53話 瞬殺
あれ程の力を見せられた後
別段、気配を消して向かう必要は無いだろう
そんな考えを持ち、歩く途中で不意にムゥムゥへと聞きたい事を思い出した
【ムゥムゥ】
「はい?」
【暗闇の中で…… お前、《見えてた》んだよな?】
「はい、見えてましたけど何か?」
【いや、僕には見えなかった…… あの程度の光では…… なぜ、お前達は見えたんだ?】
フフフッと笑う彼女
そして、理由を言葉にした
「あれはですね…… 瞳孔を極限まで広げ、ルビーアイで視覚と聴覚のレベルを最大限まで引き上げたのです♪」
【つ、つまり……?】
「はい…… ほんの僅かな光でも、私とニコの眼が捉える光量を引き上げたのですよ♪ 真昼に見える程にです」
なんて奴だ……
ルビーアイで他人の、ニコの感覚まで即座に干渉したというのか?
それに、戦闘に関する知識と経験が僕を上回っている……
ムゥムゥに戦いを教えたのは僕なんだがな
才能の塊とは、この事を云うのだろうか……
どうしようも無くソレを感じた僕は、
【そうか…… 何とも……素晴らしいよ、ムゥムゥ……】
それだけ口にした
そんな会話をし、歩いていた時だ
歩む先から光が見えた
明らかに大空洞、内部の漆黒とは違う光
その光に向け、僕達は歩いた
突然開けた暗い通路からの空洞
先程の大空洞よりは天井が低い
とはいえ、かなり広い空間であることは間違い無い
見上げた天井には亀裂、だろうか?
そこから空の光が降り注ぐ
そして正面には、ボコボコと穴の空いた壁面があった
その壁から下に目を向けると地上の並びに壁面の穴よりも大きい穴がポッカリと空いている
感じる気配
穴から何者かが《見ている》
そう思えた
そうか……
壁面の穴は……
窓か?
そして正面下部の穴
ソレは出入口かもしれない
コレは……
奴等の城か……
「来ます」
ムゥムゥが呟いた
入り口と思われる壁面下部の穴
ソコで何かが動いた
ゆっくり歩く何者かのシルエット
天井の亀裂から降り注ぐ光を受け、足先が……
足が……
下腹部、胸部……
そして、頭部を映した
1体では無い
5体の魔物
先頭に立つ者の右翼に2体
そして、左翼に2体
先頭の魔物
その両斜め後ろに立ち、僕らを睨んでいた
【先頭の…… お前】
「何ダ?」
【お前が魔物達の長、か?】
「別に…… 俺達にハ上下関係ナど無イ」
そうは言っても間違いは無い
明らかに他の者達と違うオーラを放っている事を、僕は見逃さない
【ほう…… まぁいい】
そんな呟きを口にした時だった
言い様の無い、冷徹なまでの寒気を感じた
異様なほどクリアになる僕の感覚
即座に顔を向けた
ソコに居たのはムゥムゥ
驚異的な殺意と悪意、そして憎悪
コレは、マズイ!
飛び出したムゥムゥ
稲妻の如きスピードを僕の感覚が、眼が、追った
僕は叫んだ
【待】 彼女は飛んだ、左翼の敵に
【て】 クナイの先を目に押し込み
【!】 その敵を土台に右翼の敵へ
【ム】 そいつの首に手を掛け切り上げ
【ゥ】 斜め隣の敵に足を絡ませ首を捻り切る
【ム】 それをまた土台に左翼の敵を穿つ
【ゥ】 先頭の敵、その背後
【!】 降り立ったその場で彼女は止まった
彼女の苦無、闇断ちと魔断ちを魔物の……
先頭に立っていた魔物の背後から両眼に突き刺す寸前で、彼女は動きを止めた
一瞬で4体の魔物を……
叫ぶのが遅ければ……
もう、終わっていた……
スッと下ろした彼女の両腕
ソコにはもう、ムゥムゥの姿は無かった
僕は隣に目を向ける
厳しくも、悔しさの残る表情を見せながら、彼女が戻っていた
そして、言った
「なぜ止めるのです…… ノア様…… 奴等は殺さなければ成らない者、ですよね……?」
解る
お前の言いたい事は……
【ああ…… すまない…… だが、少し…… 少しだけ…… 待ってくれ】
「……」
【僕の自己満足の為だ…… そして、レシアの……】
「レシア様の……」
【ああ】
「…… 承知しました」
【ありがとう】
彼女に少し頭を下げ、僕は魔物に向き直る
その瞬間、奴の右翼、左翼に居た計4体の魔物が……
ドドドドサッ……
重い音を鳴らし、うつ伏せに堕ちた




