88話 米国人
何の変哲も無い日々
泉と一緒に魔物達を一斉消去した為、現時点までは魂を食らいに来る事も無くなった
今は魔物達の繁殖期なのだろうな
そうこうしている内、時は瞬く間に過ぎていく
あっという間さ……
そう、あっという間にモリサダが僕に伝えた彼等の来訪
その時が来た
地球での時間、約55年の時を経て……
米国人がやって来た
ギイィィィィィィと音を立てる終焉の門
ソコからひょっこりと姿を見せる容姿の整った青年
すぐに解った
体内を巡り流れる蒼き力
ディープ・サファイア
ソレを眼に携えた青年
彼は門から現れた
正しく生き、正しく終わりを迎えた者の証
年老いた姿では無く、青年の姿として舞い戻った彼に……
優しく微笑み、語り掛けた
【お帰り…… アーサー】
僕の言葉に固まり戸惑った表情を見せた彼だったが、素早く気持ちを整えた面持ちで僕へ微笑み掛けて応えた
「ノア様、ですよね? 影の姿だとは思わなかったので少し…… 焦ってしまいました…… アハハッ」
【あ、そうか♪】
そういえば影の姿のままだった事に今更気付く
【以前来た時には気を失ってて会話もしてなかったからなぁ】
「はい…… そして……」
【ん?】
「ただいま帰りました♪」
【ああ♪ 会えて嬉しいよ】
「ありがとうございます! マスター、モリサダ様の約束を果たしに…… 門番の任務、着任させて頂きます」
そういう事か……
門番交代はアーサーとラインフェルトだったわけだ
ん、待てよ?
なぜ彼はディープ・サファイア・アイを所持しているんだ……
この青年と泉との間に子供が産まれたとして、その子に引き継がれた訳じゃ無いのか?
彼は双眼の深蒼眼だったハズ
だとすれば両眼とも子供に移ると思うのだが……
【アーサー…… 悪いが少し動かないでくれるか?】
「は? あ、はい、解りました」
了承してくれた彼
その頭部へ僕は黒い影に包まれた手を乗せた
記憶を見るのは失礼にあたる
だから極力、純粋に力の流れだけを追った
淀みなく彼の体内を流れるディープ・サファイア
その中に微かに光る別の力
紫色の細かな粒
削りカスともいえる極々微量のラピス・ラズリ
この程度ではラピスとして発眼する事は無いだろう
いや、なぜディープ・サファイアの中にラピスが存在するんだ?
もう少し全体の流れを追うべきか……
僕は目を閉じ、力の最深部へ下り立つ
ソコには《記憶の記録》が在った
鎖の様に絡み付くソレはアーサーのサファイアを離そうとしない
だから、失礼とは思いつつもその記憶に触れた
それはモリサダとの《約束の鎖》
彼の力に絡まる思い出
モリサダは、まだ少年だった彼等に施した
地球で精一杯生き、いずれその命が尽きた時には世界を守る門番となる事
彼等の力は子供に引き継がれようともモリサダが後に取り出し、元の力としてまた与える事
ノアという神の意志を尊重し、仕える事
そして僕がモリサダと交わした約束そのまま……
《優しい世界を創る事》
その4つの約束の記憶だった
そうか……
だから彼の子供に引き継がれたディープ・サファイアは一度、泉のラピスと融合した
後にモリサダが預かった際、取り分けた訳だ
その時、こびり付いたラピスのカスが紫色の粒
確かに元、能力眼所持者とはいえ生身の人間に門番は無理だろう
ソレもコレも…… 僕の為、か……
やれやれ……
粋な真似をしてくれるじゃ無いか、アイツめ……
この未来がピュア・ラピス継承の時点から見えていたのか……
僕の為にココまでの準備までして……
すまない
そして面倒掛けたな
お前の創る優しい世界
信用とか信頼とか抜きにしてさ……
本気で見てみたいよ
なぁ……
楽しませてくれよ、モリサダ
僕はアーサーの頭部に乗せた手をそのままに、彼の体内へ力を流す
彼が今後の世界を創る立役者
現状の霊体では不都合だろう
死者としての魂であれば、この世界で現存出来るのは約1日
彼はまっとうに生き、死んだ人間
元アースや、ムーン、そしてレシアの様な魔物から直接魂に傷を負って死んだわけじゃ無い
カタストロフィで生きる為に魂をコーティングし、繋ぎ止める事は可能ではあったが、彼の今後には不向きだ
そこに在るよりは、そこに居るという都合
故に僕はアーサーの体を創った
ただの器として体を創り、その中に今の彼を仕舞う事も可能だったかも知れないが、そうはし無かった
彼はディープ・サファイアを所持している
それは心と体が伴って力と変わる
心だけを繋ぎ止めた状態では発眼しても大した力にならないだろう
で、あるならば彼の心をベースにやはり体を創るべき
僕が創った彼の体と異物反応を起こる可能性は否めない
だから僕は彼の体を、彼から吸い上げたデータベースで魂の中から血や肉、他のアーサーに携わる全てを創り上げた
これで良し、と……
「あ……」
不意に口を開いたアーサー
【どうした!? 問題が有ったか!?】
失敗したのだろうかと焦りを宿す
「あ、いえ…… 何だかフワリとする浮いた様な感覚だったのですが…… ココに体が有るって感覚に変わったもので……」
なんだ、焦らせるなよ……
【それなら問題無い…… 今お前の体をこの世界に構築しただけさ♪ 魂のままじゃ門番は勤まらないだろうからな】
「なるほど…… そしていずれライも?」
【ああ、ラインフェルトにも体を与える】
「ありがとうございます!」
【感謝は僕の方だろ…… ありがとな!】
そう
感謝するのは全面的に僕の方だ
彼も、彼の半身であるラインフェルトも僕の為にこのカタストロフィで生きる事を選んでくれたのだから
「そういえば、ノア様……?」
【ん?】
「ノア様は英語話すんですね……」
【は?】
「いや、今は英語話してる感覚だったので……」
【なるほど…… ココでの言語は統一されてんぞ? 魂で会話しているようなモンだ♪】
「それでか! 納得しました!」
【疑問を持つのは言いケドよ…… 堅くならずにもっと気楽に行こうぜ♪】
「はい!」
【あ、そうそう! 門番は任せる訳だが、お前が居た地球では2年後かな? 今度はラインフェルトが逝く…… この世界なら3、4年といった辺りに彼が訪れるだろう】
「はい…… そして随分と時間の流れがゆっくりなんですね」
【そうなんだよ…… そしてその時、2人一緒に今後の件を話そうと思う♪ だからそれまでは一緒に門番をしていこうじゃないか!】
「了解です!」
ソレから共に門番の職へ就いた
ラインフェルトには子供の頃に話している内容だが、その時に気を失って居たアーサーは知らない
彼にもそのまま伝え、そして以前は言う必要無かった事
強大な悪意を持つモノを悪意ごと消去する旨を門番の最大の仕事として説明する
最初こそ戸惑いは見せていたアーサーだったが、それこそが清浄な世界の摂理と理解し、賛同してくれた
話をしながら門番を2人でこなし、独りで職に就いていた時の虚無感は薄まる
泉や咲子の話を沢山聞いた
娘の事も、孫の事も……
曾孫を見たかったという後悔も……
沢山行ったテーマパークも、彼等の仕事も、その内容も成功例も失敗例も……
そして、日々の些細な物事も……
沢山聞いた笑顔や悲しみの思い出話も……
尽きることは無い会話
どれもこれもが泉や咲子を大切にしてくれた確かな証
ありがとう
僕の孫娘達を一生懸命愛してくれて
心に持つだけじゃ伝わらない
だから僕は会話が少し途切れた時にアーサーへキチンと伝えた
【ありがとうな、アーサー…… 大切に…… 本当に大切にしてくれて】




