97話 双子の怒り
虫パンに思いを寄せた彼等を軽く放置していた僕だったが、ようやく何処かに向かった双子の意識が戻った時にラインフェルトが顔を向けた
「そういえばノア様?」
【ん?】
「譲れない予定ってのは滞りなく済んだのです?」
【ああ、お陰様でな♪】
「それでしたら良かった! ちなみにどんな予定だったのですか?」
【うん、咲子と泉が門を通る日だったん……】
そこまでの言葉を次いだ瞬間、僕はその口を噤み顔を背ける
ヤバイ……
やっちまった……
そんな考えが巡る
マズいぞ……
非っ常ょょょにマズい
話した言葉を無理に否定するのは違和感だ
はぐらかす方が無難と思える
僕はゆっくりと外していた視線を彼等に向けた
恐る恐る見た彼等の顔
当たり前といえば当たり前といえる表情
その顔には怒気というよりも殺意が映る
【あの…… なんだ…… まぁ…… 先ずは冷静に、な?】
「は? 冷静?」
「は? 冷静?」
【そ、冷静に話を聞いてくれ……】
「ええ、だったら聞いてますから教えて下さい」
【お、おう…… えっと…… その…… あれだ……】
何て言えば切り抜けられる!?
思い付かねぇよ!
つーか、顔恐えし……
どうしたもんか……
生前の彼等の妻である咲子と泉
その大切な時間を僕だけが使った時点で、間違い無く僕が悪い
どんな事を言っても言い訳にしかならない
【あの、だな……】
「早めに言って貰えると助かるんですけど」
【えっと…… 先ずはその顔…… 笑顔にするってのを提案したいのだが……】
「……」
【ダメ、か……?】
双子は互いに相方を見る
何も口にせず、僕にまた顔を向けた
表情に変化は無い
僕の提案は却下らしい
と、思われた時に彼等は言った
「笑顔とはコウですか?」
「笑顔とはコウですか?」
僕に見せる双子の顔
口の端が徐々に上がる
彼等らしい笑った時の口元の形
だが……
目だけは明らかに笑っては居無い
【あの…… 顔全体で怒ってる時より…… 今のが恐えから……】
「はい、でしょうね」
【そっか……】
「はい、怒ってますから」
僕から逆ギレするわけにはいかない
問題を起こしたのは、間違いなく僕なのだ
【あっと…… えっとな……】
「はい」
【その、あれだ……】
「どのアレです? 言い訳は早めにお願いします」
【言い訳っていうか……】
「だから何です?」
状況は最悪な方向に向かっている事が理解出来る
僕は極力の冷静を保ち、脳内をフル回転させた
【あのな…… 咲子と泉を同じ時に転生させようと思ってな…… んと…… それで2人の生き返りのタイミングを合わせたんだ】
「へえ……」
ダメだ……
コレじゃ納得するわけが無い
【あーー…… それでな、咲子が先に死んだ訳だが、泉の来訪のタイミングに合わせたわけだ】
「ソレって、さっきの細部説明ですよね」
【う…… うん…… そうなる…… かな?】
「そういうの要らないんで」
【あら…… そう……】
「で?」
【うん…… あ、そうだ! アーサーやラインフェルトが一緒に居ると、生き返りたくないとか言いそうじゃ無いか! だからなんだよ♪】
「今思い付いた様に言われても説得力ゼロですね」
【う……】
無理か……
どうしたら良い!?
どうすれば最善なんだ!?
「ともあれ、ノア様」
怖い目を僕に向け、口元だけを無理矢理笑って見せているアーサーが問い掛けた
【な、何かな? アーサー……?】
「声が上擦ってますが?」
【そ、そんな事は無いよ……】
「そうは思えませんが、まぁ良いです」
【そ、そう?】
「ええ…… そして極論なんですけどね」
【な、なんだい?】
「生き返りたくないとか言う可能性はあるかも知れませんが……」
【だろ!? そうなんだよ!】
「でも、最初から5人で会えば良かったでしょ…… 僕等を含めた5人で」
ですよねぇ……
はい、正論です
無理だっ!!
もう無理だっ!!
はぐらかせない
どうしようも無く追い込まれた僕は《裏技》を使う事に決めた
【おっと! そろそろ地球の見回りに行かなきゃならない!】
その裏技とは《離脱》だ……
僕としたことが、こんな究極奥義に頼るとは惨めと言わざるおえない
「ちょ! 反則ですよ!! 理由も程々にそんな荒技!!」
【悪い! また今度な! そして門番交代の件も、咲子と泉の件も悪かったな! また会おう、アデュー♪】
そんな謝罪とは到底いえないものを口にし、僕は空に飛んだ
一気に空へと上昇し、西にある宮殿方面へと爆発的な力で飛び去った
そんな僕へ微かに届いた双子の叫び
(卑怯者おおぉぉぉ!!)
(卑怯者おおぉぉぉ!!)
こんな時にまで見事にハモった双子の声が、風に掻き消された
それからは終焉の門にあまり足を運ぶことは無かった
彼等の恨みが怖い事が1番の理由
そして2番以降の理由もある
それは忙しい事
地球もそうだが、モリサダの件も粗雑に扱うことは出来無い
モリサダは時が来れば桃花と樹に預かったラピスを返しに行く
ソコまでが大切な仕事といえた
そして、ソレは……
とある日……
無事に、終わった
帰ってきてからのモリサダはとても嬉しそうに話してくれた
まだまだ子供である彼等だが、それでも高校生という学生生活をしているらしい
そしてその体内に巡る桃花の覚醒ルビー
泉の母、胡桃から子へ……
その子、泉から桃花へ託された大いなる力
美しいまでに淀みなく流れる彼女の力に、話している最中モリサダの顔は終始ほころんでいた
僕等にとってはもう終わった戦争だとはいえ、彼女達には未来の出来事
ソレを託すのがとても楽しそうに見える
彼は……
いや、何でも無い……
モリサダの果たすべき最後の仕事を終え、彼は星々に目を向けながら妻である藍と健やかな生活をしていった




