55話 星の子供
ニコがレイジに何度も謝る
それを彼は手を振り、なだめていた
僕はそんな姿を横目に、正面へ向き直る
一瞬の出来事
ニコの振ったティラノ・クラウンにより、大半が喰われた
《恐れ》
それを含んだ奴等の表情
解っちゃ居る
解っちゃ居るが、まだだ
最後の一手は必要だ
ソレは
《頭》を潰す事
司令塔である、ダスト
奴を魔物達の目の前で消去する
統率の取れなくなった部隊ほど脆いモノは無い
奴等に見えぬ力でも良かったが、何が起きたのか解らない倒し方よりも、理解し、尚ソレに届かないという絶望
それを与える方法を僕は選んだ
ソレは、ムゥムゥが行い、そしてニコが行った方法だ
こんな感じだな……
僕は体内に力を流す
ココで…… コウする……
体の肉がミチミチと軋む音を上げた
さて、と…… 行くか……
両手に創り上げたラピスの剣
腰を落とし、構えを取る
そして、一気に跳んだ
なるほど……
コレがムゥムゥの筋力増加、そしてニコの筋肉増産か……
ヒュ! ザザザザクシャ……
敵に向けて振った剣から一瞬遅れて音が届く
そのまま真っ直ぐ奴等の城
その入り口まで走り進める
そして大きく剣を掲げた
ターゲットは、《ダスト》
頭を消して、終いとする
サヨウナラ、ダスト……
心で呟き、振り下ろしたラピスの剣
ソレを、僕は止めた
奴が囁く様に口にした言葉
ソレが、僕の行動を…… 止めた
その言葉は……
「母さン…… 俺ヲ殺すノか?」
だった
何を言っている……?
そんな考えを持ちはしたが、奇妙にへばり付く心への枷に僕は動けずに居た
【ダスト…… 何て言った、お前……】
「母さン」
【ふざけるなよ】
「フざケて居無イ」
【何だと……?】
「真実サ…… 俺ヲ…… 俺達ヲ産んダのハ…… 《オ前》だ、《ノア》」
震えた
僕の体が……
嘘だ
ハッタリだ
そう、そのハズだ
なのに……
何だ……
この、ソレを肯定するかのような心の歯車が噛み合った衝動は……
脳裏をグルグル巡る記憶の奔流
心に身を任せ、流れに逆らわず委ねる
その先に居た者
ラフレシア……
レシア……
なぜレシアを思い出す……?
僕の記憶の中の彼女
ソレの口が、動いた
何だ……
何を伝えたい……?
僕は間違って居るのか?
口をゆっくり動かすレシア
言葉は僕に届かない
だが、その動き
ソレで、理解した
《星の子供》
彼女は言っていた
この世界から消える前に、確かに言っていた
その時は意味が解らなかった
レシアに何が最善なのか考え、他の事には目を向ける余裕が無かった
星の子供
どういう意味だ……
魔物達は僕の子?
有り得ない……
そんな訳が無い
でも、レシアは何かを感じて居た
僕なんぞより感性の高い子だ
何かを《隠して》言った
直接的では無く、間接的に……
僕に関わる何かを……
何だ……
何が理由だ……
星の子供……
他の星の子供?
違う
突然現れた魔物
突然?
きっかけが有った?
きっかけ……
突然……
今までに、無い物
ゲート・オブ・カタストロフィ
終焉の門
アレを創ってから、現れた……
大河、カタストロフィ……
無垢……
あの河で、御祓……
垢
垢の塊
ココは……
大河の下流……
星の子供……
他の星の……
垢の……
罪の垢の…… 塊!?
子供!?
レシア……
お前はソレを言っていたのか!
他の星の人々を救う為に創った終焉の門
この世界でソレらの罪を洗い流す
だが、その罪は消えていなかった
ココで、形を成した
ソレが、コイツら……
なんだ……
だったら……
やっぱり……
レシアを殺したのは、僕だ
レイジの記憶に入った時、レシアは言っていた
レイジの制止も聞かず、言っていた
《魔物達と話がしたい》
交渉したいと……
僕の為だ……
僕の為の交渉だった
だからレイジからどう諭されても聞かなかった
僕の為……
僕が、僕の罪に気が付かない様に…… 全力で交渉しようとした
優しい子だったからじゃ無い
でも優しい子だったから行動した
奴等を救う為の優しさじゃ無い
僕を救う為の優しさ
この世界に危害を与えない為に、奴等と話がしたかったんだ
穏便に事が済むように……
何なんだよ……
何なんだよ、僕は……
ホント…… 神、失格だな
ふと、我に戻った時……
僕は周囲に目を向けた
目の前には微動だにしないダスト
僕とダストを取り囲む様に配置した魔物達
ソレらが手を向ける
そして黒光りを上げた
黒球か……
いいぜ、来いよ
モウ、イイ……
突如、強い力で僕を抱える《何か》
触覚がソレを捉えた時、僕はこの空洞入り口に跳んでいた
別に僕が跳んで逃げたわけじゃ無い
何かに連れて行かれた
ソレが正しいだろう
先程まで居たダストの目の前
ソコには桃色の稲妻が迸る
ムゥムゥか……
直後、僕の前に現れたシルエット
後ろ姿……
鎧……
コレは、レイジ……
グッ……
痛ぇ……
何だ?
ココまで連れてきた女
その両腕が僕を強く締め付ける
俯き、下を見る僕
そこには女性の後頭部が見えた
ニコだ
彼女が頭を上げた
顔を見せた
そして……
泣いていた
涙を流し、彼女は言った
「死ぬとかダメ! ノアさはニコが守るモン! 死なさん! ニコが死なさん!!」
ああ……
何て……
何て一生懸命に……
僕を守るんだ……
まだ、生きてて良いのかな……
こんな僕が……
良いのかな、生きてて……
迷いが有った
でも、その迷いを払拭したのは……
今も強く締め付けるニコの想いが詰まった……
両腕だった




