38話 戦い
大広間内に緊張が走る
ムゥムゥの怒りはもっともだ
だが、これ以上を制するのは…… やはり僕なのだろう
【ムゥムゥ…… 落ち着け】
ハッと表情を固めた彼女
「これは…… 失礼を…」
【いい、大丈夫だ♪ お前はいつもコウ教えてくれるよな…… 深呼吸をしろよ】
「……はい」
スゥ…… ハァ…
何度も肩を大きく上下させては心を整える
「レイジ殿…… 少し…… 我を無くしました…… 申し訳ありません」
「いえ…… 心に…… 沁みました」
「ありがとう……」
そう言ってムゥムゥは彼へと頭を下げた
「レイジ殿、話を戻します」
落ち着いたムゥムゥがレイジに語り掛ける
「貴方は強いでしょう…… 人位では【上】といった所です」
「上中下の、上…… ですか?」
「そうです」
「ならリンリンは……?」
「リンリンは…… 【下】…… ですかね?」
「なら相手にならないのでは……」
「あ! 言葉が抜けました!」
「はい?」
「リンリンは【神位の下】です」
「し、神位……?」
ムゥムゥは微笑んだ
「そうです、神クラスですね♪ 大丈夫、本気は出さないようにさせますから」
そうレイジに言ったムゥムゥはリンリンに目を向けた
「リンリン…… 【アレ】はダメですよ?」
「承知しました♪」
頷くリンリン
アレとは何だ?
ダイヤモンド・アイか?
リンリンにはまだ与えて無いはずだが……
そんな疑問を持ったのも束の間、ムゥムゥが合図をかけた
「では、お二方…… 始めましょう」
その言葉を受けたレイジが大剣を目の前で構える
リンリンは袖のボタンを外していた
そしてクルリクルリと袖を捲り上げる
何だ、アレは?
彼女の両腕に何かが巻かれていた
ロープよりも細身の、紐の様な物
その先端にはキラリと光る菱形の個体
アクセサリーなのだろうか?
充分と感じる位まで袖を捲り上げたリンリンは、改めて2本の苦無を構えた
お互いの姿にムゥムゥは笑顔を変えない
そんな中、リンリンが言った
「来ないの? レイジちゃん」
「は?」
「もう始まってるよ?」
「合図も無しにか!?」
「合図なら有ったじゃん! ムゥムゥ様が『始めましょう』って♪ 腕捲るの待ってなくて良かったのよ?」
「いや、だって……」
困惑の表情を浮かべるレイジが呟く
そんな彼にリンリンは疑問の面持ちだった
「だっては無いよ? 不意打ちなんて当たり前でしょ? 勝つ為に戦うんだよ? そーゆーの止めた方が良いよ♪ ムゥムゥ様は甘いの大嫌いだから」
「不意打ちは卑怯だろ」
「魔物は不意打ちしてくるよ?」
「いや……」
「今は木製武具だけど、コレはスポーツじゃないよ?」
「そりゃ……」
「そっかぁ……」
「え?」
「いやとか、そりゃとか…… 甘いなぁ…… そんなんじゃ勝っちゃうよ、私」
リンリン……
数年会わない内にムゥムゥに似てきたな……
「まぁいいや! じゃ、やろう♪」
そう言ったリンリンは腰を低く構えたと思った瞬間、レイジの元へと一気に跳んだ
速い!
最小限の振りで鎧の隙間にクナイを刺し込む
グッ!!
レイジの嗚咽
痛みを堪え振りかぶる大剣
目の前に振り下ろす
床に叩き付けた
居無い
ハガッ!!!
直後、体を【く】の字に曲げたレイジが数歩前に蹌踉けた
振り向く先に居たのは、息も切らしていないリンリン
その顔は笑顔だった
「リンリン……」
レイジが呟く
「何?」
「凄いな、君は……」
「そう? ムゥムゥ様なんかこの程度なら直ぐ私の背後取るよ?」
「なるほど…… 神位、か…… 人の中で腕を磨いた僕では辿り着けない境地だな」
「ムゥムゥ様がヤバイんだって……」
「こらこら…… 私を化け物扱いしないでよ……」
会話に割り込んだムゥムゥは苦笑いを見せる
「すみません、ムゥムゥ様♪ さて、レイジちゃん行くよ!」
「ああ!」
再び両者が構える
レイジは先程、目の前に大剣を構えていた
その姿を取らない
構えを、変えた
左手をリンリンへと伸ばし、右手で持つ大剣を右肩に担いでいる様な…… そんな構えだった
「レイジちゃん」
「ん?」
「良いね♪」
「そうか?」
「うんうん! ゾクゾクするよ♪ 隙が無い!」
「そりゃどーも♪ 君の速さには追いつけないからね…… 一撃必殺と行かせて貰う」
「でもソレ、危険だよ」
「そうかい?」
「肩を軸に、振り下ろし特化だね」
「読まれたか……」
「解るよ♪」
左手をリンリンに向け、ピクリとも動かぬ構えのまま、レイジは口を動かす
「じゃ、どうする?」
リンリンは笑った
「フフフ…… わたしの速さと、レイジちゃんの振り下ろす速さの勝負…… するしか無いね♪」
「そうしてくれると俺も助かる♪ 君の速さを追うのは気が滅入りそうだ」
「嬉しいね…… さて♪」
「ああ! 再開だ!」
レイジは目を閉じた
彼の周りをリンリンが静かに回る
その都度レイジも足を擦らして常に左手をリンリンに向ける
大した感覚だ
鋭敏に研ぎ澄まされた聴覚のみで位置を把握する
リンリンが足を止めた
僕と同じ考えになったのだろう
かすかに聞こえる足音で見えている、と
腰を低く構える彼女
そして、レイジに向けて宙に跳んだ
頭上から振り下ろす苦無
足音がし無い空中か!?
やるな、リンリン
決着が付く
訳では無かった
空中に目を閉じたまま、レイジの左手が向いた
違うのか!?
足音で感じたのでは無い!
風の流れ?
いや、気配全てか!?
レイジが空中に目を開く
そして大剣を凄まじいスピードで振り下ろした
ッカァァァン!
彼女の手に持つ苦無が宙を舞う
だが苦無は2本だ
もう1本をレイジの顔目掛けて振り下ろす
ガ!!
ッカァァァン!
終わったと思われた彼女の一撃をレイジが弾いた
重い大剣でそんな速さの振り上げなど出来る訳が無い!
奴め……
振り下ろした剣を床で弾き上げやがった!
瞬時に肩へ戻した大剣
「ウォォォアァォァ!!!」
レイジが咆える
そして苦無2本を弾かれたリンリンへと振り下ろした
スカァァァァン!!
甲高い音が周囲に響く
リンリンは無事か!?
などという考えには至らなかった
1人が蹌踉めく
力無く膝を付いた
僕からすれば、《思いも付かない勝負の付き方》だった
1人が立ち、1人が床に手を付ける
勝敗はその姿の差で一目瞭然といえた




