35話 虚無感
僕の意識が、僕に戻る
目の前にはレイジが居た
今度こそ、紫色に光る右手を彼に向ける
そして僕が殴った顔の傷を、そして右腕の弾けた筋繊維を治した
「ノア様…… ごめんなさい……」
彼は言う
【すまなかった…… お前は…… 本当に頑張って…… レシアを守ってくれたんだな】
「いえ…… それでも……」
【良いんだ…… もう、話すな】
「すみません……」
そう呟いたレイジは地面に倒れたまま、己の涙を空から舞い落ちる雫と共に流した
僕は天に目を向ける
木々の合間から顔にあたる雫
虚しさばかりが心に、へばり付く
レイジに馬乗りになっていた事を思い出し、僕は立ち上がった
そしてレイジに手を差し出す
彼は僕の手を取った
手を引き、立ち上がらせては、また天に目を移す
2人で、曇り、雨を降らす空を……
ただ無言で、眺めた
心が整った訳では無い
だが、僕は不意に思い出す
ムゥムゥの闇断ち
彼女に返さなきゃな……
空を見て、立ち尽くすレイジには何も言わずに山を降りた
あの場に戻る
無かった
闇断ちが、無かった
周りに目を配るが、やはり見当たらなかった
長老ポポンも気掛かりだ
あの老体
大丈夫だろうか……
ザッ、ザッと背後から聞こえる足音
少し遅れて戻って来たレイジ
彼に向き直り、僕は言った
「レイジ…… 集落にポポンが居る…… お前も大変だろうが、看病してやってくれ」
「はい……」
静かに彼は答えた
僕はレイジに頷く
もういい
とても疲れた
僕は飛んだ
空へと……
そして、宮殿に向けて移動した
雨に打たれ、この身が凍みる
それでも、ルビーのゲートを通る事を避けた
雨に濡れたい気分だった
悔しくて
ツラくて
苦しくて
虚しい
後悔が胸の奥に形作る
それでも僕は、《全てを受け入れた》
宮殿の上空に着く
そして見下ろす
大きな宮殿でも上空から見れば小さなモノだ
小さな僕が、今、小さく見える宮殿を卑下する
つまらない
くだらない
何よりソレに値するのは僕
このまま全てを消してしまおうか……
そんな考えは顔を振って否定した
レシアが大切にした世界を僕が消す何て事があってはならない
ダメだ……
冷静になれ……
自分に言い聞かせながら、静かに降下を始める
そして宮殿の中庭に降り立った
異様な倦怠感が僕を襲う
もう、横になりたい
ベッドに腰を下ろしたい
何も、考えたくない
どうにか足を動かし、中庭に隣接した通路を目指す
「ノア様……」
声を掛けられた方に目を向けた
ソコに居たのは、コートとリノン
そしてリノンに抱きかかえられた子供、ミヤだった
【お前達か……】
「あの……」
そこまで声にして、コートは言葉を止めた
【いい…… 喋るな…… 1人にしてくれ……】
そう伝え、僕は自室を目指す
重い足を進め、彼等を通り過ぎた時、背を向けたまま夫婦と赤子に言った
【オレンジ・ホームは…… もう無い…… お前達は少し…… この宮殿で生活しろよ…… 落ち着いたら城下町でも良いし、好きな所に住めばいい】
彼等は何も言わなかった
状況が察せ無いのだろう
僕はソレだけ伝え、自室に向け……
また歩いた




