33話 記憶
レイジは……
彼は、僕を見ていた
今にも涙が流れそうな……
そんな苦悶の表情で見ていた
僕は彼に問い掛ける
【何をしている……?】
彼は答えた
「ノア様……」
と……
【答えになっていない…… 何をしている……】
「俺が…… 弱かったから……」
プチン
脳内で何かが弾けた感覚に陥った瞬間、僕はレイジに叫び散らしていた
【2度も3度も同じ事言わせんじゃねぇよ! 何してんだ、お前は!? お前がレシアを守んなくてどうすんだよ! 僕はオレンジに…… この集落にレシアを任せたんじゃねぇ! お前に任せたんだよ! 解ってんのか、コラ!?】
表情を変えぬまま俯く青年
「すみません……」
【はぁ? すみませんでレシアが戻んのか? なら戻せ! ココに戻せ! やってみろよ、ほら! なぁ! 戻せよクソガキが!】
僕は立ち上がり、レイジに向けて歩いた
走った
走って、走って……
右手を大きく振りかぶり、思い切り殴った
山側に弧を描き吹き飛ぶ
ソレを追った
胸ぐらを掴み、持ち上げ、そしてまた殴った
何度も何度も同じ事を繰り返す
どんどん山の中へと追い遣るかのように、殴った
ぐったりとしたレイジ
知ったことか……
仰向けに倒れた彼へ馬乗りになっては、僕の拳を顔へ放つ
赤く腫れ、吐き出した血により更に赤黒く変色した箇所もある
それでも殴った
もう自分を止められない
僕はより大きく右手を掲げた
そして、纏った
ラピスラズリを……
紫色に輝く右手
ソレに顔を向けて眺める
目を閉じる
終わる
終わりだ
終わらせる
付き合えレイジ……
僕の八つ当たりに……
彼に目を向けた
青年の顔に恐怖は無い
映っているのは、悔恨だ
その想いのまま
終われ、レイジ
僕はその拳を、彼の顔へと……
振り下ろした
だが、僕はレイジに振り下ろした右の拳を止めていた
本気だった
殺すつもりだった
だが、止めた
止めたのは僕じゃ無い
レシアだ……
最後にレシアが掴んだ僕の右手
もう、雨に濡れて温もりは無い
だが確かに残る感触
彼女には【今】が見えていたのだろうか……
何をやっているんだ、僕は……
彼女は、レシアは最後に何て言ったんだよ……
《レイジをイジメないでね》
僕は彼女の最後の望みすらも反故にしようとしている
何て奴だ、僕は……
そう思った時には、紫色に輝く右手を彼の顔へと優しく落として居た
レイジを殴った傷を修復する為に……
彼の顔に、頬に触れた
突如、揺れた
視界が揺れた
さっきまでとは何もかもが違う光景に驚き、言葉を失う
僕の目に飛び込む空が…… 青かった
晴れたのか……?
いや、ソウじゃ無い
僕の脳内に映像が流れていた
ココはオレンジ・ホーム!?
僕の目の前には集落、まだ倒壊前の家屋が建ち並ぶ
また視界が揺れる
今度の揺れは違う……
僕は走っていた
たまに右手を見る
そこには鉄の剣が握られていた
なんだコレ……?
ラピスを持つ僕からすれば、こんな玩具の様な剣を持つはずが無い
だが、持っているのは事実だ
訳も解らず走り続ける
見慣れた優しい姿を視界に捉えた
「レシア!」
僕は叫んだ
彼女が振り向く
そして、僕に言った
「レイジ!!」
何?
レイジだと!?
コレは……
レイジの記憶か!?
彼女が僕に向けて叫ぶ
「逃げて! 山の方に!」
「レシアも来るんだ!」
「ダメよ! 私は彼等と交渉してみる!」
「叶う訳ないだろ! 止めろ、逃げるんだ!」
その時だ
僕の……
いや、レイジの視界に入ったモノ
先程消した魔物とは別のソレがレシア目掛けて禍々しい爪を振り上げる
とっさに僕はラピスを発動させた
が、出ない!?
チィ……
これはレイジの記憶だ!
直後、僕の目に映った物は現れた魔物に向けたレイジの剣が中腹から折れ、空を舞う光景だった
レシアは無事だ
レイジも無事……
コイツ、本気でレシアを守っている……
得体の知れないモノに恐怖は無いのか!?
違うか……
ただ、レシアを守りたい
ソレだけなんだ……
だが、折れた剣に魔物の恐怖は無い
再び振り上げた魔物の腕
その場から逃げる様にレシアがレイジを抱えて飛んだ
息すらまともに出来ない風圧をこの身に受ける
体が浮き上がりる2人の周りには風が立ち上り、一瞬で山道入り口までレシアはレイジを連れて飛翔した
2人がフゥと安堵の溜息を吐く
そしてレイジが呟いた
「レシア…… 解っただろ? アレは話を聞くつもりが無い……」
「それでも…… 私は話をしたい」
「解ってくれよ…… 俺は…… レシアを失う事が何より怖いんだ……」
「ありがとうね、レイジ…… 私…… 貴方と会えて本当に良かった」
「最後みたいに言うなよ」
「最後よ……」
「何でなんだよ!」
「んーーー…… 解る…… からかな?」
「解るんだったら逃げれば良いだろ!?」
「ダメよ…… 逃げたくない」
「レシア……」
彼女は僕に…… レイジに笑い掛ける
そして腰に手を移し、この身に何かを手渡した
「コレは……」
「うん、返して♪」
「大事な物だろう?」
「うん、大事♪ 大事だから、大事な人に託したい…… ムゥちゃんに返して……」
「返すなら…… 自分で返さなきゃ、だろ」
「返せなくなったら…… 困るから」
「じゃあ返す為に逃げれば良いだろうが!」
「レイジ…… 解って…… お願いよ……」
躊躇いを感じる
レイジの迷いだ……
受け取ったら、多分…… 魔物の元に、レシアは行く
そして、逝く
レシアは死ぬ
解る
それ位は誰でも解る
その覚悟を持って、レイジに形見を渡しているのだと
そう感じる
感じても……
感じても……
ソレを受け取る事が彼女の望み
迷い……
悩み……
そして、受け取る事は……
拒否した
ムゥムゥの苦無、【闇断ち】を……




