39話 レシアの世界
立つ者が膝を付く者へと声を掛ける
「大丈夫? レイジちゃん?」
「あ、ああ……」
勝ったのはリンリンだった
だが、レイジは震えていた
ワナワナと震え、そして言った
「幾らリンリンが身内とはいっても、背後から武器を投げるのは止めて頂きたい!!」
そう
彼の敗北は、武器を後頭部に当てられた事による軽い《脳振とう》だった
声を荒げ、背後に向くレイジ
その顔が直後、固まった
それもそのはずだ
壁際に居た侍女は、誰一人として動いては居無かったのだから
「え…… だ、誰が……」
キョロキョロと見回すレイジ
そんな彼に声を掛けたのはリンリン
「何言ってるの? 私だよ?」
彼は振り向く
「ふざけるな! リンリンの武器は俺が叩き落とした!」
「そうだね? でも、私が拾ったんだもん」
「そんな訳ないだろ!」
「本当だってば! レイジちゃんは私の罠に掛かったんだから♪」
「だからフザケるなって言っている!」
そう叫ぶレイジに声を掛けたのは僕だ
【レイジ、リンリンが言っている事は本当だ】
「ノア様まで……」
【待て待て! 別にリンリンを擁護しているわけじゃ無い…… 真実を話しているだけだ】
「しかし……」
【まずは納得する為に、リンリンの腕を見てみろ】
僕の言葉に彼が視線を移す
そして、ポカンと口を開いていた
「リンリン…… それは……?」
「私の道具だよ♪」
彼女はそう言った
アクセサリーだと思われていた先端に菱形の個体をぶら下げた細身の紐
それがダラリと床に落ちていた
そして、片手には弾かれ飛んだはずの苦無が握られ、その苦無自体には紐が巻き付けられていた
「ど、どういう技なんだ……?」
「別に技でも何でも無いよ♪ この紐で、飛んだ苦無を絡めとって後頭部にぶつけたのよ♪」
「なんて…… 器用な芸当を……」
「こんな力でも身に付けないとさ、ムゥムゥ様の顔を歪められなくてね……♪」
そう言ってリンリンは笑った
【ま、なんにせよ勝敗は着いたな……】
僕の言葉にレイジの表情が青ざめる
「待って下さい! もう一度…… もう一度だけ!」
【しつけぇぞ、レイジ…… お前の負けだ】
「俺だってレシアの敵を倒したい! その為だけに強くなったんだ!」
【でも、負けたろ】
「それでも…… それでも!! 奴らに復讐しないと気が済まないんですよ!」
【だからよぉ…… 戦い舐めんなって…… 言ってんだろーが!!!】
僕は椅子からレイジの元へと飛び跳ね、殴った
吹き飛び倒れるレイジを無理矢理立たせて掴み上げる
そして苦悶の表情を見せるレイジへと静かに告げた
【甘えは許さねぇ…… お前は負けた…… だから、終わりなんだ】
「しかし…… それでも…… 俺は、俺の気持ちを曲げない!」
彼の眼は僕を見ていた
胸元を掴まれ、苦しそうに歪む顔
だが、そこに恐怖は無い
コイツ……
デカくなったもんだ……
【お前…… 死にてぇのか?】
「死にませんよ…… 諦める事は…… もう、止めた」
【そうか…… なら、死ぬ気で強くなれ】
「ええ…… 誰よりも強くなってみせますよ」
【ククク…… 言ったな?】
「ええ」
【二言は無ぇよな?】
「誓いまして……」
僕はレイジを掴んでいた手を引いた
【じゃあ、力をくれてやる】
「え?」
【生涯、僕に仕えると誓えるか?】
「……誓います」
【いや、やっぱり誓わなくていい】
「は?」
【お前が誓うのは僕じゃ無い…… レシアを愛する心に誓え…… 彼女の救いたかった世界をお前が守れ】
「レシアの…… 世界」
【そうだ…… どうする?】
「勿論、引き受けます」
【いい返事だ! よし、お前に金剛をやる!】
「金剛?」
【力だ♪ お前が成したき事を遂行しろ】
僕はムゥムゥへと振り向く
そして言った
【ムゥムゥ、やるぞ…… 《永命の儀》、及び、《金剛の発眼》に移る!】
「承知しました♪」
程なくして、大広間にはレイジの絶叫が響き渡った
横たわり、うっすらと目を開けたレイジ
その瞳には大広間の天井が映る
「う……」
そう小さく呻いた彼は肘を床に立て、上半身を起こした
【どうだ?】
僕が問い掛ける
「よく…… 解りませんが……」
呟く様に言葉にした後、彼は両の掌を見つめた
「ただ、体の奥から力が湧き出る…… そんな感覚がします」
そしてレイジは僕を見た
その顔に僕は驚いた
コイツ……
覚悟の塊かよ……
レイジを見た
両眼を見た
ソコにはしっかりと彼の覚悟が映っていた
【そうか…… 大した者だよ、お前は】
「どういう意味です?」
【そのままの意味さ】
そこまで口にした時だ
バン!!!
そんな激しい音を立てて大広間の扉が開く
「ゴメ! 遅れちゃった!!」
扉から現れたのはニコだった
姿が見えないと思ったら、遅刻かよ……
【遅ぇーぞコラ!】
「ゴメーーン! って!? レジさー!!」
謝罪も程々にニコはレイジに駆け寄る
そして、あれ? っと表情を変えた
「レジさ? ダイヤモンド・アイ貰ったの!?」
「本当に久しぶりだね♪ それよりニコにー、ダイヤモンド・アイって?」
レイジは首を傾げる
「えっとね、コンゴーっていうんだっけな? レジさ、眼が白いよ♪」
ニコの言葉にレイジは己の顔へと手を宛てる
「自分では見えないけど……」
「そうだよね♪ でも良いなぁ…… ニコはね、ダイヤモンド・アイ貰ったけど発動出来ないの…… レジさはもう使えるんやね……」
悲しそうな表情を浮かべるニコを余所に、レイジは僕に視線を移す
「ノア様…… 発動には理由があるのですか?」
僕は頷いた
【ああ…… 覚悟が必要だ】
「覚悟?」
【お前の守りたいモノ…… レシアへの気持ち…… それら全てに金剛が応えている】
「と、言いますと?」
【本来は覚悟を自覚する為に、ヴァジュラと唱える…… お前はもう覚悟が整っているから、気を抜くまで金剛白眼が出っぱなし…… って事だ】
僕はレイジに手を差し出す
そして床に座っていた彼を引き上げた




