5話 全力
ある時だ
僕がいつものように彼女等の元に出向こうと思って居た時の事
宮殿とよべる僕の大きな居城に響くような、叫き声
すぐに誰かは解った
レシアだ
レシアが泣いている!?
笑顔しか見せないあの子が泣いている!!
大声を上げて居た
僕は跳んだ
飛翔では無い
場所は解る
こんなに大きな宮殿全体に響く声
中庭に違い無い
僕は手を握る
そして手を開いたソコに《紅い空間》が生まれる
ラピスは破壊と創造の力
その片方を使った力で目の前に入口ゲートを……
そして出口を中庭に設定し、その距離を縮める瞬間移動
庭に降り立った僕はレシアの元に走った
大声で泣くレシアは僕の足元にしがみつく
泣いていて何を言っているのか理解が出来ない
足元から離れ、持ち上げた手
僕よりもまだまだ小さな体
彼女の両手に乗るアルトロンの双頭
その、それぞれの口から妙な液体を吐き出しながらアルトロンが咳込んでいた
今尚、泣き散らし会話にならないレシアをよそに僕は腰を屈め、アルトロンの胴体へと手を伸ばす
触れた瞬間に感じた
アルトロンの成長はラピスの暴走に依るものだと解った
ラピスは才能……
神の才能によるものが大きい
レシアは可能性が高かった
馴染む可能性は高かったんだ
万が一、馴染まなくても僕が力を取り上げる
それで良かった
だが、この龍は別だ
この龍自体がラピスの塊
彼女の創った器が小さすぎたからこその短命
間もなく崩壊する
この龍からラピスを取り上げる事、ラピスの塊であるアルトロンにとってそれは、命を取り上げる様な物
無理だった
だが、それを無理とするのは簡単だ
今、泣いている
レシアが泣いている
彼女の6歳としての感情、母親として、子龍の命が尽きようとしている事に気が付いている
ダメだ
このまま泣かせるわけにはいかない
考えろ
考えろ、僕……
何が出来る……?
僕に何が出来る……
僕の孫……
孫の子
この龍は……
姿形は違えど、僕の曾孫じゃ無いか!
何とかする
絶対に……
何がある……?
器……
器の小ささ……
見合った器!?
分けるって事か!!
破壊の力と、創造の力に!!
【レシア、どいていろ! 僕が救ってやる!】
「でも…… でも…… うあぁぁぁん!!」
【泣くな!! 時間が無い!! 僕を信じられるか!?】
コクコクと何度も頷きながら涙を流す少女
「お願い!! シャドウ様!!」
僕は頷き返した
そして目を閉じる
龍の体内に力を流す
アルトロンの体を、僕が創り出す紫色の穴にすっぽりと収めた
僕の中にあるラピス
それを破壊のルビーと創造のサファイアに分け、一度記憶以外の全てを分解した
そして、再構築する
大丈夫だ……
大丈夫……
僕の力なら……
器に見合ったモノに再構築出来るはずだ……
だが……
何も起きない
結果も出ない
世界が時を止めたかのような集中と無音
レシアが何か話し掛けているが、聞いている余裕は無い
救わねば……
アルトロンを救わねば……
レシアの為にも……
曾孫の為にも!!
それでも僕を揺する小さな手
レシアだ
集中が途切れる!!
僕は彼女に目を移した
【待ってろ、レシア! 集中出来ない!!】
彼女は涙を流して居た
だが、その目は微笑んでいた
彼女は僕に言った
ありがとう、ありがとう
そんな感謝を何度も繰り返し僕に伝えた
意味が解らぬその言葉
それを理解したのは、そう思った直後だった
彼女が膝をついた地面
その右足と左足に寄り添うように、2匹の龍が居た
紅い龍
そして、蒼い龍
ラピスを二つに分けることによって龍も二つに別れたのだと理解した
ホッとした
ホッとしたよ、とても
腰が抜けたわ……
僕も地面に腰を下ろした
そして、そのまま、寝転んだ
青い空が僕を見下ろしていた
清々しかった
世界を創る事に生き甲斐を覚え、その事にだけ走り抜いてきた僕の生き様
ヒトと深く関わる事をせず、ひたすら自分の理想を追い求めてきた
ヒトってスゲーよな……
今までの僕が実にツマラナイ者だと気が付いたよ
子を思うって、こういう事なのかな?
なあ、アース……
これが感情……
自分以外の者に全力を掛ける、か……
なんだろうな……
うん……
こりゃ……
意外と……
悪くないモンだ♪