52話 信頼の厚さ
何を考えているんだ、僕は……
知っていたからとて、未来が変わったのか?
止めろ、僕……
一人で全てが収められると思ったんだろ……
ムゥムゥの責任じゃ無い……
コレは、僕の周りを信じられなかった……
ソノ、罪だ
だってソウだろう?
使い慣れているから魔物達をクナイで滅ぼしたのか?
違う……
違うハズだ……
レシアを失った悲しみを……
レシアに心を込めて渡した闇断ち
同じクナイで魔物達を滅ぼしたかったハズだ
魔物を倒すなら……
魔物の眼を穿つなら……
もっと大きく、強度の高い剣など幾らでもある
ソレをわざわざ苦無を選んだんだぜ?
ムゥムゥを責めるのは、お門違いだ
ココで彼女を叱責するのは、彼女がレシアを愛する心を否定しかねない
僕だ
悪いのは全て、僕なんだから……
僕の中に失意の感情が渦巻く
ソレを癒したのはムゥムゥだった
「ノア様…… お気をしっかり! その様な顔、レシア様が悲しみますよ♪ レシア様はノア様の笑顔がお好きなのですから♪」
レシア……
そうか……
うん、そうだよな
【ありがとな、ムゥムゥ】
「いえ♪」
ニコリと笑ったムゥムゥが頭を下げる
そんな姿を僕は、心を整理し、取り戻した笑顔で見ていた
が……
中々、頭を上げない彼女
【ムゥムゥ?】
僕は怪訝な表情で問い掛ける
その声にビクリと肩を揺らした彼女がゆっくりと顔を上げた
たが、その眼は、僕を見て居無かった
恐ろしく冷たい視線を横目に……
先程までの闇の中では、この顔だったのだろうか
その冷たい視線の先は闇の奥
大空洞の暗闇の先を見ていた
【居るんだな……?】
僕は聞く
「はい……」
ムゥムゥは答えた
ぐるりと皆を見回す
誰もが恐れの表情は無い
レイジは僕に視線を交わし、頷いた
ムゥムゥは暗闇を見ながら微動だにしない
ニコは
んーーーと……
ニコは……
珍しい大空洞の内部をキョロキョロと見ていた
ザッ……!
足元から音を鳴らし、目の前から一瞬消えたムゥムゥ
彼女が同じ位置に戻った時、その両手には白い大剣が乗せられていた
「レイジ殿♪」
先程までと違い、今度は柔らかな表情を映したムゥムゥがレイジへと両手を差し出す
彼女の両手に乗る大剣、インフェルノを手にするレイジ
「ありがとうございます、ムゥムゥ様…… そして、俺からも……」
大剣を受け取る代わりにレイジが出した片手
そこには鞘
僕がレシアに創った闇断ちの鞘が握られている
「ありがとう、レイジ殿♪」
受け取るムゥムゥは少し、その鞘を見つめた
「あ! すみません、ムゥムゥ様! 俺だけインフェルノを取ってきて貰ったのに…… 待ってて下さい! 探してきます!」
「いえいえ! レイジ殿、大丈夫ですよ♪」
「え……? でも……」
ムゥムゥはレイジに微笑む
そして自分の前に右手、鞘を掴んだ左手を出した
ただ、両手を前に付きだしただけに見えるムゥムゥの姿
「あの……」
呟き問い掛けるレイジ
彼女はまた、笑った
そして、言った
「おいでなさい……」
闇に光る桃色の閃光
ヒュン…… と軽い風切り音
輝きが瞬時にムゥムゥの両手へ走る
直後、彼女の右手には苦無、魔断ちが……
左手の鞘には闇断ちが収まって居た
あっけにとられるレイジに視線を掛けながら、鞘を腰に……
そして魔断ちは、なぜかウナジから背中に入れるムゥムゥ
背中に入れた訳を聞こうと思いもしたが、彼女の言葉によってそれは遮られた
「レイジ殿…… どの場、どの状態であっても得物との信頼が厚ければ彼等は動きを止めていても応えますよ、我等にね♪」
「あ…… えっと…… はい♪」
そうか…… そうだな……
レイジも戦闘の最中、インフェルノを呼んだ
だが、あれは大空洞の天井から方向を彼に向けて舞い戻ったダケだ
止まった位置か……
確かに信頼の厚さによる所業だな
レイジがレシアを守る際に放った闇断ち
桃色の輝き……
そして、外したと思われた瞬間からの急激な方向転換
ムゥムゥの意志を継いだ動きだ
彼女がレシアへ闇断ちを与えた際の、苦無に掛けた想い
《レシアを…… 身命を賭して守る事》
多分、その想いに闇断ちが応えたのだろう
深く、深く……
レシアを愛し……
自分の心と同等の闇断ちをレシアに授けた
彼女の心と共に……
そう
僕は気付いていたのだ
だから、迷い無く鞘に彫った
《ムゥムゥの心と共に》と……
「さぁ行きましょう、ノア様」
【ああ……】
そう言ったムゥムゥの言葉を口火に、僕達は歩き始めたのだった
しばらく進むと大空洞に穴が空いていた
ヒトを二回りか三回り
僕らが入って来た最初の入り口よりも小さな穴
ヒトが通って余りある程度ではあるが、やはり小ささに疑問が残る
ココを通るのであれば、中に居る者は、僕達と同程度の体格といえる
まぁ、いい
何が出てきても倒す
ソレだけだ
僕達はスタスタと足音を鳴らしながら歩みを進めた




