姉ちゃんが行く手を阻まなけれはばとっくに着いてたのに・・・と言う言葉を飲み込み、俺も馬車に乗り込む


「え?なんで?姉さん?」


未だに会話の流れについていけてないシーラ


「チャンスは無限」


野望に満ちたリオン


「僕の馬車なんだけどね」


いつの間にか蚊帳の外のナキス


3人が乗るまでしばしの時間を要し、ようやく乗り込んだ時にはヤニムは泣いていた





フレーロウに入ってるはずが、未だに到着せず


リオンのせいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ