1章 9 カネとクニとアダと
村の人々に奇異な目で見られながらもやっとこさ宿屋に到着。宿屋の女将が物凄く嫌な顔をしたが、サテスさんの説得と宿代の上乗せで話がついた。なぜ俺がリオンの宿代を・・・
リオンを1階にある一部屋に寝せて、まずは朝飯っと思った所でサテスさんがゲイくと交代してくると出て行った。俺が来たことにより半日で交代していた見張りがズレたみたいでゲイクは放置プレイ状態だった
朝飯ぐらい奢ってやろうと心に決め、まずは自分らの朝飯をと思い宿屋の1階にあるテーブルに腰を落ち着かせ注文を取ろうとした時、リオンの部屋のドアが開いた
「ここは!?」
寝ぼけたように自分の身に起きた状況を把握しきれてないリオンが辺りをキョロキョロ見回す。すぐ様、俺らに気がつくと無言のまま近づいてきた
「・・・」
そばに来ても喋らないリオン、鬱陶しいがその顔を見るとなんとも言えない気持ちになった。少し寂しげな、それでいて遠くを見るような目をしていた
「そうか、負けたのか」
状況を理解したリオン。また無言になり、黙ってテーブルの席に着く。やっと朝食にありつけると思い手を挙げ女将さんを呼んだ
「適当に朝食を出してくれないか?」
女将さんは「あいよ」と言って厨房であろう奥へと消えていった。俺とイノとリオン・・・重たい空気が流れる中、軽く焼いたパンと飲み物が次々と置かれていく
「腹減ったろう、食べろよ」
パンを齧りながら、リオンに食事を促す。イノは無言でホムホムと食べてるが何かの小動物みたいだ。リオンが置いてある皿に手を伸ばすとホムホム言いながらチラリと見たが、またホムホム
「・・・年下に負けてるようじゃ、『大剣』に挑むなんぞ早すぎるか」
パンを口に運び、飲み物で流し込むように食べた後呟いた。年は関係ないと思うがね
「そう言えばリオンは幾つだ?」
「最強の18だ」
は?なんだ???18で最強なのか?18が最強なのか?チラリとイノを見ると・・・
「花の16よ」
え?年言う時ってなんか付ける決まりがあるの?マジか
「ん、んん・・・鬼の16」
「は?」
「おに?」
リオンに真顔で聞き返され、イノは空いた口を塞がずにオウム返し・・・よし、やっちまったな
「いや、お前らが最強だの花だの言うから・・・」
「俺はいつでも最強だからだ!」
いや、ついさっき俺に負けたろ?
「花も恥じらう乙女な年頃なのよ16は」
いや、知らんがな!どっちかって言うと花も逃げてく乙女じゃろうがい
「鬼・・・センスの無さが光るな」
「なに?あなたは空想上の生物だったの?なら今までの奇行が納得出来るわ。今度から鬼のアシス16歳ですって名乗った方が良いわよ」
「あ、あほか!お前なんて今さっき俺に負けたのに何が最強だ!」
「同じ18には負けてない」
「とんちか!なんだ?同い年に負けたら今度は同じ誕生日の奴には負けてない最強の18歳2ヶ月ですって名乗るのか!」
「いや?負けたら名乗らん、それだけだ」
「くっ、イノもイノだ!花の・・・って鼻を曲げさす乙女のクセに・・・」
「いいわ・・・その喧嘩買うわ!」
短剣をテーブルに突き刺しながら殺気を放つ。あ、記憶の消去忘れてた
「なるほど、同じハナでもそっちのハナか」
やめて!俺の失態をほじくり返さないで!殺気が痛いの!
「アシス様!」
と、困っていると宿屋の扉が激しく開け放たれサテスさんがなだれ込んできた。目を見開き肩で息をしながら続けて喋ろうとするが、言葉が出てこないのか口を開け閉めするだけになっている
「ゲイク・・・ゲイクが・・・殺されました」
────時が止まった
サテスの案内のもと4人はゲイクのいた場所に向かっていた。皆無言のまま歩く。関係の無いリオンまでもが神妙な面持ちだ
「ここです」
少し小高い丘の上、周りは雑草に囲われ人ひとりが過ごすスペースがあった。そこに仰向けに倒れている人物────ゲイク
「恐らく後ろから・・・不意打ちを食らったのかと」
少し首元にかかった後ろ髪をサテスが上げると、短剣が刺さった跡が見受けられる。他に傷が見当たらないので、死因はコレだろう
「まさか・・・そんな・・・」
イノが口を抑えて後ずさる。標的以外には極力手を出さないのがカムイの美学・・・そう信じていたし、周りも徹底していた。だが、状況からカムイの斥候が殺した可能性が高い
「充分警戒してたはずですが・・・」
所詮は暗殺者と武闘家。気配の探り合いとなると分は前者にある。ゲイクにしてみれば、分があったのは相手が無警戒でこの道を通る事、こちらが先に見つけ優位に立つことであった
「・・・」
アシスは無言でゲイクの傍に佇む。その顔に涙はない。悲しみの表情ではなく、眉をしかめただ横たわるゲイクを見つめていた
「!・・・御足労頂いたのに大変申し訳ございませんが、ここは安全とは言えません。早急に村へ・・・」
サテスの言葉を片手で制し、アシスが重い口を開く。
「こいつは誰だ?」
「え・・・ゲ、ゲイクです・・・」
「・・・知らないな」
「アシ・・・!?」
イノがアシスを窘める為声を上げるが、アシスの顔を見て言葉が詰まる。泣いてはいない・・・だが、悲しさと怒りと虚しさが入り交じった複雑な表情はイノの言葉を止めるのに充分だった
「こいつが・・・どんな声で話すのか、どんな顔で笑うのか、どんな未来を見てたのか・・・俺は知らない」
辺り一帯が濃い殺気に満たされる。リオンは思わず柄に手をかけ、サテスはこうべを垂れたまま震えた
アシスはおもむろにゲイクを抱き抱えると、村へと歩き始める
「ア、アシス様!」
「なあ、教えてくれないか?ゲイクの事を・・・」
それを止めようとするサテスに対して、振り返り笑顔で言った
「アシス様・・・はい!」
サテスは涙を流しながら頷きアシスの跡を追う。その2人の跡を残された2人も遅れながら追い、村へと戻っていった
村へと戻る途中にある共同墓地に赴き、ゲイクを埋葬する。その間もずっとサテスはゲイクとの思い出、人柄、夢などを語っていた。その眼差しは優しさに満ちており、ゲイクとの関係を伺わせていた
「・・・で、その時ゲイクが・・・あ・・・すみません長々と・・・」
「いや、もっと聞かせてくれ。俺にはゲイクとの思い出がないからな。知っておきたいんだ・・・思い出せるように」
「・・・はい」
埋葬も終わり、宿屋に着いてもサテスは思い出を語りきかせた。昼が過ぎ夕方に差し掛かる頃、言葉数も少なくなる
「・・・」
尽きることない思い出も、楽しいものばかりではない。そして、話題に詰まりかけたタイミングでアシスが口を開いた
「サテスさんはテラスに向かってくれ」
「え?しかし・・・」
「ここでの任務は確か怪しい人物などがテラスに向かっている場合の情報を得るための拠点だろ?テラスにはジジイとラクスがいる。あの2人がいるならば戦力を分散するよりテラスで待ち構えていた方が安全だ」
安全────と言うより安心。カムイの行動がアムス1人に対してでは無いと認識した時、サテスも守る対象になる。連れていく事も考えたが、より安全だと思われる2人の所が最適と判断していた
「・・・かしこまりました」
サテスはその気持ちを理解したのか、不甲斐ない自分を責めるように唇を噛み締め了承する
「・・・やっぱりラクスはテラスに居たか」
ずっと口を開かず目を閉じ、腕を組みながら話を聞いてたリオンが片目を開けアシスを見る
「行きたきゃ行けばいい」
リオンの性格、実力を肌で感じ、ラクスの元に行っても問題ない・・・そう判断して出た言葉。それがリオンにも伝わったのか溜息をつき組んでた腕を解く
「暇してる訳でもなさそうだ・・・それにお前に負けた時点でラクスに挑む資格なんざないさ」
詳しい状況を知らないリオンだが、場の雰囲気を察していた。ここで自分の目的を押し通して迷惑をかけるほど野暮ではない
「別に俺はラクスへの登竜門じゃないんだがな」
会って間もないがリオンならラクスの所在が分かった時点で、勢いよく出て行くと踏んでいたのに肩透かしを食らった形だ。猪突猛進・・・そんなイメージを払拭しようとした時・・・
「登竜門・・・そうだな!アシスを倒さない限りラクスへの挑戦はお預けだな」
アシスの額から冷や汗が出る。嫌な予感が脳裏を駆け巡り、続く言葉が間違っていてくれと願っていたが、願いも虚しく予想通りの言葉が出た
「お前を倒すまで、ついて行くとしよう」
決定!と言わんばかりの宣言。有無も言わさず1人納得しているリオンに、何と言って断るか考えるアシス。だが、今までの言動を振り返ると徒労に終わるだろうと、どうやって撒こうかに思考をシフトする
「明日、出発する。ここからメディアの王都までどれくらいかかる?」
「王都までの最短ですと、レンカイ、カザム、ホーデンを通り強行軍で2日で行ける距離ではあります。ただカザム、ホーデンは人口5000を超えているので街として機能しております。街に入る際には税として幾らか請求されるのです」
「街って入るのにお金かかるのか?」
「はい。村は税率が安い分、守衛など国からの支援はほぼありません。畑が獣に襲われたとて自分達で何とかしないといけません。野盗などに対しても同じです。街は国からの大使が派遣され、守衛による安全、大使による街の運営などにより豊かに過ごすことが出来るのです」
「え?テラスも払ってるの?」
「いえ・・・」
言葉を濁し、チラリとイノとリオンを見る。
「まあ、お二人なら聞かれても良いでしょう。テラスは元々メディア国として見られてない廃村でした。交通の便悪く、何の特産品もなく実在してる事さえ一部の人間しか知りません」
「まあ、通貨も流通してないしな」
「ええ。アムス様が来られる前はダーニとの交流もなく、人が住むには過酷な環境でした。が、アムス様により村へとなりつつあります。今後国に知れたら、徴収などがあるかもしれませんが・・・」
「つまりバレるまではそっとしておいた方が得って訳か」
サテスは無言で頷き、それに合わせてイノも頷く。リオンは元々聞いてない。腕組んで座りながら目を閉じてユラユラ揺れていた。昨日の昼間から夜通し獣と戦い、アシスと戦い、体力も限界が近かったのであろう
「このまま出れば置いてけるな」
そうアシスがこぼした瞬間、カッと目を見開くリオン
「飯か!」
「寝てろ!」
再び眠りにつくリオン
「入るのに幾ら取られる?」
「街の規模によって違いますが、確かカザムが銀貨5枚ホーデンが銀貨8枚です。街を迂回する手もありますが時間を惜しむなら街に入りそのまま出るのが最短となります」
「銀貨5枚!?8枚!?」
アシスが驚くのも無理はない。今までお金を使ったことはなかったが、現在の宿屋が一部屋銀貨3枚。1晩宿屋で泊まるより街に入る方が金がかかる・・・そんな事実を聞き驚きを隠せなかった
「失礼ですが、アシス様はおいくら位お持ちでしょうか?もし足りなければ私が用立てますが・・・」
イノはグリムが管理していた為持ち金0。全てアシスの持ち金にかかっていたのだが・・・
「「「・・・」」」
出てきたお金は銀貨3枚と銅貨数枚。宿屋に払ったお金と食事に使ったお金を計算すると元々16枚の銀貨を持っていた事になる
「あのジジイ!」
アムスは通行税を知っているはず。2つの街を通過すれば、1人でも13枚はかかる計算だ。途中途中で宿を取っていたらすぐに底を尽き、街にすら入る事が出来なかったであろう
「あ・・・私の家に確か売れる物が・・・」
用立てますと言ったが、まさかの所持金に瞬時に青ざめたサテス
「くっ、迂回するしかないか・・・いや、メディア国の王都に入るのに幾らかかる?」
「銀貨10枚です・・・」
「あほか!」
ビクッとするサテス。自分のせいではないとイノに助けを求めるが、イノも金額にビックリしていた
「そんなかかるんだ」
「わ、私が決めた訳ではございません!」
「ああ、悪い。あほか!って言ったのはジジイに対してだ。普通孫の門出に足りなくなるように渡すジジイがいるか?ボケてるのか?銀貨と金貨間違えちゃったってか?」
捲し立てるアシスを横目に、片目を開けたリオンがテーブルに袋を置く。ドサリと重い音を立てたその袋は明らかに金の入っている様相
「カネの心配はいらん!俺が出そう」
袋から少し覗かせている部分だけでも金貨銀貨と多数存在しているのが分かる
「なぜ?」
「暇潰しと実益を兼ねて傭兵の真似事をした時に稼いだカネだ。日々生活出来れば事足りるのだが、思いの外大きい仕事だったらしくてな。以来減ることもなく懐の重しになっている」
「物凄い敗北感が・・・」
「荷物を減らすと思って使ってくれて良い。カネ自体に価値がある訳では無いからな」
「いや、カネに価値があるから買い物が出来るんだろう?」
「ふむ・・・では、カネでカネは買えるか?」
「それただの交換だろ?」
「ならばカネに価値はない」
「???」
「はぁ・・・お前は平凡な剣と価値ある剣を交換するのか?」
「平凡な剣と交換するなら平凡な剣とだろ?」
「そういう事だ」
「どういう事だ!」
「付加価値・・・って事?」
イノが恐る恐る会話に加わる
「そうだな・・・本来価値とはそのもの自体の評価の事だ。それは人によって変わったり、時間によって左右されたりする。何か手を加えることにより価値が上がるのもある。が、カネは変わらん。銀貨1枚はどこまでいっても銀貨1枚だ」
「貧しい人の銀貨1枚と金持ちの銀貨1枚は価値が違うと感じるが・・・」
「貧しい人の銀貨1枚を誰かが2枚で買い取ってくれるなら、価値は違うんだろうな」
「くっ・・・」
「もし誰かが貧乏人の銀貨1枚で2枚分の料理を出したとしても、それはカネの価値ではなくその人物の価値によるものだ。カネはどこまでいってもカネ。価値などない。有意義に使う事によって生まれる価値を、カネの価値と勘違いして使わないのは馬鹿げてる」
「う、ううむ」
「アシス様・・・彼の言い方は少し語弊がありますが、通貨の価値を無くしたのは通貨を発行している国です。元々は物々交換が主流だった300年近い昔になります────」
現在ロウ歴297年、ロウ歴以前は物々交換が主流となっており、魚を手に入れるために狩りをし、畑を耕し・・・逆も然り
それが、ロウ家と呼ばれる1家がもたらした貨幣・・・それが現在の銅銀金貨となる。ロウ家はまず相手が欲するものを提示する。すると相手は物々交換を申し込んでくるが断り、貨幣となら交換すると伝える。
貨幣を持たない者はどうすれば貨幣が手に入るか尋ねると、ロウ家はその者が持っている物と交換してやると伝えた。そして、物を渡し貨幣を手に入れた者が欲する物を貨幣で買う・・・これを根気よく繰り返すことにより貨幣を稼いで物を買う習慣が生まれる
「それは良いが、それだと貨幣を生み出してるロウ家がやりたい放題なんでは?」
「確かにそうかも知れません。が、そうはなりませんでした。彼らの目的は貨幣の流通・・・物々交換から売買に変化するよう調整するのが目的でしたので、私利私欲で貨幣を使う事はなかったとのことです」
「あくまで中立な立場って感じか」
「そうですね。およそ300年前まではテラスのような村があちらこちらに点在していたとされています。それがロウ家の登場により売買が始まり、国が興され、今に至る・・・発展の恩恵を受けた民は自ずとロウ家に忠誠を誓ったとされています」
「それが目的だった?」
「かも知れません。あくまで伝承からの推察に過ぎません。今のロウ家に尋ねた所で正直分かるとは思えませんね」
「ロウ家ってのはデニスの王か?」
大陸中央に位置するデニス国・・・300年前の大陸に多大なる貢献をした一族が王となるなら中央の大国であろうと踏んだアシス・・・だが、返事は意外な答えだった
「全ての国の王です」
「は?」
「デニス含む全ての6カ国の王がロウ家の一族の子孫になります」
「いや、待て・・・それは何の冗談だ?」
「知らない方が冗談でしょ?」
たまらず入ってくるイノ。助けを求めるようにリオンに向くが・・・寝ていた
「冗談ではございません。300年前に国が興され、大陸はひとつとなりました。ですが、すぐに国は6つに割れ今の現状となります。これも伝承による推察があるのですが、複数ある為、現在はどれが本当か・・・」
曰く、大陸全土の統治が1ヶ国では難しく6つに分けた
曰く、ロウ家に6人兄弟がいて統治の方法で揉めた
曰く、元々ロウ家は6家・・・ロク家から来ていた
曰く、・・・それらしいものから滑稽な噂話レベルのものまで様々な推察があり、どれが正しいのか未だに不明。だが、それを調べる者は居らず現状6カ国が当たり前となっている
「じゃあ、実質1カ国って事か?」
「いいえ・・・約300年の間に領土をめぐり戦争は幾度となく起きています。決して1カ国として見れる状態ではございません。デニスのロウ家、メディアのロウ家と分かれている状態です」
「面倒なこった」
「私では計り知れませんが、色々とあるのでしょう。今でこそ当たり前ですが、通貨の概念も国という概念も無いところから生み出した一族です。考えている事が超越しています」
「なるほどね・・・ロウ家か・・・」
話は脱線しまくっていたが、結局サテスはテラスに戻り、アシス、イノ、リオンはメディアに向け明日出発する。お金もあれだけ言われたら返す気もせず、アシスが預かる事となった
────次の日、ゲイクの眠る墓石の前でサテスと別れレンカイへと向かう3人。テラス、ダーニ間と違い街道の整備なども行き届いていてスムーズに進めた
半日ほどでレンカイに着くと軽く昼食と休憩を取り再び旅立つ。ここ何日かの出来事を振り返ると何も無さすぎて逆に警戒する程だった
カザムに着き、3人分の支払いを済ませ中に入るとアシスの様子が変わった────田舎者の街デビューである
────
「マジか・・・マジか・・・」
なんだこれは・・・木造りの家など一つもない・・・と言うか入る時にくぐった門からして有り得ない。人の身長の倍ほどもある門が鈍い音をたてて開き、広がってきた光景は異世界だ
「・・・丸出し」
イノがジト目で呟くが関係ない!所狭しと並んでる店、店、店!整然と並んでいる店の前を歩く人の数!レンカイも人は多かったが、桁が違う
「これが・・・街か!」
想像を絶するとはこの事だろう。どれだけ長い年月をかければ村がこのようになるか検討もつかない。テラスもいずれ?無理無理、俺の生きてる間は無理だ
「もう時期、日も沈むわ。とりあえず宿を探しましょ」
冷静なイノ・・・くっ、余裕か。街経験者の余裕なのか
「俺は少し用がある・・・先に宿屋の『ジニア』ってとこに向かってくれ。ここを真っ直ぐ言った右側にある。分からなかったら、その辺の奴に聞けば教えてくれるだろう」
「・・・隠し事?」
「ああ、隠し事だ」
そう言うとリオンは店と店の間にある路地へと向かい姿を消した
「良いの?」
「何が?」
「何がって・・・怪しさ全開よ?」
「構わない・・・それより街が俺を呼んでいる・・・」
俺は財布を握りしめ、カネに価値を生み出す為に思考錯誤中
「呆れた・・・」
「おい・・・信じられん・・・」
「え?」
「飲み物が泡立ってるぞ!・・・なっ!」
ふと気づくと隣に生地の面積が妙に少ない女が立ち、俺の服の裾を引っ張った
「お兄さん、安くしとくよ♪」
「いや、俺はお前の兄ではないし、明らかにお前のが・・・」
「バッ・・・すみません!用事あるので失礼します!」
イノに引っ張られるまま、リオンの言っていた宿屋に早歩きで向かった。何なんだ一体
「・・・ジニア・・・ここね・・・」
呼吸荒く、途絶えながらも宿屋の名を口にして安堵してる
「とりあえず・・・中に入りましょう・・・話はそこからよ」
なぜかナタリーを彷彿とさせる鋭い眼光を向けられ、イノと共に宿屋に入った。ダーニの宿屋と同じで、1階は食事を取ることの出来るスペースみたいだ。ダーニとの違う点と言えば・・・人の数
「多いわね・・・全員泊まる人だったら、この宿には泊まれないかも・・・」
置いてあるテーブルは満席、カウンターにいくつかの席は空いているが宿の規模から考えてイノの言う通り全員宿泊客なら部屋は空いてなさそうだ
「あの・・・部屋は空いてますか?」
イノが店員ぽい人に話しかけて確認するが、その人は申し訳なさそうに首を振る
「ごめんなさいね、この時期お客さん多くて今日は満員なの」
「・・・そうですか」
部屋が空いてないのなら別の宿屋にと行きたい所だが、リオンとの待ち合わせもある。仕方なく空いているカウンターの席に座り軽く何か食べておこうという事になった
「リオンが戻るまでだから、軽くね」
イノが念押ししてくるが、俺は頼むものを決めている・・・そう、あの不思議な飲み物・・・
「泡の出る飲み物をくれ!」
俺が店員に告げると喧騒が一瞬にして消え失せる。あれ、なんかやってまったか?と、思った瞬間・・・辺りは笑いに包まれた
「あ、泡の出るやつぅ~」
「ブハ・・・言うな・・・言ってやるな!」
「彼女の前で格好つけたいんでちゅかー」
「良いだろ!俺にもくれ!泡の出る飲み物!」
「やめろー!可哀想・・・プッ・・・可哀想だろ!」
注目を浴び、散々言われてる。仕方ないじゃないか、飲み物の名前が分からないんだから・・・イノは横で額に手を当て首を振っている。顔は水浴びの時のように真っ赤だった
「・・・バカ」
ボソリと一言言われてショックを受けていると、入り口が開きリオンと2人の男が入ってくる。イノはその2人を見て今度は顔を青ざめさせていた。赤やら青やら大変な奴だ
「まさか・・・そんな・・・」
「・・・お嬢」
2人の男はリオンに後ろで手を捻られ、身動きが取れなくなっていた。イノの反応と男の台詞からおおよそ検討がつく。こんな所で会えるとは思っても見なかったが・・・
「奴らの・・・斥候か・・・」
目の前にゲイクの仇が居た
説明回みたいになってしまいました
一応次の話で1章は終わる予定です
アシスが知らない事が多い為、今後もこんな回を作ると思いますが・・・よろしくお願いします
章終わりに登場人物と地名まとめます




