42話 地獄の業火
「ラピス…… ラズリ……」
そうレイジは呟いた
僕は頷く
そして今も尚、力無く床へ膝を付いた彼に深く、頭を下げた
【本当に…… すまない】
「いえ……」
頭を垂れた姿に気を使ったのか、彼は立ち上がり僕の上半身を起こす
そして彼は静かに口を開いた
「顔を上げて下さい、ノア様…… まだ何も解っていないけど…… 解った事はあります」
顔を上げた僕は彼に問う
【……解った事、とは?】
「はい…… 弱さは…… 罪です」
【罪…… か……】
「はい…… 強くなきゃ…… 何も守れない…… 集落の仲間も…… 友達も…… レシアも……」
【…… そうか】
「だから感謝してるんです」
【感謝?】
「ええ! ダイヤモンド・アイを下さったノア様に」
笑顔を見せるレイジに僕は
【そうか♪】
と、もう一度答えた
そこまで言った時に口を挟んだ女性
「いえ、レイジ殿…… まだノア様からのプレゼントは終わりませんよ♪」
ムゥムゥだった
笑顔の彼女へレイジは首を傾げる
「プレゼントって……?」
「ええ…… 貴方はダイヤモンド所持者です♪ となると鉄の剣…… というわけにはいきませんよね? ノア様♪」
【あ、ああ…… そういう事を言いたいわけか、お前は……】
「勿論です♪」
「え?」
レイジは疑問の表情で僕とムゥムゥを交互に見ていた
【ん? ああ…… お前の強さを認める…… そうムゥムゥは言っているんだ】
「俺の……?」
【ああ♪ 甘さを捨てた《お前を気に入った》そうだ…… レイジに相応しい剣をくれてやれってね】
「ムゥムゥ様……」
【感謝しろよ、ムゥムゥにな】
「はい!」
そう言ってレイジは彼女へ向き直る
そして深く、深く、頭を下げた
「私に感謝は要りませんよ♪ 元々ダイヤモンド所持者にノア様が与える物です♪」
ムゥムゥは、そう微笑んだ
僕は目を閉じる
そして両の手を合わせ、そして中央を開いた
紫色に稲妻が迸り、輝く穴が姿を現す
ソコに手を入れて一振りの剣を引き抜いた
「それは……」
レイジが呟く
【お前に見合った物は、やはりコレだろう♪】
そう言った僕の手に収まるモノ
それはリンリンとの戦いの際にも木製武器として選んだ、大剣だった
切っ先からゆっくりと柄までを眺める
良い出来栄えだ
僕はレイジへと手渡し、彼は両手でソレを受け取る
「刀身白く…… なんと美しい……」
消え入りそうな声で口にするレイジ
ただ何度も剣全体を魅入る様に眺める彼に、再度ラピスのゲートから取り出した鞘を送る
【コレはレイジの為の、レイジだけの剣だ…… 他の者には扱う事が出来ない】
「俺だけの……」
【そうだ♪ お前の覚悟に比例して強度も斬れ味も変化する…… お前の為に生きている剣】
「俺の為に……?」
【ああ♪】
僕から視線を剣に向けた彼の顔は、実に愛おしいモノを見る
そんな表情に見えた
【さあ、レイジ…… 名前を付けてやれ】
「え?」
【お前の相棒だ♪ 名前くらい必要だろう?】
「そう…… ですね♪」
彼は剣を眺め、そしてこの大広間天井へと視線をせわしなく移す
何度もソレを繰り返した
「もし……」
そう口を開いたのは、僕の隣に歩み寄ってきたムゥムゥ
「もし、名に迷うのなら…… 私が1つ、案として名を申してもよろしいですか? レイジ殿」
「ムゥムゥ様…… はい! お願いします♪」
ニコリと笑うムゥムゥに、レイジもまた同じ顔を向ける
「レイジ殿、コレはあくまでも案として…… です」
「はい」
「決めるのはレイジ殿ですよ♪」
「承知しております」
「良かった♪ では…… この名を贈りましょう」
大広間全体が奇妙な空気に包まれる
僕が……
レイジが……
彼の隣に居るリンリンが……
壁際に立つ侍女達までもが、その言葉を聞き逃すまいと耳を澄ました
「レイジ殿…… 貴方は、貴方なりの地獄を見た…… それはとても悲しい事…… そして、ソレを貴方は克服し…… レイジ殿の覚悟の元に、貴方は今、形作られている」
「はい…… 俺は奴らを許さない」
「良い心構えです♪ 今の貴方と共に歩むその大剣に贈る名は……」
「はい……」
ゴクリとレイジの喉が鳴る
そんな彼に微笑みかけて、彼女は告げた
「その名は、《インフェルノ》」
「インフェルノ……」
「はい、地獄の業火…… 貴方が持つ、苦しみも…… 悲しみも…… 貴方と共に分かち合い、そして焼き尽くす…… そんな名です」
「覚悟の…… 名ですね……」
うっすらと口元を緩ませるレイジ
そんな彼の顔が変わった
そして、
「あ……」
そう呟く
【ん…… どうした?】
僕は聞いた
「いえ…… とても…… この大剣の中から…… 力を感じます」
【力、か】
「はい…… 多分、コレは…… そう言っている」
【自己主張の強い大剣だな…… で、ソレは何と言っているんだ?】
「その名が…… 欲しいと」
【そうか♪】
僕はムゥムゥに目を向ける
彼女もまた、僕と視線を交わした
その眼は実に優しい眼差しだった




