56話 魔獄領域
【痛ぇよ、ニコ……】
僕は呟いた
体を強く抱き締める彼女
「死なさん! 死なさんから!!」
【解った解った……】
「死なさん!!」
【解ったって……】
「死なさんて!! ニコが!!」
【だから解ったって……】
「え?」
【ありがとな…… うん、解ったから】
「ホンマに?」
【ああ…… 自分から死なねぇよ】
「良かったぁぁぁ!!」
そう言ってニコは満面の笑みで両腕を離した
僕に背中を向け、前方から襲う敵に注意をしていたであろうレイジが、一度チラリと目を移し、ニヤリと笑った
ザッと鳴る、その隣
ムゥムゥが苦無を十字に構え、舞い戻る
助けられている
僕は、コイツらから…… 助けられている
また職務放棄するとこだったな
ったく……
弱ぇな、僕は……
悪い、レシア……
僕はもう少し……
生きてても、良いか……?
僕な……
守りたい物があるんだ……
コイツらを……
この世界、カタストロフィを……
世界に住む人々を……
全力で守りたくなっちまった
なぁ、レシア……
お前は何か《別の物》が見えてたんだよな?
《私は死なない》
そう言ってたよな?
じゃあさ……
お前が戻る、その日まで……
僕がこの世界を守る
許してくれるか?
僕の記憶の中のレシア
彼女が満面の笑みで、笑ったような……
そんな気がした
僕は侍女と孫婿、3人の前に歩く
そして魔物達に向け、言った
【ダスト…… お前達を許すわけにはいかない……】
「ホう……」
【だが、孫娘の意向もある…… だから……】
「ダかラ、何ダ?」
【人を喰う事を…… 許す】
レイジが、ムゥムゥが……
そして、ニコが僕を見た
僕はその眼を見ない
見なくても解る驚きの気配
【ダスト…… 食べたくなったら東の先、最東端にある終焉の門に来い……】
「ノア様! 何を!?」
僕に詰め寄ったのはムゥムゥだ
【ムゥムゥ、まず待て…… なぁ、ダスト…… 条件がある】
「条件とハ?」
【食べて良い人の魂は、咎人だけだ…… 罪を犯した者のみ……】
「フム…… 良いダろウ」
【まだだ…… そしてもう1つ…… お前達はどちらにせよ増え続ける…… だから一定以上の繁殖が見られたら排除する】
「殺スのカ? 俺らヲ?」
【そうだ…… これ以上の譲歩は出来ない…… 食物連鎖の上位、お前達が増え続ければ世界は終わる! そして、お前達は人の罪により増える! 減る事は無い! だから僕が調整する】
「ナるホど…… 良いダろウ…… ソの条件デ構わナい」
【約束を違えるなよ…… 契約破棄は万死に値する】
「アア…… 守ルさ」
そう言ったダストは、奴等の城に歩き、闇の中に姿を消した
ソレを追う魔物達
悔しさを感じる視線ではあったが、ソレらもまたゾロゾロと背後を付いていった
奴等全てが視界から消えた頃、僕は3人の仲間達に振り向いた
【皆…… すまない】
「いえ……」
「いえ」
「んーーん……」
僕の言葉に答える彼等
そしてその中の1人、ムゥムゥが僕の前に立った
「レシア様の…… 為なのでしょう?」
【…… お前は…… 何でも解るんだな】
「お仕えして長いですからね♪ レシア様が求めた優しい世界…… 奴等もまた、世界が作り上げたモノ……」
【ああ…… だが消すべき時には…… 消す】
「ええ」
【だが、無闇に排除はしたくない…… 奴等は…… 奴等は、奴等なりに生きている】
「ギリギリの譲歩でしたね…… しかし反旗を翻す事があれば……」
【ああ、その時は躊躇しない】
「そのお覚悟があるなら、私は何も言いません♪」
【迷惑を掛けるな、ムゥムゥ】
「いえいえ♪ お仕えした時から決まっている事です」
【何がだ?】
「ノア様のミスは我々が払い去ります」
【そっか…… ありがとな】
そして僕達は空洞を出た
長い暗闇を歩き、光が見えた
そこは入り口
山の麓だった
僕は振り返る
そして闇に染まる入り口を見た
改めて見上げると高い山だ
【少し待ってくれ】
そう皆に伝え、風を創り、上空へ飛ぶ
空から見下ろす山
イメージと共に、そこへ力を向けた
包み上げたのだ、山を
サファイアの力で……
そして、皆の元に降り立った
【コレで山から出て来た魔物達は僕が解る…… そして、向かう先も判別出来る…… もしも終焉の門方向から逸れれば、僕が排除する】
「安心…… で、ございますね」
【そうだな…… なぁ、ムゥムゥ】
「はい?」
【この世界、カタストロフィ全てに通達しろ】
「はい」
【この先は今後《魔獄領域》の名称とする…… 何人たりとも侵入は許さん…… その者は子供とて厳罰に処する】
「承知致しまして……」
【頼んだぞ】




