4話 小龍
ある日の事だ
僕は庭を通り掛かった
レシアは噴水の周り
そして花壇で遊んでいた
優しい光景に笑顔がほころびながらも、庭を後にするところだった
その時だ
不意に耳に届いた声
会話をしていた
レシアが会話をしていた
誰も居ない庭で独り、腰を下ろして誰かと会話……
姿の見えぬ相手に恐怖を感じた僕は、彼女の傍らに走った
誰も居ないハズなのに視線を下げ、膝元を向いていたレシアは会話を続けた
【誰と話をしているんだ?】
そう僕は聞く
「この子だよ♪」
彼女は答える
見えぬと思って居たソコに、ソレは居た
紫色の小さな小さな生物
蛇、だろうか?
だが妙だ……
体が1つで、2本の首がソコから伸びる
【コレは何だい? 蛇か?】
「違うよ! 龍だよ!」
【龍? 蛇にしか見えないが……】
「お母様の地球の中に、いっぱい国? が、あるの♪ ソコにね、龍ってゆーのが居るんだよ♪ ちょっと見せて貰ったんたけど、こんな感じだった!」
ゾクリとした
僕の背中に悪寒が走る
今、この子は何て言った!?
《ちょっと見せて貰った》
そう言ったのか!?
この蛇
いや龍は、元々ココに居たわけでは無いと!?
有り得ない……
いや、有り得ない訳では無い
だが、ソレが本当なら、ソウだという事だ
怖さじゃ無い
この子の才能に驚いた
僕は少し震えた声で聞いた
【こんな感じだったって…… その龍とやらは…… レシアが《生み出した》のか? ラピスで……】
「そうだよ♪」
【そっか…… 何とも素晴らしい……】
侍女達が言っていた、奇蹟の女神……
まさにソレを、今、目の前で見せられた
侍女達が見たのは彼女の驚異的な破壊の力
僕が見たのは、創造の力だ
それは、僕と同じ力だった
僕はどんな顔をしていたのだろうな……
多分……
うん……
嬉しかったのかもしれない
僕の世界を継ぐ者の存在を、僕は目の当たりにしたのだから……
そして、それが僕の孫だとは……
幸せっていうものを感じたよ
今までとソレとは違う
数段階上の、な♪
それからはレシアの面倒を見ると共に、頭2つに胴1つ……
そんな紫色の小さな龍を観察する日々が続いた
レシアは龍にいつも話し掛けていた
それから数日後、話始めた
双頭の小龍が言葉を話始めたのだ
人間の子供なら、最初はパパやママなんだろうな
だが、レシアは母や父をソウ呼んでは居なかった
だからだろうか?
その小龍は《お母様》
そう言葉を話始めた
愛着は勿論有るだろう
レシアはとてもその小龍を可愛がっていた
彼女は小龍に名を付ける
龍を初めて見た場所、その国の言葉らしい
妙な言葉の名を付けた
【アルトロン】
《二つ》の《頭》を持つ《龍》
そういう意味だと教わった
危険とは思って居なかったが、僕はいつものようにレシアと小龍の傍らに居た
何時見ても完成度の高いラピスの龍
不思議な光景だ
その体が紫色であるが故、ラピスに大きく関わりのある姿であることは想像がついた
ヒトの成長の様にソレも育つ
僕がソウするように、小龍もまた、レシアの傍らを離れなかった
まるで親子の様に……
それから、およそ1年の時が経った
以前よりも随分と成長したレシア
1年とはいえ、子供の成長は早い
それに伴い、成長した小龍
いや、小龍に至っては【小】ではもう言葉に語弊がある
真っ直ぐに伸びれば、身の丈3メートルといったところか……
1つの胴体を地に這わせ、2つの鎌首は直立するレシアの身長と変わりはしない
だがそれでも、いつものように母と慕う龍に恐怖は無かった