63話 再開の2人
皆との話が終わり、大広間に居た者達に解散指示を出した僕
ムゥムゥへ今日から宮殿に住むポポンへの部屋を準備させ、僕は大広間を出て通路を歩いた
その歩みを不意に止める
通路脇から覗く空は、深い漆黒を映していた
随分話し込んだな……
だが、世界の為の談義
実りある物だった
少し、空を見上げた
同じ空の下に彼等が居る
生きている
ケンシン、メル……
会いに行こうか……
いや、待て……
今は夜だ
2人の時間も大切にしてやらねば……
野暮なことはするまい
そう思い、また僕は自室に向けて歩き出した
夜が開け、陽が姿を現す
皆と共に食事をする
いつもと変わらない朝
だが、もう来ないかも知れない、朝
大切に食事をし、食物と幸せを噛み締める
皆が食事を終えた時を見計らい、僕は立ち上がった
そして、同じテーブルに着く者達の顔を見回して言った
【じゃ…… 万事全ては任せたぜ、お前ら】
彼等の表情が陰る
【おいおい! 重苦しい空気は嫌いだ♪ 笑え! さぁ、笑えよ♪】
ぎこちなく笑みを向ける侍女やコック達
そっか……
彼等の顔……
あの時は解らなかったが、レシアが逝った時……
僕も、こんな顔だったのかもな
笑え、か……
レシアが掛けた言葉を僕が復唱する事になるとは……
そしてその後、僕が皆に伝えた言葉は……
やはりレシアが僕に伝えた言葉だった
【まぁいい…… 次に会う時には笑顔を見せてくれよな♪】
そして僕は、宮殿を後にした
飛んで、飛んで…… 飛ぶ
東に向けて飛翔する
向かった先は最北東の山
霊峰エアロス山
彼等に会いに行った
上空から見下ろす
広く捉えた視界に動くモノ
肉食獣と草食獣
キョロキョロと見回す山肌
オーラを感じる
懐かしい気配
そちらに向け、また飛んだ
山の中腹に広がる樹海
そこで見つけた人影
木陰に腰を下ろしたケンシンとメルだった
本当に生きていた
あれだけ捜し回っても会えなかった2人
楽しそうに笑顔を交わす彼等
良かった
ただ、それだけ思った
頃合をみて彼等の元に降下を始める
木陰に居たケンシンとメル
そこには後ろ姿を見せた3人目が座って居た
見慣れた後ろ姿、佇まい
僕は2人よりも先に、3人目へ声を掛ける
【何やってんだ、お前……】
ビクリと震える3人目
その女性はその後振り返り引き攣った表情を僕へ向けた
「ノ、ノア様…… ちょっと…… 陣中見舞いを……」
お前もか……
居ても立っても居られなかったんだな
解るよ、お前の気持ちは……
「も、もう職に戻りますので……」
僕は彼女に手を向け制した
【いい…… お前もココに居ろよ♪ 本当に久方ぶりだからな、ムゥムゥ】
僕より先に彼等を訪れて居たのはムゥムゥ
空を飛んで来た僕と違い、彼女はルビーのゲートを通って瞬時にココへ来たのだ
2人に会いたがって居たのは彼女以上に居無い
それなのに、とっとと返すなんて事をする様では神としても失格だ
だから僕はムゥムゥの肩に手を置いた
【たまには語ろうぜ! ゆっくりとな♪】
「え…… あ…… はい♪」
とても幸せそうなムゥムゥを見ると、僕も彼女の傷が癒えたのかと心が暖かみを感じた
それから4人で暫く談笑をする
会話の中心に来る物事はどうしても1つになる
彼等を幾度と無く捜し回ったが、見付からなかった件だ
【なぁ、ケンシン】
「はい?」
【お前達、どこに行ってたんだ?】
「ん? 意味が解らないのですが…… ずっとココに居ますよ?」
どういう事だ?
あれ程捜して見付からないわけが無いというのに……
【ずっと、か? 一時も山を離れずにか?】
「離れてませんよ? なぁ、メル?」
そう言ったケンシンはメルへと視線を移す
「3日位は離れたけど…… うん、それからはこのままココに居たよね?」
彼女もまた虚偽の面持ちは無く、そう答える
たが、メルが答えた次の言葉が僕に妙な違和感を植え付けた
「魔獣ってこんなに湧くんですね…… 大変な任務でしたが、民達の為と思えばやり甲斐があります♪」
【メル…… こんなに湧く、とは?】
「はい♪ 2、30年周期で一気に湧くものと聞いたように思いますが、ずっと増え続けて居たので……」
どういう事だ……
確かに研究成果としては、その様に報告を受けていたはず
僕はムゥムゥへと顔を向ける
彼女も僕を見て、顔を強張らせていた
「どうかしました? ノア様、ムゥちゃん」
【あ、いや…… 少し…… 聞きたい事があるんだが……】
「はい?」
【ずっと増え続けていたっていうのは…… どの位の間隔だ? おおよそで良いから教えてくれないか……】
メルはキョトンとした表情で僕等2人を交互に見る
そして、ケンシンへと視線を向けた
彼もまた同じ表情だったが、考えを整理して僕に言った
「毎日…… ってか、毎分ですかね?」
【お、お前…… なんて…… 言った!?】
「毎分ですよ、すぐに湧きます…… なぜか今日は湧かないので、たまにはゆっくり腰を下ろそうとしてたらノア様とムゥムゥが来たんで♪」
解らん……
何が起きたんだ
毎分、瘴気が吹き出したら山の獣達は全て汚染されるハズだ
魔獣達が増え、草食獣を襲うのであれば山は魔獣だらけになるだろう
それが今、見受けられない
何が起きているのか検討もつかん……
【そ、そうか…… 大変な仕事をさせてしまったな…… すまない】
「いえいえ! 全然ですよ♪ それにその方が……」
ケンシンの顔が陰る
隣に居たメル
彼女も顔を伏せた
【その方が…… 何だ?】
「とにかく休み無しに剣を振って居れば…… 思い出さずに済みますから」
【何を?】
「娘の…… 事を」
【ニコか? ニコがどうした?】
「ニコの事を知ってらっしゃったんですね」
【ああ】
歪ませた表情を向けるケンシンとメルだったが、その後、彼等は気持ちを整えて僕等へと語り出した
「ノア様から使命を受け、1年程した頃に彼女が生まれました」
【うん】
「エアロス山は危険な所です…… 日々、魔獣との戦い…… 俺達は永命の儀をノア様から施して頂きましたから問題無いですけど、娘は……」
【ああ、ココで育てるのは厳しいだろうな】
「ええ…… だから少しだけ山を下り、安心して育てて貰える土地を捜した時があったんですよ」
それが山を3日程度離れたと言った理由か……
そして探し当てた土地はオレンジ・ホームになるわけだな




