74話 乱されたタイミング
はぁ……
まさしく愚物だ
だが、ヤれるだけヤらせてみるさ
何もできないんじゃ後悔しか残ら無いだろう
【やれやれだな…… まぁいいさ…… 持ってきてやるよ、ルビーを】
そう言い、僕は3つの瞳を閉じた
外側に在る彼女の体
ソコから無理矢理引き抜き、今、目の前にいる魂となった体に押し込む
【ホラ、コレで良いだろう? やるぞ、愚物!】
僕の瞳に映る泉
完全に恐怖が払拭されたわけでは無いのだろうが、先程までとは表情が違う
ルビーアイを取り戻して安心したのか?
思いの外、ルビーの使い方が巧い女だ
中々に高い力を纏って居るのがよく解る
彼女の体内を目まぐるしく、そして美しく淀みなく循環する紅き力
ただ…… 妙だ
コイツのルビーアイの馴染み方……
後天的に継承されたものとは…… 少し違う
生まれた頃から持ち合わせた手足の様なスムーズさ、力の動き、その働きかけ……
なるほどな……
デカい口を叩くだけはある
だが……
弱ぇ……
弱すぎんぜ、お前
僕は右手にラピス造りの剣を現した
真紫の剣
今回の標的は、この女のみ……
一撃で苦しまずに逝かせてやる
爆発的に力を循環させた右手
ソコには僕ですら見たことが無いレベルの剣
山と見間違える程の巨大な剣を創り上げた
ムゥムゥとニコの戦い方がきっかけで創れたモノ
僕のラピス容量を遥かに超えた力
ムゥムゥが見せ、感覚へ作用する事も出来ると知ったルビー
自己のスタミナ、フィジカルで容量を底上げ出来る
その方法をくれたのはニコの筋肉増産
彼女達のセンスが僕の強さを一層高めたのは否めない
さて、と
この女、消すか……
美しく、そして妖しく光る彼女の双眼
神秘的な紅い色
そういえば女性のルビーアイは見た事が無い気がする
ムゥムゥがルビーを所持していると知った時には桃眼に昇華していたし、ラフレシアはラピスを直接与えた
モリサダは、もはや紫眼だ
彼は男性の顔付きからなる力強さを感じるが、女性の整った顔に紅眼というのは妙に魅力されるものがある
意外と見飽きない目だな
そんな事をふと思う
彼女の瞳自体は美しかったが、それに汚れを落とすモノ
恐怖
眼…… 眼球だけは美しくあればこその際立つ目の形
顔
彼女の表情は恐れに歪んでいた
【その顔は終わりが見えたな……? 今更気付くなよ、愚物が…… 僕はね、この世に許せない物が4つある】
止めどもなく流れる彼女の汗が砂漠の砂に浸みる
ここまで聞こえそうな心音
ギリギリの平静で泉は言葉を出した
「4つ…… って……?」
【1つ目は《最低限の礼儀をはらえない者》 2つ目は《最低限の約束を守れない者》 3つ目は《僕の大切にしている物や者を傷つける者》 4つ目は《僕に反発する者》だ】
ドキリと表情を変えた彼女は言った
「私は…… その1つ目を侵したのね……」
【そうだ…… そして若干、3番目にもな】
「貴方が大切にしている物を!? なぜ!?」
【違う…… 大切にしている《者》をだ…… お前は咲子を殺したいんだろ? それは友である僕の意に添わない】
「そっか…… 友達けなされたら怒るよね……」
【ま、そういう事だ】
「解ったわ……」
【祈りは済んだか?】
首を振る泉
「祈りはまだだけど…… 貴方に勝てる気もしない…… だから、祈りじゃ無いけど、願いを言ってイイ?」
何言ってんだコイツ……
今更命乞いか?
ふざけた女だな
結果ソコに辿り着くなら最初から大見得切るんじゃねぇよ……
僕の無言を察したのか、彼女は申し訳無さそうに口を開く
「ゴメンね…… もう嫌われてるのに余計な事を言ったね……」
【いや、良いだろう…… 聞くだけ聞いてやる】
彼女は構えたままだ
だが、先程までとは違い、しおらしい姿に見える
「ありがとう……」
そう言った彼女はスッと立ち、そして頭を下げた
「もし、アーサーがココを通ったら…… いや、もう通り過ぎたかも知れないけど、次に会った時にでも《ずっと好きだよ》って伝えて……」
【アーサーか…… 片翼の分け身だな? ああ、双子というのか? 奴ならまだ通らない…… そしてこれからもまだ、通らない】
「まだ通らない、は、解るけど…… これからもって?」
【奴は死んでは居無いからな…… 寿命が来るのもまだ先だ…… だから待っても来るのは、まだまだ先って事だ】
泉の目が激しく泳いだ
状況を理解出来無い
そんな感情なのだろうか
彼女は僕に問い掛けた
「ゴメン! 意味が解らない! ちゃんと教えて!」
【くだらん…… そんな事を話すつもりは無い! お前は咲子の何も解っていない!】
「咲子の!? 何を!?」
【心だ! ったく…… だからお前は愚物なんだ!】
イライラするぜ、まったく……
面白くも無い話に時間を使いたくは無い
だから僕は彼女に告げた
【もういいか? 行くぞ】
僕は腰を…… 体勢を低く落とした
右手に掴むラピスの剣
僕の意志を形にし、巨大に膨れあがった紫色の凶器
ソレを泉へと振った
だが、直後感じた来訪の気配により、僕はその手を止めていた
彼女に直撃する寸前の出来事だった
僕の手はピタリと止まり、顔だけを空に向ける
タイムリミットか……
そんな事を思う
【やれやれ…… 《時》を乱されるとコレが面倒だ……】
「……時?」
なぜ生きているのか
そんな疑問の表情で問い掛けた彼女
【お前、カタストロフィで座り込んで居ただろう?】
「カタストロフィって……?」
【ココに来るまでに大河があったろ……?】
「三途の川の事?」
【は? あ、あー…… お前の国ではそう呼ぶのか…… まぁそうだ…… あの河の名はカタストロフィ…… 現世と黄泉を完全に分断する河、コノ世界の名になった河だ】
「それが…… どうしたの?」
【ソレのせいで予定が狂った…… 阿呆な来客が早めに来た】
「は? 阿呆な来客?」
【ああ…… お前を斬る気も失せた…… 興醒めだ……】
「それは…… 嬉しい限りだけど…… 興醒めって?」
【テメェ…… さっきから質問多いぞ? だから邪魔な来客だよ! はぁ…… まぁいいや…… ん……?】
僕は泉を完全に消し去る予定だった
僕の心がそう決定したのだ
間違いは無い
予定……?
乱された、予定……
こんな絶妙なタイミングでか?
違う……
コレは……
【そうか!! チィ…… 咲子め…… 巧くやりやがったな…… 僕の先を行くとは…… 大した女だよ…… フフフッ】
嬉しかったのかも知れない
多分、そうだ
咲子が……
いや、レシアの優しい感情がソウさせのかもな
僕は笑顔である今の自分を感じていた
「咲子がどうしたの!?」
僕とは違い、彼女は動揺がありありと映る顔だ
【お前が僕に斬られないように時間調整しやがったのさ】
「時間調整って!?」
【タイミングをズラしたんだ…… お前を殺させないように、お前の未来を先読みしたんだな…… 僕に斬られるハズの未来を変えたんだよ…… まぁ、お前が思うよりも、咲子はお前を大切に思ってるって事だ】
空に目を向けていた僕は視線を下ろした
彼女、泉に目を向けた
僕の言葉に目を丸くし、固まり、何かを必死で考えているように見える
そしてその表情が突如、変わった
真摯に、真っ直ぐ僕を見る瞳
妙にスッキリと、落ち着いた雰囲気
彼女の何かが変わった
多分、コレは…… 覚悟
そんな顔なのだろう
彼女は言った
「それで…… イレギュラーって……?」
【黙れ…… 来るぞ……】




