73話 泉
咲子がラピスで空けた穴が閉じ、それからまた幾度となく開閉する門
死者が通り過ぎるのを観察する
クッチャクッチャと鳴らす僕の口
もはやガムの辛みは無い
味が無くなっても噛み続けて居られるってのは革命だな……
確かに良い暇潰しになるわ、コレ♪
そして、なんつーか……
辛みにも確かに慣れてきた♪
もう一粒、口に放り込む
カッッラ!!
でも…… 旨い♪
そんな楽しみを覚え、しばらくした頃の事だ
この世界に奇妙な気配を感じた
何者かがカタストロフィへ喚ばれた
そう感じた
予定外の来客
誰だ?
ポンポン行き来できるとは思えないが、実際、今起きている
ただ、何だろう……
咲子の気配に似ている気がする
人である事は間違い無さそうだ
新しい人間……
ラフレシアの媒体とも云える器か?
いやいや……
幾ら何でも咲子と会ったばかりだぞ?
そんな一度に彼女の魂と会うわけが無い
誰かが大河カタストロフィで佇む
ただ、ずっとそうしていた
しばらく大河沿いで止まって居た誰か
不意にその者が動き始めた
その向かう先は、この場
終焉の門に歩いて来ているようだった
何者かは解らない
ゆっくりと歩いて来る者
それは女性だった
彼女が目の前まで来た頃、僕は話し掛けた
【ようやくのお出ましかい? 遅かったな、媒体】
彼女は驚いていた
僕の姿を見れば驚きもするだろう
《話す影》
それが当たり前の反応だ
モリサダ程、騒がしく驚いて居無い点については良かったとも思う
彼女は言葉を選ぶかのように口を開いた
「貴方…… 誰……?」
【ジャッジメンター】
「ジャッジメンター? 審判者…… 神様なの?」
そう言った直後、彼女の顔が強張る
ん?
普通の自己紹介に思えるのだが、変な事を言っただろうか?
まぁ、いいか……
【違うよ…… 門番さ♪ 面白い媒体だなぁ…… さすがは《同じ者》だ! 考え方まで似てるな…… クク……】
「同じ者って?」
【んーー…… 話せば長くなるから却下!】
レシアの魂が入る可能性があった器だと言いたかっただけだ
まぁ、彼女の事を話しても理解出来無いだろうし、まずにして知るわけも無い
それに咲子の件もある
人間とは知らない事を聞きたがる傾向にあるように感じた
故に考えは似ている
ヒトは必要有る無しに関わらず無駄に知識を取得しようとする
だからソレを説明してもしようの無い事だ
「は、はぁ…… じ、じゃあ似てるってゆーのは答えてくれるの?」
それなら簡単な事さ
【似てる? ああ、咲子にさ! 同じ事を言われたよ♪】
突如、彼女の表情が変わった
完全なる悪意の表情
そして僕に向け、叫んだ
「誰だテメェ!! 咲子のなんだ!? ドコだあの女!!?? 言え!!!」
ああ!?
テメェ…… なんつったコラ……
僕に命令だと?
咲子と同じ人間なのに、こうも無礼な輩がいるとは……
まぁ、いい
いちいちイラついても身が持たん
注意位にしといてやるか
【なぁ、愚物…… 言葉の扱いに気を付けろ】
「はぁ!? 私はね、咲子が何処かって聞いてんのよ! 早く答えな!!」
僕の言葉に全く聞く耳が無い
コイツ……
消去したくなってきた……
【同じ事を2度言わせんな、ガキ…… 早く謝れ…… 次は無ぇぞ】
「ウルサイ!!! 咲子に復讐しないと気が済まない!! アーサーを…… アーサーを返して!!!」
3度目は無い
決めた
消す事にしよう
そういえば、咲子の名を出したな……
いや、コイツが咲子の友達だろうが何であろうが知った事では無い
僕は自己にラピスを発動した
その時、同時に脳裏へ流れた《この女の生き様》
咲子の友達
咲子の力を識る者
咲子のラピスで殺された者
咲子の最終戦争を担う者
咲子の…… 《真意》
そうか、咲子……
なるほどな……
その為にこの女、《泉》をココに寄こしたか…… お前は……
ん?
泉……
確かモリサダがアメリカと云う名の国で待ち、知識を授けたのも《泉》か?
ソレが、コレか?
知るか…… そんな事は……
生かす?
モリサダ、咲子……
悪いが、ソレは無理だ
無礼な輩は要らない
それに咲子は赤子の時から一緒に育った友達なんだろ?
そんな大切な者の行動、想いを信じられない愚物も要らない
だから…… 消す
僕の脳が沸騰しそうだ
【言いたい事は、それだけだな? やれやれ…… 咲子の真意も解らない愚物は邪魔なだけだからな…… 消すわ】
なんだか久しぶりだ
殺意に満ちた自分を知るのは……
まぁ良い
やる事は1つ、この女を完全に消去する
少し震えた姿を見せながら、彼女は言った
「わ、私だって双眼のルビーアイよ! 簡単に負けるつもりは無い! 早く言って!! 咲子はドコよ!?」
その言葉を聞きながら、僕の影が揺れる
ゆっくりと影の中から……
《僕》が姿を見せた
その《僕》の周りを纏っていた影が渦の様に回る
そして形を成した
両肩には反り返った刺が形作る
背中には闇色のマント
そして最後に形作った兜
魔獄領域、掃討の際にも纏った《深影の鎧》
僕は彼女を見据えた
右眼は蒼眼
左眼は紅眼
モリサダへ力を、ピュア・ラピスを授ける為に創った額の眼、紫眼
《三眼》全てで女に殺意を持ち、見据えた
【この世界は《最後の世界》だ…… 本当の終焉…… ココで死んだら完全に終わりになるからな…… 祈りの詔は唱え終えたか?】
泉は震えて居た
歪む表情に映るのは…… 恐怖
【早く構えろよ…… 抵抗位はしたいだろ?】
僕の問い掛けにビクリと体を揺らす
少々の冷静を取り戻したか?
いや、まだか……
足がガクガクと震えている
そして《何か》を僕に向けようとしていた
殺意では無い《何か》
コレは…… 力か
【あ? お前…… ルビーを発動しようとしてんのか?】
「え、ええ…… でも…… なんで…… 発動しない……」
【お前は阿呆か? ルビーは心と体の記憶だ! ココにあんのはお前の《心だけ》だ! 出せるわけねーだろ…… ったく……】




