36話 住処
毎日、毎月、毎年……
雨が振る
あれ程まで晴天を見せていたカタストロフィが、それ以外の空を知らぬかの様に…… 同じ天候が続いた
部屋の窓からいつも外を見ては舞い降りる雨を眺める
僕はただ、生きている
何もせずに、ただ生きた
あの日からもう1年
いや、2年か……?
3年かもしれない
暦などはどうでもいい
過ぎ行く夜だけを何気なく数える
ある時、僕の部屋の戸がノックされた
【いいぞ、入れ】
ギィィ……
開いた戸から顔を見せたのはムゥムゥとニコだった
いつも心配そうに部屋を訪れる
申し訳無さも感じてはいるが、全てが無気力になった僕には対処に困る
だが、その日の彼女達は違っていた
【どうした……?】
一歩前に進めたムゥムゥが口を開く
「本日はノア様にお会いしたいという者がお見えです……」
【誰だ……?】
「それは…… 直接お会い頂いた方が宜しいかと」
そう言ったムゥムゥは頭を下げた
面倒ではあったが、僕は立ち上がり、歩く
待ち人が居る部屋に案内された
そこは、大広間だった
両壁際に侍女達が並ぶ
広間の中央には伏礼を見せる鎧を纏う待ち人
顔は見えない
だが、鎧の隙間から出た首や腕
隆々とした筋肉、肩幅等の姿形を見る限りでは男性のようだ
それを横目に僕は壇上に進み椅子、神座に座った
【要件は何だ?】
僕はその者に問う
彼は伏礼を向けたまま答えた
「長く…… ご挨拶も出来ずに申し訳ございません、ノア様……」
ん?
僕を知って居るというのか?
【誰だ…… 顔を上げろよ】
そう伝えると、彼は膝を着いたまま上半身を上げる
僕は驚いた
引き締まった顔立ちではあるが、その男を知っていた
僕に向ける顔には所々傷が見える
彼は言った
「御無沙汰しております」
と笑顔を向ける
【レイジ……】
紛れもなく、レイジだった
【お前…… 顔の傷は何だ……?】
「あはは…… 修行の旅をしましてね…… この世には猛者も獰猛な獣も多いので飽きが来ません」
【なぜ…… そんな事を?】
「見付ける為…… ですよ」
【どういう事だ?】
「彼女を襲ったモノを駆逐します」
【お前…… その為に……】
「ええ…… それが俺の全てですから」
何て奴だ……
僕が部屋に閉じ籠もって居る間にレイジは歩き出していた
立ち止まらなかった
己の意志で……
僕とは随分な違いだな……
目を閉じる
そして彼に聞いた
【レイジ…… お前…… レシアの事をどう思う?】
「どう、とは?」
【好きか、嫌いか…… かな】
「好き…… では…… 無いかも知れません」
【そっか……】
「はい…… 好き以上に…… 愛していますから」
彼は僕の目を見てそう言った
何の迷いも無く、僕の目を見て答えた
お前って奴は……
レシア……
君は言っていたよな?
《私は死なない》
と……
レシアには、僕に見えない何かが見えていたんだろ?
戻って来いよ……
お前が愛した男も、お前を愛している
だから、戻って来い
レイジは僕に言った
「最後のご挨拶を兼ねて…… 本日は参りました」
【最後? どういう事だ?】
「見つけました」
【何を?】
「奴らの住処です」
ガダン!!
立ち上がった拍子に椅子が倒れた
そんな物に構っては居られない
僕は即座に問い掛ける
【本当か!?】
「はい…… あの日から俺は世界を旅しました…… 他の町や集落などに奴らの情報は無かったんです」
【つまり……?】
「ええ…… 被害に遭ったのはオレンジ・ホームだけです…… 我々の集落…… その位置が……」
【最西端…… か】
レイジは頷く
「結論として、最西端であるオレンジ・ホーム…… それだけが被害に遭い、それ以外には無い…… だから集落に戻り、そして更に西を目指しました」
【山くらいで先など無いだろ?】
「いえ、在ったんですよ…… 集落を西に向けて進むと、何かを隠したように妙な蜃気楼が立ち上る場所…… ソコに…… 山の麓に穴がありました」
【山の麓に…… 穴?】
「はい…… なぜ気付かなかった不思議でならない程の大穴です…… 俺は1歩足を踏み入れてみました」
【ああ……】
「異様なオーラを感じる所でした…… あの日、俺は魔物の放った黒球を視界に捉える前に気付く事が出来た…… 感覚がソレを先に捉えたんです…… そして、その穴から漂うオーラは、ソレと同位でした」
【ソコに、居るのか……】
「多分…… ですので、最後にノア様へご挨拶せねば…… そう思った次第です」
僕は目を閉じる
そして、そのまま天井へ顔を向けた
【なあ、レイジ】
「はい」
【お前…… 死にに行くのか?】
彼は答えなかった
僕は顔を戻し、彼を見た
悲しそうな笑顔
ソレを僕に向けていた
そして、言った
「解りませんよ…… 死にに行く訳じゃ無いです…… でも……」
【でも?】
「何と言いますか…… そうなるかも知れない…… という事は…… 事実ですね」
【死にに行く事は許さねーぞ】
「有難く…… しかし……」
【しかしは無い…… 僕はお前を殴った…… でもよ、レシアはレイジを心配していた…… だから、死ぬなら行くな】
「それでもレシアの復讐は遂げます」
【勝てる見込みは?】
「神のみぞ知る…… ですかね」
【僕が知ってるのか?】
「そうかも知れません」
レイジの覚悟は強固な物に感じる
言葉では打ち砕くことすら叶わない
そんな覚悟だ
だから僕は頷いた
【いいだろう…… お前がどれだけ強くなったのか…… 見せてみろ】
「え?」
レイジが目を丸くした顔を見せる
その表情を見つめたまま、僕は口を開いた
【ムゥムゥ…… 誰でも良いから、レイジの頑固さを粉微塵にぶち壊す者を選べ……】
「よろしいので?」
彼女は答えた
【構わん…… 死を覚悟して戦場に向かう者が、奴らに勝てるわけ無ぇだろ? レシアの願いでもある…… コレじゃ無駄死にだ】
「ですね…… 承知しました」
そう言ったムゥムゥは大広間、両壁際に立つ侍女に目を向ける
そして部屋の入口付近、立ち並ぶ侍女達の最奥1点を見据えた
その女が頷く
ムゥムゥが頷き返す
そして、言った
「貴方が倒しなさい…… その者を」
「承知しました」
そう答えた女性が1歩前に出た




