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1章 10 ナキス・ロウ

予期せぬ形でゲイクの仇と会えたが、状況がイマイチ分からない。リオンに腕を拘束され連れてこられた2人。たまたま見つけたからではないのは確かだろう


「知り合いだったのか?リオン」


「顔見知り・・・程度だな。まあ、利用されたってのが本当の所だが」


「利用?」


「俺が強者を求めてるのをどこかで聞きつけたこいつらが、南に『大剣』ラクスが向かったと教えてくれた。それを信じて南に向かったのは良いが、まさか殺しの片棒を担がされるとはな」


なるほど・・・なぜカムイがラクスの位置を知っていたのか疑問だが、リオンを陽動に使ったってことか


「お、お嬢・・・俺の顔は覚えてるだろ?フレーロウで会ってるはずだ・・・」


「フレーロウ?」


「メディア国の王都だな」


俺の質問に答えてくれたのはリオン。イノは2人の男を見ているが無言のままだ。食事をしていた連中は先程とは打って変わって静まり返り5人の様子を伺っいる


「お嬢!何とか言ったらどうだ?」


腕を捻られ苦痛の表情を浮かべながらも、現状の打破にはイノの助けが必要と判断しているのか、執拗に「お嬢」を繰り返してる


「なんで・・・彼を殺したの?」


「は?」


彼とは「ゲイク」・・・だが、2人は何のことか分からないと言うように首を傾げた


「ダーニの村で見張りをしていた・・・」


「あー、アイツね・・・それは・・・まあ、そうだ・・・グリム達が見当たらなかったから、殺られたと思って・・・その・・・仕返しの意味で・・・な」


「阿」


左足に力を込め、懐に飛び込むと静かに・・・力を解放する


「吽」


「グッア!」


目から鼻から口から同時に血を吹き出させ、リオンに拘束されていた男は、呪縛から解き放たれたように床に倒れ伏した。後1匹・・・


「ま、待て待て!」


「アシス!」


リオンとイノの止める声が遠くから聞こえたような気がする。すぐさまもう1匹に狙いを定めるが、リオンが拘束を解いたのか床に座り込んでしまった


と、同時に周りの者達が騒ぎ立てた。席を立つ者、2階に逃げ惑う者のが視線の端に写るが関係ない。ただ前の男の息の根を止める事だけで良かった


「イノ!」


リオンが何を思ったか座り込んだ男を抱え外に出る。その際にイノに呼びかけていたが、イノは何かを察したのか俺の前に立ち塞がった


「・・・アシス・・・」


悲しげな目をしてる・・・元仲間が殺られたからだろうか・・・悪いが今はそれどころじゃないんだ・・・追わないと────


リオンは男を抱え宿屋を出た後、ひたすら走った。まさかアシスがあのような行動に出るとは予想だにしなかった。激昴する、殴り掛かる、問い詰める・・・そんな予想を遥かに超えていた


「・・・」


この者達が何をしたかを知っているリオンは、死んで当然と思っていた。仲間を後ろから刺されて殺されたのならリオンはこの者達を許さない。が、あくまで戦って倒すのがリオンの流儀。自分が拘束していた事により、無抵抗な人間が目の前で殺された事により頭の中が混乱し言葉で制することが出来ず抱えて逃げたのだ


「アシス!!」


殺気の渦がリオンと男を取り囲んでいるのに気づいたリオンは大声で叫ぶ。標的が自分ではないことは承知している・・・が、これは戦いではない・・・狩りだ


「なんだ?」


すぐ近くに声を感じ、焦って声のした方に振り向くとそこにはアシスがいた。舌打ちし剣を振るい牽制するリオン。当てる気がない剣は力なく振るわれるが、予想外の出来事にアシスは一旦身を引く


「そうなのか?」


ゾワッと背すじに悪寒が走る・・・このままではアシスに敵と認定されると思ったリオンは男を離し、剣を鞘に収める


「勘違いするなアシス!!待て・・・良いから落ち着け!」


夕暮れ時、人通りもかなりある中、剣を振り回し男を抱えるリオンとそれを追いかけるアシスは注目の的だった。リオンは鋭く周りに目をやり救いの手を探すが見つからない


「勘違い?なにが?」


殺気を放ちながら歩いて近付いてくるアシス。リオンは更に言葉を続ける


「分かるだろう!?俺とお前は剣で語り合ったはずだ!」


「それで?」


「俺は敵じゃない!こいつと戦うのは良いが、時と場所を選べ!」


「こいつがゲイクを殺した時、時と場所を選んだか?」


「お前が敵と同じ事をしてどうする?お前は強い!だから、余裕を持って・・・」


「殺すのにそんなものはいらない」


スっと間合いに飛び込み、男に手を伸ばすアシス。虚をつかれたリオンは慌てて男を蹴り飛ばしアシスとの間合いを取る。グルリと首が曲げられ、リオンを見据えるアシスの目は薄暗く淀んでいるように見えた


「アシス!」


イノが追いつき叫ぶがアシスには届かない。男に再度向き直り歩を進めるアシスにリオンは腹を決め剣を抜く


「・・・敵じゃないんじゃなかったのか?」


「敵じゃない・・・だから、俺は立ち塞がる」


「意味が分からないな」


「こいつらは人を後ろから殺す非道な連中だ。お前の今の行動はこいつらと一緒だ。俺はそんな奴らと同じになって欲しくないんだ!仲間として!」


「・・・わたしも立ち塞がる!ヤニムの味方としてではなく、あなたの仲間として!もし・・・もしあなたがわたしを拒むならわたしごと殺せば良い」


ヤニムとはリオンに蹴っ飛ばされた男


リオンとイノの2人から続け様に言われ、少し冷静になっていくアシス。ゲイクの無念を晴らすという想いは消えてない。しかし、必死に訴える2人を見て自分の行動が身勝手な事なのだと気づく


「・・・ああ、悪いな・・・」


一息付きながら上を見上げ、そうこぼすアシス。2人はその様子に安堵し、蹴飛ばされた痛みも忘れ、アシスの行動に恐怖と混乱の極みのヤニムがいた。


その一連の流れをとある宿屋の2階から見ていた人物がいた


「凄いね・・・僕でさえ殺気・・・かな?それを感じることが出来るなんて」


「確かにかなり濃い殺気でした」


窓から見下ろす形で覗く人物と片膝を床につけ答える人物。その構図から主従の関係が見て取れた


「面白いね・・・街中であれだけ騒ぎを起こせば・・・ほら来た」


野次馬を掻き分けて、お揃いの服を着て腰に剣をぶら下げている男達がアシス達に近付く


「守備兵として及第点かな・・・被害も出てないし・・・ところで彼と戦ったらどうなる?」


「少し手こずる・・・程度かと」


窓の様子を気にしながら、横に跪く男に話しかけると男はサラリと返す


「そうか・・・大したもんだ。ちょっと行ってくるよ」


「お気をつけて・・・彼らは連れて行って下さい」


「分かってる・・・出掛ければ勝手についてくるし、大丈夫だよ」


男はヒラヒラと手を振り、部屋から出ていく。残された男はため息をつきながら、立ち上がり窓の外を見た


「お忙しいお方だ・・・」


何かあればすぐにでも飛び出せる体勢でこれからの成り行きを観察する────


「そこまでだ!」


俺が落ち着いたのを見計らったようにお揃いの服を着た男達が俺らを囲むように陣取る。腰にぶら下げた剣を引き抜き、間合いを取りながらジリジリと詰め寄ってきた


「ちっ、守備兵か」


リオンがボヤくと剣を収め、両手を上げて抵抗の意思がないことを表している。守備兵・・・そうか、ここは領主のがいて、兵士も何人かいるんだよな。治安維持の為とかなんとか


「大人しくしていろ!お前もだ!」


特に騒ぎ立てたりしていないが、警戒しているのか詰め寄る速度も遅い


「お前ら・・・宿屋の件で聞きたい事がある」


なるほど・・・ここで騒いでた件ではなく、宿屋の死体を見てきたか。そうすると・・・どうなるんだ?


(街の中での殺しはご法度・・・捕まる前に街を出るぞ)


素早く後ろに周り、小声で告げるリオンに頷くとイノとヤニム?と呼ばれた男の方を見る。アイツを逃がす訳にはいかないが、連れて逃げるのも大変そうだ・・・いっそ守備兵倒しておくか?


(決して守備兵に手を出すなよ)


どうやら俺は心が読まれやすいようだ。あっさりリオンに看破され釘を刺される


「コソコソするな!」


守備兵の1人が剣先をこちらに向け、俺とリオンを注意する。さてどうしたもんかと考えていると人混みを掻き分け、1人の男が現れた


年の頃ならラクスと同じくらいだろうか。真っ白い服の中心に豪華そうな真っ赤な宝石をつけ、長い金髪をなびかせて歩く姿は優雅さを感じさせる。顔も女みたいだが・・・ない、男だ


「ちょっと良いかな、君たち」


見た目位が高そうな男に話しかけられて、守備兵はお互いを見つめてどうするか考えている感じだ。剣も持ってないし強そうに見えない・・・何しに来たんだ?


「何用だ・・・でしょうか?」


守備兵も颯爽と登場した男を掴みかねてるのか、言葉遣いがおかしいことになっている


「彼らの身柄は僕が預かろう。君たちは解散して結構だ」


優しげに言っているが、その言葉には有無を言わさない迫力があった。守備兵は理解が追いつかないのかオロオロしている


「そういう訳にはいきません・・・どなたか存じませんが、決定権は領主直属の守備兵隊隊長の私に・・・」


「領主には僕が伝えておこう。ついでに野次馬の解散もお願いしたい」


「なっ・・・きさ」


反論しようと叫ぶ守備兵隊長の後ろに更にごつい男がスっと立つと、隊長に何か耳打ちしている


「はっ!かしこまりました!」


突然態度が変わった隊長は、すぐさま隊員に指示し、野次馬を解散させ始めた。守備兵が野次馬に意識を向けると野次馬たちはブーブー言いながらもすぐに散り散りとなる


「後はお任せします!」


隊長は跪き、そう告げると守備兵を引き連れて足早に去っていく。俺らは何が起きてるのか分からず事の成り行きに身を任せその場に棒立ち。守備兵隊長より、領主より偉いやつ?


「やあ、待たせたね。ここだと人の目もあるから、僕が泊まっている宿屋に行こう」


ここでヤダと言っても話が長引くだけと判断し、イノとリオンに目配せしてついて行くことにした。もちろんヤニムも一緒に


男が歩くとその後ろに隊長に耳打ちしていた男と同じような恰好・・・鎧か?に身を包んだ男達が陣取りついて行く。俺らはそいつらの更に後ろを歩いていると宿屋はすぐ近くで鎧の男が宿屋の扉を開け男を招き入れていた


「どうした?こっちだよ」


その光景を立ち止まって見ていた俺らに笑顔で振り返り言うと奥へと消えていく


「待て!」


いざ入ろうとした時、宿屋の扉を開けた男が話しかけてきた


「ん?」


「腰のものを外してもらおう」


「気にするな」


「・・・外せ」


「断る」


「この・・・」


「おーい、良いから入れてくれ!」


扉男がキレそうになった瞬間、奥に入った男が絶妙なタイミングで声をかける


「しかし!」


「良いから!」


少し怒気が混じっているのを感じたのか、渋々俺らを通す扉男


「ご苦労」


「ぬっ!きさま!」


「ジェイス!」


俺がからかったら、腰の剣に手を伸ばしたジェイスに更に飛ぶ奥からの叫び・・・ジェイスの血管は今にもぶち切れそうだった・・・いた!


「・・・」


無言でイノに叩かれた。どうやらおいたが過ぎたようで、頭を擦りながら中へと入った


「手狭で悪いな。好きに掛けてくれ」


両手を広げテーブルの奥に座った男は俺らを促す


「分かった」


円卓のテーブルに椅子が8つ・・・ここはここだろう


「・・・なぜそこなのかな?」


「何となく」


「アシス!・・・バカ!」


男の隣に座った俺にイノが鬼の形相で近付いてくる。さすが鬼の16歳・・・は、俺か


「待て!好きに掛けてくれと言ったのはこいつだ!」


イノの後ろから扉男も鬼の形相で近付いてくる!怖い・・・チビりそうな位怖い顔だ


「良い!僕が言ったのだ・・・下がれ!」


イノに言ったのではなく後ろのジェイスに言ったのだろうが、イノも止まりすごすご戻り席に着いた


円卓のテーブルに奥に金髪ロン毛男、その左隣に俺、2つ空いてイノ、リオンが座る。リオンの後ろにヤニムがジェイスと同じような恰好の男2人に拘束され、鬼の形相であろうジェイスが俺の後ろに立っている・・・目線が痛い


「くくっ・・・このようにテーブルを囲うのは初めてだね。事情は詳しく知らないが逃げていた君は拘束させてもらうよ」


男の鋭い眼光を受けて、ヤニムは目線を落とす


「あらためて・・・はじめまして、メディア国国王の息子、ナキスと言う」


「は?」


「王子だと!?」


イノが呆けてリオンが叫ぶ。ジェイスの視線はMAXだ


「僕にも事情があってね・・・すぐに明かせずに申し訳なかった。お忍びの視察に来て権力を奮うと領主のが嫌がるのでね」


「ご苦労なこった・・・と!」


頭上に拳が降ってきたので、それを受け止めて拳の主の顔を見た・・・あらやだ湯気が頭から出てますよ?


「ふざ・・・ふざ・・・ふざけ・・・」


労いの言葉をかけただけなのに、呂律が回らないほどお怒りになるとは・・・


「ジェイス・・・いい加減にしないと退出させるぞ?」


「ナキス様!我ら近衛隊は御身を守る事は勿論!立場も守るために存在しております!このような下賎の輩に・・・」


「お前の言い分は分かった・・・だが、以降口を挟むことを禁ず。破れば退出せよ」


座りながら大して強くもなさそうな男が鎧を着たごつい男を諌めている。権力ってのもあるのだろけど、こいつは・・・違う


「君もあまりジェイスをいじめてくれるな」


笑顔で話しかけてくるが、目が合った途端にその言葉に重みを感じる。大したことは言ってない、命令口調でもない。だか、心の奥底を揺さぶる何かがある


「・・・ああ」


目線を切り、やっとこさ答えることが出来た。隣に座った理由はこれだ。こいつの目はやばい・・・見つめられると・・・何とは言えないがやばい事は確かだ


「ふふ、とりあえず名前を教えてくれないか?」


「アシスだ」


「・・・イノです」


「リオン」


「・・・」


ヤニムはイノの所で目を見開き、じっと見ていたが自分の番になったら、下を向き名乗りを拒否する。まあ、暗殺者が名乗るのもおかしな話か


「まあ、良いだろう。事情は察するに仇討ちって所かな?」


「へぇー、なんで?」


「街中で堂々と大立ち回り、相手は軽装で短剣持ち・・・よくいる暗殺、盗賊関係だね。君・・・アシスの怒気は見た感じかなりのものだったから誰かが殺されたのかなって思っただけだよ」


「凄い大事な物を盗まれたのかもよ」


「それはないな」


「言い切るなぁ」


「だって、大事な物なら取り戻すのに必死にはなるけど、殺すのに必死にはなると思えないんだよね」


チッチッチッと指を立てたあとに横に振り、自分の推論に酔ってるかのような振る舞い・・・ウザイな


「ただの推論に付き合ってる暇もない。用はなんだ?」


「うん。やめて欲しいんだよね。殺すの」


混乱の極みだ。突然現れた王子は酔狂にも争い事に首を突っ込み人の仇討ちを止めてくる。なんの冗談だ?


「お前は自分の近しい者が殺されて、黙って指をくわえて見てるだけの玉無しか?」


ザワっと音が聞こえるくらい殺気が部屋に充満する。誰のではない・・・この部屋全ての近衛隊の殺気が俺に集中しているナキスは気にせず片手を上げて殺気を散らすと俺に顔を向けた


「君は勘違いしてる」


「ん?元から玉はなかったとかか?」


「ふふ、それは君が確認したまえ。僕が言いたいのは、前提の話だよ」


確認してたまるか!・・・前提?


「君は僕の親族が殺されたら・・・なんて言ってたが、それ自体が勘違いなんだよね」


「ロウ家は特別だとか?」


「そうなら良いんだけどね。でも実際は普通なんだよね。だから、殺されれば普通に死ぬよ」


「なら・・・」


「回りくどくてごめんね、性分なんだよね。答えから言おう。僕は親族を殺した相手を殺さないよ」


「・・・」


「君は勘違いしてる・・・殺されたらなんて既に意味が無い質問だよ」


「は?」


「君は殺された親族が、殺した相手を殺せば生き返るとでも思ってるのかい?」


「そんなわけ・・・」


「ないよね。じゃあ、なんで殺すんだい?」


「やられた事をやり返すだけだ!」


「それで?」


「・・・それ以上でも以下でもない」


「なるほどね・・・戦争がなくならないのはそういう事なんだよね」


「てめ・・・」


「君は『殺されたら』と言ったね。じゃあ、逆に問おう。なぜ殺されるのを指をくわえて見てたんだね?」


「な・・・に?」


「仲間が殺される瞬間、君はどこで何をしていたのかね?本当に助けられなかったのかね?どうすれば良かったか考えたかね?君は『殺されたら』と僕に問うた。だが、その前提はおかしいんだよ・・・もう終わってるのに聞いてどうする。殺されたら終わりだ。相手を殺そうが何しようが生き返らない。なら、どうする?殺されないようにするんじゃないのかな?阿家の新家主よ」


「おま・・・」


「まあ、座りたまえ。その反応を見ると合ってたってことかな?」


椅子から立ち上がった俺を軽く制し、ナキスは続けてイノを見つめる


「そう思わないかい?『シ』を司るカムイの娘よ」


イノもガタッと音を立て席を立つ。顔は蒼白でナキスをこれでもかと見開き見つめている。『シ』を司る?


「あー、すまないね。推察が好きでね・・・ついつい人を見て考えてしまうんだよね。誰なんだろう・・・てね」


「じゃあ俺は誰だ?」


リオンが椅子にふんぞり返りながら言うと、ナキスはクスリと笑い一言


「誰だろうね。誰でもないんじゃないかな?」


正解


「強いて言うなら、隻腕の物凄く強いお兄さんがいる事ぐらいかな?」


「おい!なんでそれを!?」


「意外と見た目って情報を持ってるんだよね。まあ、僕が君のお兄さんを知っていたからこその推察だけどね」


パンと手を叩き、ナキスは再度俺に向く


「で、殺さないでいてくれるかな?」


「殺さない理由もない」


「理由があれば?」


「・・・」


「ふむ・・・何も無罪放免って訳ではないんだよ。彼には伝達者になってもらおうかと思ってね」


「伝達者?」


「うん。カムイに標的になってる者を殺さないでって頼もうかと思ってね」


「なんなんだ・・・どこまで知っている?」


「知らない事だらけさ。全部推察に過ぎないよ。だから、答え合わせをしてくれると助かるんだよね。狙われてるのはアムス。狙ってるのはカムイ。アムスは死んでない。アシスはカムイを倒す為に動いてる・・・そんな所かな?」


「どっかで見てきたような言い草だな」


「とんでもない。外れたらどうしようかとドキドキだよ。ただ外れてないとは思ってるけどね」


「概ねその通りだ」


「ありがとう。推察が当たってた時の胸にスっとする気持ちはいつまで経っても新鮮で心地良い・・・でだ。僕がカムイに対して一筆書く。それを持って行って欲しいんだ。鳥文・・・使えるだろ?鳥文と伝達者両方で手を打ち、どちらか届けば良い」


「どちらも届かなければ?」


「うん。届かない可能性を減らす為に僕がフレーロウまで彼を連れて行こう。フレーロウにはカムイの者がいるから、彼らの所まで届ければカムイの所まで届くと思うよ」


「・・・何者なんだ・・・お前は」


「言ったろ?メディア国の王子さ」


迂闊に目を見てはいけない・・・こいつは強さじゃない・・・得体の知れない化け物だ・・・


────


フレーロウにある居住区、その一角に主に貧困層が住む区画があった。物乞いなどはいないが、着てる服装、ガラの悪さ、無精髭を生やした厳つい男、むせ返るような匂い、一般の人が通れば身ぐるみ剥がされそうな雰囲気を醸し出している


その区画の1つの家に3人の男が話をしていた


「斥候はまだ戻らないのかよ?」


「定期連絡の日まで待てないのか?」


テーブルに足を乗せ、椅子をひっくり返る寸前まで傾けながら男が言うと、窓の外を見て警戒していた男が答える


「色気のひとつもねえとやってられないよなー?タナトス」


同意を求めるように、テーブルの席につき腕を組んで目を閉じていた男、タナトスに話しかけた


「色街にでも勝手に行ってこい。待つのも仕事だが、ギャアギャアうるさいと目障りだ」


「かー、冷たい冷たい。ヨング、いい場所知らねえか?ここの統括だろ?」


「本当に行く気かよ、アビル。首領に知れたら殺されるぞ?」


「お前らが告げ口しなきゃ分からねえだろ?」


「対価がなければ聞かれたら答えるぞ」


「タナトス・・・お前は息抜きって言葉をしらないのか?」


「息抜きが必要な程仕事をしてないお前に言われたくないな」


「仕事になったら、息抜き出来ねえじゃねえか!」


「ならば仕事が終わってから息抜きしろ」


アビルはガタンと椅子を鳴らし、大袈裟に両手を広げて首を振る


「あー、ヤダヤダ!仕事人間に付き合わせられると息が詰まって仕方ない!ヨング!お前も窓の外ばっかり見てても誰も来ねえよ」


「アビル・・・自分がサボるのは勝手だが、人の仕事にまでケチをつけるな」


「はぁ・・・早くおっぱい姉ちゃん来ないかなー」


「お前・・・首領の娘になんて言い草だよ」


テーブルにうつ伏せながら呟くアビル。それを聞いたヨングが笑いながら突っ込む


「お前らも心の中で思ってるんだろ?ありゃーおっぱいだ。おっぱいが歩いてるんだ」


「いい加減にしとけよ?アビル」


「タナトスは固い!はぁー、1度で良いから、あの柔らかそうなおっぱいで挟んでくれねえかなー」


「おい、アビル」


「天国まっしぐらだぜ!お嬢のない乳と比べたら雲泥の差だよなー何食ったあんなに実るわけ?」


「おい・・・」


「今度寝てる時に揉んでみるか・・・でけえと感覚が鈍いつーから、気づかねえだろ」


「お・・・」


ヨングの呼びかけを無視して、うつ伏せ状態から起き上がった瞬間、テーブルに短剣が数本突き刺さる


「え?」


「あら、運が良いこと・・・刺されば天国にいけたのにね」


いつの間にか部屋の中に入っていた女性、シグマの娘でイノの姉────シーリスだ


アビルの言うようにふくよかな胸を強調するかのように大きく胸元のあいた服を着て、髪をてっぺんで団子にまとめ、プクッと膨らんだ唇の湿りが妖艶さを増して魅せていた


「シーリス・・・いつから・・・」


「おっぱい姉ちゃんの辺りからね」


「最初っからじゃねえか!」


「ふうん、アレが最初で良かったわね。その前にも色々言ってたのなら、もう少し激しくいってたわ」


アビルの顎を指先で撫でた後、グイッと持ち上げてひっくり返した。椅子ごと後ろに倒れそうになったアビルは、咄嗟に両手を床につけ回転して倒れるのを回避したが、両頬の真横を短剣が通り過ぎ凍りつく


「わ、悪気があった訳じゃ・・・」


壁に突き刺さった2本の短剣を見ながらアビルは言う。両頬に一筋の傷が出来ているため、短剣の毒の有無が気になっていた


「毒は塗ってないわよ・・・毒は・・・ね」


「おい、それはどういう・・・」


言いかけたアビルの瞼が急激に重くなり、二三歩歩くと千鳥足になりそのまま倒れ込むように寝てしまった


「ふうん、数秒って所ね」


「仲間で実験するな」


「あら、相変わらずタナトスは固いわね。実践でいきなり使うよりマシでしょ?」


「希少な物と聞いてるが・・・」


「尚更じゃない。でも、実践じゃ使えないわね。素直に殺した方が早いし」


言うとシーリスは短剣を数本天井に向けて放り投げる。短剣は曲線を描き、倒れているアビルに向かう


「おい!」


短剣はアビルを綺麗に避けて床に突き刺さっていく


「焦った顔も素敵ね。どう?今夜・・・」


「オホン!」


タナトスを誘惑するシーリスにヨングが咳払いで自分はここに居るアピール。それを聞いてシーリスはつまらなそうに鼻を鳴らす


「野暮ね・・・黙って立ち去るくらい出来ないの?」


「野暮で結構。なに分任務中なんでね」


「つまらない男ね・・・で、その任務とやらを報告してちょうだい」


シーリスは空いていた椅子に座り頬ずえをつく


「現状、グリムからの連絡はなくマニュアル通り斥候を放った所だ。明日にも定期連絡が来るから、その時までは待機の状態ってとこだな」


「じゃあ、その子がいるってことは何か進展があったって事ね」


ヨングがシーリスの言葉を聞き、その目線の先を追うと窓の外に1羽の鳥が羽を休めていた


「ヤニムの鳥だな」


ヨングは近づき窓を開け、鳥を迎え入れる。鳥は慣れたように開けられた窓の隙間を潜り、小さく飛びヨングの肩にとまる


「やな予感しかしないな。うちの封じゃないぞ」


ヨングは鳥の足に括りつけられた文を取り外し、鳥に餌をやる。餌を受け取った鳥はまた小さく飛ぶと今度はシーリスの肩にとまった


「あら、ふふ。で、なんて書いてあるの?」


鳥を撫でながら文を見つめるヨングを促す。ヨングは最後まで目を通した後、大きなため息をついた


「お前らは無駄足かもな・・・首領に指示を仰ぐ案件だ」


ヨングはシーリスに近づき文を渡した。鳥の首を優しく撫でながら、反対の手で文を受け取るとテーブルの上に置いて読み始める


「やーねー、後手後手じゃない。いずれこうなる事が分かってたから先手を打ったのに」


「確かに奴らが介入してきた時点で首領案件だな」


シーリスはつまらなそうに吐き、タナトスは納得したように手紙から目を背けた


「じゃっ、私は行くわね」


「おい!首領に聞くまで勝手に・・・」


「あの子はね・・・痛みに弱いのよ」


ヨングの制止を手をヒラヒラさせてかわし、外に出るシーリス。ヨングはため息をつきタナトスを見た


「・・・お前はどうする?」


「早急に首領にこの手紙を届けろ。俺とアビルは指示が来るまで待機する」


「分かった・・・やれやれ、ヤニムたちは死んだか・・・」


「さあな」


床に倒れたままのアビル。仕事以外興味のないタナトス。2人を見てヨングは再び深いため息をつくのであった



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