37話 2択
僕は驚きムゥムゥを見る
【な…… 何を考えてるんだ、お前は!?】
彼女は笑った
「心配ございませんよ、ノア様♪ 貴方様が部屋から出ない間、素晴らしい成長を遂げています…… 刮目してご覧下さいな♪」
本気だ
本気で、あの娘に相手をさせようとしている
いや、誰でも良いと言ったのは僕だ
人選はムゥムゥに任せるとも……
【い、いいだろう……】
そうムゥムゥに告げ、その侍女へと顔を向ける
【お前…… やれるんだな?】
「ご指名とあらば♪」
そう娘は答える
【そうか…… 見せてくれ…… お前の強さを】
「はい!」
僕は娘に頷いた
【だ、そうだ…… その娘に勝ってみろ…… 勝てたなら、魔物の元に行く事を許す】
大広間中央に居たレイジは笑顔を見せる
「は! 有難く!」
そう言って立ち上がった
そして、入口側へと振り向いた
僕に背を向けたレイジの顔は見えない
だが、震えていた
信じられない者を見るかのように、震えていた
「君が…… 相手なのか……?」
「そうだよ♪ レイジちゃん」
レイジは僕に振り向く
「ノア様!? これは…… あんまりではありませんか!」
【何がだ?】
「彼女とは戦えません! 怪我をします!」
【どちらが?】
「彼女がに決まっています!」
ふぅ……
溜息を口にする僕
【僕もな…… 信じられなかったけどよ…… ムゥムゥが決めたんだぜ? やるしか無ぇだろ?】
「し、しかし……」
【お前…… 戦いを舐めてんのか?】
「そんな事はありませんが……」
【じゃあ、やれよ…… 言っておくけどな、ムゥムゥが選んだ女だ…… 甘く見てると即、負けんぞ?】
僕もムゥムゥの人選を了承した
何よりその娘を改めて見た姿
そして顔
見てみたい……
あの娘の戦いを……
そう思ってしまった
何故なら、娘の顔には自信のみが映っていたのだから
【やるか、やらないか…… どっちにする? レイジ】
彼は1度目を瞑り、顔を縦に振る
そして言った
「やります……」
【そうか…… なら全力で行け】
「宜しいのですね? ノア様……」
【ああ……】
レイジはまた背後へと振り向く
そして娘に言った
「行くよ、リンリン……」
レイジとリンリンが大広間中央で対峙する
クルリと向きを変え、僕に見えるよう位置取った
そんな彼等にムゥムゥは一言告げる
「怪我をしてはどうしようもありませんから、木製の武具を準備しましょう」
そう言って壁際に立つ侍女に合図を出した
程なくしてラックに立てかけられた木製武具が大広間に運ばれる
それに歩み寄って2人が選ぶ
レイジは使い慣れているであろう大剣
リンリンは苦無2本を取り出した
そして、元の位置へと移動したのだった
レイジがリンリンを見る顔は不安が映る
リンリンがレイジを見る顔は自信が映っていた
「木の武器を準備してまで…… やはり危険ではありませんか……?」
そう言ったのはレイジだ
僕は何も口にし無かった
言葉にしたのはムゥムゥ
「ノア様が仰って居ましたが、レイジ殿…… 貴方、戦いを舐めてますね」
「いえ、そんな事は……」
「そうですか? ……では、知り合いによく似た魔物が居るとします…… 貴方はソレを殺せますか?」
「勿論です! 魔物ですから!」
ムゥムゥは頷く
「そうですね♪ では貴方の友が罪人、処分対象ならいかがです? 斬らなければ、殺さなければ貴方が死ぬ…… それでも友を殺せますか?」
「それは……」
レイジの表情が曇る
「いいのです♪ 私は質問しているだけですから…… でも理解しましたか? 貴方には覚悟が無い…… ソレをノア様が見抜いている事が……? レイジ殿は優しすぎるのです」
レイジは答えなかった
ただ目を瞑っていた
そんな彼からムゥムゥは目を離し、次に見たのはリンリンだった
「リンリン」
「はっ! ムゥムゥ様」
「貴方の訓練の相手は、いつも私でしたね」
「はい♪」
「レイジ殿に勝てる見込み…… どれ程有ります?」
リンリンは一度天井に目を向ける
そして、んーーー…… と、少し考えていた
「わかりません…… 昔からレイジちゃんは強かったから…… 今はもっと強いでしょーし……」
「フフフッ」
ムゥムゥは笑った
「あれ!? 笑うなんて、何か私おかしな事言いましたか!? ムゥムゥ様……?」
「いえいえ♪ 貴方らしさを持って戦えば良いのです」
「私らしさ?」
「ええ♪ ねぇ、リンリン? 私とレイジ殿…… どちらが強いでしょうね?」
「それはダントツでムゥムゥ様です♪」
「お世辞抜きで?」
「はい♪」
「良い鑑定眼ですね♪ では、《私の強さに近付いている》リンリンが勝てる見込みは?」
「あ……」
そう言ったリンリンは口をポカンと開いた
そんなリンリンに、またムゥムゥは笑顔を見せる
「解りましたか? 貴方は、いつも私が特訓相手なのですよ? 自分の力が他の者よりどれだけ高まったのか…… 自分を測っておいでなさい♪」
「承知しました♪」
ムゥムゥはコクリとリンリンに頷く
そしてまた、レイジに向き直った
「レイジ殿、答えは出ましたか?」
「はい…… それでも…… 友が罪人で、他に危害が及ぶのなら…… 倒します」
レイジは頷き、そう言った
そんな彼にムゥムゥは目を閉じ、首を振る
「ダメですねぇ…… まだまだです」
「ムゥムゥ様……? 俺の何が足りないのですか……?」
目を開き、真っ直ぐレイジを突き刺すようにムゥムゥは見据えた
「貴方は今、倒す…… そう言いましたね?」
「はい」
「私はその者を【殺せるか】と聞いたのです…… 甘い…… 本当に甘いですね」
「し、しかし…… 戦意を削げば結果は同じでは……」
「違いますよ…… 話が通じぬ相手ならどうするおつもりで?」
「あ……」
「解りますよね? 貴方が戦った魔物…… 話を聞きましたか?」
「それは……」
「それが答えです…… 殺すか、殺されるか…… 2択なのですよ」
レイジはまた目を閉じた
だが、ムゥムゥは目を離さなかった
「レイジ殿…… 甘っちょろい事を申すな…… 貴方がレシア様を救おうとした事は理解も出来ます…… ですが…… レシア様を納得させる力が有れば、事は悲劇とならずに済んだのです」
「俺は……」
「俺はとか、しかしとか…… 甘い事を申すなと言っています! レシア様に貰った命を粗末に扱うでない!!」
大広間にムゥムゥの怒声が響いた




