62話 ライトニング・ヴァルキュリア
ムゥムゥはエアロス山のみならず、近隣諸国でのいざこざや、獰猛な獣騒ぎがあれば2人1組で鎮圧に向かわせた
シークレット・フォースでは無く、《ノア様の遣い》と云う名目で派遣戦闘員を放つ
宮殿内で圧倒的な実力を誇るムゥムゥ
侍女へ指示を出す立場となっても、自己の修練は過密な物
だから、だろうか……
治安を把握する為、神という存在を隠しながら世界を巡って居た際に、ある言葉を聞いた
《ライトニング・ヴァルキュリア》
おそらく近隣諸国へ派遣された侍女が口を滑らせたのだろう
事態を鎮静した侍女が民から詰め寄られでもした際に「私よりも強い侍女長様が宮殿に居る、速過ぎて敵わない」
ま、そんな辺りだと思われる
民から見て恐ろしい強さを持つ宮殿侍女
そんな女性が《敵わない》と言う、遙かに強い侍女長
顔も名も知らない女性に民達の想像は膨らむばかり
長老ポポンも、その噂を聞いたのだろう
とはいえ、彼女は不必要な知識は獲得しない
だからムゥムゥは知らないのだろうな……
この世界、カタストロフィで彼女の事を陰ではこう呼んでいる
《閃光の戦乙女》と……
皮肉というか…… 最もというか……
桃眼を手に入れた彼女は、今まさに《閃光》と遜色無い
そしてソレを手にしたキッカケは…… やはりケンシン
誰にも言えない、淡い恋
彼女の桃色の瞳は《ルビーアイ》と《ダイヤモンド・アイ》
そして《恋》が…… 混ざった物なのかも知れないな
「……」
声がする
「……ま」
何だろう?
「ノア様!?」
ビクリと揺らした体
ハッと顔を上げたソコには、ポポンが驚きと心配を映した表情で僕を見ていた
【あ…… ああ…… すまない】
「大丈夫でございますかな!? 体調が優れんのでしたら、お休みになられた方が……」
【いや、いい…… 大丈夫さ…… 少し、昔を思い出していただけだ…… 問題無いよ】
そう言って僕は彼に手を振った
ケンシンとメル、彼等の身に何が起きたのか解らない
僕は目を閉じ、ただ感覚を広げ、この世界に意識を向ける
北東部にそびえる霊峰エアロス山
ソコに心を飛ばした
そして、見た
彼等を、見た
あの時と変わらぬ姿で手を取り合い、山肌を歩いて居た
ケンシンとメル……
生きていた
昔と変わらず、生きていた
目頭が熱く感じる
心の奥に希望を感じる
そのまま、僕はムゥムゥへと顔を向けた
そして、伝えた
【ムゥムゥ…… 生きてる…… 山に…… アイツらが……】
直後、凍りついた表情で両手を口元に当てた彼女
その両肩が小刻みに震えている
そしてクルリと僕に背中を向け、呟いた
「生きてるなら…… 生きてると言いに来なさい…… バカ者が……」
そう言った彼女はその後、フフフッと少し…… 笑った
今すぐにでもケンシン、メルの顔を見たかったが、ポポンに優しい世界の創造案を聞いたのは僕だ
問い掛けた僕自身が先に退室するのは無礼というもの
はやる気持ちを抑え、僕はポポンへと言葉を繋げた
【安定した世界を創れば、家族が1つで居られる…… そう言いたいんだな】
「そうですじゃ♪」
【解った…… 何より、今までの話を聞く限りでも異論は無いよ】
笑顔で頷く老人
彼はそのままの表情で言葉を続けた
「後ですな、白い眼…… ですかな? ノア様が力を持たせた者を集落や町に常駐させようと思いますじゃ」
【なぜだ?】
「問題が起こる前に、その者達が止める事が出来れば安心というもの♪ それに対処に手こずっても時間が稼げれば後陣が加勢出来まする」
【確かにな…… 自警団は必要かもしれん…… 特にエアロス山の麓には必要となるだろう…… 今は…… アイツらが脅威の元凶を里へ下りる前に止めてくれて居るがな】
「ですな♪」
ダイヤモンド・アイを与えた者は数少ない
僕が考えも及ばなかった案を次々と申し立てるポポンを選んだ事は間違いでは無かった
彼のプランは、僕が動かずとも優しい世界を創り、そして守る物
発展し、衰退し無いプランだ
僕は早速そのプランを実行し始めた
明日には門番の職に就く
余裕を持って実行出来るのは今晩のみ
僕はムゥムゥへ指示を出し、体力と技量、正義感を兼ね備えた者
彼女が選んだ数名にダイヤモンド・アイとソレに見合った武具を与えた
この時、正義感だけでは無く、心も伴った者と付け加えとけば良かったと感じたのは唯一の後悔だろう
ま、その件はまた後日話す事とする




